第452話 魔人襲来
転移装置によって一気に最終階層に到達したエヴァリーナチームの目の前に巨大な両扉の門が鎮座している。門の両側は岩壁であり、門だけが中に入る道であった。エヴァリーナが合図すると、レオンハルトとマーガレットが門に手をかけ、呼吸を合わせて扉を押した。
「うぉりゃああああっ!」
「たぁああああああっ!」
パワーファイター2人が必死に扉を押し続けると、ギ…ギ…と音を立てて、扉が少しずつ開き始めた。さらにルゥルゥとシンも加わって扉を押すとガタンと大きな音とともに扉は完全に開いた。中に入ったエヴァリーナたちが見たのは、奥に設えた祭壇の上に浮かぶ金色の球体、ダンジョン・コアだった。
メンバー全員ダンジョン・コアの周りに集まる。エドモンズ三世を除き、初めて目にするコアの神秘的な輝きに感動を覚えるのであった。リューリィが魔力を使ってコアを調べ始めた。
「うーん、特に邪悪なものは感じません。どうやら正常に機能しているようです」
「じゃあ、放っておきましょう。見たところ、コア以外何もないようね。隠し扉とかないか調べてみましょう」
マーガレットが全員に指示し、各自祭壇や岩壁を調べ始めた。
「祭壇には何も無いようですわ」
「隠し通路的なものも見当たらないです」
「そうね…。ここじゃ無かったのかしら」
『でもでも、ここに何かあるというのは本当ですよ。呼び出された時のコア情報だから間違いないですよ。信じてください!』
「ラーメラちゃん…。そうね、もう少し調べてみましょう」
再び全員で色々と探し回ったが、何も見つけられない。じいっと黙ってラーメラを見つめるエドモンズ三世の視線が怖い。泣きそうになったラーメラが何か言おうとしたその時、ルゥルゥが大きな声を上げた。
「あった! 見つけた!」
ルゥルゥが見つけたのは祭壇が載せられたレンガブロックの床にあったスイッチらしきもの。周りのレンガより一回り小さいが、床と同じ材質でできていたため、非常に見つけにくくなっていた。
「お手柄ですよ、ルゥルゥさん」
「えへへ…(リューリィ君に褒められちゃった)」
リューリィに褒められて照れ笑いするルゥルゥを見て、他の仲間も隠し扉を見つけたことでホッとするのであった。特に、エドモンズ三世に真後ろに密着され、じいっと見つめられて涙目になっていたラーメラの安堵感は半端なかった。
皆に促されてルゥルゥがスイッチを押すと、「ガコン!」と大きな音がしてダンジョン・コアを載せたまま、祭壇が横にズレ動き、下に降りる階段が現れた。
「こんな所に隠し通路があったなんて…。降りてみましょう」
『待て!』
エヴァリーナが降りようと足を踏み出したところでエドモンズ三世が待ったをかけた。
「ど、どうなさったんですの? エドモンズ様」
『何者かがいる。この波動…、以前も感じたものじゃ』
「キャハハハハ! よく気づいたじゃん! せっかく不意打ちして皆殺しにしようと思ったのにさ! ところで、あの黒髪の女はいないの? がっかりじゃん」
『その声、ラデュレーじゃな』
「キャハハハハ! 大当たり~ってか」
「あ~ら、お久しぶりねぇ。ワイトキングさん♡」
『貴様、唐揚げレモン…。お主ら、生きておったのか…』
扉の外から入ってきたのは、真っ赤なロングヘアをツインテールにした女の子「死神ラデュレー」と、身長180cm位の腰まである銀髪をした痩身の優男「唐揚げレモン」。そして、2人の後ろから唐揚げレモンより頭一つ大きく、浅黒い肌、金色の瞳、三角形の耳をした全身黒づくめの服を着て、背中に自分の身長ほどもある巨大な剣を背負った男が現れた。
『ヘルゲスト…か』
エドモンズ三世がじりっと後ずさりする。あの、いついかなる時でも悠然と構えていた死霊の王が見せる緊張感に、仲間たちは驚いたが、3人組の纏う危険オーラを敏感に感じ取り、武器を構えて最大限に警戒する。
「エドモンズ様、この方々がユウキさんの言っていた…」
『そうじゃ、こ奴らは魔人。いや、正確に言えば魔人の末裔じゃ』
「魔人…」
『こやつらは人間に復讐し世界を破壊するため、邪龍ガルガを復活させようとしているのじゃ。しかも、手当たり次第に人間だろうが魔物だろうが皆殺しにする殺戮狂どもじゃ』
「まあ、殺戮狂ですって。失礼しちゃうわ。それにしても、私たちの事よくご存じねぇ」
「キャハハハハ! 殺すの大好き!!」
「とんでもねぇガキだな…。サイコパスか?」
『お主ら、儂とユウキが倒したハズ。なぜ生きているのじゃ』
「キャハハハハ! 殺す前に教えてやるじゃん。ヘルはね…」
「ラデュレー、おやめなさい」
「いいじゃん! ヘルは死んだ者を1度だけ甦らせることができるじゃん」
「もう…このバカは」
「誰がバカじゃん!」
「ラデュレー、レモン。余計な話はするな…」
「はっ、お許しを…」
「ちぇっ。つまんないじゃん」
『ヘルゲスト。お主ら、何の目的でここに来た』
「…お前たちには無関係だ。そこを退け、そして去れ。そうすれば命だけは取らぬ」
「お断りしますわ」
「もう一度言う。退け」
「あなたたちには邪龍に関するものは渡しません」
「これが最後だ。去れ」
「お断りすると言った筈です。耳が遠いんですの?」
「そうか…」
ヘルゲストは背中の大剣を抜いた。それを見たラデュレーはニマ~ッと笑みを浮かべて飛び出した。
「キャハッ!」
「えっ…」
「姫様危ない! ぐふっ…」
「きゃああああーっ!」
ラデュレーがターゲットにしたのはラサラスだった。咄嗟の事に反応できず、棒立ちのラサラスが双剣に貫かれる寸前、シンがラサラスを付き飛ばして危機から救ったのだった。しかし、ラデュレーの剣はシンを捉え、背中から胸まで突き抜けた。
「この…、クソガキがぁ!」
我に返ったレオンハルトはバルディッシュをラデュレーに向かって薙いだが、背面ジャンプによって躱されてしまう。シンは胸から溢れ出る血を押さえながら、がくりと床に膝を着き、ラサラスの無事を確認すると笑みを浮かべて倒れた。
「ひ…姫…様。ご、ご無事…ですか…」
「シン! 私は無事よ。あなたのお陰よ。だから気をしっかり持って!」
「よ…よかっ…た」
『ラサラス、退くのじゃ! 儂が魔法をかける!』
「エドモンズ様、シンを…、シンを助けて!」
エドモンズ三世が治癒魔法を発動させようとしたが、シンは無用だとばかりに手で制し、ガハッと血を吐いて事切れた…。
「シン…? シン!? シン! うわぁあああっ!!」
ラサラスはシンの亡骸に縋りついて大声で泣き出した。泣きじゃくるラサラスの姿を見たエドモンズ三世は怒りに震え、その全身に強大な暗黒のオーラが立ち昇る。
『貴様ら…、よくも儂の仲間に手をかけおったな…。儂はユウキに約束したのじゃ。誰一人死なさない、必ず守ると…。儂は娘に顔向けができなくなったではないか。絶対に許さぬ。この怒り、貴様らを殺しつくしても治まらぬわ!!』
「エ…、エドモンズ様…」
普段の飄々としてドスケベエロ発言満載でメンバーのよき相談役といった雰囲気が消え失せ、暗黒のオーラを滾らせる死霊の王の姿にエヴァリーナもマーガレットも怖気を震う。
『エヴァリーナ、皆を連れて先に進め』
「で、でも…」
『早く行くのじゃ!』
「は、はいっ…。皆さん、ここは任せて先に進みますっ!」
エヴァリーナはシンに縋りついて泣くラサラスを抱き起こすと、リューリィ、ルゥルゥを連れて階段を駆け下りた。エドモンズ三世は宝杖をぺしぺしと掌で叩きながら魔人たちの前に進む。そのエドモンズ三世の脇にレオンハルトとマーガレット、ラーメラが並んだ。
『お主ら…』
「水臭いぜ、オッサン。オレらは仲間だろうが。それに…」
「私たちも頭に来てるのよね」
『私もお手伝いしちゃいます! 守りは任せてください!!』
「戦うか…。命尽きるまで戦う。それが魔人の本来の姿。そうだ、この血の滾りこそ魔人として生を受けた俺たちの生きる意味だ! かかってこい! 血を滾らせろ、その命を燃やせ!!」
「キャーッハハハハハ! 死神ラデュレーの相手はだぁれっ!!」
「私よ。「金色の死神」のマーガレットがお相手するわ。シン君の命を奪った罪、その命で贖ってもらう。子供だからって容赦はしないわ。どっちが本物の死神か…思い知りなさい!」
「死神はラデュレーの専売特許じゃん! 腹立つ、このババア。ババアはお呼びじゃないじゃん!」
「誰がババアよ!」
マーガレットがラデュレーに向かったのを見て、エドモンズ三世がヘルゲストに向か追うとしたが、その前に唐揚げレモンが立ち塞がった。
「あらぁ~。ドコに行こうというのかしらぁ~。あなたの相手は私よ、ワイトキングさん」
『貴様…』
「前にやられた恨み、100倍にして返してやるわよ~。この骸骨野郎!!」
『フフ…、フアーハハハハッ!』
「何が可笑しいの!」
『貴様ごときが儂に敵うと思うてか。可笑しくてはらわたが捩れるわ…って、儂、はらわた無かったわ』
「テメエ…、バカにしやがって…。ブチ殺すっ!」
「俺の相手はお前か。俺はヘルゲスト。殲滅のヘルゲストだ。お前の名を聞いておこう」
「オレはレオンハルト。こう見えてもAクラス冒険者だ」
「そうか…。レオンハルト、いざ参るっ!」
「うぉおおおっ!」




