第45話 決着
「ハアッハハハハ! どうした、それ! それ!」
クレスケンがレイピアを素早く突き出してくる。ユウキは体捌きで躱すが、いくつかは着ている体操着を切り裂き、白い肌が露になる。
「いいぞ! その歪んだ顔! たまらねえ。このままひん剥いてやる!」
「この変態! そういえば、憲兵隊がボクを知ってる貴族が関わっている可能性があると言ってた。もしかして、スラムの一件はお前の仕業なの!」
「そうだ! お前を手に入れるためにな。ララとかいう女を使ってお前を呼び出したまでは良かったが、スラムの奴等ドジ踏みやがって…。あれから何もかも全く上手くいかねえ、だから、直接お前を無茶苦茶にしに来たんだ!」
(狂ってる…。それだけにマズい! ユウキちゃん大ピンチ!!)
「あ、あいつが私とユウキをあんな目に…。許せない!」
「ララ、行くぞ。ユウキを助ける!」
「うん!」
「あっ!」後ずさりしていたユウキが、木の根に足を引っかけ、尻もちをついてしまった。勝ち誇った顔をしてクレスケンが近づき、ユウキの眼前に剣先を突きつけてくる。
「ハアッハハハハ!どうする。俺の言うことを聞くか、死ぬか、どっちだ!」
「誰がお前なんかの言うことを聞くもんか!」
「ほう…、では死ね!」
クレスケンが剣を引き、刺突の体制を取った。ユウキは何とか逃げる隙を伺う。今、正にクレスケンが剣を突き出そうとした時、「ユウキはやらせない!」という声とともに黒い影が飛び出してきて、クレスケンを殴り飛ばした。
「ぐはあっ!」
ユウキが何事かと目を向けると、そこにはユウキに背を向けて仁王立ちするララと、顔を押さえてうずくまるクレスケンの姿が見えた。
「ラ、ララ!」
「ユウキ、大丈夫!」
「き、きさまあ…、邪魔するか! おまえも殺してやる!」
「うるせえんだよ!」
膝を立てて、立ち上がろうとしたクレスケンにどこからか現れたアルが近づき、思い切り背中を蹴り飛ばした。
「ぐえっ」カエルのような声を上げてクレスケンは再び転がった。
「ラ、ララ、アルも。どうしてここに…」
「うん、たまたま2人で散歩してたら、ユウキの姿が見えてね、様子がおかしかったから来てみたの。でも、こいつが私たちを危険な目に合わせた張本人だったなんて」
「あいつ立ち上がるぞ」
クレスケンを見ていたアルがユウキとララに警告してきた。
「お、おまえらあ、この俺を…、伯爵家のこの俺をコケにしやがって!!」
クレスケンの腕に魔力が集まり、高速で回転する風の流れが生まれる。
「あ、あいつ攻撃魔法が使えるのか! まずい、ユウキ立てるか!」
「う、うん、あ痛っ。あ、足を捻ったみたい…、立ち上がれないよ」
「フハハハハハ、俺をコケにした罰だ、切り刻んでやる!」
「ユウキっ!」ララがユウキを庇うように抱き着き、アルが2人の前に立ち壁になろうとする。
「まとめて死ね!」
クレスケンの腕からユウキ達に向けて強力な風魔法が放たれ、何物をも切り裂く真空の鎌が渦を巻いて接近して来た。
「ダメ! ララ、アル、逃げて!」
「いやよ! 今度は私がユウキを助ける!」
ユウキが何とか2人を逃がそうと藻掻くが、真空の鎌は目前に迫る。
(間に合わない!)ユウキが覚悟を決めたその瞬間、土系魔法による防御壁が現れ、クレスケンの真空の鎌をはじき返した!
「な、なんだ!」
「何が起こったの!」
クレスケンとユウキが何が起こったのか理解できずに、同時に声を上げる。
「間に合った。クレスケン!お前の悪だくみはここまでだ!」
「貴様!フレッド!」
「フレッドくん!」
「何を言っているのだ、このバカが。フン、お前ら、このフレッドはな、妹の薬代欲しさに俺の手足となって働いていたのだ。スラムの奴らを使ってお前を捕えようとしたのも、そこの小娘をダシにしておびき寄せたのも、全てこのフレッドがやったのさ。その裏切り者が何でここに来た!」
「ホントに? フレッド君、ウソでしょ」
ララが驚いたように問いかける。フレッドは下を向いて、絞り出すように話し始めた。
「そうさ、僕は金欲しさにコイツのために働いていた。だが、気づいたんだ。ゴブリンとの戦いの時、ユウキさんは「大切な人を守るため」と言って、勝ち目のない戦いにためらわず挑んだ。ユウキさんは純粋な人だ。自分が守るべきものを知っている。大切なものは何かを知っている。こんな人がお前の自由になっていい訳がない! 僕は間違っていた! もうこれまでだクレスケン! 僕がお前を止める!」
「貴様……」
「フレッドくん! ボクも君を信じる。ゴブリンとの戦いの時、フレッドくんがいなきゃボクもヘラクレッドくんも死んでた。君のおかげで戦えた。あの時の君、すごくカッコよかったよ。君も大切なものを守ることを知ってると思う。だから信じる!」
「ユウキさん…、ありがとう」
「フン、茶番は終わりだ。今度こそ始末してやる」
クレスケンは魔力を集中し、再び風魔法を腕に纏わせ始めた。さっきよりも魔力の蓄積が大きい。それを見てフレッドが防御壁を再構築する。
「くらえ! ストームアロー!」
強烈な無数の風の矢が襲い掛かるが、フレッドの防壁魔法が再び展開され、これも防ぎ切った。
「くそ! 忌々しい。もう一度だ!」
「いや、ここまでだ」
そこにバルバネス先生とカロリーナ、フィーア、ユーリカの4人が現れた。
「何だ! 邪魔するな!」
騒ぐクレスケンにバルバネス先生は強烈なボディを入れ、一発で黙らせる。
「色々話は聞かせてもらった。こいつは学園で処理する。お前たちには学園に戻ったらゆっくり話を聞かせてもらおう。今日はもう遅い、キャンプファイヤーも終わったぞ。早く休むんだな」
と言って、気絶しているクレスケンを担いで行ってしまった。
「ふう、助かったぁ。もう一時はどうなるかと思ったよぉ」ユウキが安堵の息をついた。
「ララ、アルくん。ありがとう助けてくれて。ホントにありがとう」
「うん! ユウキが無事でよかった。友達だもん。助けるのは当り前よ。ね、アル!」
「あ、ああ…」
アルは何故かユウキから目を逸らす。
「ユウキさん、はい立って」
ユーリカが手を差し伸べてくれ、ユウキが立ち上がると、ユーリカは、「ユウキさん、おっぱいが丸見えですよ」と教えてくれた。
「え……」
ユウキが胸元を見ると、体操着がクレスケンにキレイに切り裂かれており、おっぱいが丸見えになっていた。
「うわぁ!」
「フフフッ。ユウキさんは必ずお約束してくれますね~。楽しいです」
ユーリカがにこやかに笑うが、ユウキはそれどころではなかった。
ララは、ユーリカの手を借りて、宿泊施設に戻って行くユウキと、その後を付いて行くフレッドを見ながら、
「ユウキったら、いつも危ない目に合って…。でも、あの子を助けることができて良かった。いつも助けられてばかりだもんね」
と心底ほっとしたように言って、アルと手を繋いで「アル、帰ろう!」と声をかけた。
「お待ちなさい!」
帰ろうとした2人の肩を背後からがっしりと掴む者がいた。ララとアルが振り向くとそこには暗黒のオーラを身にまとったカロリーナとフィーア。
「ララさん。偶然ユウキを見つけたそうですが…」
「何故、お二人がこんな人気の少ないところにいたんですか。ナニをしようとしてたんですか。いや、ナニをしようとしてましたね!」
「フィーア様! やはり、ナニを…。ララの顔、メスの顔です!いやらしいです!」
「男の方もです。発情したメスを見つけたオスの顔をしています! これはナニをどうしようとするつもりだったのか、じっくりと聞きださなければいけません」
「いいですね、カロリーナ嬢。連行しなさい!」
「御意!」
「な、なんだお前ら。離せよ!」
「な、何なの~、このふたりは~。怖いよ~」
夜の林にララとアルの叫びが響き渡るのだった




