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第459話 ユウキの決断

「ラサラス姉さまたちが出かけてから大分経つのだ。まだ、帰ってこないのかな?」

「そうだね…。少し心配だな」


 アルムダート市でユウキやエヴァリーナ、ラインハルトたちを待つ留守番組はいつ戻ってくるのかと気が気ではなかった。アルテナと食堂のテーブルでお茶を飲んでいたレグルスはカレンダーを見てみる。皆が出発してから既に1か月以上経過している。メイドのミウに冒険者ギルドに様子を見に行かせたが、特に何も連絡はないとのことで、支部長のボールスも心配しているらしかった。


(ポポちゃん大丈夫かな…)


 ぼんやりと窓から外を眺めていると、天井からドサドサドサッ!と何かが落ちてきた。


「わああーっ!」

「きゃああっ!」

「ぐええっ…!」


「わーっ! 何事なのだーっ!」

「うわぁ!」

「レグルス様大丈夫ですか! 敵襲敵襲ーっ!」


 騒動に驚いたメイドたちが武器を持って集まってきた。食堂のテーブルも椅子もひっくり返り、壊れた食器やカップの破片が飛び散る惨状の中、現れ出たのは黒髪の超絶美少女ユウキだった。


「いたた…。みんな大丈夫…?」

「だ、大丈夫じゃない…。ところでここは?」

「宿舎の食堂のようなのです」


 ユウキに続いて、アンジェリカとポポが起き上がり、次いで体をさすりながらミュラーにラピス、護衛騎士のレドモンドとエドワードが立ち上がった。


「ポポちゃん!」

「レグルス…? わあっ、レグルスだ! 会いたかったのです!!」

「無事でよかった。無事でよかったよ」


 ポポの無事な姿を見てレグルスが抱きつき、2人はしっかりと愛を確かめ合う。そんな2人を冷めた目で見るユウキとアンジェリカだった。


「レグルス様。我ら任務を全う致しました!」

「ポポ様の護衛任務完了しました!」

「レグルス、この2人は頑張ってくれました。ポポの護衛だけでなく、ユウキの任務も手伝ってくれたのです。強い魔物もたくさん退治してくれました。なので、お給料の減額を何とかして欲しいのです」


「うん、ポポちゃんがそう言うのなら、領事さんに掛け合ってみるよ。2人とも、僕の大切なフィアンセを守ってくれてありがとう」

「いえ、護衛騎士として当然であります!」


「ちっ…何が大切なフィアンセよ」(ユウキ)

「ブリザードをぶっ放す衝動が抑えられん…」(アンジェリカ)

「醜いわね~」(ラピス)

「それはそうと、エヴァたちはまだ戻ってないようだな」(ミュラー)


「皆さん、お帰りなさいですの」

「ミウ…。ただいま」

「戻られたのはユウキさんたちが最初ですの」

「そうなんだ」


 第9ダンジョン探索の結果を皆に話す前に、転移魔法で滅茶苦茶にした食堂を片づけることにして、全員でひっくり返ったテーブルや椅子を元通りに直し、食器やコーヒーカップの破片を掃除していると、巨大な魔力のうねりを感じた。


「あれ? 宿舎の外から凄い魔力の波を感じるよ」

「ユウキの言う通りだ。外に何か来る」

「何だと! 全員武器を取れ。外に出て迎撃態勢を取るんだ!」


 ミュラーが全員に指示を出し、バタバタと外に出てみると、宿舎の玄関前の地面に大きな魔法陣が浮かび上がっているのが見えた。ユウキたちは何が現れるのかと警戒する。やがて魔法陣が眩しく輝くと、光の中から数人の人影が現れた。


「戻って来れましたの!?」

「エヴァ!」

「えっ…。ユ、ユウキさん!?」


「わあっ、エヴァだ! エヴァ~ッ!!」

「ユウキさん、わぁーん!」


 お互いの無事と再会を喜び感激して、しっかりと抱き合い温もりを確かめ合う2人だった。ミュラーとリューリィはしっかりと握手し、アンジェリカとラピスも仲間と無事に合流できたことで心から安堵する。そこに近づいてきたのはエドモンズ三世。その泰然自若な姿を見たアンジェリカは何故か安心してしまってボロボロと涙を流し、泣き出してしまった。


『皆無事で何よりじゃの』

「ううっ…、エド…、エドぉ~。ふぇええん」

『アンジェリカ、よくユウキを助けてくれたの。ラピスもな、感謝するぞ』

「うん、うん…。わあぁああん」


 マーガレットと互いの健闘を称えあっていたミュラーがある事に気づいた。


「うん、シンがいねえな」

「シン君…ね。最後の戦闘でラサラス姫を庇って亡くなったの…」

「そうか…。詳しい話は後で聞こう。そしてあの美人は誰だ?」

「ふふっ、驚くわよぉ~。ラーメラちゃん」


『はいっ! 初めましてぇ~。ラーメラでぇ~すっ。えいっ!』


 ボンと変身した姿は伝説級の魔獣スフィンクスだった。目の前に現れた魔獣にミュラーだけでなく、泣きべそをかいていたユウキやアンジェリカたちも驚いたのだった。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 ユウキとエヴァリーナたちは疲労も激しかった事もあり、日を改めて探索結果の詳細を話し合うこととし、その日は入浴と食事を済ませるとそれぞれ部屋に戻って就寝した。久しぶりのベッドでゆったりした気分で横になると今までの疲れが抜けていくようで、ユウキは翌日の昼過ぎまで寝てしまい、ポポに「いつまで寝てるんですか」と叩き起こされたのであった。欠伸をしながら着替えを済ませ、食堂に入ると何か騒がしい。


「おはよう、アンジェ、騒がしいけど何かあったの?」

「ああ、ユウキおはよう。へっぽこ王子たちが戻ってきたんだが…」

「彼らも帰ってきたんだ、よかった。それがどうしたの?」

「まあ、あれ見てくれ」


 アンジェリカが指し示す方を見たユウキは、びっくりして思わず口をあんぐりと開けてしまった。そこには、困惑顔のカストルを囲んでアンゼリッテ(大貧乳アンデッド)とパールヴァティ(上級巨乳悪魔羅刹)、アリエル(貧乳系大天使)、クリスタ(巨乳の先輩お姉さん)が睨み合っている。その脇でラインハルトとサラ、アルヘナとメイメイ(アークデーモン)が死んだ目をしてカストルたちを眺めているという光景があった。


「い…、いったい、なにごとですか、これ。第10ダンジョンで何があったの?」

「お帰り、へっぽこ。これは一体どういう状況?」


「ユウキか。第10ダンジョン探索組、只今帰還した」

「うん、それは分ったんだけど、これ…」

「これか…。簡単に言えば、カストルのハーレムメンバーだ」

「ハ、ハーレム…ですと!?」


 ラインハルトとサラから経緯を言聞いたユウキたちは何とも言えない微妙な気持ちになる。


(しかし、アンゼリッテとクリスタはともかく、上級悪魔に天使を虜にするとは、カストル君、中々に侮れないわね…)


 とりあえず全員が戻ったことから、各ダンジョンの探索報告をすることにして、食堂を会議室代わりに各探索隊ごとに纏まって席に着いた。ここでも空気を読まないハーレムメンバーが誰がカストルの隣に座るかでギャーギャー騒ぎ始めたが、マーガレットの一喝で全員大人しくなった。室内が静まり返る中、マーガレットは命を落とした仲間の冥福を祈るため、全員に黙祷するように言った。


「では、報告会の前に、この探索で命を落とした仲間たちに黙祷を捧げます。みんな立ってください。黙祷!」


 黙祷をしている間、何人かのすすり泣く声が聞こえる。ユウキは自分たちは全員生きて戻れたのは運がよかったのだと言うことを思い知らされた。そして、皆が賛成してくれたとはいえ自分の意見でメンバーを割り振り、同時探索を行った。自分の判断は間違っていたのだろうか、マーガレットの言う通り一つ一つ探索していけばルツミもシンも死なずに済んだのだろうか…。ユウキの心は鎖でギュッと縛り付けられたように苦しくなった。


「わたしのせいだ…」


 ポタ…ポタ…。いつしかユウキの目から涙が零れ落ちてきた。ユウキの小さな嗚咽に気づいたアンジェリカはそっとユウキの手を握り、耳元で囁いた。


「ユウキのせいじゃない。ユウキが責任を感じる必要はないんだ。みんな、あれが最善の策と納得していた。ユウキのせいじゃないよ」

「うん…。ありがとう、アンジェ」


 黙祷を終え、任務で散った仲間の魂が安らかであるように祈った。改めて全員が着席したのを確認したマーガレットは、それぞれのダンジョン探索の結果について報告するように促した。最初に第9ダンジョン探索チームリーダーのユウキが手を上げた。


「ユウキさん、どうぞ」

「はい」


 ユウキは第9ダンジョンの各階層の状況とメンバー個々の戦闘詳報をまとめた手帳をテーブルに置き、踏破内容を説明した。


「最終階層で戦った吸血鬼バンパイアジル・ド・レとその眷属たちは強敵でした。でも、アンジェたち個々の能力も負けてはいなかった。戦いの詳細は手帳に記していますので後で読んでいただければと思います。彼らを倒し、隠された宝物庫に進んだわたしたちは邪龍ガルガの起動システムを発見しました」


「第9ダンジョンにあったのですね。やったのですわ!」

「それで、起動システムはどこにあるんだ?」


 エヴァリーナとレオンハルトが起動システムと聞いて気色ばむが、ユウキは俯いてしまった。エヴァリーナはミュラーやラピスを見るが、2人も浮かない顔をしている。


「起動システムはウルに奪われてしまいました…」


 思ってもみないユウキの言葉に、その場の全員が騒めいた。「何故だ」「理由を聞かせて」といった声が飛ぶ。


 ユウキたちに同行したアンネマリーが実はウルの妖狐タマモが変化したニセモノだったこと。最後の最後でタマモが正体を現し、起動システムを奪っていったことを説明した。バルトホルト教授が難しい顔をして本物のアンネマリーの消息を訊ねるが…、


「アンネマリーさんはウルに捕らわれたようです。無事でいるかどうかは…、わかりません。ごめんなさい」

「いや、あなたが謝る必要はありません。無事でいてくれると信じましょう」


「でも、これは由々しき事態ですわ。ウルはこれで3つのうち2つを手に入れたことになる。最後の1つは何としても阻止しなければなりません」

「だな。しかし、ウルの動きが分らねぇんじゃな…」


 起動システムの確保に失敗した事について、誰も非難することはなかったが、最後までタマモの正体に気づかなかった事で、ユウキは忸怩たる思いを抱く。だが、まだ負けたわけではない。手はあると思い直すのであった。


(ウルの起動システム確保阻止は難しいかもしれない。でも、本体を破壊すれば復活は阻止できる。本体はきっとあそこだ。でも…ううん、行くしかないんだ)

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