第44話 クレスケンの狂気
臨海学校2日目の行事も滞りなく終了し、夕食後、締めくくりの行事であるキャンプファイアーが始まる時間となって、みんな海岸に集まってきた。
「あ~あ、明日は王都に戻るのか~」
「ふふ、残念そうですね。カロリーナ」
「そりゃそうよ、臨海学校楽しかったもん。遊び足りないよ。ユウキもでしょ」
「うん。恥ずかしい思いもいっぱいしたけどね」
「それは今更でしょ」
「ひどい!」
「ほらほら、騒がない騒がない。キャンプファイヤー始まりましたよ」
ユーリカが騒ぐユウキ達をなだめ、キャンプファイヤーを囲むように座る。盛大に燃え上がる炎が周りを明るく照らし、美しく輝いている。
「きれいね~」
オレンジ色に輝いて燃え上がる炎に、みんな感動していると、ユウキが急にもじもじし始め、
「……んん、ちょっとトイレ…」
と言って立ち上がった。
「もう、ユウキったら、雰囲気ブレイカーだね。早く行っておいでよ」
カロリーナがぷんすかして、早く行ってくるよう急かす。
「ご、ごめん」
ユウキは一言謝って、トイレに駆け出した。
「はあ、スッキリした」
「ユウキさんですか?」
トイレを済ませたユウキが手を洗っていると、不意に声をかけられ、振り向くと知らない女性が立っており、紙の切れ端を渡してきた。
「これをあなたに渡すよう頼まれて…」
ユウキが受け取ると、女性は「渡しましたよ」と言うと、パタパタと走り去って行った。
「なんなの?」
ユウキが紙を開いてみると、それは呼び出し状だった。
「よ、呼び出し! ま、まさか告白! いやまさかね…、ないない。ハハ…、行ってみるか」
呼び出された先は宿泊施設の裏手にある林の中だった。
(やだな、うす暗くてちょっと怖い。帰ろうかな…)とユウキが考えていると、木の陰から声を掛けられた。
「よく来たな。ユウキ・タカシナ」
声がした方を見ると、暗がりの中から1人の男が出てきた。
「あ、お前は!」
「俺のことを知っているようだな。そうだ、クレスケン・フォンスだ」
「知ってるも何も、街中でボクにしつこく言い寄ってきたじゃないか。あの時は本当に恐くて気持ち悪かった。忘れるわけがない! ボクに何の用なの!」
「気持ち悪いだと。ク、クク、そのすかした顔をしていられるもの今のうちだ」
ユウキは2歩、3歩と後ずさりするが、クレスケンはゆっくりと近づいてくる。
「俺はお前が欲しい。お前の体をむしゃぶり尽くしたい。その美しい顔を快楽で歪ませたい。フフフ…、ハハハ…、どうだ、俺の女にならないか。薬・酒・金、何でもあるぞ」
「な、なに言ってるの。いやに決まってるでしょ!」
「もう一度言うぞ。俺のものになれ!」
「イヤ!」
「俺のものになりたくないというのか…、いいだろう。では、死ね!」
そう言うと、持っていたレイピアを抜いた。
(狂ってる…)ユウキは腰のマジックポーチから剣を出そうと、腰のあたりを探るが、
「な、ない!(しまった!ポーチを部屋に置いてきたんだった。マズイ!)」
「ユウキさん、遅いですね。どうしたんでしょう。」
中々、帰って来ないユウキに、フィーアが心配になって言う。
「う~ん、大きい方にしても遅いね。難産なのかな」
「カロリーナ、お下品です。でも、遅いのは確かですね。探しに行きましょうか」
ユーリカの提案に、フィーアとカロリーナが賛同し、立ち上がった時、フレッドがやってきた。
「どうしたんですか、ユウキさんは?」
「フレッド君。ユウキがトイレに行ったっきり戻らないの。今から探しに行こうかと思ってたんだ。フレッド君はユウキ見なかった?」
「戻らない…?」
フレッドが黙り込み、考えこんでしまったので、フィーアが「フレッドさん、どうかしましたか?」と声をかけた瞬間、フレッドは「まさか!」と声を上げて走り出してしまった。3人の少女は何が起きたのかわからずに呆然とするしかなかった。
(しまった! しまった! クレスケンのヤツ、自分で動き出しやがった。くそ! 何がヤツの企みを潰すだ! 完全に後手に回ってしまった!ユウキさんはどこだ! 探せ、探すんだ!)
ユウキがクレスケンと対峙している頃、ララとアルはキャンプファイヤーを抜け出し、2人でゆっくりできる場所を探しに施設の裏手に来ていた。
「俺が風呂に行ったら、真っ赤に染まった浴槽に何人も浮いていたんだ」
「なにそれ怖い、お風呂が血の池地獄になったって言うの?」
「それで、浮いている奴に近付いたら、大量の鼻血を出して嬉しそうに気絶していてな。意識のあるヤツがいたんで、何があったんだ!と聞いたら…」
「聞いたら…?」
「『つるつる…、あそこがつるつる…』ってうわ言の様に言うんだよ」
「何それ? つるつる?」
「ああ、つるつる。何だろうな?風呂場の床は滑るようなもんじゃなかったけどな」
他愛もない話をしていると、不意に人の気配を感じた。2人が周りを見回すと、離れた所に人が立っているのが見えた。
「あれ、もしかしてユウキ? お~い」
人影がユウキと気付いて、ララは近づこうとしたが、アルがララの腕を取って止める。
「待て、様子がおかしい」
ユウキは緊張した面持ちで前方を見つめ、ゆっくりと後ずさりしているようだ。
「誰かに襲われているようだ。茂みに隠れて近づこう」
2人が茂みや木に身を隠しながら、ユウキの近くまで近づくと、ユウキの前に1人の男が立っているのが見えた。
「あ! あいつ…。クレスケンじゃねえか!」
「誰?」
「以前話したろ、ユウキにしつこく言い寄っていたやつだ」
「あ、あの男、ユウキに剣を向けてるよ!ユウキが
危ない!」




