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第434話 神殿通路の罠

 死の花畑を突破したユウキたちは、一路最下層に向けて突き進んでいた。第17階層ではグレンデル率いる魔物の群れを撃退し、第18階層では伝説級の魔物キマイラが待ち構えており、魔法と猛毒の蛇による攻撃に苦戦したものの、ユウキ、ミュラー、ヴォルフの連携攻撃で倒して突破した。そして、ここ第19階層の最奥にいたのは…。


ぬえだ…。しかも、複数いる」


 ユウキたちの目の前で、「ヒョーヒョー」と鳴きながら警戒するように歩く異形の怪物「鵺」その姿は猿の顔、狸の胴体、虎の手足を持ち、毒蛇の尾を持っている。何より特徴的なのは全身からバチバチと放電している事だ。


「ヤツは電撃が武器のようだな」

「みたいだね。なら…」


「武器戦闘組は下がって! アンジェとラピスは前進! 魔法攻撃で倒す。防御は任せて。ポポは他に敵がいないか索敵!」


「ラピス姫。ここは一気に…」

「ブリザードね。分ったわ」


『水の女神よ、万物を凍結させる氷雪の嵐を我に! ブリザードッ!!』


 アンジェリカとラピスが己の魔力を極限まで高め、氷系最大威力の魔法を鵺にむかって放った。ー50℃の超低温の嵐は複数の鵺を飲み込み、体内から熱を奪ってカチカチに凍らせる。魔法を撃ち終えた2人は「やった」とハイタッチするが…。


 ブリザードの攻撃を避けた1頭の鵺が「ヒョーヒョー」と鳴き声を上げながら襲い掛かってきた。アンジェリカは素早くアイスランスを唱えて狙い撃つが、鵺はフロアの岩壁を蹴ってアイスランスの攻撃を避けながら接近し、電撃を放ってきた。


「ダークシールド!」


 鵺の放った電撃はユウキの魔法防御壁によって防がれたが、鵺はその防御壁に体を載せると、一気に天井目がけて飛び上がり、天井の壁を蹴って電撃を放ちながら突っ込んでくる。


『ヒョーヒョーヒョー』

「何がヒョーヒョーじゃ! 喰らえダークランス!」

「えいっ、アイスランス」

「アイスバレット!」


 ユウキたち3人による魔法攻撃、暗黒の槍、氷の槍、氷のつぶてが鵺に襲い掛かった…が、鵺は全身を震わせて強力な雷を纏って暗黒の槍も氷の槍も礫も全て弾き返しながら接近してきた。


「マズいっ! あの電撃に巻き込まれたら黒焦げになる!」


 全身を青白くスパークさせながら接近する鵺。防御魔法を展開しながらアンジェリカとラピスが身を守る姿勢を取る。 


「そうはいくかっ!」


 その声と共に鋼の槍が飛翔し、鵺の胴体を貫いた。鵺は甲高い悲鳴を上げて地面に叩きつけられ、二度、三度とバウンドして地面を転がった。ダメージに呻く鵺にドドドッと駆け寄ったミュラーが魔法剣をその首に突き立て、レドモンドが毒蛇の尾を切り落とした。そして、もう1人の騎士エドワードが自身の投げた槍を抜くと、今度は心臓目がけて突き、止めを差す。鵺はビクビクっと痙攣して息絶えた。


「ふう…助かった。ありがとう、ミュラー。騎士の皆さん」

「1体でも強敵だったな。最初にブリザードでまとめて倒してなかったら、どうなっていたか、わからなかったな」

「エドワードさんのお陰だね」


 ピンチを助けてくれた事にユウキたちが感謝の言葉を述べ、男たちはテレテレとなりながらも胸を張る。特にミュラーはユウキに「オレオレ、オレが助けたんだぞ」としつこいくらいにアピールして来てウザい。そのミュラーを無視したユウキはある事に気づいた。


「あれ? 変態ヴォルフは?」

「そういえば、姿が見えないな」


「ここにいるのです」


 ポポが指さした先に、鵺の電撃に撃たれ、逆エビぞりになってビクンビクンと痙攣していたヴォルフがいた。


「こいつはユウキたちが戦っている間、ラピスの荷物を漁ってたのです。奴の手を見て下さい。ラピスのEカップ生意気花柄ブラが握られてます」

「なんですって!」


「戦いに参加せず何をしてるかと思えば…」(ユウキ)

「さすが、エロアンデッドーズの片割れ。期待を裏切らないな」(アンジェ)

「こいつ、本当に王だったのか?」(ミュラー)


 ゲシゲシ蹴りを入れられながらも、激しく上下するラピスの胸をヴォルフは満足した笑顔で見上げるのであった。



「ジルの登場辺りから真面目な雰囲気と激しいバトルが続いて話が引き締まっていたんだけどな…。ヴォルフのせいで全部台無しだよ。全く」

『ファハハハハ! 許せ、戦いに参加しようとしたら、荷物からはみ出ていたラピスちゃんのランジェリーに目を奪われてしまってな。これも漢のさがと言うものよ』


「何が性よ。もうそのブラいらない!」

『じゃあ、吾輩の宝物にしよっと』


「いい加減にしろお前たち。ミュラー様も騎士さんたちも呆れてるぞ。それより見ろ、下に続く階段が見えてきたぞ」


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 アンジェリカに怒られて肩を竦めたヴォルフを先頭にして階段を下り、第20階層に到達したユウキたちは、その荘厳な光景に息を飲んだ。


「何だこりゃあ」

「整然として美しいけど、雰囲気がヤバいね」


 目の前には大きさの揃った大理石造りの通路が延々と伸びている。通路幅は約20m、高さ約15mほどで、何より台座に載せられた高さ約10mもある巨大な青銅の戦士像がずらりと並べられている。


「ポポ、何か感じる?」

「何も感じないのです。精霊さんたちも静か…、というか精霊力が感じられません。何かに阻害されている感じがするのです」

「だとすると、危険の察知は難しいか…。しかし、わたしたちは進むしかない」


 再びヴォルフを先頭にミュラーと2人の護衛騎士、間にポポとアンネマリーを挟んで最後尾はユウキとアンジェリカという順に隊列を組み、通路に足を踏み入れた。


 進み始めて30分、1時間と時間が経過する。しんと静まり返った通路はユウキたちの足音以外の音がしない。始めはおしゃべりしながら歩いていたユウキたちもいつしか無言になる。それに、青銅像の空虚な目が自分たちを見ているようで、背筋がゾクゾクし、自然に速足になる。


 時間にして約2時間、距離にして5kmほど進んだところで通路の終りが見えてきた。通路の出口の奥はホールになっているようで、神殿様の建物が見える。


「ふう、やっと終りが見えてきたね。何事もなくて良かった」

「ユウキちゃん、安心するのはまだ早いぞ」

「え、どういう…」


『敵だ! 皆の者、武器を構えろ!』

「くそ、罠か!」


 ヴォルフが敵の襲来を警告する。ミュラーとユウキが前方を見ると、ガシャガシャと金属が擦れる音を立てて動き出した青銅像が立ち塞がるのが見えた。


「ユウキ、後ろ!」


 アンジェリカの声に後ろを振り向いたユウキの目に、剣や槍、斧を手にした青銅像が何体も迫ってくるのが入った。


「ユウキ、マズいぞ。奴らに私とラピス姫の水系氷系魔法は効果が薄い」

「魔法だけじゃねえ、オレらの剣や槍もだ。奴らをたおすにゃ打撃武器が必要だが…」

「メイスの1本もない!」

「股間の棒はあるぞ!」


「ダメに決まってるでしょ、そんな短いの」

「ガーン…」


「何かない…。あっ」


 何かないかとマジックポーチを探っていたユウキの手に1本のバトルアックスが握られる。以前、ミュルダール鉱山の依頼を受けた際に、帝都の武器店で買ったものだった。


「いいぞユウキちゃん。それをオレにくれ」

「わかった。受け取って!」


 ミュラーはユウキからバトルアックスを受け取ると二度、三度と振って感触を確かめる。


「よし、ヴォルフとレドモンドたちは像の気を引いてくれ。その間にオレが接近する」

「了解だ、任せろ!」

『ラピスちゃんの信頼を回復する絶好の機会。逃さぬ!』


 ヴォルフとレドモンド、エドワードは散開しながら青銅像に突撃していった。一方、ユウキは最後方にいて、アンジェリカたちに指示を出していた。


「ラピス、あなたは前衛のミュラーたちに防御魔法をお願い」

「わかったわ!」


「アンジェはポポとアンネマリーさんを守るのと、氷の防御壁を展開して!」

「ユウキはどうするんだ!?」

「わたしは、魔法であの像たちを吹っ飛ばす!」


 そういうが早いか、ユウキは爆発魔法フレアを青銅像目がけて叩きつけた。爆圧と爆風が青銅像を何体も巻き込み、粉々に粉砕する。ユウキは連続して攻撃を行うため、グッと右腕を前方に伸ばし、超高温超高圧の火球をいくつも作り上げた。


「メガフレア!」


 呪文の詠唱とともに火球が一斉に青銅像に向かって飛び、次々に大爆発を起こし、通路の壁や天井もろとも青銅像を木っ端微塵に吹き飛ばした。爆発威力が大きすぎ、強烈な爆風がユウキたちにも襲い掛かってきたが、アンジェリカがアイスシールドを展開して食い止めた。爆風の熱と氷の防壁がぶつかり合い、水蒸気が周囲を立ち込める。そして、水蒸気や土煙が収まった時、何百といた青銅像は全て粉砕され、ただの瓦礫となっていた。


「すげぇ…。あれがユウキちゃんの、暗黒魔法の力か…」

「ミュラー殿! よそ見をするな、行ったぞ!」

「お、おお!」


(凄い…。あれが暗黒の魔女の力なの。四元魔法の比じゃない…)


「アンネマリーさん。どうしたのです? ユウキをじっと見て」

「えっ、いえ、何でもっていうか、すごいなあって…」

「そうでしょう! 本当のユウキはすごく強くてカッコいいのです!」

「ええ、そうね…」 


 前に立ち塞がった青銅像1体の注意をヴォルフが牽制して逸らし、その隙に背後に回ったミュラーがバトルアックスを思い切り膝裏に叩きこむ。膝を破壊された青銅像はバランスを崩して床に倒れ、衝撃で体の各部が破損し、動きを止めた。


「あと残ってるのは!」

『1体だ!』


 その1体に向かって、ロープの両端を手にしたレドモンドとエドワーズが走りこんでいた。ミュラーは注意を2人から逸らすため、バトルアックスを投擲した。バトルアックスは青銅像の胸に当たり、ガキィン!と金属音を立てて跳ね返ったが、注意をミュラーに向けることに成功した。その隙を狙ってレドモンドたちは像の両足にロープを掛け、ぐるぐると回って足にロープを巻き付ける。急に足の動きが止められた像は前のめりに床に叩きつけられ、動きを止めた。


「ふう…、やったな」

「ミュラー、騎士さんたち、お疲れ様」

「兄様、カッコ良かったです!」


「おう! ラピスも防御ありがとな」

「ユウキ、周囲に悪意は感じられません。もう大丈夫なのです」

「よし、先に進もう。出口はもう少しだよ!」


『おおーっ!』

  

 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 青銅像の通路を抜けた先には通路の2倍ほどの大きさの開けた空間と大理石のような白い石材で造られた小さな神殿様の建物があり、1体の石像が置かれていた。近づいてよく見ると、人間を模られた像で王族のような豪華な衣装を身に着けた壮年男性だった。

 ユウキが手を伸ばして触れた瞬間、像がまばゆい光を放った。


「うわっ、なに!」


 目が慣れて石像を見ると、生きた人間に早変わりしていて不敵にニヤリと笑う。


『ウワハハハハ! ハーッハハハハハ! よくぞここまで辿り着いた、勇者たちよ』

「だ、誰だお前は!」


『誰だと問われれば教えてやろう。儂はこの階の守護者、拳王マキシマム!』

「マキシマムだと…、無駄にカッコいい名前じゃねえか」


「マキシマクと言ったね、わたしたちは訳あって先に進みたいの。通してくれない?」

『マキシマクではない! マキシマムだ、マ・キ・シ・マ・ム!』


「どっちでもいいよ、通して」

『良くはない。いい乳してるからって生意気だぞ女。この先に行きたいのなら、儂とサシで勝負し、勝つことだ。でなければ先へ進めぬ』


「そんな悠長なことしてられないわ! わたくしたちは先を急ぐの!」

「ラピス姫、魔法で攻撃するぞ!」

「わかったわ!」


 問答無用とばかりにアンジェリカとラピスが呼吸を合わせ、2人同時に多数の氷槍アイスランスを放った。マキシマムに向かってアイスランスが高速飛翔し、命中したかと思われた瞬間、マキシマムの手前で空間が波打ち全て吸収されてしまった。


「ま、魔法が消えちゃった!?」

「何だ、今のは!」


『無駄だ』


「魔法がダメなら剣で叩き切るまでよ! おらぁ!!」

「激しく同意だミュラー殿、ラファール剣技、その身で味わえ!」


 ミュラーとエドワードが同時に飛び掛かり、剣の一撃を見舞った。しかし、捉えたと思った瞬間、マキシマムの腕の一振りで剣が弾かれてしまった。続いてヴォルフとレドモンドが攻撃するが、こちらも簡単に手で受け止められてしまった。


「ちっ…。やるじゃねーか」

「ここは全員で一気に行きましょう。ミュラー殿」

「よっしゃ、それしかねぇな。ヴォルフもいいか」

『ウム! ラピスちゃんにイイとこ見せるぞ』


「呼吸を合わせろ。オレの合図で一気に行くぞ。3、2、1、かか…」


『脱衣ジャン拳』


 マキシマムの一言で、男たちは動きを止めた。

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