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第418話 未知の世界へ

 「ここが第9ダンジョンの入口か…」


 アルムダートを出発して半日。ユウキたちは第9ダンジョンに到着した。乗ってきた馬車は荷物を下ろすと帰途に就き、ユウキたちだけが残される。周りを見回しても人気は全くない。ここは誰も足を踏み入れることのない未踏破のダンジョンなのだ。


「ユウキ、これからどうするの?」


 ラピスが行動予定を尋ねてきた。ユウキは少し考えて、ダンジョン入り口の管理小屋を指さした。


「もう夕方だし、今日はあの管理小屋で休もう。鍵は預かっているし、作戦を立てて十分に準備してから臨もうと思う」

「賛成だ。準備はしすぎる事はないぜ」


 ミュラーの賛同にユウキは頷く。管理小屋は木造2階建てで1階は事務室と小さな台所とトイレがあり、2階は休憩部屋が2部屋の構造になっていた。部屋を男女別に分けてそれぞれ荷物を運び込む。その後、台所で簡単な夕食を作り、事務室の机を片付け、食堂代わりにして車座になって食べた。食後にお茶を飲みながら、ダンジョン探索の方針を話し合う事にした。


「このダンジョンに足を踏み入れたパーティのほとんどは帰ってこなかったって。恐らく強力な魔物や罠があるに違いないと思う。慎重に進む必要があるの」


「エドがいないのが不安だな」

 アンジェリカが不安を漏らす。


「でも、わたしたちにはポポがいる。精霊と交信できるポポの力は探索の強力な味方だよ。頼んだよポポ。探索系少女の力、期待してるからね」

「仕方ないのです。でも、久しぶりにするユウキやアンジェとの冒険はワクワクなのです。あと、ポポは探索系ではなく、精霊族なのです」


「前衛はミュラーと騎士さんの3人にお願い。中衛はアンジェとラピス。ラピスは状況に応じて前衛もお願いね。後衛はわたしとポポ。あと、そうだね、ラファールの変態にも手伝ってもらうか…」


「ユウキ、何? ラファールの変態って」

「そういえば、俺も知らねぇな。なんだそれ」

「兄様も知らないんだ? 教えてよユウキ」


 ラピスとミュラーが興味津々といった感じで聞いてくる。正体を知ってるアンジェリカは下を向いて声を殺して笑っている。ポポとエドワード、レドモンドは興味なさそうにお茶を飲んでいて、ラピスは益々知りたくなる。


「えーとね、ラファールで王家の墓ってところのアンデッド退治をしたときに出会ったやつでね、今から300年前のラファール国王だったと言ってた。それが、デュラハンとして蘇っていてね。浄化したはずだったんだけど、いつの間にか復活して勝手に仲間になってたというか…」


「デュラハン! 凄い魔物じゃない。よくそんなの仲間にできたね」

「だから、勝手に仲間になったんだって…」


「まあ、どんな奴かは明日会わせるよ。ただ、エロモン並みにド変態だからね。変態力はそこにいるラピスのお兄さん並に凄いよ」

「ユウキちゃん。いくら何でも変態呼ばわりはひでぇぜ」

「ヒマワリ亭でおっぱいを連呼して腰を振りまくって暴れた癖に…。ド変態じゃん」


「最低。ミュラー兄様…」

「やめろラピス! そんな目で見ないでくれ。たのむ、そんな目で見るなあ!」


「これがカルディア帝国の第1皇子…。あの国の行く末が不安になるな…」

「アンジェのその感想は正しいよ。全く…」


 ラピスに背中を指でうりうりされながら頭を抱えるミュラーを見て、ため息をつくユウキとアンジェリカだった。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 翌日、準備を整えたユウキたちはダンジョンの入口に整列していた。ユウキはダスティンの形見のハーフプレートを装備している。金属製のショルダーパッドに大きな胸を守る真紅に輝く金属製の胸当て。その真ん中には赤い魔法石が埋め込まれ、防御力を高めている。腰回りには皮のベルトが2本クロスして巻かれマジックポーチと魔法剣、ミスリルダガーを装備し、プリーツスカートの上半分に下半身の防御を担う魔法石を埋め込んだスケイルが巻かるれている。膝下までのブーツは胸のプレートと同じ素材の金属でできているが、通気性にも配慮されている優れものだ。髪の毛には大きな赤いリボンを着けた。黒い髪に赤が映えて、とても可愛い。あまりの可愛らしさにミュラーは見とれてしまっていた。


「皆さんにご紹介します」


 ユウキが1人の女性を呼び寄せ、全員の前に立たせた。女性は年の頃20代中盤位のメガネをかけた知的な美人だった。


「帝国大学歴史分析学科のアンネマリー講師です。古代文明に詳しく、今回の探索の助言者として同行してくれます」


「アンネマリーです。よろしく」


 1歩前に出て礼をしたアンネマリーの腰のベルトに付けられたマスコットにユウキは気が付いた。


(あはっ、今日も付けてる。ん…、あれ? 今日は熊さんじゃない。狐さんだ。色々好きなのかな。あはは、カワイイね)


 アンネマリーの挨拶が終わったのを見て出発の号令をするが、アンジェリカが手を上げ、待ったをかけた。


「では、第9ダンジョンの探索に向かいます。みんな準備は大丈夫だね」

「ユウキ、ヴォルフがまだだ」

「おっと、そうだった」


 アンジェリカに指摘され、ヴォルフを呼び出していないことに気づいたユウキは、黒真珠にそっと触れて魔力を通した。黒真珠から闇の霧が巻きあがり、中から黒い鎧を纏った巨大な首なし馬に跨った、首無しの騎士が現れた。騎士は左手で手綱を持ち、右腕で兜をかぶった首を抱えている。その威容は正に武闘型アンデッドに相応しい堂々としたものだった。


「こ、これがデュラハンか…。初めて見たぜ」

「デュラハンなんて、おとぎ話の想像の魔物とばかり思ってた。本当に実在したんだ…。エドモンズさんとはまた違った迫力があるね」


『ファーーハハハッ! 生きとし生ける者どもよ、我が姿に畏怖せよ。吾輩はラファール国第13代国王ヴォルフ! 常勝無敗の「ラファールの獅子」とは吾輩の事よ。ぬうっ!』


 高笑いしながら登場したヴォルフは、キラキラした目で見つめるラピスの姿に気づくと、馬(黒大丸)から降り、ガシャンガシャンと鎧が擦れ合う金属音を鳴らしながらラピスに近づいた。


「ひぃっ…、な、なに…」

『…………』

「ひい…、な、何なのよ」

「てめぇ! ラピスに何の用だ。妹に手出ししたらブチ殺すぞ!」


 ミュラーがヴォルフとラピスの間に入って庇う姿勢を取ったが、ヴォルフはぐいと左手でミュラーを脇に除けると、首を持った右手をラピスの目の前に突き出した。兜の奥に妖しく赤く輝く目に、気が強くて負けん気のラピスも恐怖し、涙目になる。


『ハハ…、ワーハハハハハ! ファーハハハハハッ! 見つけた、ついに見つけたぞ。我が嫁を!ロリ成分の入った小悪魔系の顔をした美少女。背は小さく、しかも巨乳! 探し求めていた「ロリ巨乳美少女」をついに見つけたのだぁ! このロリッ子巨乳美少女を前にしてはユウキもアンジェリカもただ乳がデカイだけの雌牛同然、ましてそこのまな板娘など論外』


「このド変態、わたしを雌牛と言い切りやがった」

「エドやメイメイとは別の性癖ベクトルを持ったヤツだよなー」

「まな板ってポポの事ですか?」

「他に誰がいるのさ」

「ユウキは不敬罪で死刑なのです」

「なんでよ!」


『ロリ巨乳美少女よ。貴殿の名を聞きたい』

「ラ、ラピス…よ」

『フォオオオーウ! 何と、何とカワユイ名なのだ。聖蒼石ラピスラズリ由来の名であろう。貴殿によく似合っておる。決めた! 吾輩はラピス殿に結婚を申し込む!』


「はあ!? 何で」

「お、おい…。ユウキちゃん、これはどういうことだ」

「ゴメンねミュラー。ヴォルフは生前結婚できなくて、死んでも死にきれずアンデッドになった変態なの。しかも好みは小悪魔系ロリ巨乳美少女一択のド変態」

「なんじゃそりゃ…」


『さあ、我が手を取るがよい。花嫁よ…』


 ヴォルフは空中に首を浮かべると、恭しくかしずいて右手を差し出す。ラピスは帯剣していた愛用のミスリルソードを鞘から抜くと、フルスイングでヴォルフの首を打ち飛ばした! パコーンといい音がして遠くに飛んでいくヴォルフの首。一瞬、何が起こったか理解できず時が止まったように硬直したヴォルフだったが、首がないのに気付くと慌てて探しに行くのだった。主人のピンチにヴォルフの愛馬「黒大丸」は…膝を折って休んでいて動こうとする気配はない。あまり信頼関係はないようだ。


『うわぉう! 首が、首がぁ~』

「誰がアンタなんかと結婚するもんですか! バーカ、べーっだ!」


 ヴォルフとラピスのやり取りを見ていたミュラーがユウキに話しかけた。


「ユウキちゃん、聞いていいか」

「どうぞ」

「デュラハンって、冥界の騎士と呼ばれて、死の執行官と呼ばれるアンデッドの中でも上位のやつだろ」

「そうみたいだね」

「アイツ、どう見てもお笑い芸人にしか見えないな。大丈夫なのか」

「さあ…」


『首、首はどこだ…』

「ほら、ここだ」


 四つん這いになって首を探していたヴォルフ(本体)に首を差し出したアンジェリカ。本体は立ち上がって首を受け取ると右腕で抱え、腰を曲げて礼をした。


「礼はいいよ。ねえヴォルフ、お前は死者でラピスは生者。どう考えても結婚は無理だと思うぞ」

『だが吾輩は、嫁を貰いたい一心で蘇った。その根底が崩されると、存在意義が無くなる』

「そうは言っても無理なものは無理だ」

『しかし…』


「なあ、結婚は無理でも友人にならなれるのではないか? ダンジョン探索の任務にラファールの獅子と呼ばれた時のように活躍してみたらどうだ。ラピスを守るんだ。ユウキを守るエドやアース君のように。ラピスだけじゃない、ユウキも守ってほしい。今回の任務ではエドがいないんだ。顔には出さないが、ユウキは相当不安に思っているはず。私たちに力を貸してくれ。任務を成功に導けばラピスだって認めてくれると思うぞ、いや、ユウキや私だって…」


『…………アンジェリカと申したな。お前の言っていることは正しい。どうも、理想が具現化したような美少女が現れたものだから、年甲斐もなく少々舞い上がってしまったようだ。そうだな…まずは目先の事を片づけるとするか。色恋沙汰はその後だ』


「ありがとうヴォルフ。私の意見を聞いてくれて」

『いいって事よ。さあ、ロリ巨乳ラピスちゃんにイイとこ見せるぞぉ~!!』


「あの…、私の話、本当に理解してる?」

『モチのロン!』


『さあ行くぞ。アンジェリカ、ついて参れ!』

「ああ…(本当に大丈夫かな?)」


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 ヴォルフとアンネマリーが加わったことでユウキは隊列を変更した。前衛にヴォルフとエドワード、レドモンドの護衛騎士。中衛にラピスとミュラー、その後ろにポポとアンネマリー、最後尾にユウキとアンジェリカが並んだ。多少気になる点は魔術師が水系しかいないということ。ユウキは暗黒魔法が使えるが、バランスが悪い気がする。しかし、何とかなるだろう。そう思い直していよいよ未知なるダンジョンに挑む。


 入口を塞いでいる頑丈な金属扉の鍵を開けた。目指すは最深部。邪龍の起動システムを発見あるいは手がかりを発見することが目的だ。  

 全員中に入ったのを確認して扉を閉め、鍵をかける。ダンジョンの内部は真っ暗で一寸先は闇に包まれた。ポポが光の精霊に呼びかけて周囲を明るく照らすとレンガ状の壁材で造られた通路がずっと先まで続いているのが見える。ユウキは大きく深呼吸をして号令をかけた。


「第9ダンジョン探索隊、出発!」

「おおーっ!」


 鬼が出るか蛇が出るか、いよいよユウキは自分と自分の大切な人たちを守るための戦いに身を投じるのだった。

ここからは、各パーティーの探索行程の話が交互に続きます。次々現れる強敵とのバトルに次ぐバトル。ダンジョン最下層に待ち受けるものは一体何か。ユウキと仲間たちの活躍をお楽しみに。

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