第431話 復活のエヴァリーナ
「ほ、本当に…? 本当に私の事を、す…酢の物、じゃなくて好いていると…?」
「ああ本当だ」
「ふえぇ~ん! 嬉しい…、嬉しいですぅ」
胸の中で泣くじゃくるエヴァリーナを優しく抱きしめ、レオンハルトは泣き止むまでずっと頭を撫でてあげるのであった。
「それでだな…。その…」
「??」
「エヴァリーナさんの返事というか…。気持ちをまだ聞いてないんだが…」
「もちろん、私もレオンハルトさんが好きです! 大好きです!! これ以上無いくらいに大好きです!!!」
「わ、わかった。ありがとう…」
にぱっと最高の笑顔で返事をしたエヴァリーナ。それから延々とレオンハルトのいいところや好きになったところを話始め、当の本人は恥ずかしくていたたまれなくなったものの、エヴァリーナの明るい笑顔を見ていると、まあいいかと思うのであった。
(嫌われていなくて本当によかった…。それにしても、あの乳お化けのおっぱい星人め~。後で絶対に天誅を下しますからね!)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「エヴァちゃん、大丈夫かしら」
「今にも死にそうな顔してたけど」
『ドスケベ骸骨おじさんは、平然としてますけど』
『心配ないと言ったろうが。ホレ、戻ってきたわい』
エドモンズ三世が顎で指し示した方を見ると、「おーい」と手を振りながらエヴァリーナとレオンハルトが歩いてきた。エヴァリーナの顔は先程までと違って別人のように明るく、笑顔まで見える。あまりの違いにマーガレットたちは驚いた。
「一体、何があったのかしら…」
『一発ヤッて来たのではないか』
しれっとスケベな事をぬかしたエドモンズ三世の下顎骨に金色の死神のアッパーカットが突き刺さり、ド変態アンデッドは数m以上吹き飛ばされて、地面をゴロゴロと転がった。
「すみません。皆様に迷惑とご心配をおかけして…。でも、もう大丈夫ですわ」
「ホント、心配したんだよ」(ルゥルゥ)
「本当によかったわ」(マーガレット)
「でも、どうして立ち直ったのです? 私たちがどんなに慰めてもダメだったのに」(ラサラス)
「そ…、それは…」
エヴァリーナは真っ赤になってもじもじしながら、チラっとレオンハルトの顔を見る。その視線に気づいたレオンハルトはポリポリと頬を搔きながら明後日の方を見るが、何となく顔が赤くなっているよう。その様子に女性陣はピンときた。
「あらあら、よかったわね。エヴァちゃん」
「そうかぁ…(羨ましいな。あたしもリューリイ君と相思相愛になりたいな…)」
「妬ましい…」(ラサラス)
「よろしいですかな」
エヴァリーナが戻って、何とかチームがまとまったところで、バルトホルト教授が全員に声をかけてきた。
「ラーメラさんが皆さんにお話があるそうです」
『ゴメンね、エヴァリーナ。私のワガママで貴女と皆さんに迷惑をかけちゃって。聞けば結構大変な使命をもって、このダンジョンを攻略しているそうじゃないですかぁ』
『な・の・で、私も皆さんのお手伝いをしちゃいます!』
「ええ~っ! 大丈夫なのですか!?」
『はい! どうせ暇してましたしね。私はここを守る義務も何もありゃしませんし』
「どうしましょう…」
にこにこ顔のラーメラを見て、エヴァリーナが悩んでいるとレオンハルトがポンと肩を叩いて…、
「いいんじゃねぇか。この先何があるか判らねえ。強い味方は多いに越した事はないぜ」
「そうね、彼女の防御系魔法は私たちの助けになると思うわ」
「あたしたちはリーダーの決定に従うよ」
レオンハルトやマーガレットたちの後押しもあって、エヴァリーナはラーメラを仲間に入れる事に決めた。
「わかりました。よろしくお願いしますわ」
『わー! 嬉しいな。こちらこそよろしくね。道中はなぞなぞしながら行こうか』
「それはしなくて結構ですわ」
「では出発します。皆さん準備はよろしいですか!」
「待って下さい。エドモンズさんの首が取れちゃって、見当たらないんです」
離れたところで、地面に横たわる首無し白骨死体と、その傍で必死に頭を捜索しているリューリィとシンの姿があった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『酷い目に遭った。とんでもない女じゃ、全く』
「あははは…。ごめんなさいね、エドモンズ様」
「首無しで横たわる骸骨は不気味の一言だったね」(ルゥルゥ)
「返事がない。ただの屍のようだ」(ラサラス)
『お主ら…。儂、怒っちゃった。暗黒魔法で乳首の色を黒くしちゃうぞ』
『本当にドスケベですね、この骸骨さんは。皆さんあのですね、ここは17階層であることはご存じですよね。実はこのダンジョン、130階層まであるんですよ』
「えっ…。本当ですか」
『はい、本当です。しかも、下に行くに従ってとっても怖い魔物が待ち構えてます。が、古代文明のお宝も見つけることが出来ますよ。特に最下層には封印された「何か」が隠されているという話です』
ざわ…ざわざわ…ざわ…。メンバーが騒めく中、マーガレットがラーメラに質問をした。
「どうやら私たちの探し求めているのは、その封印された「何か」のようね。でも、残り113階を探索しながらでは時間が掛かりすぎる。それこそ年単位の時間が必要だわ。私たちにはそんな余裕はないの。ラーメラさん、どうにかできない? 例えば、最短で最下層まで行ける通路とか…」
『うーん…。あることはあるのですが、とっても危険です』
「話してみて。判断はそれからするわ」
「お願いします、ラーメラさん」
『わかりました。じゃあ、話しますね』
ラーメラの説明によると、第18階層に任意の階にワープできる転移装置が隠されているらしく、その装置を使えば一瞬で希望の階に移動できるとのこと。ただし、ラーメラが魔界から呼び出された時のダンジョン・コアからの断片的で正確さに欠ける情報であることに留意しなければならない。また、問題は次の第18階層は巨大なシダ植物が林立する大湿地帯で、巨大な昆虫や両生類、爬虫類が跋扈する地帯であり、さらに、正体不明の怪物がもいるらしいとのことだった。
「…………。行きましょう」
「エヴァちゃん…」
「このような高難易度のダンジョンに隠されているモノであれば、手に入れるのはまず無理でしょう。でも、絶対に0ではない。いつの日か誰かが手に入れる可能性は否定できないと思うんです。そして、それが邪龍に関係する物であって、ウルの手に渡ったら…」
「だからこそ、確認する必要があると思うんです。その封印された物は何なのか…。ただ、私はむやみに突き進むつもりは全くありません。18階層で転移装置が見つからない場合は撤退します。その後は、他のグループの成果を鑑みて対応を考えたいと思います」
「ま、命は大事にしないといけないしね。「無理はしない」は絶対条件だわ」
『そうじゃ。命は大事にすれば一生使えるぞ』
「とんでもないお宝だったらどうしよう。わくわく…」
「よっしゃ、行くか!」
「決まりですな」
『決まったようだね。じゃあ、これあげる』
ラーメラは空間からいくつかの宝箱を取り出し、全員の前にドサドサと置いた。
「これは?」
『このフロアに隠されたお宝。頑張るみんなに私からのプレゼントです。何が入っているかはお楽しみ。私にもわかりませーん!』
「やった! 宝箱が5つもあるよ。開けてみるね」
お宝大好きルゥルゥが、器用に針金を使って鍵を開錠して全ての宝箱を開け、入っていたものを取り出してみる。
「えーと、一つ目はこれ。剣だね」
ルゥルゥが箱から取り出したのは刃渡り60~70cm、両刃幅広の中型剣だった。
『えーと、これは魔法剣「グラディウス+4」ですね。ここに書かれた魔法文字で鋼製の剣より威力を40%増しにすると同時に、耐久力も上昇させてます。しかも、ミスリル鋼製ですよ』
「まあ、凄い。これ私が使わせてもらうわね」
マーガレットが剣を手に取って2、3度左右に振って感触を確かめる。
「うん、いいわね。魔力の効果なのかな、凄く軽いし扱いやすいわ。これならどんな敵が来てもスパスパ斬り裂けそう」
「怖いこと言うな…。さすが金色の死神だぜ」
「次はこれだよ。わあ、綺麗な杖だね」
二番目の箱から取り出したのは長さ約1m程の銀灰色の金属光沢をもつ材質で出来た柄の先端部に、銀白色の明るい金属で作られた美しい装飾がされた台座と、鮮紅色の六角柱状の宝石が装着されている。
『ほうほう、それは「フェイルノート」ですね。大昔に魔界の大魔術師が使っていたと言われる伝説の魔法杖ですよ。いものが手に入りましたね』
「これ、ボクが使ってもいいですか。凄い、魔力が漲るような気がします」
「リューリイ君、カッコいい…。ポっ♡」
「じゃ、次開けるね…。ん? なにこれ、汚いバッグ。ハズレかな?」
『それ、超当たりですよ! マジックバッグです。何でも入る魔法のバッグで、時間停止の効果もあるみたいです。つまり、死体を入れたらいつまでもフレッシュ…』
「怖いですよ! でも、ユウキさんのマジックポーチもすごく便利でした。これがあると、冒険も大分楽になりますね。私が持ってもいいですか?」
エヴァリーナがバッグを背負う。ベルトに腕を通しても、胸は目立たず全然苦しくない。その事実に悲しくなり、しかもルゥルゥとラサラス、巨乳女子のニヤニヤ視線に、胸の奥に嫉妬の炎が燃え上がる。
「そのバッグ、エヴァリーナさんじゃないと無理だね。にひひ…」
「ぐぬぬ…、おのれルゥルゥ、許すまじ…」
「はいはい。残り二つだね。では、これ…えっ!?」
ルゥルゥが宝箱から取り出したのは、全身黒の網目の粗いストッキング地の下着っぽい防具(?)が2着。所謂セクシーランジェリーボディーストッキングだ。背中とフロントがカットされたデザインがとってもエロティックで、スケスケな網模様に穴だらけのデザイン。そして股部分も穴あきで過激さたっぷりの一品。女性陣は思わず顔が赤くなる。
『あらあら、何ですかそれ? 箱に説明書がありますね。どれどれ…』
『巨乳女子専用ナイトバトルボディースーツ。悩殺攻撃力120、物理防御力10、羞恥心300。これで迫ればどんな雄もイ・チ・コ・ロ♡』
「……………」
『……………』
「こ、これはルゥルゥさんとラサラスさんに差し上げますわ。巨乳専用と書いてありますし、これで意中の男性を堕としてくださいな」
「ありがと…(これ着てリューリイ君に迫ったら…。ダメ、恥ずかしいよう)」
『そういえば、ユウキも乳の先と股を小さく隠しただけの「悩殺ランジェリービキニアーマー」なるモノを持っておるな。それを着たユウキは凄かったぞ。まさにエロの天使じゃった。ラインハルトに見せただけで絶頂にまで至らせたからの』
男たちはユウキのバインバインのボディを想像して思わず前屈みになる。嫉妬したエヴァリーナはレオンハルトの尻に蹴りを見舞うのであった。
「最後だね。何が入っているのかな。あ、今度こそ防具っぽいかな?」
最後の箱から出てきたのは女性用の防具。しかし、これまたエロい。グリーンのチャイナドレス風スッケスケのシースルードレスで、首元と両脇は紐で留めるタイプ。左胸から右の腰元まで薄黄色でボタンの花の刺繍がしてあり、アクセントになってとてもかわいい。また、セットでこれまたスケスケシースルーのTバッグパンツがついている。ただ、首元には真紅の魔法石が取り付けてあった。
『これまたエロイね。えーと、貧乳専用昼夜兼用バトルドレス。悩殺攻撃力90、物理防御力80、羞恥心90。生地越しに見える素肌感が妖艶で、これに悩殺されない雄はいない…だって。でも、この真っ赤な魔法石で防御力は並の防具よりははるかに高いよ』
「貧乳用なら、エヴァちゃん専用ね。これで誰を萌え殺すのかしらね~」
マーガレットがドレスを渡しながらからかうと、真っ赤になって俯くエヴァリーナだった。しかし、ドレスとTバッグはしっかりと受け取った。
「防御力が高くても、通常着る物ではありませんわね。乳首もアソコも丸見えになっちゃいます…。マジックバッグにしまっておきます(いつかこれを着て迫っちゃおうっと)」
いそいそとマジックバッグにエロ防具をしまい込んだエヴァリーナたち女性陣。いよいよ先に進む準備が整った。
「ラーメラさんという心強い仲間もできましたし、マーガレット様とリューリィさんの武装も強化されました。エッチな防具も…それは置いといて、第17階層の突破は容易ではありませんが、私は皆さんの力を信じます。そして18階層で転移装置を発見し、一気に最下層に向かいます。皆さん、あと一息です。頑張りましょう!」
『おおーっ!!』
エヴァリーナの激に全員が気勢を上げ、18階層に続く通路に入っていった。一行の後を歩くラーメラにエドモンズ三世が声をかけた。
『本当に18階層に転移装置があるのだな』
『どうしたんですか。怖いですよエッチなおじさん』
『茶化すな。儂の問いに答えよ』
『………多分。ダンジョン・コア情報が正しければ』
『不正確な情報であれば仕方ないが、もし、騙したり罠にかけようとするつもりで語ったのなら、儂は貴様を殺す。裏切っても同様じゃ』
『…………』
『お主が奥の手を見せぬように、儂も見せてはおらぬ。それだけは知っておくがよい』
『…………』
先に進んだエヴァリーナたちを追ってエドモンズ三世はラーメラから離れた。その背中を見ながら、進み始めるラーメラ。通路の暗がりの中、その顔に笑みが零れた事に誰も気づかなかった。




