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第414話 ボールスとの再会

 襲撃者たちを撃退した後、無事に助け出されたユウキたちは、転覆した馬車を戻し、確保した襲撃者たちを3号車に押し込んで出発し、アルムダート市に到着したのは日も暮れた頃だった。一行はそのまま警備隊本部に向かい、襲撃者の引き渡しと事情聴取を受け、開放されたのは日付も変わった深夜だった。盗賊の襲撃に何の役にも立たなかったユウキだったが疲労感は半端なく、見れば全員疲れた顔をしていたので、真っ直ぐ帝国が準備してくれた宿舎に向かい、適当に部屋割りすると、各自部屋のベットに倒れこんでぐっすりと眠ってしまったのだった。


翌日…

 昼近くになって起き出したユウキは、同室のアンジェリカを起こすと、一緒に宿舎の大浴場に向かい、昼風呂に入ってスッキリした。風呂から上がった2人はそのまま、食堂に入ると全員揃って朝食兼昼食を摂っていた。見ればポポたちも来てお茶を飲みながら雑談している。どうやら自己紹介は終わったようだ。


「ユウキは相変わらず寝坊助なのです。何ですかそのだらしない顔と乳は…。そんなだからお嫁の貰い手がいないのです」

「初っ端から容赦ないトーク。はは、懐かしいな。おはようポポ、来てくれてありがとう。レグルス君も」


 アンジェリカと並んで空いていた席に座ると、ミウが直ぐに食事を運んできてくれた。ユウキは「いただきます」と言って食べ始める。すると、マーガレットが今日の予定はどうするのか聞いてきた。


「わたし、食事が終わったら冒険者ギルドアルムダート支部に行って、支部長さんに会ってくる。アンジェとエヴァも一緒に来て。後のみんなは自由行動にしていいよ。お酒飲みに行きたい人は「ひまわり亭」がおススメだよ。あとミュラーは女学生のナンパは禁止だからね!」


「しねえよ! だが久しぶりに酒はいいな。レオンハルト、一緒に行かねえか」

「昼間っから酒かよ。でもまあ、オレも用事はねえし、付き合うか」

「我々も同伴していいか。ビフレストの地酒は美味いって聞いて楽しみにしてたんだ」

「おう、いいぜ!」


 ミュラーとレオンハルト、レグルスに従って来ている騎士2人は一緒にひまわり亭目指して出かけて行った。


「うふふ、私は宿舎併設のジムで筋トレするわね。ここ2,3日筋トレしていないから訛っちゃって。盗賊の襲撃でも暴れられなかったしね」


 と言って、マーガレットは食堂を出て行った。ルゥルゥは椅子から立ち上がるとリューリィに、


「リューリィ君、あたし武器と防具を買いたいんだ。一緒に武器店に付き合ってくれない?」

「いいですよ。一緒に行きましょう」

「ありがとう(やたっ! リューリィ君とデートだ)」

「ルゥルゥは装備が欲しいの? なら、経費からお金を渡すよ」

「いいの? ユウキさん」

「ユウキでいいよ。もちろんだよ。ルゥルゥやみんなには頑張ってもらいたいしね」


 ユウキはルゥルゥに金貨5枚を渡した。ルゥルゥは嬉しそうにお金を受け取ると、リューリィの手を引っ張っていそいそと出て行った。


「ユウキ、私とサラはウルのお姫様方とカストルたちを連れて、必要物資を買い出しに行くことにする。全員の装備も必要だしな。経費は国から渡されているので大丈夫だ」

「そう、気を付けて行ってね。街中で学生相手に因縁付けて乱闘してはだめだよ。特にサラは」

「しないわよ! 人を何だと思ってるの。もう…」


 ラインハルトとサラはラサラスたちを連れて食堂から出ていくと、残りはポポとレグルスだけになった。


「一応聞くけど、ポポはどうするの」

「ポポはレグルスと街に串焼きを食べに行って来るのです。いい男がいたらアンジェに教えますね」

「ありがとう。ここでそのネタを引っ張ってくるとは思わなかったよ」


 ポポとレグルスは仲良く手を繋いで街中に出て行った。2人の背後でメイドのアンナが悔しそうにハンカチを嚙みながら着いて行く。何となくアンナの気持ちがわかるユウキであった。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「ここがアムルダート支部だよ。ビフレストで2番目に大きいんだって」


「冒険者ギルドに入るときのドキドキ感って好きですわ」

「ああ、心躍る感じがいいよな。何か起こりそうで」

「わたしの場合は、大概碌でもない事ばかりなんだけどな」


 入口の戸を開けて入ると、管理ダンジョン目当ての冒険者がたくさんいて、飲食スペースで騒いだり、パーティメンバーを勧誘したり、掲示板の依頼票を奪い合ったり騒然としていた。この騒がしい雰囲気にユウキはプリムたちとバーティを組んで冒険したことが懐かしく思い出されるのであった。

 ユウキは冒険者たちをかき分け、受付カウンターに向かうと受付嬢に支部長ボールスに面会したいと告げた。受付嬢は訝しげにユウキの顔を見ていたが、以前ここのギルドに来ていた冒険者だったと思い出すと、ニコッと笑って少し待つように言った。


 ユウキが以前、ここのギルドを拠点としてアルムダート中高等学園の生徒とパーティを組んでダンジョン探索をした話をアンジェリカとエヴァリーナに聞かせていると、先ほどの受付嬢が戻ってきて、3階の支部長室に行くように伝えてきた。


 3階の支部長室に到着したユウキは、入口の扉をノックした。直ぐに中から「入れ」と声がしたので、戸を開けて中に入る。


「お久しぶりです、ボールスさん」

「ユウキ…、本当にユウキだったんだな。わはははは! 元気だったか」


 ボールスは笑いながらユウキの傍まで来ると、バンバンと背中を叩いた。


「痛い、痛いよボールスさん。力入りすぎ」

「わははは、懐かしくてつい…な。許せ。ところで、そちらのお嬢さん方は?」

「うん、2人はわたしのとーっても大切な親友で冒険者仲間なの」


「初めまして、エヴァリーナです」

「アンジェリカと言います。よろしく」

「俺はここの支部長をしているボールスだ。よろしくなお嬢さん方。立っているのも何だ、座れよ」


 3人は勧められたソファに並んで座ると、ボールス自らお茶を淹れてくれた。そして対面に座ると、ユウキの前に1枚の紙を置いた。


「これは…?」

「うむ、話の前にこれだけは報告しておこうと思ってな。ユウキから依頼されたエリス島の孤児院への金貨の運搬の達成証だ」

「わあ、ありがとうございます。シスターたち元気かな」


「元気だそうだ。でな、依頼を請け負わせたヤツ、子供らに懐かれてそのまま孤児院に居ついてしまったよ。おまけに道中拾ったエルフの女の子を嫁にしたらしい」

「何だかよくわかりませんね。どうしてそうなったんです?」

「さあな…。詳しいことは俺も分からん。さて、この話はこれで終わりだ。お前がここに来たということは何か訳アリなんだろ」


「はい、実は…」


 まず、ユウキが簡単に概要を話し、エヴァリーナがウルの野望と邪龍復活に動いていること、それに対する帝国の対応、古代遺跡で発見された遺物の解析内容等について説明した。その上で、ビフレストのダンジョンを調査させて欲しく、アルムダートを訪れた事情も話し、2通の封書をボールスに差し出した。


「これは?」

「1通は帝国宰相府からの依頼、もう1通は帝都の冒険者ギルド「荒鷲」マスターからの協力要請ですわ」


 封書を読んだボールスは難しい顔をして考え込み、ややあって顔を上げると、


「にわかには信じられん話だな…。疑っている訳ではないが、邪龍とはおとぎ話の話であって、実在すると言われてもなあ。しかも、それを使って世界征服などと…。子供向けの三文冒険小説じゃあるまいし…」

「信じてはくれませんか?」


「信じる…とは言い切れないかもしれんが、ユウキたちは噓をついてるとも思えん。また、この文書も本物だ。だからダンジョン探索の協力はしよう。それに、ビフレスト冒険者ギルドはユウキに大きな借りがあるからな。俺の裁量で出来ることは何でもするぞ」

「ありがとうございます、ボールスさん!」


「ははは、じゃあ、改めてダンジョンの説明をしよう」


 ボールスは席を立ち、自分の机から1枚の筒状に丸めた紙を取ってきて、ソファ前のテーブルに広げた。


「ビフレスト国内にはかなり多くの古代遺跡が点在していて、面積当たりの密度は世界一と言われている。その中でもダンジョンと呼ばれる迷宮には古代の秘宝が納められている事から、国が所有し、冒険者ギルドが指定管理者となって管理した上で、冒険者によって探索が行われている。ここまではいいか?」


「はい」


「その中でもアルムダート市周辺はダンジョンが集中していて、その数は10個ある」

「あれ? 前にわたしが聞いた時は9個だったような…」


「最近、新たなダンジョンが見つかったのだ」

「そうなんだ」


「そのダンジョンだが、規模も様々で深く強力な魔物が出るため未踏破のものもあれば、ゴブリンやコボルトといった弱い魔物が単体でしか出てこない低難易度のものもある。ユウキが学生たちと潜ったダンジョンはこれだな」


「現在、アルムダート冒険者ギルド管理のダンジョンで未踏破のものは3つ。こことここ、それにこれだ」


 ボールスが指示棒を使って、紙に記載されたダンジョンの位置を指し示した。いずれもアルムダート市から離れた場所にある。


「ここ第8ダンジョンは11階層までは冒険者が探索しているが、ひとつひとつの階層が広い上に奥が深く、今だ最終階層到達に至っていない。強力な伝説級の魔物の目撃情報もあって、進めてないといった方が正しい」


「この第9ダンジョンは、初っ端の1階層目からミノタウロスやらゴブリンキングやらが現れるなど、難易度が非常に高い。パーティごと全滅した例も多々ある。未だに1階層すら踏破されていない高難易度ダンジョンだ。余りに危険なんで、現在は立ち入り禁止にしている」


「怖いですわね」


「最近発見された第10ダンジョンは、第1階層に入った段階ではそれほど強力な魔物の出現は無かったという情報だ。ただ、下に降りる階段に特殊な結界が張られているらしくてな。階段に降りようとすると、元に戻されるんだそうだ。解除方法はまだ見つかっていない」


「入れないんじゃ、調べようがないな」

「だね…。どうしたらいいんだろ」


「未確認情報だが、魔物が結界をすり抜けて階下に降りたのを見た冒険者がいる。試しに自分も行こうとしたが戻されてしまったそうだ。ここに何かしらのヒントがありそうだが、今のところ未解明だ」


「以上が未踏破ダンジョンの状況だ。ただ、最深部まで踏破済みの第3から第7までのダンジョンも、時折未発見の通路や分岐階層が見つかったりするので、中々にダンジョンは奥が深いんだ」


「なるほど…。ボールスさん、それでお願いなんですけど…」

「分かっている。ダンジョンへ入る許可は出そう。ただし、無理はしないこと。それと、未踏破階層の情報は全てギルドに上げることが条件だ」


「ありがとうございます。早速準備して近日中にダンジョンに向かいます」

「気をつけてな。任務の成功を祈っているぞ。あと困ったことがあればいつでも言ってくれ。出来る限りの協力はしよう」


「すみません」

「なに、俺はお前が気に入ってるんだ。頑張れよ」


「はい!」


 ユウキはボールスとしっかりと握手をし、エヴァリーナとアンジェリカを伴って支部長室を出た。目指すは3つの未踏破ダンジョン。ユウキの頭の中はどのように攻略するか、メンバーの組み合わせはどうするか、そのことで一杯だった。

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