表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

449/620

第438話 巨大怪物モディフィキャプティス

 エヴァリーナたち一行の目の前に現れたのは全長10mはあろうかという巨大な怪物。見た眼はカマキリとゴキブリが合わさったような形態をしており、大きな複眼と長い触角、頑丈そうな顎を持った頭部は、くるくると回転して狙った獲物は逃がさないとばかりに全方位を視界に収めている。また、猛禽のようなツメのある前脚は長く大きく、全長の3分の1ほどもある。後ろ脚はさらに太く長く、相当のジャンプ力がある事を伺わせ、柔らかい下腹を守る鎧のような前羽の下には後ろ羽が納められているのが見えることから、飛翔能力もあるようだ。その姿は正に異形の怪物。


「全員武器を取れ! こいつからは逃げられん。戦うしかねぇ!」


 レオンハルトの指示に従って全員武器を取って構える。怪物はせわしなく触角を動かしており、まるで獲物を品定めしているようだ。ラーメラが防御障壁(物理)を展開して皆を守り、リューリィが魔法で攻撃する。


「先手必勝! ファイアストームッ!」


 リューリィの魔法杖「フェイルノート」から発射された炎の嵐が怪物目がけて飛ぶ。誰もが怪物が炎に包まれて燃え上がると思ったが、炎は怪物の手前で何かに弾かれたように四方に分かれて飛び散った。


「なっ…! くそ、もう一度」


 しかし、再度放ったファイアストームも怪物の目が光ると同時に四方に弾け飛び、全くダメージを与えられない。


「……っ!」

『退け、儂が殺る。バイオ・クラッシュ!』


 エドモンズ三世の必殺技も怪物の手前で「バシッ!」と鋭い音を発して無効化された。怪物は「ギチギチギチ…」と大顎を鳴らすと、大きな前脚を振りかぶり、無造作に振り下ろしてきたが、ラーメラの防壁魔法が一瞬早く展開されて直撃を防いだ。怪物は何度も前脚を叩きつけるが、防御魔法を貫くに至らず、悔しそうに「ギチギチギチ…」と大顎を鳴らす。


『ド変態アンデッドさん。あれはモディフィキャプティスです。この18階層の頂点に立つ怪物です。見るのは初めてですが、迫力ありすぎです!』

「どうやらヤツの外骨格は魔力を帯びているようね。その魔力が魔術的な攻撃を無効化してるんだわ。生意気な」


「なら、物理でぶっ叩くか…」

「ふふ、それしかないようね」

「が、頑張るぞ…」


「ラーメラちゃん、防御魔法を解いて!」

『は、はい~』


「うりゃあ! かかれーっ!」

「わあーーっ、突撃ぃーっ!」


『ラーメラ、儂とお主はあ奴らの援護じゃ。防御魔法が使えんリューリィは魔法であ奴の気を散らせよ。エヴァリーナは教授を守って下がっておれ!』


 第18階層の頂点に立つ巨大怪物モディフィキャプティスが襲いかかる。エヴァリーナたちは生き残るため、決死の戦いを挑むのであった。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「うらぁ!」


 レオンハルトはバルディッシュの重い一撃を怪物の脚に叩きつけたが「ガキィン!」と金属質の音とともに跳ね返され、反動で後方に後ずさってしまった。見ると傷一つついてない。


「くそ、手が痺れる。何て硬てぇんだ…」

「レオンハルト君、危ない、上!」

「なに!」


 仲間の警告に上を向いたレオンハルトの目に怪物の鋭い前脚が振り下ろされる。躱せない! バルディッシュで防御する姿勢を取ったレオンハルトの上に暗黒の壁が展開され、怪物の攻撃を防いでくれた。


「サンキュー、エドモンズのオッサン!」

『奴の攻撃は儂とラーメラが防ぐ。お主らは防御を気にせず戦うのじゃ!』


「(よし、奴の注意はレオンハルト君に行ってる。今がチャンス)ルゥルゥちゃん、シン君、私についてきて。奴に接近して柔らかい下腹を狙う」


「マーガレット様が接近戦を仕掛けます。ラサラス姫、僕に合わせて攻撃を。奴の気を惹いて援護します!」

「は、はい!」


 レオンハルトを攻撃しようとしていた怪物の顔すれすれに火球が飛び、動きを止めたところに何本もの矢が当たる。矢は硬い外骨格に全て跳ね返されてしまったが、注意を逸らすことに成功した。怪物は大きな複眼を真っ赤に染めて、今度はリューリィとラサラスに向かってきた。ラサラスの目前に巨大な大顎が迫る!


「きゃああああーっ!」


 怪物の大顎がラサラスを食い破ろうとした寸前、不可視の防御壁が攻撃を防ぎ、怪物の突進を止めた。魔法防壁に激突した事で急に加速度が0にされた怪物は、前につんのめりながら、地面に叩きつけられる。その隙にリューリィは動揺するラサラスの手を取った。


「ひ…ひえっ…」

「大丈夫ですか、ラサラス姫!」

「ひ、ひゃい…大丈夫れす」

「一旦後退し、様子を見て再度攻撃します。着いてきてください」


 リューリィはラサラスの手を引いて、怪物から離れてラーメラの側まで下がった。体勢を立て直した怪物は顔を上げ、ぐるぐる回して獲物の姿を探す。そこに油断が生まれた。


「どこ見てやがる!」


 接近したレオンハルトが細い首目がけ、ジャンプからの加速をつけてバルディッシュを振り降ろした。しかし、怪物は前脚で刃を受け止め、バルディッシュを絡め取って地面に叩きつけた。


「ぐわ…ッ」


 全身をしたたかに打って2度、3度と地面をバウンドして転がるレオンハルト。その姿にエヴァリーナは悲鳴を上げ、負傷した愛する人の元に駆け寄ろうとする。


「きゃああーっ! レオンハルトさーん!」

『エヴァリーナは動くな。お主は教授を守るという役目があるのじゃ。ヤツの事は儂に任せろ。ラーメラ、皆の支援は任せるぞ』

『はい、任されました!』


 エドモンズ三世はレオンハルトの側に駆け寄ると傷の具合を確かめ、致命傷がないことを確認し、治癒魔法を発動させた。怪物は「ギチギチギチ…」と大顎を鳴らし、倒れ伏すレオンハルトを見るが、突然ビクッと体を震わせた。


「どこを見ているの!」


 隙をついて接近したマーガレットが魔法剣グラディウス+4を柔らかい腹に深々と突き刺していた。さらにルゥルゥとシンも武器で腹を斬り付けている。怪物は「キシャーッ!」と雄叫びを上げるとバッと前羽を広げると後ろ羽を大きく展開して激しく震わせて上空に飛び上がった。羽が生み出す風圧でルゥルゥとシンは跳ね飛ばされ、大木の幹に体を激しく打ち付け、くぐもった声を上げて倒れる。しかし、マーガレットはグラディウスから手を離さず、怪物と一緒に上空に飛び上がった。


「く…っ、何とか奴の背に…あっ!」


 怪物はマーガレットを振り下ろそうと急旋回した。強烈な遠心力によって、マーガレットはグラディウスとともに空中に放り出された。


「きゃあ!」


 放り出されたマーガレットは下を見ると、巨木がまるで針のように見える事から相当の高さであることがわかる。


(あ~あ、このままじゃ地面に叩きつけられて一巻の終りね。でも、その前にあの怪物に食べられちゃうか…。金色の死神も死ぬときは呆気ないわね。ゴメンねラピス。最後に顔、見たかったな…)


 自由落下するマーガレット目がけ、羽を震わせながら怪物が迫ってくる。地上から援護の魔法が飛んでくるが、全て怪物の手前で逸れて行き、ダメージが与えられない。マーガレットは最後を悟り、目を閉じた。


『諦めちゃダメです!』


 怪物の大顎に捕らわれる寸前、マーガレットの体がストンと何かに跨って、そのまま怪物の下を潜り抜け、背後に回った。


「ラーメラちゃん!」

『助けに来ました! 間一髪でしたね』


 マーガレットの危機を助けたのはスフィンクス形態になったラーメラだった。ラーメラは翼をバサッバサッと羽ばたかせ、怪物の周囲を飛び回る。獲物を見失った怪物は大きく旋回して周囲を探し、獲物を見つけると襲い掛かってきた。


『おおっとと…』

「うわっ! 危ないっ!」


 怪物は何度も前脚による攻撃を繰り出してきた。攻撃の度にラーメラは半回転捻りや上昇からの反転降下などを駆使して躱す。マーガレットはラーメラの首にしがみ付いて振り落とされないようにするのが精一杯。しかし、このままではいずれ捉えられてしまう。


「ラーメラちゃん、このままでは埒が明かない。何とか地上に誘導できる?」

『地上ですか、皆さんのところに?』

「そう、出来る?」

『了解です。激しくいきますよー。しっかり摑まってて下さいねー』


 ラーメラは前脚の振り下ろし攻撃を避けると、大きく何度も羽ばたいて怪物の上空に向かって飛び上がり、旋回してタイミングを測る。そのラーメラに向かって怪物が一直線に上昇して向かって来る。


「一体何をしているんだ?」

「わからないですわ」

『何か策があるのじゃろう。今のうちに儂らは体勢を整えるのじゃ。怪我をしたものは儂の側に来い。いいか、マーガレットは必ずチャンスを作る。その時に戦えるように万全を整えておくのじゃ』


「はい!」


 レオンハルトやエヴァリーナたちは上空で繰り広げられる戦いを見上げながら、マーガレットが作るであろうチャンスを待つのであった。


 一方、激しい空中戦を繰り広げているラーメラと怪物モディフィキャプティス。前脚の振り下ろし攻撃をすれすれに躱したラーメラは大きく羽ばたいて、怪物の顔にギリギリまで接近すると、マーガレットはジャンプして目と目の間、何らかの器官がある部分を斬りつけた。これはかなり効果があったのか、怪物は苦しそうに両前脚をむやみやたらに振り回す。マ-ガレットは顔に蹴りを入れ、その反動を使って怪物から離れた。空中で1回転したマーガレットをラーメラが背中で受け止める。


 傷つけられた怒りで目を真っ赤に染めた怪物が猛然とラーメラに襲い掛かってきた。


「今よ、ラーメラちゃん!」

『はいさっさー!』


 ラーメラは怪物を十分引き付けると翼を畳み、地上目がけて一気に急降下し始めた。怪物もすぐ後ろを追う。地上の木々がどんどん近づいて来るが、ラーメラはスピードを落とさない。マーガレットは振り落とされないようしがみ付くのに必死だ。ついに木々の先端付近まで降下したところでラーメラは勝負をかけた。


『ここです!!』


 畳んでいた翼を一気に広げ、旋回急上昇をかける。地面すれすれで上昇に転じたラーメラの脇を一直線に怪物が降下し、地面に激突して大きな地響きを立てて頭からめり込んだ。


「や、やったぞ!」

『チャンスじゃ、一気呵成に叩きのめすのじゃ!』

「おおーっ!」


 地面にめり込み、身動きしなくなった怪物モディフィキャプティスに、レオンハルトたちが接近して止めとばかりに襲い掛かった。レオンハルトはバルディッシュで腹を斬り裂いて内臓をぶち撒けさせ、シンは頭と首の繋ぎ目にショートスピアを突き刺して神経叢を切断し、ルゥルゥもまた、腹にロングソードを深々と突き立てた。


 武器戦闘組に遅れてリューリィ、エヴァリーナたちが怪物の側に寄ってきた。教授が怪物の腹を観察し、気門の動きが無いことを確認した。


「うむ、怪物は完全に死んだようですな。いや、皆さんお見事でした」

「これもラーメラとマーガレット様のお陰だな」


 第18階層の頂点に立つ巨大怪物を何とか倒したことで全員安堵した。しかし、ロングソードを抜こうとしたルゥルゥの手に、何か動きが感じられる。


「あれ? 変だよ。コイツのお腹の中が動いてるみたい」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ