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第429話 花畑の死闘

 全員、食事と休憩を取って体力を完全回復させたユウキたちは、いよいよ花畑を浄化し、魔物を駆除する作戦を開始した。まず、ユウキたちは花粉の影響外に待機し、ヴォルフの護衛を受けたアルフィーネが花畑の中に進み出ると、祈りの姿勢を取って魔力を高める。


『フローラル・レナトゥース!』


アルフィーネの体が金色に光り輝き、光の波動となって周囲に広がり始めた。光の波動が花畑を包み込み、花々から飛んだ花粉が光の粒子となって浄化されていく。その幻想的な景色にユウキたちは心を奪われて見入っていた。


「何て綺麗な…」

「ああ、なんて美しいんだ」

「これがアルラウネの力か…。凄い」


『ふう、ヴォルフさん、このフロアのお花さんたちの毒は浄化されました。もう安全です』

『ご苦労だった。では、ユウキたちの元に戻りなさい』

『ハイ! じゃあ、ご主人様たちをここに呼びますね!』


 アルフィーネが待機しているユウキたちに安全になった事を報告する。直ぐにミュラーと護衛騎士の2人がヴォルフの側に来て武器を構えた。少し遅れてユウキたちがアルフィーネとアンネマリーを引き連れて進み出て、ポポに魔獣の探索をお願いした。


「ポポ、周辺探索をお願い」

「了解したのです。風の精霊さん、土の精霊さん、魔獣はどこにいますか。教えてください。お願いします」


「ユウキ、精霊さんが教えてくれました。巨大なイモムシがお花を食べながら、1時方向から接近中。数は…ええっ! そんなにいるのですか!!」

「ポポ、数は、数は何匹なの!」

「精霊さんは20匹と言っているのです」


「チッ…。拙いね。こっちの前衛は4人。なら!」

「アンジェ、後衛は任せた。わたしは前衛に行く」

「待ってユウキ、わたくしも行く!」

「支援は任せろ。気を付けるんだぞ。ユウキ、ラピス姫」


『アンジェリカさん、私もお手伝いします』

「ああ、頼む」


 アンジェリカは魔法杖「マイン」を構えると、ポポとアルフィーネ、アンネマリーを庇いながら、いつでも魔法を撃てるような態勢を取った。一方、ユウキとラピスはミュラーの側に駆け寄るとポポから得た情報を大きな声で知らせ、ラピスは自身のミスリルソードに氷系の魔力を通し、魔法剣「コールドブレイド」に変化させて魔獣が来るのを待つ。


「みんな! 魔物の数は20匹、1時方向から接近中! 戦闘準備!!」


 間もなく、1時方向からドドド…と地響きを立てながら、円筒形の体をした何かが接近してきた。


「な、なに、あれ…」


 現れた魔獣の姿が露わになる。頭部は丸っぽく小さく、あごは下を向き、触角は短い。触角のそばに小さな単眼が約6個並び、怪しい光を放っている。胴体は胸部と腹部の区別なく続き、9つの体節に分かれていて、胸部の下面には3対の短い歩脚がある。また、全体は濃灰色で体の下部に緑色の線が入り、各体節には赤白の鳥の目のような模様がついている。見た目で全長約7~8m、全高2mはあるイモムシの化け物だった。


「ふぎゃああああっ! キモイキモイキモイー!」


 ユウキを始めとする女の子たちから悲鳴が上がり、あまりの悍ましさと大きさに男性陣も怯む。そんな仲間を見たヴォルフは黒大丸に跨ると、愛用のツヴァイヘンダーを抜き、高々と掲げると大きな声で叫んだ。


『何を怯むか! 勇気を出せ戦士たちよ、吾輩に続け。突撃ーッ!』


 ヴォルフは黒大丸を全速で走らせると、一番先頭のイモムシに接近し、全力を込めてツヴァイヘンダーを突き刺した。


『ヌォオオオオーゥ!』


 腹の底から響きわたる力強い声を上げ、黒大丸をイモムシに沿って走らせ、そのままツヴァイヘンダーで胴体を切り裂いた。切り口から緑色の体液と共に、胃や腸がぶち撒けられ、イモムシは苦悶に体を震わせる。反転したヴォルフは黒大丸の背を蹴ってイモムシの背中に飛び乗り、頭の部分まで走ると、今度はツヴァイヘンダーを体節と頭部の繋ぎ目に突き入れ、飛び降りながら斬り裂いた。ヴォルフの着地と共にイモムシの頭部がゴロンと地面に落ち、切り口から体液と共に神経叢がベロッと抜け出てイモムシは動きを止めた。


 ヴォルフは再び黒大丸に飛び乗ると新たなイモムシに向かって突撃する。イモムシの姿にビビっていたミュラー、レドモンド、エドワードの3人は頷き合うと、それぞれ目標を定め、剣を構えて突っ込んでいった。


「うらぁ! ヴォルフに続けーっ!」

「吶喊!」


「く…、イモムシキモいけど、わたしも頑張らなきゃ」


 ユウキは振動波コアブレードに魔力を通すと、ラピスに声をかけてイモムシに向けて駆け出した。


「ラピス、行くよっ!」

「うん!」


 敵の接近を感知したイモムシたちは尾節にある管を立てて甘い匂いがする気体を放出し始めた。


「何コレ、尾っぽから甘い匂いが漂ってくる。う…、体がし、痺れ…っ」


 甘い匂いを嗅いだユウキは体が痺れる感覚に襲われ、地面に手をついて四つん這いになってしまった。そこに上体を持ち上げたイモムシが潰そうと圧し掛かってきた。


「ユウキ、危ない! アイスランスッ!!」


 ラピスの放った何本もの氷の槍がイモムシの胴体を貫き、どうと地響きを立てて倒れ、地面に接地した部分から緑色の体液が流れ出し、辺りに広がった。


「大丈夫?」

「う、うん…。治癒魔法で何とか…」


 ユウキを抱き起したラピスに向かって次のイモムシが大きく口を開けて迫ってきた。悲鳴を上げる2人の上を多数の氷の槍が通過し、イモムシの頭部に多数突き刺さる。イモムシは地面に頭を突っ込み、地面と花々を撒き散らしながら停止した。


「ありがとう、アンジェ!」

「援護は任せろ! ポポ、風の精霊に頼んで、あの周辺に風を起こせ。イモムシの放出した気体を吹き飛ばすんだ」

「了解なのです。風の精霊さん、お願いします!」


 精霊の力でイモムシの発する麻痺を引き起こす気体が吹き飛ばされ、辺りが正常化された。アンジェリカのアイスランスでイモムシたちはユウキに近づけない。この間にユウキはミュラーたちに視線を向けると、ミュラーとエドワードが痺れで動けないようだ。レドモンドが2人を庇って奮戦している。また、ヴォルフはイモムシの群れ後方で戦っているのか姿は見えないが、声は聞こえる。


「わたし、ミュラーたちを助けるよ。ラピスはレドモンドさんと連携してイモムシたちの気を引いて!」

「わ、わかったわ!」


 ミュラーとエドワードはイモムシの発した甘い匂いのする気体を真面に吸い込み、体中が痺れて動けなくなっていた。襲い来るイモムシを牽制しているレドモンドは、劣勢の状況に焦ってきた。そこに、ユウキが駆け込んできて、2人に治癒魔法をかける。


「つ…っ、はあ。助かった。ありがとうユウキちゃん」

「有難い。そのビッグバストに感謝を」

「エッチ! イモムシはまだ十数匹はいる。さあ、立って!」

「おう!」


「やあああーっ!」

「いいぞ、ラピス様! うりゃ!」


 イモムシの胴体にコールドブレイドを突き刺したラピス。刺した部分から魔力の冷気が送り込まれイモムシの体を凍結させて動きを止め、動きの鈍ったところでレドモンドがロングソードを薙いで内臓をぶち撒けさせる。


 ミュラーが魔法剣でイモムシの胴を両断し、エドワードは頭と体節の継ぎ目に剣を突き刺して、神経叢を切断して息の根を止める。ユウキは剣で切り裂いた部分に爆裂魔法を撃ちこむとイモムシの背中が火山の噴火口のように持ち上がり、爆発して粉々になった内臓を撒き散らして仲間の上に降り注ぐ。


「ぺっ、ぺっ…。うわあ、気持ち悪い。ユウキ酷いよ」

「ご、ごめんラピス…」


『ほぉああああっ! 秘剣、裂空斬!! ラピスちゃん見てるうーっ!』


 上空高く飛び上がったヴォルフの一撃で巨大なイモムシが3つに両断され地面に転がった。すとんと黒大丸の鞍に跨ったヴォルフはブンとツヴァイヘンダーを振ると、残敵を掃討中のユウキたちを見た。残っているイモムシは2体、それらも直ぐに剣に裂かれ魔法で体を吹き飛ばされた。


『終わったか、誠に手応えがなかったのう。さて、ラピスちゃんは無事かなっと』


 ヴォルフが仲間の許に戻ると、全員イモムシの体液でどろどろになっており、アンジェリカが水魔法で洗い流しているところだった。


「うげ~、気持ち悪いよ」(ユウキ)

「イモムシの体液でべとべと…。泣きたい」(ラピス)

「臭えな。水で洗った位じゃ取れねぇぞ。この臭い」(ミュラー)


『ウホホ、ラピスちゃん、吾輩が体の隅々まで洗って差し上げようか?』

「ユウキ、コイツの首、刎ねていい?」


『じょ、冗談ですよ…。目が本気です。可愛い顔が台無しですぞ…。ハハハ』

「余計な事言わなきゃいいのに。せっかく活躍を褒めてたのにさ。バーカ」


 ラピスがヴォルフをぺしぺし叩いているとアルフィーネがユウキの側に来た。その顔は感謝の気持ちに溢れていて、嬉しさで満ちている。


『ご主人様、お花さんたちの敵を倒してくださってありがとうございます。これで、お花さんたちも安心してここで命を紡ぐことができます』

「でも、イモムシと戦った所は花も巻き込んでぐしゃぐしゃにしてしまった。ゴメンね」


『大丈夫です。植物の生命力は強いもの。いずれイモムシは腐り、土に返ります。お花はそれを栄養にして花を咲かせ、キレイなお花畑を造るでしょう。たくさんの虫や小動物溢れる多様性の豊かな自然になるはずです』


「アルフィーネ…」


『うふふ。それにしても、皆さん酷い格好ですね。アルフィーネの近くに集まっていただけますか』

「え、うん。こう…?」


 アルフィーネの前に集まったユウキたち。アンジェリカに流してもらったものの、完全ではなく、所々イモムシの体液が残り、異臭を放っている。あまりの臭さにアンジェリカ、ポポ、アンネマリーは離れた所に退避していた。アルフィーネはさっと腕を振ると光のカーテンが生成され、ユウキたちを取り囲んだ。


『フローラル・レナトゥース』


 金色の優しい光がユウキたちを包み込むと、イモムシの体液で汚染された鎧や服、武器だけでなく、体の隅々から金色の光の粒子が立ち上る。また、アルフィーネから放たれた光は周囲にも広がって戦いで傷ついた土壌も元通りに浄化されていった。


「ふわわ…。なに、この温かい光は…。体が癒される…」

「本当ね。体の汚れもキレイになっていくわ」

「おお、何だかいい匂いまでするぜ」


 アルフィーネの魔法ですっかり綺麗になって、ご満悦のユウキたち一行。特にユウキやラピスは女の子なので、汚れたままだったらどうしようと思っていた所だったから、なお更だった。


『ふう…』


「ありがとう、アルフィーネ。助かったよ」

『良かったなユウキ。これで暫く洗ってない股ぐらのくっさい激臭も消えたろう。ワーハッハッハ!』


「誰の股が臭いっていうのよ! このエロヴォルフ、ぶっ殺す!」

『ワーハハハ、早く私を捕まえて~ってか。黒大丸、逃げるぞ! げっはあっ!!』


 黒大丸に乗り込もうとしたヴォルフの腹目掛けて黒大丸が強烈な後ろ蹴りを見舞い、ヴォルフは体をくの字にして吹っ飛び、追いかけてきたユウキの足元に転がった。ユウキはがっしと胸元を踏みつけにやりと笑う。超絶美少女の不敵な笑みに、ヴォルフは死を覚悟した(もう死んでるが)。


「ありがと、黒大丸」

『ブルル♡』


「さて、覚悟はいいね、ヴォルフ」

『や、優しくして…ね』


「ユウキちゃんの体から発する香りなら、オレは全てを受け入れる自信がある!」

「兄様は、最低です。軽蔑しますわ」

「ラピス、オレはそれだけユウキちゃんを愛しているという事だ! それがわからぬか!」

「全くわかりません! このド変態」


 ユウキと黒大丸にボコボコにされ、ぼろ雑巾のようになっていくヴォルフと、妹の軽蔑の視線を受け身悶えるミュラー。いつもの事とはいえ、何とも締まらないこの状況にアンジェリカ、ポポ、アルフィーネは顔を見合わせ、ため息をつくのであった。

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