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第443話 再戦、ヴォルフvsアズル

『ここは…?』


 ヴォルフが飛ばされた先は10m四方の部屋の中。白い漆喰壁と板張り床の何の変哲もない。部屋の中央に立つヴォルフに窓辺に立つ小さな黒い影が声をかけた。


『アハハハッ、ボクだよ。また会えて嬉しいよ』

『貴様、アズルとか言ったな。敵わぬと知ってもなお、吾輩と戦うというか』


『ジジイの戯言もそこまでだ。前回は油断しただけさ。だけど…』

『むっ!』


 先程まで笑顔を浮かべていたアズルが急に顔色を変え、憤怒の表情を浮かべた。


『初めてだったんだよね…。ボクがさ、負けたのって…』

『…………(復讐か、幼い。しかし)』


『悔しくて悔しくて、心が掻き毟られるんだよね。だからさ、ボクをこんな思いにしたジジイ、てめぇをブッ殺さなければ治まらねぇんだよ!!』


 子供の顔から阿修羅の顔に変化したアズルを見て、ヴォルフは冷静に語りかけた。心の中では無駄だと分っていても。


『アズル、お前は確かに強い。しかし、その強さもこの狭いダンジョン世界での話。世の中にはお前以上の強者がごまんといる。一度の負けを悔やみ、相手を恨むのではなく、負けを糧にして肉体と精神を鍛えねば本当の強者とはなり得ぬぞ』


『煩い煩い煩い! ボクに説教するなジジイ! ボクより強いのはジル様だけだ。テメェなんかに負けちゃいけなかったんだよ!』


『どうしても吾輩と戦うか』

『ブッ殺す!』

『吾輩は既に死んどるのだがな』

『減らず口を叩くな、ジジイ!』


 アズルは背後の窓辺に立てかけられていた1本の剣を手にして鞘から抜いた。その剣は先端部がやや反り気味の禍々しい黒い刀身を持ち、それを掴まんとする悪魔の左手が柄となっていた。


『子供のくせに面白い物もっているな』

『ガキ扱いするんじゃねぇ! フン…、コイツはね、魔剣デーモン・ナイトって言うんだ。こいつでテメェを切り刻むのさぁ!』


『言ってもわからぬ子供にはお仕置きが必要だな』

『だから、ガキ扱いすんなって言ってんだろ、ジジイ!』

 

 ヴォルフは愛用のツヴァイヘンダーを鞘から抜くと、鞘を床に投げ捨て、両手で構える。アズルもまた、魔剣を構えた。じり…じりと2人は自分の間合いまで距離を詰める。


『はぁあああっ!』

『ぬん!』


 バキィン!と金属がぶつかり合う音と共に火花が飛び散る。アズルは連続で斬撃を放ち、ヴォルフは冷静に魔剣の攻撃を受け止めて受け流していく。


『オラオラオラ! ハハッ、手も足も出ねのか、ジジイ!』

『…よく喋る子供だ』

『何だと!』


 大きく振り被って放った上段からの斬撃を払い斬りで弾き返えされ、アズルの体勢が崩れた。その隙を見逃さず、ツヴァイヘンダーの鋭い突きがアズルの眼前に迫る。間一髪躱したアズルだったが、髪の毛が数本空に舞った。冷や汗が全身を流れる。


『く、くそっ!』


 バックステップで数歩引いたアズルは再び斬撃を繰り出そうとしたが、体が動かない。本能が頭の中に危険を知らせる。


『く…、隙が無い…』

『どうした? 来ないのか』

『…………』

『なら、こちらから行くぞ』


 ヴォルフはツヴァイヘンダーを下段に構え、ゆっくりとアズルに近づいた。アズルはじりじりと後ろに下がり、ついには部屋の壁に背を着けた。


 逃げ道を失ったアズルにツヴァイヘンダーの斬り上げ攻撃が襲う。魔剣で迎撃し、何とか軌道を逸らしたが、ヴォルフは体勢を崩さず、体を強引に捻って無理やり剣の軌道を止め袈裟懸けに振り下ろした。アズルは何とかこれも頭上で抑え、致命の一撃を避ける。


『もう逃げ道はないぞ』

『…それはどうかなぁ』

『減らず口を!』


 ヴォルフはスッと剣を引くとツヴァイヘンダーを上段に振りかぶり、アズルの頭上目がけて振り下ろした。アズルはニヤッと笑う。ヴォルフは危険を感じたが今更斬撃は止められない。ツヴァイヘンダーが獲物を捕らえる寸前、アズルは腰を落として身を屈めた。目標を失ったツヴァイヘンダーの刃は「ガシッ!」っと鈍い音を立ててアズルの頭上で背後の壁にめり込み、挟まって動きを止めた。


『ぬぅ! 貴様、これを狙っていたか!』

『消えろ、ジジイ!』


 壁に挟まったツヴァイヘンダーを抜こうとするヴォルフだが、剣はビクともしない。アズルは膝立ちになって魔剣をしっかり握ると、ヴォルフの胸目がけて一気に突き出した!


『グホ…ッ』


 刃の根元まで深々と突き刺さった魔剣はヴォルフの背中まで突き抜けた。そして…、


『魔剣に宿りし悪魔の魂よ、アンデッドの源を破壊せよ!』


 魔剣の鍔を形作っていた悪魔の手がまるで生きているように動きだし、魔剣で斬り裂かれたヴォルフの服の裂け目から入り込み、何かを掴んで出てきた。アズルはヴォルフを蹴り飛ばして床に倒すと手を額に当てて大笑いする。


『アーハハハハ! ヒャーハハハ! あー腹痛てぇ。アンデッドの魂とも呼べる魔石を奪った。これでこのクソジジイも終りだよ。アーハハハハ!』

『はあ…笑った笑った。このボクが負けるなんてありえないんだよ。ざまぁみろ。ハハハ』

『さて、ジル様のところに行くか。ジル様に任せるまでもない。あの女はボクが殺す』


 部屋を出ようと扉に手をかけたアズルだったが、背筋にゾクッとした寒気を感じて後ろを振り向いて目を剥いた。そこには悠然と立つヴォルフがおり、ちょいちょいと自慢の口ひげを撫でている。


『ジジイ…、魔石は奪ったハズだ。なんで…、なんで消滅しねぇ!!』

『吾輩から奪った物をよく見ろ』

『なんだと…』


 魔剣に命じて悪魔の手を開かせ、中のモノを見て驚いた。その手に握られていたのは可愛らしい花柄模様のブラジャー。しかもカップが深く、大きなお胸用のものだった。


『何じゃこりゃ!?』

『悪魔の手は最初に触れたものを持っていくようだな。それは吾輩の大切なお宝、ツンデレ小悪魔系ロリ巨乳天使、ラピスちゃんのブラなのでな、返してもらうぞ』

『何言ってんだ、このジジイは…。まあいい、今度こそ奪えばいい事。死ねジジイ!』

『もう死んでるって』


 アズルはラピスのブラを投げ捨てると、魔剣を構えて飛び掛かってきた。ヴォルフのツヴァイヘンダーは壁に刺さったまま。武器もないアンデッドに今度こそ勝ったと確信したアズルだったが…。


『こんどこそ終りだ、ジジイ!』


 間合いに入ったアズルは体を捻って回転力を生み出し、遠心力を乗せた魔剣を横薙ぎした。速度も増した魔剣はヴォルフの胴を捉える直前、キィイン!と金属音を立てて止められる。急に魔剣が止められたことで、慣性力にってアズルの体は投げ出され、床に叩きつけられた。呻き声を上げながら何が起こったのかヴォルフを見上げる。ヴォルフの手に1本のダガーが握られていた。そして足元には魔剣が落ちている。


『ジジイ…、てめぇ、短剣ダガーを隠し持ってたのか…くそっ』

『戦士たるもの、予備の武器は携行しておくものだ。気づかぬお前が未熟なだけよ』


 ヴォルフは魔剣を拾い上げ、部屋の壁に突き刺した。次にアズルを掴んで立たせ、背中から腕を回して押さえつけた。


『アズル、お前の持つ敵意は危険だ。子供に手をかけるのは性に合わんが、ユウキの邪魔をするなら容赦はせぬ。悪いがここで死んでもらう』

『…ククッ』

『何が可笑しい』


『殺すだと…。やれるものならやってみろジジイ! ここでボクを倒したところでジル様によって蘇ることができる。何度でもな!』

『…………』

『そしてボクはテメェを消し去る! ジル様を沽券にしたユウキとやらも殺す!』


『そうか。だが、それは無理だな』

『なに…ガァッ!!』


 ヴォルフはダガーを逆手に持つと思い切りアズルの脳天に突き刺した。アズルの目がぐるんと回って白目になり、全身の力が抜けてどさりと床に倒れる。


『お前の魔石は脳内にあることは想像できた。前回胴体を薙ぎ払ったのに復活したから、胴体内には無いと確信したのでな。これで、もう復活することはあるまい』


 ヴォルフの足元に横たわるアズルの体がボンと音を立てて煙に包まれ、それが晴れた後に1羽の黒カラスとなった。


『これがお前の正体か…。さらば、アズル。良き相手であった』


 壁に突き刺さったツヴァイヘンダーを抜いたヴォルフは、アズルだったカラスに向かって剣を立て、黙祷した後、ジル・ド・レの眷属たちと戦っている仲間を探すため部屋を出た…が、慌てて戻ってくると、


『いかんいかん、危うく忘れるところだった。吾輩のお宝』


 床に落ちているラピスの花柄Eカップブラを拾い上げ、大事に胸元にしまって今度こそ部屋を出た。

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