表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

435/620

第424話 真祖ジル・ド・レ

「たぁああありゃーっ! パワースラッシュ!」


 ユウキはジル・ド・レに素早く接近し、ゲイボルグの高速薙ぎ払いを放ったが、胴体を捕らえたと思った瞬間、ジル・ド・レは多数の蝙蝠に変化して飛び散り、ゲイボルグに虚空を斬らせる。


「く、くそっ…、また…」

『ハハハハ! 見目麗しい女性が「クソ」とか「股」とか言ってはいけませんよ。品位を下げるだけです』


 少し離れた場所に蝙蝠が集まり、ジル・ド・レが姿を現す。もう何度も同じ事を繰り返し、ユウキの疲労だけが積み重なっていった。


(何て厄介な相手なの。魔法で攻撃しても、斬りつけようとしても蝙蝠になって躱される。ゲイボルグさえ当たってくれればダメージは入るはずだけど、どうやったら捕らえられるの? 流石のわたしも打つ手がないよ)


 ギリっと歯を食いしばり、ジル・ド・レを睨みつけるユウキ。余裕しゃくしゃくな顔が非常に憎たらしい。


『どうしたのです? もうお終いですか。なら、今度は私の番です』


 ジル・ド・レは背中から蝙蝠の羽を広げると上空に飛び上がり、両手を伸ばして頭の上合わせると高速回転し始め、ユウキめがけて突っ込んできた。


『バンパイア・スピン・クラーッシュ!』

「わああ! なになにーっ!」


 ユウキはばたばたと慌ててジル・ド・レの回転突っ込みから間一髪回避したが、岩や頑丈な墓石を粉砕して飛び去ったバンパイア・スピン・クラッシュの威力にゾッとする。


「凄い突っ込み速度に威力…。あんなの喰らったら木っ端微塵こになっちゃうよ」

『ハハハハ! まだまだこんなモノではありませんよ』

『バンパイア・ガトリング・ファイヤー・アタック! そーれフェスティバール!』


 上空のジル・ド・レがマントを大きく広げると同時に、無数の拳大の火の玉が降り注いできた。ユウキはゲイボルグの先に暗黒防壁を展開して防御するが、火の玉の軌道は乱雑で定まっておらず、防壁の範囲からも襲ってくる。まさに火の玉のお祭り状態にユウキはたまらず走って射程から逃れた。


「はあはあはあ…っ。逃げていても埒が明かない。いずれじり貧になっちゃう。どうしたら…、そうだ!」


 ジル・ド・レは勝ち誇った顔で上空からユウキに近づくと、今度は両手に魔力の槍を形成した。ユウキは悟られないように自身の足元とゲイボルグ全体に魔力を巡らせ、相手が攻撃して来るのを待つ。


(ジルが魔法を放った一瞬を狙う。蝙蝠になって逃げる隙を与えず攻撃するにはこれしかない)


『美しいお嬢さん、これで終りです。大丈夫、死ぬ前に私が血を吸って眷属に、永遠の命を与えますので、安心して貫かれてください』

「どこが安心できるのよ。貫かれるのも血を吸われるのも、どっちもお断りだよ」


『ハハハハ! その強がりもお終いです。バンパイア・ブラッドスピアー!』

「今だ!」


 ジル・ド・レが魔力の槍を放った瞬間、ユウキは足元に展開していた転移魔法を発動させた。ユウキのいた場所に魔力の槍が着弾して弾けるが、既にユウキはいない。ジル・ド・レは何事が起きたのかと驚き戸惑った僅かな時間。それが命取りになった。


「ジル、どこを見ている!」

『何ッ!』


 瞬時に背後に現れたユウキはジル・ド・レが振り向くより早く、魔力を込め、攻撃威力を増幅させたゲイボルグを首筋目がけて横に薙いだ!

 ゲイボルグの一撃はジル・ド・レの首を刎ね、ユウキはそのまま空中で1回転すると地面に着地した。続いてジル・ド・レの胴体が落ち、続いて首が落ちて2、3度バウンドしてユウキの足元に転がった。


「はあ、はあ…、やった…」


 大きく息を吐いて、ジル・ド・レの首を見ると目がギロリと動いてユウキの目と合った。


「うわっ!」


 驚いたユウキは後方に飛び退った。ジル・ド・レはにたぁ~っと笑うと胴体が立ち上がり、パンパンと服についた土を払い落とすと、首を拾い上げ、切断面に合わせて乗せようとするが、上手くいかず、何度もごろりと落ちる。


『おや…、上手く乗りませんねぇ。もしかしてその黒い槍の力ですか? これは時間がかかりそうですねぇ』


「不死身…なの?」

『くくく…、言ったでしょう。吸血鬼バンパイアは不死の王と呼ばれる存在。永遠の命を得た究極のアンデッドと!』


『ですが、今回はここまでです。ユウキさんを私のモノにするのは次回の楽しみと致しましょう。どうやらアズル&イールも屍人も退けられたようです。貴女のお仲間は中々やりますね』

(ヴォルフもミュラーも勝ったんだ。アンジェたちも無事でよかった)


 ジル・ド・レは首を抱えたまま翼を大きく広げた。


「どこに行こうというの!」


『ハハハハハ。私は本来このダンジョンの最下層に住まう、あるじなのです。久しぶりに人間の波動を感じたので様子見に来ただけ。いや、十分に楽しめました。ハハハハ、貴女方が最下層を目指すなら、またお会いできるでしょう』


『私は親切がモットーなのでね、教えてあげます。このダンジョンは21階層からなる。色々な仕掛けが貴女方をお待ちしていますよ。どうぞ、お気をつけて』


『ハーハハハハハッ!』


 ジル・ド・レはバサ、バサッと翼を羽ばたかせると高笑いしながら階層の奥に飛び去って行った。見えなくなるまで見送ったユウキは再び「はう~」と息を吐いた。そこに「おーい」と声がして仲間たちが集まってきた。


「アンジェ、無事でよかった。みんなを守ってくれてありがとう。ポポも怪我はない?」

「なに、私はほとんど何もしなかった。ユウキが召喚した暗黒兵たちがほとんど片づけてくれたからな」

「そうなんだ。ありがとうね、君たち」


 ユウキは暗黒兵に労いの言葉をかけると、冥府に送還した。ユウキとアンジェリカ、ポポがお互いの無事を喜び合っているとミュラーとラピスが近づいて声をかけてきた。


「ユウキちゃん、怪我はなかったか」

「ミュラー、ラピス。そっちも大変な戦いだったみたいだね」

「ああ、ガキの癖にとんでもねぇ強さだった。オレの剣も折られてしまったしな。ラピスが助けてくれなければ危なかった」


 ミュラーはラピスにミスリルソードを返しながら、頭にポンと手を載せた。ラピスは兄の役に立てた事で嬉しそうに笑みを浮かべる。ユウキはマジックポーチから魔法剣を取り出すとミュラーに差し出した。


「ミュラー、これを使って」

「これは…。ユウキちゃんの剣だろ、使うわけにはいかねぇよ」

「でも武器がないでしょ。わたしは大丈夫、アースガルドの遺跡で見つけた振動波コアブレードがあるし、何よりこの魔槍ゲイボルグがある」

「そうか…、では有難く使わせてもらうぜ」


 ミュラーはユウキの手から魔法剣を受け取り、鞘から抜いてみた。白銀に輝く両刃の剣は持つだけで力が湧いてくるような気がする。


「おおーっ! オレの全身にユウキちゃんのLoveが流れ込んでくるぜぇ! 何となくユウキちゃんの匂いが…、香しき体臭が…。うぉ、やべぇ股間が三角山に」

「兄様、キモイ…」

「カルディア帝国の第1皇子はド変態だな。なぜ私らの周りには真面な男がいないのか…」


 ユウキはミュラーにドン引きしつつも、仕方ないなあと可笑しくなった。ふふっと笑みを浮かべるユウキの前に白髪頭で口髭を生やし、顔に大きな刀傷がある偉丈夫が現れた。


『ユウキ、吸血鬼を退けたみたいだな。重畳重畳』

「?? どちら様ですか」


「ユウキ、その方はヴォルフだ」


 アンジェリカがやや困った顔で教えてくれた。ユウキは直ぐには理解出来ず、きょとんとしてしまう。


『はっはっは、驚くのも無理はない。これが吾輩の真の姿。イケメンであろう』


「う、うそだー。ヴォルフは、ヴォルフはこんなイケメンちょい悪系オヤジじゃない! 小悪魔系ロリ巨乳美少女に執着する巨乳好きのドスケベで変態アンデッドジジイのハズ! それに何でデュラハンからちょい悪オヤジにジョブチェンジしてるのよー。理解不能だよ」


『ふふ…、漢には玉袋の数だけ秘密があるのだ』

「1個しかないじゃん!」


『さて…』


 混乱するユウキをさておいて、ヴォルフはラピスの前に進み出て膝を折ってラピスの手を取る。


『ラピス姫。吾輩は貴女の、ロリ巨乳の虜となり申した。吾輩に貴女の剣となる栄誉をお与えください』

「ヤダ、キモイ。あっち行け!」


『はっはっは。ツンデレ属性もお持ちとは、中々に奥が深い。益々好きになりました。ちなみにアソコの穴の奥は浅いのかな、深いのか…ゲハァッ!!』


 ユウキはエロオヤジ的な発言を口にしたヴォルフの後頭部をいきなり蹴り飛ばし、そのまま踏みつけた。突然吹っ飛んだヴォルフにラピスはビックリ、固まった。


「そこまでよ、このエロオヤジ。さあ、おふざけの時間は終り。ジルが言ってた。このダンジョンは21階層まであるって。まだまだ先は長い。心して行こう」


 ユウキは気合を入れて前進の号令をかけた。しかし、ミュラーは股間にテントを張ったままユウキから借りた魔法剣にすりすりしてうっとりし、ラピスは地面にめり込んだヴオルフの頭を木の枝でつんつん突き、貧乳仲間のポポとアンネマリーは女子トークに花を咲かせ、2人の護衛騎士は「属性が、性癖が」と訳の分からない話をしている。誰も指示を聞いていない。呆然と立ち尽くすユウキの肩をポンと叩いたのは、諦めの表情に笑みを浮かべたアンジェリカだった。


「もお! みんな、しっかりしてよ!」


 第5階層にユウキの嘆きの声が響き渡る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ