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第419話 第8ダンジョン

 一方、第8ダンジョンに挑んでいるエヴァリーナをリーダーとするパーティは、ダンジョン前で帝国大学のバルトホルト教授と合流すると、ダンジョン内に足を踏み入れた。第8ダンジョンは10階層まで踏破されていることもあり、複数の冒険者パーティが11階層目指して探索を行っているため、魔物による妨害も僅かであり、順調に階層を攻略して行った。そして、11階層へ続く通路を発見した一行は、現在は通路途中の広くなった場所に設けられた冒険者の休憩所で休んでいる所であった。


「こんな所にこんな施設があるなんて…。凄いですわ」

「ギルドとしても、冒険者に攻略してもらいたいからな。ダンジョンは未知のお宝に満ち溢れている。何かひとつでも古代の秘宝が見つかれば、国にとって有益な物になるのは間違いないからな」


 休憩所のオープンテラスに設けられた食事処で、めいめいに注文した食事と飲み物を食べながら、エヴァリーナが感心していると、レオンハルトが説明してくれた。改めてみると休憩所といっても木造2階建ての大きな施設で、中は打ち合わせができるロビーや会議室のほか、食堂や売店もある。2階は宿泊用の部屋となっていて、地上に上がらず長期間ダンジョン攻略ができるようになってる。ただし、特殊な立地のせいか料金は高めに設定されていた。


「さて、ここからは何が出るか楽しみね。今までとは桁違いに強い魔物が出るという話だし、腕が鳴るわね」

「エヴァリーナ様、ここからはどういう並び順で行きます?」

「そうですわね…。レオンハルトさん、案がありますか」


「ここはオーソドックスに行こう。前衛はオレ、マーガレット様、エドモンズさんだ。中衛にエヴァリーナさんとリューリィ君。2人の護衛にルゥルゥ。後衛はラサラス姫と護衛のシンと教授だ。シンは後方の警戒もしてもらう。こんなところだろう」


『フフ…、儂の気配探知ある限り、魔物から先制されることはまず無いて。任せとけ』

「ここまで来て分かったけど、エドモンズさんの魔法は強力だし索敵も優秀だわ。ワイトキング…、死霊の王と呼ばれるだけはある。敵にしたくは無いわね」


『儂の背骨をバックブリーカーでへし折ったマーガレットに言われたくは無いのう』

「アンタは一体何をやらかしたんだよ…」


 ワイトキングと普通に話すマーガレットとレオンハルトだったが、ルゥルゥとラサラスは微妙な顔をして距離を取っている。何せ会った早々「ワイト・サーチ」とやらでスリーサイズから恥ずかしい思い出、秘密の性癖まで公衆の面前で全部ばらされたのだ。しばらくは恥ずかしくて顔を上げられなかった。特にルゥルゥはリューリィへの恋心まで知られてしまい、ぐすぐすと泣き出してしまった。見た目に反して純情乙女のルゥルゥにリューリイは優しく接してくれたので、直ぐに機嫌は治ったのだったが。


 そんな中、バルトホルト教授はアンデッドが珍しいのか色々とエドモンズ三世に質問してはしきりに頷いてはメモを取っていた。いつの間にか2人は意気投合し、肩を組んではワハハと高笑いしては、マーガレットに静かにするよう怒られるのであった。


 温かい食事で疲れを癒した一行は、再び11階層に向かう通路を歩き始めた。エドモンズ三世はワイトキングであることを隠すため、いつもの目の部分だけが開いている面をかぶっている。燕尾服にシルクハットと変な白い面の姿は何だか微妙に変で、ツボに入ったエヴァリーナはいつまでも笑いが止まらない。

 やっと笑いを抑えて周りを見ると、エヴァリーナたちだけでなく、いくつかのパーティの姿も見える。未知の世界に向かうのは自分たちだけではない…それだけで心強く思えるのだった。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「ここが11階層…」

「すげぇ…」


 エヴァリーナたちは11階層に足を踏み入れた。そこに広がっていたのは地球で言えば古代メソポタミア文明のようなレンガ造りの都市。南北に伸びる大通りを中心として東西に何本もの通りが伸びて、ブロックに分けられた土地に住宅や商店等が整然と並んでいる。大通りの奥には大きな神殿か宮殿らしい建物がかすかに見えるが、距離があって判別出来ない。そして当然人影はない。


「ふむ…。これは興味深いですな。古代文明の初期の頃…、1万数千年位前の都市構造に似ています。このレンガも焼きではなく、日干しレンガのようです。帝国のアムリタ川近辺で発見されたランカという古代遺跡に似てるような気がします」


 バルトホルト教授が感心したように説明してくれた。一行はとりあえず大通りの向こうに見える大きな建物を目指して進むことにした。


『気を付けるのじゃ。このフロアには強い魔物の波動がいくつも感じられるぞ』

「周囲の警戒を怠るな。油断したら死ぬことになる」

「そうね…。気を引き締めていきましょう」


 エヴァリーナたちはエドモンズ三世を先頭に、その少し後をレオンハルトとマーガレットが左右に分かれて大通りの真ん中付近を進む。レオンハルトの武器は新品の大型の斧「バルディッシュ」。マーガレットは愛用の中型剣「グラディウス」を手にしている。魔術師2人を守るルゥルゥは大きな胸を守る鉄のハーフプレートにプリーツスカートの上にスケイルを巻いたものと革製のハーフブーツ。防御の魔法石が埋め込まれたベルトにロングソードを帯剣している。ラサラスはコンポジット・ボウ、護衛のシンはショートスピアで武装している。


 大通りを進み始めて数百mは魔物の襲撃もなかったが、人の気配がない静まり返った街は不気味で、かえって恐ろしさを倍増させているような気がする。エヴァリーナがそんな事を考えていると、エドモンズ三世がさっと腕を横に伸ばして全員を止めた。


「どうなさったのですか?」

『魔物じゃ。儂らを囲むように移動しながら接近している』


「早速のお出ましね」

「全員近くの建物に走れ!」


 レオンハルトの指示で全員近くの住宅に走った。扉を開けてラサラスと教授、護衛にシンとルゥルゥを入れて内側から鍵をかけさせた。その建物を背にエヴァリーナたちは迎撃態勢を取る。

 やがて、ズシンズシンと足音が聞こえ、建物と建物の間の路地からヌッと現れ出たのは緑色の肌をした全高3mにも及ぶ醜い姿をした怪物だった。


「ゴブリンキングだ。強敵だぞ」

「こっちはゴブリンチャンピオンです! 数は1、2…5体!」

「ホブゴブリンもいるわ、数は20以上!」


「くくっ、こいつはヤベェな…」

「ホントね。ワクワクしちゃう。地下闘技場時代を思い出すわ」


(この2人おかしいです…)


 強大な敵を前にして絶体絶命のピンチなハズ。エヴァリーナもリューリィも緊張して武器を構えているのに、レオンハルトとマーガレットは笑みさえ浮かべている。建物の窓からガタガタ震えて覗き見ているラサラスには信じられなかった。


「シンさん、裏口に閂をしてきたよ」

「ありがとうルゥルゥさん。あとは裏口に続く戸にバリケードを作りましょう。手伝ってください。ラサラス様は弓で表の人たちの支援を!」

「は、はい…っ」


 シンとルゥルゥ、教授は室内のテーブルや椅子を使ってバリケードを作り始めた。ラサラスはごくんと唾を飲み込むと、窓を少し開けて弓を構えた。


 ゴブリンキングはニタァーッと笑うと、巨大な偃月刀を持った腕を振り上げた。それを合図にホブゴブリンの群れが突っ込んで来る。また、その後ろから咆哮を上げてチャンピオンが続いて襲ってきた。


「ファイアストーム!」

「ウィンド・ボルテッカー!」


 突っ込むホブゴブリンの群れにリューリィとエヴァリーナが魔法の先制を加えた。たちまち数体のホブゴブリンが巻き込まれ、悲鳴を上げて倒れるが、魔物たちの突進は止まらない。再度2人は魔法を放つ。今度はホブゴブリンだけでなくチャンピオンも巻き込まれ、炎に包まれ絶叫し、強烈な風と電撃でばらばらに吹っ飛ぶ。しかし、生き残ったゴブリンたちは目の前まで迫ってきた。


「うりゃあ!」


 レオンハルトは接近したホブゴブリンをバルディッシュの一撃で切裂き、返す刃でもう一体の胴を両断した。それを見て怯んだホブゴブリンにバルディッシュを叩きつけ、首を吹き飛ばす。


「やるわね。私も負けてられないわ」


 マーガレットに戦斧を叩きつけようとしたホブゴブリンの頭を左手で抑えて動きを止め、グラディウスを心臓目がけて深々と突き刺す。ホブゴブリンは何が起こったのか理解できずに血を吐いて斃れた。仲間を殺した女の背目がけて別のホブゴブリンが戦斧を叩きつけようとしたが、マーガレットは強烈な後ろ蹴りをお見舞いした。腹部への打撃で息が詰まってくの字に体を折り曲げたホブゴブリンに回し蹴りを浴びせて地面に倒すと、足で頸骨を叩き折って息の根を止める。


「さすが金色の死神の異名を持つマーガレット様…。ハッキリ言って怖いです」

「エヴァリーナ様、危ない、避けて!」


 マーガレットの戦いぶりを見ていて油断したエヴァリーナにゴブリンチャンピオンが迫ってきた。リューリイの叫びにハッとして振り向いたエヴァリーナの目と太い棍棒を大きく振り上げてニタッと笑うチャンピオンの目が合った。


「きゃあああっ!」

「エヴァリーナ様!」


 太い棍棒が叩きつけられる寸前、リューリィが飛び込んでエヴァリーナを抱えて地面を転がった。エヴァリーナがいなくなった事で、棍棒は空振りし、通りのレンガを破壊した。チャンピオンはギロリと睨むと再び棍棒を振り上げた。万事休す、2人がそう思ったとき、チャンピオンの首筋に1本の矢が突き刺さった。悲鳴を上げて後退するゴブリンチャンピオン。その隙をリューリィは見逃さなかった。


「今だ! ファイアランスッ!」


 素早く立ち上がって魔術師の杖をチャンピオンの柔らかい下腹に当てると炎の槍を連続で打ち込む。何本もの炎の槍が腹を貫き、焼き焦がした。致命傷を負ったゴブリンチャンピオンはどうと音を立てて仰向けに倒れた。リューリィは矢が飛んできた方向を見ると、ラサラスが震えながらも弓を構えていた。リューリィはグッと親指を立ててよくやったと示すと、ラサラスはへなへなと座り込んだのだった。


 ホブゴブリンとゴブリンチャンピオンは数を減らしながらも、いまだ戦意は衰えない。しかし、レオンハルトとマーガレットを中心とした迎撃戦の展開により、ゴブリンたちを圧倒し始めた。この様子に業を煮やしたゴブリンキングも戦闘に加わるべく動き出したが、その前にエドモンズ三世が立ちはだかった。


『お主の相手はこの儂じゃ』

『ハァッ、タカガ骸骨フゼイガオレ様ノ相手ダト。笑ワセテクレル。叩キ潰シテヤルワ!』


『御託の多い奴じゃのう。死ね、バイオ・クラッシュ!』

『グブッ…ナ、ナンジャコリャアアアッ!』


 内臓の細胞が崩壊し、口から血を吐いて地面に膝を着いたゴブリンキング。ブルブルと腹を抑えながら倒れ伏し、何が起こったのか理解する間もなく絶命した。


「いやはや、何ともお強いですな」

「魔物も残り数体。何とか無事に終わりそうです」

「お姫様、大丈夫?」


 外の様子を伺っていた教授とシンは、レオンハルトたちの活躍で魔物を撃退できそうだと安堵する。ルゥルゥに支えられて立ち上がったラサラスもホッとするが、外から何者かが侵入しようとしている音に気づいた。


「み、皆さん、裏口から何かが侵入しようとしています」

「なんだと、みんな静かに!」


 シンとルゥルゥも耳を澄ますと、確かに音がする。


「別動隊がいたか…。小癪な奴らめ。全員戦闘準備!」


 シンが叫ぶと同時に、裏口が破壊される大きな音がして、複数の足音が建物内に入って来る音が聞こえた。足音はラサラスたちがいる部屋の前まで来ると、ガンガンと戸を叩いて壊し始めた。シンとルゥルゥはバリケードの側に寄って武器を構える。ラサラスも勇気を振り絞り、コンポジット・ボウに矢を番えた。


 バッカーンと音がしてついに戸が破られ、舞い上がる埃とともに、ホブゴブリンがなだれ込んできた。しかし、バリケードのお陰で足止めに成功する。バリケードを駆け上ろうとしたホブゴブリンにシンはショートスピアの一撃をお見舞いするとそのゴブリンは悲鳴を上げてバリケードを転がり落ちた。続いて這い上がろうとするゴブリンはルゥルゥの上段からの振り下ろし斬りを受けて倒れ伏す。その後ろにいたホブゴブリンはラサラスの放った矢に眉間を打ち抜かれて仰向けに倒れた。


「よし! このままバリケードを盾にして防戦するんだ。時間を稼げ、そのうち外の魔物を排除した仲間が来る。それまで耐えるんだ!」


 シンの激に戦意を高めたルゥルゥとラサラスは、斃れた仲間をものともせず迫りくるホブゴブリンを切裂き、矢で貫いていくのであった。一方、窓辺から外を見ていた教授は、パイプに火を着け、ふーっと紫煙を吐き出すと、ボソッと独りごちた。


「足を踏み入れた途端これでは…。前途多難ですな。だが、別な視点で考えれば、何かを守るためとも考えられる。きっと、古代魔法文明に関する何かがあるに違いない。何とか最深部まで行ければいいのだが…」


 外ではレオンハルトとマーガレット、エドモンズ三世がゴブリンたちを全て倒し、裏口側に駆けて行くのが見えた。さらにエヴァリーナとリューリィは玄関を開け中に入ったのか、攻撃魔法を放つ声が聞こえてきた。

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