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第423話 死神兄妹アズル&イール

『ヌォオオオッ! ヴォルフ、推参!』


 ヴォルフはジルの眷属、双子の片割れ死神アズルに吶喊した。馬上から人の身の丈ほどもある巨大なツヴァイヘンダーを片手で振るう膂力はラファールの獅子の二つ名に相応しい。しかし、アズルは死神の大鎌「デス・サイズ」でヴォルフの強烈な一撃を受け止める。


『ほう…、吾輩の初撃を受け止めるとは、貴様、ただの小僧ではないな』

『…………』


 アズルは表情を一切変えず、ツヴァイヘンダーを弾き返すと、頭を抱えたヴォルフの左側の胴体を狙ってデス・サイズを大きく薙いだ。ヴォルフは黒大丸の手綱を引き、力任せに方向転換するとツヴァイヘンダーを突き入れてデス・サイズを弾き返す。


『うぬ、小っこい癖にやるな。だが!』

『…………』


 ヴォルフは一旦距離を取ると、再びアズルに向かって黒大丸を突進させた。デス・サイズを構えるアズルの頭上目がけてツヴァイヘンダーの一撃を見舞った。


重破斬ヘビースラッシュ!』


 アズルは身を屈めてデス・サイズを突き出し、ヴォルフの重い一撃を鎌と柄の付け根で受け止めた。「ガキィイン!」と甲高い金属音とともに火花が飛び散る。しばらくその状態で力比べをするが、パワーファイターのヴォルフに1歩も引かないアズルを見て、ヴォルフは小さい体のどこにそんな力があるのかと驚く。それが油断を生み隙をつくってしまい、力任せに剣を押し離されて体勢を崩してしまった。


『しまった!』

『…デュラハン、馬上の不利を知れ』


 アズルは地面を蹴ってジャンプするとデス・サイズに電撃を纏わせ頭上で高速回転させながらヴォルフ目がけて襲い掛かった。


『ヴォルテクス!』


 高速回転しながら目の前に迫るデス・サイズに体勢を崩したヴォルフは、剣で迎撃することが出来ない。真っ二つにされる寸前、ヴォルフは黒大丸の背を蹴って飛び退いた。デスサイズは目標を失い、回転しながら地面に突き刺さる。アズルはストっと着地すると地面を叩いた衝撃で痺れた手を、表情を変えずグッパッさせ、少し離れた場所に佇むヴォルフを見た。


『…吾輩を黒大丸から降ろすとは、小僧、中々やるな』

『…………』

『むっつりか…このスケベめ。だが、貴様の力に敬意を表し、吾輩も本気にならざるを得まい。常勝無敗のラファールの獅子と呼ばれた吾輩の真の姿、見るがよい』


『デュラハン・フォーム・チェーンジッ!』


 ヴォルフはツヴァイヘンダーを地面に突き刺すと、脇に抱えていた兜を両手に持った。アズルは何をするのかと警戒してヴォルフを見る。ヴォルフはおもむろに兜を首に置いた。その瞬間、兜の奥で赤い目が強く輝き、次いで全身も赤い光に包まれた。光から放たれる強い魔力の圧力に、アズルは腕で顔を庇うような体勢を取り、2歩、3歩と後ずさった。


 やがて赤い光が止み、中から出てきたのは1人の人間体の男性。身長は180~190cm程で、年の頃は50代位。短髪白髪頭でやや痩せ気味の精悍な顔つき。口髭を生やした口元は引き締まり、何より特徴的なのが左の眉上から頬にかけての刀傷で、片目が潰れており、それが返って見る者に迫力を与えている。また、金色のハーフプレートと金属靴で身を包んだ姿は歴戦の戦士を伺わせる。

 戦士は地面に突き刺したツヴァイヘンダーを抜き去ると、2度、3度と振って自身の動きを確かめた。


『…お前は一体何者』

『フフフ…、貴様が今まで戦っていた相手、ヴォルフではないか。これが吾輩の真の姿よ。この姿になったからには容赦せぬ。貴様の命もここまで」

『たかが、アンデッド風情の癖に。死神に勝てると思うのか、バカめ』

『そう思うのなら、かかって来るがいい』

『…………』


 アズルはヴォルフの挑発にギリっと奥歯を噛みしめた。初めて相手の表情が変わった事でヴォルフはニヤリと笑みを浮かべる。怒りに顔を震わせたアズルがデス・サイズを振り上げて、憎たらしい笑みを浮かべる相手目がけて突っ込む。ヴォルフはスウッとツヴァイヘンダーを横にすると、身を低くして構えた。


『死ね! ヴォルテクス!!』


 アズルは再度必殺の回転斬りをヴォルフ目がけて放った。その一撃は確かにヴォルフを捕らえたように見えた。勝ちを確信したアズルはニヤリと笑う。しかし…。


『激流を制するは静水…。吾輩の、勝ちだ』


 どさりと地面に落ちたのはアズルの上半身。ヴォルテクスが命中する寸前、ヴォルフは素早く懐に入り、ツヴァイヘンダーで胴体を薙ぎ払ったのだ。アズルが捕らえたように見えたのはヴォルフの残像だったのだ。


 信じられないといった表情で地面に転がるアズルの上半身を一瞥し、デス・サイズを拾い上げると、


『小僧、これは貰っておくぞ。久方ぶりによき相手であった』

『ふむ…、この姿ならラピスちゃんも吾輩に惚れるかも知れんな。あのロリ巨乳は吾輩のもんじゃーい! ワハハのハハーっと!』


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 一方、もう1人の双子、少女のイールと対峙しているのはミュラー。ラピスは少し離れた場所でミュラーに防御魔法を掛け、援護の体勢を取っている。


「大鎌か…、オマケに女の子。やりにくいな」

「兄様、頑張って!」


「おお! 考えていても始まらねえ、行くぞイールとやら!」

『来い、スケベ顔』


「誰がスケベ顔だ、うらぁ!!」


 イールはミュラーのロングソードの一撃を大鎌ダーク・サイズで易々と防ぐと、剣をぐっと押し返し、胴を狙って横に薙いだ。長柄から繰り出される大鎌の一撃はミュラーの背を巻き込む形で迫る。ラピスの危険を知らせる声が聞こえる。ミュラーはロングソードを自分の背に回した。キィン!と甲高い音がして、鎌の直撃をかろうじて避けたミュラーだったが、衝撃でロングソードが中ほどから折れてしまった。


「マズイッ!」


 好機と見たイールは大鎌をぶんぶん振り回してくる。ミュラーは折れた剣で防御するが、衝撃が物凄く、徐々に剣の耐久度が落ち、ビシ、ビシッとヒビが入る音がしてくる。さらに、大鎌の鋭い先端が鎧で覆われていない部分の服を切裂き、血が滲み出る。


「くそ…、このままじゃ…」

『つまんない。お前、弱すぎ。さっさと決着つけようっと』


 イールは攻撃の手を止め、数歩後ろに下がり、鎌を斜めに持って前傾姿勢を取った。


(ヤベェ、大技を繰り出す気だ)


「兄様が危ない。でも、どうしたら…。そうだ、わたくしの剣!」


 ラピスは帯剣していたミスリルソードを抜いた。そして投げ渡そうとした時にはたと気づいた。ミスリルで作られた武器は魔力伝導率が高いことを。ラピスはありったけの魔力を剣に通し、駆けだした。


『死んじゃえ、デストラクション!』

「兄様、これを!」

「ラピス!」


 イールは魔力を込めた大鎌を振り下ろした。大鎌から放たれた魔力の塊は振り下ろしの速度に乗ってミュラーに向かって飛び、直撃と同時に大きな爆発音を響かせて炸裂した。


「きゃあああーっ! 兄様ぁーっ!」


 ラピスの悲鳴が上がり、イールは勝ち誇った笑みを浮かべる。爆発に伴う土煙が収まると、そこにはラピスから受け取ったミスリルソードを構えるミュラーがいた。また、ミスリルソードはラピスによって直前に込められた氷系魔力によって魔法剣「コールドブレイド」と化しており、氷の魔力によって爆炎からミュラーを守ったのであった。


『小癪な真似を…』

「助かったぜラピス、お前は最高の妹だ! イール、今度はこっちから行くぜ!」』


『妹…?』

「どこ見てやがる、オメェの相手はオレだ!」


 ミュラーはイールとの間合いをダッシュで詰めると、コールドブレイドで袈裟懸けに斬りつけた。魔力によって威力を増したミスリルソードの一撃をイールはかろうじて大鎌で受け止めた。


『く…っ』

「おらぁ!」


 袈裟懸けから斬り上げ、薙ぎ払いと変幻自在に攻撃してくるミュラーに、今度はイールが防戦一方になる。距離を取ってこその長柄武器は懐に入られると弱い。ミュラーは長い冒険者稼業でその事を熟知しており、しかも、我流で得た剣技は決まった形等がなく、非常に読みづらい。このような相手は初めてのイールは表情に焦りが浮かんでくる。イールはミュラーの上段からの攻撃を大鎌で受け止めると、片手をミュラーの胸元に伸ばして、爆発魔法を放った。突然の衝撃にミュラーと当事者たるイールも爆圧で吹っ飛んだ。


『うわぁっ!』

「おわっ!」

「兄様っ!」


 2人は爆圧で地面に叩きつけられたが、ミュラーはハーフプレートが大部分の爆圧を跳ね返し、ダメージは軽微だったため、直ぐに立ち上がった。一方、真面に自分の魔法を受け止めたイールはダメージが深く、大鎌を杖にして片膝状態で喘いでいる。しかし、接近するミュラーに気づくと、ぐぐっと足に力を入れて立ち上がり、大鎌を構えた。


『まだ負けない。負けてない』

「いい覚悟だ。だがもうお終いだ」


『うぁああっ! あっ…』


 イールが大鎌を振りかざすが、バキイィン!と音がして鎌の部分が砕け散り、空ぶって体勢を崩し、再び膝まづいた。突然の出来事に唖然として思考が追いつかないイールをミュラーとラピスが囲む。


「アンタの鎌、わたくしの魔法アイスランスで破壊したわ。降参なさい」

「ラピスのいう通りにしろ。これ以上戦うというなら、斬り捨てる」

『ラピス…、妹…。くっ!』


 イールは大鎌の柄を支えにして立ち上がると、柄の部分を投げ捨て、よろよろと2人から離れた。そしてミュラーとラピスをもう一度見ると、悔しそうな、それでいて悲しそうな複雑な表情を浮かべると、カラスに変化して飛び去ったのだった。


「なんだ、アイツ…」

「さあ…」


「それよりも、これからどうします? 兄様」

「ラピスはアンジェリカたちの様子を見に行ってくれ。オレはユウキちゃんを助けに行く」

「わかったわ。兄様、その剣はそのまま使っていいわよ。じゃ、気を付けて」

「おう、ラピスもな!」


 ミュラーとラピスは仲間を助けるため、それぞれの場所に向かって走り出した。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 屍人に襲われたアンジェリカたちだったが、ユウキが召喚した十数体の暗黒騎士、暗黒大戦士たちによって次々に四肢や胴を斬り裂かれ、首を刎ねられて心臓を貫かれ、残骸を山のように晒していった。それを魔術師の暗黒兵が暗黒魔法による冥界の炎によって焼き尽くして行く。アンジェリカと2人の護衛騎士も暗黒騎士にばかり任せてはいられないと、魔法や剣、槍で屍人を屠っていった。

 やがて、アンジェリカの魔力が切れる頃、数百体はいた屍人の群れはいなくなり、全て焼き尽くされて僅かな灰が残るのみとなった。


「ふう、ユウキの召喚した暗黒兵のお陰で何とか退けられたな。全員無事か、怪我をしたものはいないな」

「ポポ様、ご無事ですか!」


 アンジェリカが周りを見回し、エドワードとレドモンドがポポの無事を確かめる。戦闘を終えた暗黒騎士たちは円陣を組んで、アンジェリカたちを守る体勢を取っている。


「ポポもアンネマリーも大丈夫なのです。精霊さんが復活しました。もう屍人はいないようなのです。皆さん守ってくれてありがとうなのです」


「しかし、凄いですねこの暗黒兵たち。並の騎士や戦士じゃ歯が立たないくらいレベルが高いです。でも、何であの暗黒騎士はイチゴパンツを被っているのでしょうか」


 アンネマリーが不思議そうに暗黒兵を見ていると、「おーい」と声を上げ、息を切らせてラピスが駆け寄ってきたが、手前で石ころに躓いてコケてしまった。コロンと転ぶ様子がとてもカワイイ。


「はあはあはあ…、あっ! 痛たた…」


 コケたラピスを暗黒騎士が抱き起こして立たせ、服についた土をパンパンと払い、擦りむいた膝や手の傷を暗黒魔導士が治癒の魔法で綺麗に治した。いい場面なのだが、ロリ系美少女の面倒を見る暗黒兵といった不思議な絵面に、その場の全員が微妙な気持ちになる。


『皆の者、無事か?』


 そこに、精悍な顔つきをした黒毛の大きな馬を引き連れ、大きな鎌を持った偉丈夫が現れた。突然知らない人物が現れ、声をかけてきたもんだから一同混乱する。しかし、暗黒兵たちは戦闘体勢も取らず、円陣を組んだままだ。敵意はないという事にアンジェリカは安堵し、とりあえず声をかけてみた。


「あの…、どなたですか?」

『なんと、吾輩が分らんか、アンジェリカよ。ラファール国第十三代国王ヴォルフだわい』


「ウソ…、ウソだぁ~。ヴォルフは首無しのデュラハンってアンデッドで、実力はあるけど小悪魔系ロリ巨乳美少女に執着する究極のド変態で、嫁ももらえず、理想のお嫁さんにミルキーちゃんと名付ける童貞をこじらせた、思春期巨乳美少女に執着するエドと並んで「変態の双璧」と呼ばれるオヤジのはずだ! こんなカッコいいオジサンじゃない!!」


『随分と悪し様に言ってくれるわ。自分だってポッと出の田舎娘に想い人を寝取られた癖に。そもそも、小悪魔系ロリ巨乳美少女を嫌いな奴がこの世にいるのか? よいか、いい機会だから教えておこう。ロリ巨乳とは、そこにいるラピスちゃんのように、見た目幼さないのだが胸も尻もむっちりと発育している美少女の事で、「幼い美少女が巨乳である」というアンバランスさが魅力なのだ。あどけない少女なのに巨乳&爆乳。この相反する属性の邂逅が魅力なのだ。これに小悪魔系属性が備われば正に最強。わかった?』


「ヴォルフだ…。間違いない、ヴォルフだ…。これほど澱みなくロリ巨乳を語れる者は世界広しといえど、ヴォルフしかいない。一体どうしたんだ、その姿は…。お前はデュラハンではなかったのか? それと、何で私の寝取られ話を知っているのだ!?」


「最低最悪ね、このオヤジ。誰が小悪魔系ロリ巨乳よ。全く…」

「ラピスはロリ巨乳そのものだと思うのです。何ですか、ポポと同じ背格好で同い年なのに、そのデカイ乳は。ユウキ二世ですか。どこの超乳力者ですか。妬ましいのです」


「あれ程のロリ巨乳に対する熱き想い。そうか…。レドモンド、俺たちに足りないのは性癖だ。性癖を身に着ければモテるのではないか」

「いや、オレは既に気の強い系猫耳娘大好きという性癖を持っているが、全くモテんぞ」


『わははは、相変わらず緊張感がない奴らだ。なに、デュラハンは仮の姿。本来は生前の姿を持って蘇った高位アンデッドなのだ。ウルの奴らに吾輩の実力を利用させないように、あのような姿を借りておったのだ』


『あのアズルという名の小僧は吾輩が倒した。どうやらイールという小娘も退けたようだな。後はジル・ド・レという名の吸血鬼か…。ユウキでも手に余るだろう。手助けにいかねば。暗黒騎士ども、吾輩に着いて参れ。お前たちもだ』


 アンジェリカとポポたちは目を合わせると「はあ…」とため息をついてヴォルフの後に続くのであった。

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