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第46話 リース

 4人が家に帰り、マヤとダスティンに、臨海学校であったことを話すと、マヤは勝ち誇ったような顔をして頷き、ダスティンには「お前は行く先々で何かやらかすのう」と言われて呆れられ、ユウキを除く3人はそれを聞いて笑い出すのであった。


 何日かして、学園に登校したユウキはバルバネス先生から職員室に呼び出された。


「クレスケンな、裏でスラムの奴らとつるんで相当悪どいことをしていたみたいだな。気に入った女をさらっては、自分の欲望を満たすために奴隷にしたり、スラムで売春させて売り上げをハネていたり、薬の売買もしていたようだ」


「…………」


「父親のフォンス伯爵は放任主義でな、息子の悪行は知らなかったと言っている。本当かどうかはわからんが。まあ、この件で国王に弁明させられたみたいだな」


「それで、クレスケンはどうなったんですか」

「伯爵家の地下室に幽閉された。期限は解らん。もしかして一生かもな。貴族だからこの程度だ、平民なら死刑もありうる案件だが」


「そうですか。あの、フレッドくんは…」

「フレッドはなあ。事情もあったことも考慮して、1週間後の終業式まで停学。夏休み期間中に10日間の奉仕活動ということになった」


「よかった。退学じゃないんですね」


 その日の午後、学園からの帰り道、カロリーナ達3人と別れて、ユウキはフレッドの家に向かっていた。


「えと、先生の話だと、商店街区画の裏の住宅街の…、この西通りを真っ直ぐ行って、2つ目の角を左に曲がる…、あっここだ!」


 このあたりはあまり裕福でない人たちが住んでいるのか、小さく古い家が建ち並んでいる。フレッドの家はその一角にあった。ユウキは玄関をノックして「ごめんくださーい」と声をかけた。

 しばらく待っていると、戸が開いて、「どなたですか」とフレッドが出てきた。


「あっ! ユウキさん、どうしてここに?」

「突然ゴメンね。フレッド君どうしてるか気になって…」


 フレッドは家のダイニングにユウキを案内すると、とりあえず元気だし、停学中に言いつけられた反省文を書いていることなどを話してくれた。


「本当にユウキさんには大変なことをしてしまった。ララさんにも怖い思いをさせてしまったし、とても許される話ではないと思ってる。本当に申し訳ありませんでした」


「うん、もういいよ。フレッド君には危ないとこ助けてもらったし」

「ありがとう。そういってもらうと、少しは心が軽くなるよ」


「お兄ちゃん、誰かいるの…?」

 隣の部屋から、女の子の声がした。


「リース。妹だよ」


 ユウキは、フレッドは妹の薬代のために協力しているとクレスケンが言っていたのを思い出した。


「妹さんって、病気の…。あの、妹さんに会うことはできる?」

「うん、いいよ。長い時間は無理だけど」


「リース、起きたのか。僕の様子を見に同級生が来ているんだ」

「こんにちは、リースちゃん。フレッド君のクラスメイトのユウキです」


「こ、こんにちは…(わあ、キレイな人…。お胸も大きい)」

「ふふ、少しお話してもいい。あ、寝たままでいいよ」

「は、はい」


「リースちゃんはいくつ? お兄ちゃんと仲いいの?」

「はい。えっと、9歳になりました。お兄ちゃんは優しくて大好きです!」

「そうなんだ。いいお兄ちゃんなんだね。ところで、リースちゃんはどこが悪いの」


「う、うん。ずっと体がだるくて。胸も苦しいし、たまに熱もでるの。なかなか良くならなくて…、お父さんやお母さん、お兄ちゃんに迷惑かけて…。グス…。」


「お薬は?」

「薬は高くて中々買えないんだ。だから両親が働きに出ててね。僕がリースの面倒をみてるんだ。クレスケンの悪だくみに乗ったのも薬のためだったんだ」

「そうなんだ…」


 ユウキはリースの顔をじっと見る。病気のせいか9歳にしては小さく痩せている。しかし、兄の前で精一杯気丈にふるまう姿は健気だった。


「ねえ、フレッド君。リースちゃんと2人にしてくれないかな。お願い」

「えっ、あ、ああ。じゃ、僕は隣の部屋にいるよ」


 フレッドがリースの部屋から出ると、ユウキは戸を閉めて内側から鍵をかけ、窓のカーテンを閉めた。


「おねえちゃん?」

「リースちゃん、ちょっと目を瞑って。うん、胸を触るけど驚かないでね」


 ユウキは、リースの胸にそっと手を当てて、治癒魔法を発動させた。リースは胸がじんわりと温かくなったのを感じたが、ユウキに言われた通り目を瞑っている。そのうち、気持ちが良くなってきた。


(こんないい気持ちになったの、初めてかも…。ね、眠くなってきちゃった…)


 リースが寝てしまったのを確認したユウキは、リースの体全体に魔力を巡らせていく。しばらくしてリースの顔をのぞき込むと、大分顔色が良くなったのが確認できた。


「うん、もう大丈夫。よかった、治癒魔法が効いて…」

「リースちゃん、お兄さんといつまでも仲良くね。ふふ、聞こえてないか」


 ユウキはそっと声をかけると、静かに立ち上がって部屋を出て行き、フレッドにお礼を言って帰って行った。


 日も落ちた頃、フレッドの両親が疲れた顔をして帰ってきた。フレッドはいつも通り準備していた夕飯をテーブルに並べ、3人で食べようとしたとき、リースが部屋から出てきた。


「リース! 寝てなきゃダメじゃないか! 食事は後で持っていくから」

 フレッドが驚いてリースに、部屋に戻るよう注意するが、リースは元気な声で、


「お父さん、お母さん、お兄ちゃん。わたし、何だか調子いいの。元気になったみたい。だるくないし、胸も苦しくない。それに…、お腹すいちゃった!」と言った。


 3人は今朝までと違う、リースの元気な姿に言葉を失なうのであった。


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