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第448話 ジル・ド・レの秘密

「う…、む…」

「お、気が付いたか」

「エドワード…。オレは…、うぐっ…」

「ああ、無理しない方がいい」


「お、オレは、一体…どうなって…」

「そりゃこっちが聞きてえよ。アンジェリカさんと合流してユウキ殿やポポ様を探していたんだよ。そしたら、ここでお前と、その…アレが倒れていてな。驚いた」


 レドモンドは自分がアンジェリカの膝枕で寝かせられてる事に気づいた。太ももの柔らかい感触とアンジェリカの優し気に見つめる顔に生きている事を実感するが、体は鉛のように重く起き上がることができない。エドワードに助けてもらって体を起こすと、足元に小さな薬瓶が落ちていることに気づいた。


(そうか、間一髪毒消しを飲むことが出来たんだな。どうにか命を繋ぐことが出来たか…)


 エドワードとアンジェリカに支えられ、立ち上がったレドモンドは少し離れた場所に横たわる1体の大蛇の側に立った。蛇の頭には短剣が深々と刺さっており、生命活動は止められている。レドモンドは短剣を抜くとサッと一振りし、腰の鞘に納めた。


「なんとか三姉妹の1人、メディだよ」

「こいつが…メディ」

「エウリアが言っていた。ステノーと自分は人間の姉妹だが、メディはジル・ド・レが眷属にした毒蛇の化身だとな。本当だったんだな」


「手強い奴だった。毒消し薬を持っていなかったら負けていたのはオレの方だ」

「私の相手はステノーだったが、魔法と鞭を駆使して攻撃してきた。強かったよ」

「俺はエウリアだったが…、あいつは…。まあいい。さあ、行こうぜ。ポポ様が心配だ」


 3人は遠くに見えるジル・ド・レの屋敷に向かって駆け出した。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「ポポ様、ご無事ですか!」


 屋敷の正面玄関を蹴り開けてエドワードが大声で叫んだ。続いてレドモンドとアンジェリカが室内に入り、周囲を見回すと部屋の隅にポポとアンネマリーが身を寄せ合ってある1点を見つめていた。3人はポポたちの側に寄って無事あることを確認し、安堵の息を吐いた。


「ポポ、無事でよかった。アンネマリーさんも」

「アンジェたちも無事でよかったのです。でも、服も鎧もボロボロ。酷い恰好なのです」


「ああ、相当厳しい戦いだったからな…。ところでユウキは? ここにはいないのか?」

「ユウキは…、あそこです」


 ポポが上を指さし、アンネマリーが見つめる先にあったのは真っ黒い球体。表面には何かの流体のようなものが激しく流れており、2つの輪がX状に取り巻いている。


「あれは一体なんだ?」

「そんなことどうでもいい。アイスランス!」


 アンジェリカが魔法杖を振って氷の槍をいくつも撃ち込んだが、表面の激しい流れで全て弾き返される。


「あれは強大な魔力によって作り出されたモノみたいですね。あの中は異空間になっているかもしれません。きっとジル・ド・レが戦いために用意したフィールドでしょう。推測にすぎませんが」


「どういうことだ? アンネマリー女史」

「ジル・ド・レを倒さない限り、ユウキさんは戻ってこないと言うことです」

「そんな…。助けには行けないのか?」


 為す術ないアンジェリカは黒の球体を見つめ、ユウキの勝利を祈るしかなかった。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 球体内部ではユウキとジル・ド・レが激しい戦いを繰り広げていた。ゲイボルグの高速横薙ぎをジル・ド・レは漆黒のレイピアで受け流して連続の刺突攻撃を放つ。ユウキはバックステップで距離を取ってゲイボルグの柄で全て躱す。このような攻防がもうずっと続いている。


「はあ、はあ、はあ…。くそ、手強い…」

『ハハハハ! 貴女もお強い。私とここまで戦えたのは貴方が初めてです』

「…そう。でも嬉しくないね」

『減らず口を叩けるのもこれまでです! ヒョォーッ!!』


 奇声を上げてジル・ド・レが高速で突っ込んできた。体捌きでは躱しきれないと見たユウキは前面に暗黒防壁を展開して攻撃を防ぐ。必殺の一撃を防がれたジル・ド・レは「ふう…」とため息をつくと、再びユウキと距離を取り、剣を下ろした。


『躱せないと踏んで魔法による防壁を展開しましたか…。その咄嗟の判断、流石です』

「こう見えても、結構修羅場を潜り抜けてるので」


『フフフ。それでこそ我が眷属に相応しい。それにその魔法、暗黒魔法ですね。本来アンデッドのみ使える究極の魔法のはず。なぜ人が使えるのか興味があります。益々貴女が欲しくなりますねェ…』


「……ねえ、ジャンヌ・ダルクって知ってる?」

『………。なぜその名前をご存じなのですか』


「やはり…ね。ジル・ド・レという名前、ジャンヌ・ダルクと聞いたその反応。お前、フランスのオルレアン解放戦にジャンヌダルクと共に参加し、戦功を上げて救国の英雄と呼ばれたジル・ド・レ本人じゃなくて?」


『貴女…、この世界の人間じゃありませんね。私の本当の姿とジャンヌの関係を知ってる人間がこの世界にいる訳がありません。何時から気づいたのですか?』

「お前の名前を聞いた時から」


『そうでしたか…。少しだけお話ししましょう。貴女の言う通り、私はフランス解放に参加した貴族の出です。その戦いの最中、私はジャンヌに出会った。あの勇猛さと可憐さ、そして何物にも負けない信念を持った美しい瞳…。私はすぐに彼女の虜になったのです。戦いの中でジャンヌもまた私の気持ちを知り、いつしか私たちは愛し合うようになりました。しかし、パリ包囲戦の後、一時的に所領に戻った私はジャンヌが捕らわれたことを知った』


「…………」


『私は何度もジャンヌを救出する試みをしましたが、結局叶わず彼女は火刑にされ、刑場の露と消えたのです。私は嘆いた、心が真っ黒に塗りつぶされ、血の涙を流した…』

『その時に思ったのです。生があるから死がある。死があるから人は悲しむ。なら、死を超越し、不死となれば愛する者共々永遠に生きることができるのではないかと』


『私は国中の黒魔術師に命じて不死の秘術を探させました。そして教会の奥深くに秘匿されたという禁書を手に入れた。その書に記された秘術を使って私は不死の存在、バンパイアとなったのです!! だが、教会から禁書を盗んだ罪で私は捕らえられ、死罪となった』

『公開処刑で首を刎ねられた瞬間、私はまばゆい光に包まれ、気がついたらここにいました。以来、私はこのダンジョンの主として、数多くの探索者たちを殺してきたのです』 


「それが、あの5階層の屍人たちだね」

『そうです』


『ユウキさん、貴女はどこかジャンヌに似ている…。貴女の強い信念を持った瞳を見ているとジャンヌを見ているようで苦しくなる。ですから、貴女を眷属として、永遠に私の側に置きたいのです』


「断る。わたしはわたしを愛してくれた人との約束を守るために生きる。永遠の命なんかいらない。短い人生があるこそ人は藻掻き苦しみながらも一生懸命に生きるんだ。だからこそ命の炎は光輝く! 化物になったお前には分らないでしょうがね!」


『フフフ…、貴女には私の心の内は分らないでしょうね…。ところで、貴女が私を知っている理由を教えてくれませんか?』


「わたしもジルと同じ世界から来たから。ただ、お前が生きた時代から約600年後の世界だけどね。お前の名は歴史書で知ったの。お前はダンジョン・コアに呼ばれたようだけど、わたしが来たのは偶然の産物だった…。元々この世界の人間ではないからこの世界のことわりに影響されない。だから暗黒魔法を習得する事ができた」


『なるほど…。そういう訳でしたか。さて、おしゃべりもここまで。貴女を殺して眷属に…、私のモノにするとします。永遠に私を愛する女として、貴女は実に相応しい存在!』


「そうはいかない! 喰らえ。烈風槍!!」


 ユウキは床(?)を蹴って、一気に間合いに入り高速の連続突きを放った。ジル・ド・レは防御もせず不敵な笑みを浮かべ、ユウキの攻撃をレイピアで捌く。それでも何か所かダメージを与えるが、ジル・ド・レにダメージを受けた様子はない。1か所でも傷を受けると内臓までズタズタになるはずだが、不死の能力が強すぎてゲイボルグの魔力も効果が薄いのだ。ユウキは徐々に焦りが出てくる。


「くそ、厄介な!」

『どうしたのですか? もう終わりですか?』

「まだだ!」


 ユウキはバックステップで一旦引き、右手に超高熱高圧の暗黒火球を作り出す。


「これならどうだ、フレア!」

『むっ!』


 フレアが直撃する寸前、コウモリに変化して躱したジル・ド・レ。フレアは後方に飛んで爆発した。コウモリが再び合体しようとする隙を狙ってユウキは一気に間合いを詰め、ゲイボルグを振り下ろした。


「たああっ! パワースラッシュ!」

『うぉっ!』


 ゲイボルグがジル・ド・レの体ギリギリを掠めて服を切り裂いた。翼を広げて大きく飛び退ったジル・ド・レの顔が一瞬怯んだ様子が見えた。これをチャンスと踏んだユウキは魔法攻撃を仕掛けた。


「ダークランス! ダークランス! ダークランスッ!!」

『ぬうっ。息をもつかせぬ連続攻撃。むうっ…!』


 連続で撃ち込まれる魔法の槍を敢えて受けつつ反撃のチャンスを伺うジル・ド・レ。魔法攻撃を受ける間はユウキからの直接攻撃はないと踏み、敢えて攻撃を受けることにした。何しろ自分は不死体。魔法ごときでやられるはずがない。ジル・ド・レは腕を胸の前でクロスし、防御の姿勢を取ると暗黒の槍の圧力に耐えつつ、チャンスを待つ。しかし、ユウキは魔法を放ちながら何か違和感を感じていた。


(ジルが初めて防御姿勢を…。どうして? この程度の魔法では対してダメージを受けないハズ。何か防ぐ理由でもあるの? そういえば、ゲイボルグで胸の辺りを斬った際、何故か一瞬怯んだような気がした。何かあるのかもしれない。試してみるか…)


 ユウキは一際大きな暗黒の槍を作り出すとジル・ド・レ目がけて連続で打ち出した! 


『ぬおっ!』

「どうだ!」


 大威力の暗黒の槍はジル・ド・レの腕を弾き飛ばした。バンザイ状態になったジル・ド・レに暗黒の槍が次々に襲い掛かる。コウモリに変化する間もなく、体を捻って直撃を避けるジル・ド・レだったが、暗黒の槍の1本が彼の服を斬り裂いた。千切れた破片が舞い、その破れた部分の下、ジル・ド・レの左胸に何かがあるのをユウキは見逃さなかった。


 全ての魔法攻撃を躱したジル・ド・レはユウキとの距離を取った。その顔は憤怒の形相凄まじく、殺意に溢れている。しかし、ユウキは冷静に先ほど見えたものについて考えていた。


(ジルの左胸にチラっと見えたのは間違いなく魔法陣。もしかしたらアレが不死の秘密じゃないのかな? マキシマムが言ってた。不死の者でも必ず弱みはあると…。うん、きっとそうだ。アレを守るような姿勢を見せてたような気がするし。よし、なんとか接近戦に持ち込むんだ! そして、あの魔法陣を斬る!)


 勝機が見えたユウキはゲイボルグを構えて駆け出した。一方、ジル・ド・レは両腕でマントを開き、迎撃魔法を唱えた!


『バンパイア・ファイヤー・フラッシュ!』


 高熱の火球が無数に打ち出されユウキを襲うが、ジャンプして魔法を躱す。目の前にはジル・ド・レがいる。ユウキはゲイボルグを上段から振り下ろした。そのユウキの目の前にレイピアの鋭い剣先が迫る! 今、暗黒の魔女と「真祖」吸血鬼、同じ世界の出身同士の戦いがクライマックスを迎える。

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