第426話 スフィンクス
エヴァリーナの風魔法に守られて、危険な尾根道を踏破した一行だったが、フロアの終点と思われる洞窟の手前で巨大な魔物の襲来を受けた。それはライオンの身体、美しい人間の女性の顔と豊かな乳房のある胸、鷲の翼を持った怪物だった。全長は尾の先まで入れると5m、体高は2mはあるだろう。怪物はばっさばっさと翼を羽ばたかせてゆっくりと一行の前に降り立った。
『私はこの階層の守護者、スフィンクスのラーメラ。この先に行きたいのなら、私の試練を受ける必要があります』
(く…っ、この大事な時に面倒な…)
最後尾のエヴァリーナは内股になって激しく襲い来る便意と戦っている。これ以上の時間のロスは避けたいところ。しかし、エヴァリーナにスフィンクスを相手にしている余裕はない。何故なら既に肛門括約筋に全ての力を結集しているから。仲間がさっさと片づけてくれることを祈るだけだ。
『お主が何者かは関係ない。儂らの邪魔をするなら排除するだけじゃ』
(そうです、そうです。もっと言ってやりなさい。そして早く片づけてぇ~)
『バイオ・クラッシュ!』
エドモンズ三世が自身最強の暗黒魔法を放った。誰もが決まったと思ったその時、スフィンクスの目の前でバシイッと魔力が弾かれる音と共に波紋が広がった。
『無駄です』
「これならどうです。ファイアストーム!」
リューリイが炎の魔法を放つが、スフィンクスの直前で魔法が弾かれる。スフィンクスは美しい顔に笑みを浮かべて、あざ笑うかのように一行を見降ろしている。
『無駄といったでしょう。私の魔法障壁は破れません』
(もう、さっさと殺ってください。でないと、でないと私が死ぬ。社会的に…)
「エドモンズのオッサン、リューリイ君下がれ。今度は俺たちがやる」
エドモンズ三世たちの前にレオンハルトとマーガレット、シン、ルゥルゥが進み出てきた。各々武器を構え、同時に地面を蹴った。
(行け! 殺れ! あっ…下痢便もいきそう…。ダメよダメダメ、まだイッちゃダメ…。私の全ての力を括約筋に。ふぬぬ~っ!!)
人知れず自身の内部で過酷な戦いを繰り広げるエヴァリーナだった。一方、攻撃を仕掛けた武器戦闘組だったが、スフィンクスの体に当たる直前で、見えない障壁に防がれ、逆に反発力で弾き飛ばされ、地面に叩きつけられてしまった。
「ぐわっ! つっ…。な、なんだ。バルディッシュが通らねえ」
「痛たた…。私のグラディウスも弾かれちゃった。一体何なの」
「大丈夫ですか、ルゥルゥさん」
「うん、大丈夫。ありがとリューリイ君」
『無駄だと言ったでしょう。大体、私にはあなた方に対する敵意はありません』
『ほう、では何故儂らの前に現れたと申すのじゃ』
(そうです、そうです。用が無いならさっさと立ち去って…。あう、お腹がギュルギュルって。下痢便のビッグウェーブが次々と押し寄せてきます…。もう駄目、もう限界…。あっ…お尻の穴にじわっときた…)
エドモンズ三世の周りに、レオンハルトやマーガレットたちが集まり、スフィンクスの出方を伺っている。ただ1人エヴァリーナだけは最後方で顔色を紫色にして佇む。1歩足を踏み出したら終り。既にお腹に激痛が走り、肛門括約筋は限界を迎えつつある。
『私はこのダンジョンが出来てから間もなくコアに呼び出され、ずっとここの守護をしてきました。でも、全然誰も来ないし、飛んでるのは怪鳥ばかりだし、話相手もいなくて暇なんですよ』
急に何を言い出したのかと、マーガレットやレオンハルトはざわざわし始めた。
(は…、話が長い! 下痢便の波は短い! 私の大臀筋よ、頑張れーって、あ、あひ…ぐぬぬ、お尻の筋肉がつってきた! ヤバい、肛門括約筋が緩んじゃう!)
『私は退屈してるのです。貴方たち、先に進みたいなら私の試練を受けなさい』
「試練とは何かしら」
『え!? んと、そうですね…。何がいいかな…』
「考えてねえのかよ!」
(早く、早くしろクソ野郎…って、それ、私ですわ)
『では、なぞなぞを出します。何てったって、私、スフィンクスですから。問題「朝は4本足、昼は2本足、夕暮れ(夜)には3本足で歩むもの」は、なーんだ?』
全員何だろうと首を傾げ考え込む。あーでもないこーでもないと話し合っている中、あの男が手を上げた。
『はい、先生!』
『はい、そこのスケベそうなアンデッド君。ダメですよ、先生のおっぱいばかり見てちゃ。では、答えは何かな~』
『答えは…「男」です!』
『あら、何故ですか』
『フフフ…。男は朝起きる時、起こしに来たカワイイ妹に股間の「朝立ち」を見られないよう誤魔化すため、布団の上で四つん這いになってナニのポジション調整を行うのじゃ。だから朝は4つ足。昼は普通に立って歩くから2本足』
『夕暮れの3本足は?』
『夜は美人でナイスバディのお姉さんの風呂を覗き見して、アソコがビンビンに立ち上がってしまい、3本目の足の完成じゃ!』
『ハズレです! 何ですかその妄想全開の答えは。ドスケベ!!』
『ハズレか…。自信があったんじゃが…。のう、ラサラスのボディーラインを想像しては毎朝毎晩アソコをいきり立たせている亜人の男よ。そうは思わんか』
「シン…、あなた…」
「嘘です、違います。私はそんなことしてません。誤解です! いてっ、いたた。姫様叩かないでください! うお! 姫様の豊満な乳が私を叩くたびに上下に揺れて…、うほほ」
『なんじゃと! どけ、亜人の男よ。儂に、儂にも見せるのじゃ』
「譲らぬ! 絶対に譲らぬ! ああ、姫様の92cmFカップバストが悩ましく揺れる」
「なんでサイズを知ってるの!?」
『退け、儂にも巨乳を拝ませろ、エヴァリーナはペタン子だし、マーガレットは筋肉乳で堅そうだし、ルゥルゥは乳首が大きそうでイマイチなのじゃ!』
「なんですって。誰の乳が筋肉ですって…」
『ひい、マーガレット様! 聞いておられたのですか、お許しを!』
マーガレットとラサラスにシバキ倒されているエドモンズ三世とシンを横目に見て、スフィンクスは答えがわかる人はいないかと声ををかける。だが、答えがわからず、誰も手を上げない。そこに…、
「ひ、人…です。答え…(早く通して…漏れるぅ~。あぐ、お腹痛いよ~)」
『正解です! 人間の人生を1日に例えると、朝は赤ちゃんで、四つんばいになってハイハイ歩きで4本、次に、昼は2本の足で歩けるようになり、夕暮れは老いて杖が必要になった状態だから、3本足となります』
「ふむ、結構奥が深い答えですね。朝昼夜を人の一生に例えた比喩的表現ですか。哲学的です」
バルトホルト教授が感心したように頷いている。スフィンクスは満足そうに笑みを浮かべる。
『私のなぞなぞに答えられたのは、あなた方が初めてです』
「今まで俺らしか来なかったって言ってなかったか?」(レオンハルト)
『そんな事はどーでもいいのです』
(本当にどうでもいい…。早く通して…。もう我慢の限界…)
『では、次のなぞなぞ行きますよ~』
(まだあるの!?)
『お爺さんとお婆さんをつくったのは誰?』
『はい、先生!』
『はい、そこの先生と巨乳ちゃんの乳揺れをガン見していたド変態アンデッド君』
『答えは「爺さんと婆さんの両親」です。「今日は危ない日だから中はダ・メ♡」といった若き巨乳美人のひい婆さんのアソコが良すぎて我慢できず、ひい爺さんがギンギンにいきり立った肉棒から白い欲望をぶち撒けた結果です!』
「まんまじゃねえか…」(レオンハルト)
「最っ低…。なにあの骸骨、生半可な変態じゃないよ」(ルゥルゥ)
『全然違いますっ! 何ですか、そのドスケベストライクな答えは! 魔界でも君ほどストレートスケベはいませんよっ!』
『ほっほっほ。褒めるな、照れるではないか』
「ポジティブ変態…。ワイトキングって、もっとこう…、人智を超えた存在かと思ってましたけど、認識を改めます」(ラサラス)
「こ…答え…。ま、孫…です…。もう終わりにして…」
『正解です! 孫がいないとお爺さんとお婆さんにはなれませんもんね』
『うふふ、楽しくなってきました。まだまだ行きますよ~』
(や、やめて~!!)
とっくに限界を超えたエヴァリーナの下腹部。大臀筋は力を失い、肛門括約筋はわなわなと震え、顔は赤→青→紫に変色ループを繰り返し、直腸内では下痢便がいつ外に出してくれるのかと騒ぎ立てる。しかし、寂しがりのスフィンクスは嬉しさ全開で、さらになぞなぞ問答を楽しんだのであった。
『ふう、楽しかった』
スフィンクスが満足したのは、さらに2時間を経過した後だった。その間、エヴァリーナは全体力、全エネルギーを肛門括約筋に注ぎ込み、耐えに耐えたのだった。この苦痛にに比べたら子供頃に受けたイジメや今までの冒険での辛い思いなど児戯に等しい。しかし、エヴァリーナは耐えた。耐えきったのだ。最後は「オーホホホ」と悪女のように笑うユウキの幻覚とも戦い、このような事態を招いた乳お化けに対し、怒りのエネルギーを増幅させ、それを全て肛門に集中させた。その苦難ももうじき終わる。早く排泄したい。エヴァリーナの頭の中はどこで排泄できるのか、そのことでいっぱいだった。
だが、時既に遅し…。
『ありがとう皆さん。さあ、この洞窟を抜けると先に行けます。気を付けて』
「ラーメラさん。私たちも楽しかったわ。みんな貴女のような魔獣なら平和なのにね」
『うふふふ~、私も楽しかったです』
スフィンクスのラーメラに別れを告げた一行はエドモンズ三世を先頭に、新たな階層に向けて進み始めた。
『皆の衆、先に進むぞ』
「了解、さあ進みましょう」
「おー!!」
全員気勢を上げて洞窟に向かい始めたが、1人だけ俯いたまま立ち尽くしている。気づいたマーガレットが声をかけるが、エヴァリーナは微動だにしない。レオンハルトが戻り、気になったスフィンクスのラーメラもエヴァリーナの許にやってきた。
「どうしたんだ、行こうぜ」
「……………」
『大丈夫? 何だか体調が悪いみたいですね』
「……………」
呼び掛けに全く反応しないエヴァリーナに、レオンハルトとラーメラは顔を見合わせた。心配したメンバー全員集まって来る。
「さあ、行こうぜ」
「…あ」
レオンハルトがエヴァリーナの背を軽く押した。押されたエヴァリーナはつんのめると、口から小さな声を漏らした。と同時に尻付近から凄まじい排泄音と共に水様状の異臭物が大量に飛び出てきて、パンツを突き破って飛び散り、周囲を黄土色に染め上げた。
その瞬間、その場にいた全員の時が止まった…。




