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第442話 第9ダンジョンの主

 数々の死闘を繰り広げ、ついに最終階層に到達したユウキたち。目の前にはフロアに通ずる門がある。


「いよいよだね…。この先には邪龍に関する何かが隠されていると思う。でも、その前にあの吸血鬼ジル・ド・レが待ち受けている。きっとこれまで以上に激しい戦いになる。みんな、覚悟はいい?」


「へっ、聞くまでもないぜ。オレとユウキちゃんのラブ・ロードを阻むやつぁ、全部ぶちのめしてやる」

「今更だな。私はユウキに付いて行くと決めている」

「わたくしも問題なし! お母さま以上に怖い存在なんてないもの!」

「ポポも行くのです。足手まといにはなりません」

「私たちは栄光あるラファール騎士だ。騎士の名誉にかけて死など恐れぬ!」

「給料は10分の1に減額されたけどな…」

「私は隅っこに隠れているわね」


『フフフ…、言わずもがなよ。吾輩はユウキを頼むとエドモンズ殿に頼まれたのでな。この約束、必ず守ってみせるわ』

「ド変態ヴォルフ…」

『それに、ツンデレ天使ラピスちゃんにイイとこ見せなくてはな!』

「天使はともかく、ツンデレはポポと被るので取り下げて欲しいのです」

「わたくしはツンデレじゃないわよ!」


「ラピス、ポポ、おふざけは終りにして。開けるよ」

「ご、ごめんなさい…」


 ユウキはミュラーとヴォルフに最終階層に繋がる大きな門を開くようお願いした。巨大な観音開きの門はギギィ~っと軋み音を立てて開いた。その奥には…。


「すごいお屋敷…」

「雰囲気もバッチリなのです」


 最終階層は第5層にも似た雰囲気の場所で全体的に夕闇のように薄暗く、奥が小高い丘になっており、白い板の柵で囲まれた2階建ての大きな屋敷が建っており、屋根の上を多数のカラスやコウモリが飛び回っている。また、門から屋敷まで幅3m程の玉砂利敷きの小道が続いている。


「行きますか」


 ユウキたちは屋敷に続く小道に足を踏み出した。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


『来ましたね。フフフ…』


 2階の窓からユウキたちを見つめる赤く妖しく輝く2つの目。吸血鬼ジル・ド・レは悠然と窓辺に佇み、一頻り小声で笑うと室内に振り向いた。部屋の中には眷属たちがそろっている。死神アズル&イール兄妹、ナイスなボディを黒のレオタードと黒のハイヒール、腰までの黒マントで纏ったステノー、エウリア、メディの魔女3姉妹。


『貴方たちの役割は、ユウキさんを取り巻く邪魔者の排除。彼らは眷属にするまでもありません、殺してしまいなさい』


 眷属たちは静かに頷く。満足したジル・ド・レは部屋に設えたテーブルの椅子に腰かけると、ステノーが恭しく紅茶ポットを持ち上げ、ジル・ド・レの前に置かれているカップに紅茶を注いだ。


『彼女たちが来るまでにはまだ時間があります。それまでゆっくり待つとしましょう』


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 ジル・ド・レがユウキたちを待つ間、アズルとイールは部屋を出て廊下を歩いていた。主人の前では表情を見せなかったが、アズルの顔は怒りと悔しさで醜く歪んでいる。


『クソクソくそっ! あんな片目のジジイに…、たかがアンデッドにボクが倒されるなんて屈辱の何物でもない! 今度はボクがヤツに勝って消滅させてやる…。見てろ…』

『…………』


『デス・サイズは奪われたが、僕にはジル様から授かった魔剣がある。こいつでアンデッドだろうが何だろうが全部切り刻んでやる…』


『お兄様…』

『なんだ、イール』

『あの…、今度は私があの片目のアンデッドと戦います。それで…、その、もし私がアンデッドに勝ったら褒めてくれますか…?』


 妹の言葉にカッときたアズルはイールの頬に平手を打った。バシーン!と激しい音がしてイールが廊下の壁まで吹っ飛び、うめき声を上げる。


『うう…、お兄様、痛い』

『イール、貴様…。ボクがあのジジイごときに負けると思っているのか! 前回は油断しただけだ。それともナニか? ボクがお前より弱いとでも言うのか!? 妹の癖に生意気なヤツ!』


 アズルは床に座り込んだイールの襟首を持って立たせると、往復ビンタを叩きつけた。バシンバシンと叩かれる度にイールの目から涙が零れる。


『痛い! お兄様止めて…。あうう…』

『フン、兄より優れた妹なんかいないんだ。二度と生意気な口を利くな。いいな!』

『は、はい…。すみませんでした…』


 アズルはイールを床に投げ落とすとさっさと自室に戻ってしまった。1人残されたイールは廊下の床にペタンコ座りをしたまま、ポトポトと涙を流す。


(ラピスのお兄様、笑顔でラピスの頭を撫でていた…。優しいお兄様…。あの笑顔、私も欲しいのに…アズル兄様は私の顔を見る度に暴力を振るう…。何が違うの…? 私が悪いの…? ぐすっ…)


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 優雅なティータイムを終え、再び窓辺に立ったジル・ド・レは外の様子を眺めた。ユウキたちは屋敷の敷地に入り、正面玄関前まで来ている。ジル・ド・レはふっと笑みを漏らすと、3人の魔女に命令した。


『お客様が来たようです。盛大にお出迎え致しましょう』

『ハッ、ジル様』



「到着したね」

「ああ、全員武器を取れ。入った途端に戦闘になるかもしれねえ」

『吾輩が先陣を仕ろう』

「頼むよ。ポポとアンネマリーさんは最後尾に。いい、入るよ、ヴォルフ!」

『おお!』


 ヴォルフはツヴァイヘンダーを玄関扉の鍵の部分に突き刺して破壊すると、扉を蹴破って中に入った。ユウキたちもすぐ後に続く。玄関ホールの奥に階段があり、上はテラスになっていた。そこに悠然と立つ吸血鬼ジル・ド・レ。


『お待ちしていましたよ。ユウキさん』

「ジル!」


『このダンジョンに隠された秘密を知るには、私を倒さねばなりませんが、それは不可能というもの。それでも戦いますか? 先に出会ったときの条件は生きてますよ。私の眷属になりなさい。そうしたら貴女のお仲間の命だけは助けて差し上げます』


「断ると言ったはずだよ」

『永遠の命と美しさには興味がないとおっしゃるので』


「わたしの命はわたしのもの。どう使おうがわたしの自由。そして、わたしの大切なものを守るため、わたしに想いを託してくれた人のために使う。お前の自由にはさせない」


「そうだ、その通りだユウキ! 私も大好きな親友ユウキのためにこの命を使うぞ!」

「オレもだ! 将来の妻を人外に渡してなるかっての。愛する人のため、オレの命は燃えている!」


「やめてよ…。重すぎるよ…」

「え~、そりゃねえぜユウキちゃん」

「兄様、キモイです」

「ラ、ラピスまで…。くっ、オレは負けねぇ!」


『ハーハハハハッ! いや実に面白いですね。なら、全力でお相手いたしましょう。なに、殺してからでも眷属には出来ますからね。ハーハハハハッ。来なさい、我が眷属たち!』


 ジル・ド・レがサッとマントをはためかせると、テラスにイズル&イール兄妹と黒いレオタードとマントを着た3人のゴージャスな美女が現れた。初めて見るジルの眷属にユウキたちは緊張する。


『さ、ご挨拶なさい』


 3人の美女は1歩前に進むと、


『私たちはジル様に忠誠を誓った魔女ゴルゴーン3姉妹。私は長女のステノー』

『次女エウリア』

『三女メディ』


 魔女の言葉にユウキがぴくっと反応した。アンジェリカが肩に手を置いて目線で落ち着くよう語りかけた。ユウキはそっと頷く。


『さあ、舞台と役者は揃いました。貴女のお仲間はこの眷属たちがお相手いたします。さあ、The partys about to begin! 』


 ジル・ド・レが両腕をサッと横に広げてマントをたなびかせると、2階のテラスとユウキの周りが暗黒の霧に包まれ、次の瞬間爆発的に飛び散った。ユウキがハッとして見回すとポポとアンネマリーを除いて、先ほどまでいた仲間の姿がない。一方、2階のテラスではジル・ド・レが1人悠然とユウキを見下ろしている。


「一体何をしたの」

『いや、貴女のお仲間は別な場所に移動していただきました。なに、心配いりません。私の眷属たちに丁重にお持て成しするように言いつけていますからね』


「ジル…貴様…」

『おお、怖い顔ですね。折角の美人さんが台無しですよ。なに、貴女との戦いに邪魔が入るのが嫌なだけなのでね。ククク…、ハーハハハハッ』


 高笑いしながら、ジル・ド・レはふわっと2階から飛び降り、ユウキの目の前に立った。手には禍々しい装飾が施された鍔を持つレイピアが握られている。


「(ジルが武器を…)ポポ、アンネマリーさんを連れて離れて」

「ハ、ハイなのです。ユウキ、無茶をしないで下さいね」

「わかってる。離れて、早く」


 ポポはアンネマリーの手を取って、玄関ロビーの隅に移動した。ユウキはゲイボルグを呼び出して戦闘態勢を取った。


「さあジル! 勝負だ!」

『ハァーッハハハハッ。死して我が眷属となるのです!』

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