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第457話 デビルズ・アイ討伐作戦

 ラインハルトは集まった仲間たちの前に立ち、デビルズ・アイ討伐に向けた自身の考えを説明し始めた。


「まず、デビルズ・アイに対抗できるのはクリスタとアリエルだけ。この2人を中心に作戦行動を取る。まず、アリエル」

『なに?』


「君には斬り込みをしてもらいたい。最初に君が飛び込み、広範囲魔法で群れるゴブリンどもを排除し、デビルズ・アイまでの道を開く。そしてクリスタ」

「はい!」


「君はアリエルが開いた道からデビルズ・アイに接近し、魔眼を潰す。クリスタの攻撃の間、アリエルはゴブリンどもの接近を阻んでくれ。クリスタを守るんだ」


『わかった』

「アリエル、危険な任務だけど頼んだよ」


 カストルがアリエルの手を握って心配そうにお願いした。うっすらと頬を染めるアリエルを見てアンゼリッテとパールはぐぬぬ…とハンカチを噛んで悔しがり、そんな2人にアルヘナとメイメイは呆れてしまい、ため息しか出ない。


「クリスタが魔眼を潰したら我々も最終階層に向かって一気に突入し、残ったゴブリンどもを駆逐する。ルツミやポチ、リザードの仇を取るんだ。いいか、1体も逃すな。奴らを蹂躙し殲滅せよ。これはパーティリーダーとしてではない、ラファール国王子としての命令だ!」


『待ってたぜ、その命令をよ。アークデーモンの恐ろしさ見せてやるぜ!』

『旦那様に危害を加えようとした輩どもめ、わたしが全部殺してあげるわ』

『怪我はアンゼリッテが治します。みんな、思い切って戦ってください!』


『うぉおおおおおーーーっ!!』


 デビルズ・アイに対抗できる道が見えたことで、沈んでいた全員の気持ちが高揚し、拳を上げて吼えた。クリスタは戦に向けて雄叫びを上げる仲間と自分を守ろうとして死んだリザードを想い、必ずデビルズ・アイを倒すと心に誓うのであった。


(リザード、あたし、頑張るから見ててね…)


『ほっほっほ、決まったようじゃの。では、先の通路に転送するからのう。頼んだぞ』


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 ダンジョン・コアによって、元の通路に送り届けられたラインハルトたちは、作戦通り魔眼の影響範囲外ギリギリの場所に布陣すると、完全武装で待機する。


「クリスタ、アリエル」

「はい」

『なに?』


「行け」


 2人は力強く頷き、仲間たちに背を向けて奥に向かって駆け出した。ラインハルトとサラは「頼むぞ」と小さく呟くのだった。


 クリスタとアリエルは通路の陰からそっと最終階層を覗き見る。予想通り天井からぶら下がったデビルズ・アイとフロア一杯に蠢くゴブリンやオークたち。ギャアギャアと喚きながら何かを喰っている。ポチやリザードと思われる骨が無造作に転がっているのが見えた。クリスタは悲しみと怒りが増してくる。


『クリスタ』

「えっ、なに?」


『ボケっとしないで。アイツらは今、油断している。私が魔法で攻撃して道をつくるから、一気にデビルズ・アイの側に行って』

「わかった。でも、どうやってヤツを倒せばいいの?」

『それは自分で考えて。行くよ!』

「あっ…」


 アリエルは魔力の翼を展開すると、通路の陰から飛び出した。急に現れた何者かにゴブリンたちは混乱し、騒ぎ出した。


『ヘブンズ・バースト!』


 爆裂光弾がゴブリンの群れに着弾して爆発した。爆風が数十体ものゴブリンの手足や首を引き千切り、胴体を打ち抜いて内臓を撒き散らさせる。アリエルは連続して光弾を放ってデビルズ・アイ周辺のゴブリンの数を減じると、次いで2本の剣を鞘から抜いて胸の前でクロスさせた。


『ヘブンズ・レイ!』


 光のビームがゴブリンを薙ぎ払い、デビルズ・アイまでの道を開いた。


『クリスタ!』

「わぁあああっ!」


 アリエルが切り開いた道を必死に駆けるクリスタ。散らばる死体を踏み越え、僅かに生き残ったゴブリンもアブソリュート・ゼロで斬り倒して走る。そして、ついに魔獣デビルズ・アイの至近に到達した。剣を構えて巨大な単眼の魔物と対峙する。


「デビルズ・アイ! リザードの仇だ、覚悟!」


 デビルズ・アイの単眼がスッと細くなり、次いでカッと大きく開いて輝いた。その瞬間、妖しい魔力がクリスタを襲う! 邪悪な思念を伴った魔力を浴び、思わず腕で顔を隠して目を閉じた。


『クリスタ!』

「…………!」


 魔眼の魔力が通り過ぎたのを感じたクリスタはゆっくりと目を開け、自分を確認した。体にも心にも異常は感じない。


(あのお爺さんのいった通りだ。わたしには魔眼の影響はないみたい。これなら…)


 魔眼が効いてない事に気づいたデビルズ・アイは瞳の中心から暗黒魔力のビームを放った。ビームが一直線にクリスタ目がけて飛んでくる。しかし、頭のティアラが輝いてクリスタの周囲に防御幕を展開し、ビームの軌道を逸らした。


「助かった…。この装備、エッチだけど凄い」


 デビルズ・アイは目を細めてクリスタを見る。一方、クリスタは上方にどうやって攻撃したらよいのか考えあぐねていた。デビルズ・アイはクリスタより遥かに高い位置におり、ジャンプしても届きそうにない。


『クリスタ、早く! ゴブリンの数が多くて抑えきれない!』


 アリエルの声が聞こえる。見ると何百という魔物の群れがデビルズ・アイを守ろうと、クリスタ目がけて迫っており、アリエルは光の防御幕を展開して必死に抑えているが、徐々に押し返されつつある。


「…………っ! どうしたら…」


 クリスタはデビルズ・アイを見上げて何かないか懸命に考える。アリエルは自分を守るため、必死に魔物を抑えてくれている。その努力を無駄にしてはならない。


(考えろ、考えるんだクリスタ。何か、何か必ずあるハズ…。巨大な目、それを支える細い胴、その先は…)


「あっ…、あった! よしっ、アリエル、もう少し頑張って!」


 アブソリュート・ゼロ。絶対零度の魔力を宿した氷系最強の剣。直接攻撃だけでなく、魔法攻撃可能な万能剣。クリスタは自身の水系魔力を極限まで高め、持てる力を剣に全て注ぎ込んだ。そして、大きく振りかぶって、見つけたウイークポイント目がけて力いっぱい剣を薙いだ。


「たぁあああっ! いっけーっ!!」


 上段から勢いよく振り下ろされた刀身から氷の刃が撃ち出された。クリスタの魔力で作られた刃は高速でデビルズ・アイ目がけて飛ぶ。単眼の魔物は魔眼を光らせ、暗黒の防御壁を展開するが、氷の刃は防御壁が形成されるより早く、デビルズ・アイが取り付いているホールの天井付近に着弾し、天井の岩盤を斬り裂いた。


ガラガラガラ…。天井でデビルズ・アイを支えていた岩盤が音を立てて崩れ落ちる。クリスタは頭上に魔法防壁を展開し、直撃を避けながら後退して崩壊範囲から離れた。直後、ズドドドォン!と地響きの音とともにデビルズ・アイが地面に叩き落ちた。


「げほっ、ごほっ…」


 激しい土煙で視界が霞み呼吸が苦しくなって咽るクリスタの耳に、アリエルの悲痛な声が響く。


『クリスタ、クリスターッ! 早く、もうダメ、もう限界よーっ!』

「アリエル、頑張って!」


 クリスタは涙目になりながら前を見た。そこにはクリスタの1.5倍もありそうな巨大な単眼が、あちこち血を流しながら地面に横たわり、憎々し気にクリスタを見つめている。


「たぁあああっ!」


 アブソリュート・ゼロを腰だめに構え、デビルズ・アイ目掛けて突進し、妖しげな瞳を狙い、全体重を乗せて突き刺した。


『…………!』


 瞳に深々とアブソリュート・ゼロが突き刺さり、絶対零度の超極低温によってたちまちのうちに凍り付いた。クリスタは眼球に足をかけて剣を抜くと、今度は上段から叩きつけた。その瞬間、ビシビシッと眼球にヒビが入り、バキン!という音とともに2つに割れた。同時に魔力に操られていたゴブリンたちが混乱に転じ、アリエルにかかる圧力が軽くなった。


『クリスタ!』

「や…、やった…。デビルズ・アイを倒したぁーっ!」


 クリスタの叫びが通路で待機していた全員の耳にも届いた。ラインハルトは「よし!」とガッツポーズを取ると、仲間たちに振り向き、大きく手を振って合図した。


「全員、突撃!!」


『ようやく出番が来たか! アルヘナちゃん、オレ様の活躍を見ててくれ!』

『旦那様、妹ちゃん、行くわよ!』


 メイメイとパールを先頭に最終階層のホールに向かってラインハルトもサラも駆け出した。



「アリエル、デビルズ・アイは倒した! 反撃よ!!」


『やっとか! 待ちくたびれたわ! ライトアローッ!』

「ゴメンね。たぁあああっ!」


 アリエルの周囲に多数の光の矢が形成され、一斉に発射された。アリエルに襲い掛かろうとしていたゴブリンやオークが次々に倒れ伏す。光の矢に貫かれる仲間を見て怯んだゴブリンはアブソリュート・ゼロの鋭い刃で両断され、凍った内臓をぶち撒けながら床に転がった。そこに、吶喊の声を上げながらメイメイとパールが参戦し、続いてラインハルトやサラが突入した。また、カストルとアルヘナ兄妹も防御系魔法で戦闘組を支援し始めるに至って形勢は逆転した。


 デビルズ・アイを失った魔物たちは数は多いものの、統制の取れない烏合の衆と化し、戦闘力で遥かに勝るラインハルトたちの敵ではなく、次々と剣で斬り裂かれ魔法で吹き飛ばされ、僅か数十分の戦闘で全て倒されたのだった


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「終わった…か」


 ラインハルトは周りを見回して戦闘が終了したことを確認し、クリスタに声をかけようとしたが、彼女はデビルズ・アイの側まで行くと、凍った死骸に思いっきりアブソリュート・ゼロを叩きつけて粉砕した。


「クリスタ…」

「クリスタ先輩…」

「うっ、ううっ…ぐす…っ。リザード…、敵は撃ったよ…ずずっ…」


 大切な友人を殺した魔物の前でしくしくと泣くクリスタの肩をサラはそっと抱きかかえ、心配したカストルも手を握った。クリスタはボロボロと涙を零すと、サラを突き飛ばし、カストルに抱き着いてわんわん泣き出した。


「痛たぁ~い。氷の破片がお尻に刺さったぁ~」

『はいはい、治して差し上げます。尻出しなされ』

「うう…酷いよ。クリスタ…」


 巨乳にドギマギしながらもクリスタを優しく抱いて慰める優しいカストルだった。


『む~、でも今回は仕方ないか』

『アリエルも頑張った。後でカストルに「なでなで」してもらおうっと』

『ま…、まあ、仕方ないよね。あんたも頑張ったもんね』

『パールが優しい…。何か良くないことが起こる前触れ?』

『なんでよ!』


「ほっほっほ。無事に討伐したようじゃのう」

「ご老人!?」


「儂の失敗を尻ぬぐいしてくれて感謝感激雨あられじゃわい。どれ、この魔物どもはダンジョンに吸収させるかのう」


 ダンジョン・コアの杖の一振りでデビルズ・アイやゴブリン、オークの残骸がすうっと消えた。その後に残る大量の魔石。アルヘナは頭陀袋を手にするとメイメイと一緒に喜々として集め始めた。サラも参加したかったが、アンゼリッテに尻を包帯でぐるぐる巻きにされて動きが取れず、悔し涙を流す。


「ご老人、それで約束なのだが」

「忘れてはおらんわい。宝物庫に案内して進ぜよう。そら!」


 コアの老人は再度杖を振ると全員の足元に魔法陣が形成され、まばゆく輝いた。

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