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第411話 強襲! リア充撲滅委員会!

 ここはシュロス・アードラー市内の国立カルディア総合学園の中等部。3年生のクラスの中で2人並んで仲良く授業を受けているのはポポとレグルス。初老の先生が黒板に書き込んだ数式を生徒に解かせている。


「んん…? レグルス、ここがわからないのです」

「これはね、ここをこうすればいいんだよ」

「わあ、さすがです。レグルス大好き!」

「えへへ…」


 授業中というのにラブラブバカップルぶりを見せる2人に、周囲の男子生徒から「チッ」という舌打ちが複数送られるが、愛の世界にどっぷり浸っている2人には全く聞こえない。また、先生も呆れて注意すらしない。転校してきて間もないというのに「中等部のバカップル」との異名までつけられたポポとレグルスだった。しかし、その幸せは唐突に引き裂かれる。


 ドガラガッシャーン!!


 突然、教室の戸が吹き飛ぶように開き、壁にぶつかった衝撃でガラスが粉砕された。先生や教室の生徒たちはビックリして悲鳴を上げ、入口を見た。廊下から中に入って来たのは、どこかの国家社会主義国の親衛隊と見まごうような、黒のネクタイを締めた白いワイシャツの上に黒のスーツを着用し、黒のタイトスカートに黒のストッキングと黒革のブーツを穿き、黒の制帽を被った女子。


「静まれ! 我々は非モテ女子同盟リア充撲滅委員会特別監察部所属巨乳悩殺隊だ!」


 金髪の女がつかつかと教室内に入り、手に持った鞭をバシーンと黒板に叩きつけた。その迫力に生徒たちはビクッと身を竦め、女子生徒は怯えて涙目になる。その音を合図に赤い髪の同じ制服を着た女が一歩教室に入り、カチンと踵を鳴らして姿勢を正し、右手を斜め前に上げた。教室内はシンと静まり返り、「ごくり」と生徒の唾を飲み込む音が聞こえる。最後に入ってきたのは黒い制服に身を包んだ黒い髪の超絶美女。コツコツと黒のハイヒールを鳴らしながらお尻をふりふり、お色気たっぷりに歩いて教壇の前に立つと、ゆっくりと教室内を睥睨する。


「ここね…。同志たちよ、かかりなさい」

「ハッ!」


(ポポちゃん、あれ…)

(間違いない。ユウキとアンジェなのです。あのバカたち何しに来たのですか。知り合いとバレないようにしないとです)


 アンジェリカはクリスタを引き連れて、ゆっくりと机の間を歩き、生徒の顔を確認していく。直ぐに最後列の方に身を寄り添って、身バレしないように机に伏せているポポを見つけた。


「指導者同志。目標のリア充を発見いたしました!」

「確保せよ」


「ハッ! 同志クリスタ。この憎むべきリア充を捕らえよ」

Jaヤー!」


 2人の監察隊員はポポとレグルスが座る机に向かうと、強引にポポを立たせて両脇から腕を抑えた。


「何をするのです! 離して!」

「ポポちゃん! ポポちゃんを離せ!」


「対象を確保。くっ、この幸せそうな顔。許すまじ」


「連行せよ」

 指導者ユウキが2人に命令する。


 同志アンジェリカとクリスタはポポを両脇から抱えたまま、ことさら足音を高くして指導者の元に向かう。その途中で、アンジェリカは隣の席の男子に抱きついて怯える女子生徒を発見した。


「貴様…、貴様もリア充だな!」

「ひっ、違います」

「女が好きでも無い男に抱きつくものか。指導者同志の沙汰を仰がねばならん!」


「同志アンジェリカ。今は放っておけ…。我々の任務を果たす方が先だ。その女の顔は覚えた。後日、改めて制裁を加えることとする」

「はっ…。指導者同志の寛大なお心遣い。このアンジェリカ、感服いたしました。同志クリスタも分かったな」

「はい、同志アンジェリカ」


 アンジェリカとクリスタはポポを連れて廊下に出た。指導者ユウキも後に続く。教室を出る際、生徒たちに向かって、


「リア充はこの世から排除すべき存在。覚えておきなさい。ウフフフ…」


 と言い残して去っていった。僅か数分の出来事だったが、生徒たちにはとても長く感じられた。愛する人を連れ去られ、呆然としていたレグルスは「ハッ」として、バタバタと教室から出て後を追った。


「待って、待ってくださいユウキさん!」

「貴様、何故その名を…」


 黒髪の指導者同志が振り向いてレグルスを見た。同志アンジェリカとクリスタも、ポポを抱えたまま、レグルスに向いた。


「その名をって…。バレバレですよ。何してるんですか。ポポちゃんを返してください」

「ポポを返して…か。答えは「ノー」だ。レグルス君」

「何故ですか! 理由を教えてください」

「理由…理由か…。そんなの決まっている」


「第1に、わたしたちを差し置いてラブラブバカップルになりおった。同志アンジェリカ!」


「裏切者には死を!!」

「なんでやねん! なのです」


「第2に、これが本題なのだけど、わたしたちはある任務でダンジョン探索にいかねばならない。そのためにはポポの探査能力が絶対に必要なのだよ。レグルス君」

「そんな…。でも、ポポちゃんはもう僕のお嫁さんで…」

「ふむ…、まだ納得できないようね。同志クリスタ!」


「はっ! 同志レグルス、これを見なさい」


 クリスタはポポをアンジェリカに預けると、胸のポケットから1枚の紙を取り出して、レグルスの目の前で広げて見せた。


 それは、ラファール国の正式公文書で、ユウキたちに助力を求められた場合、最優先で協力するよう書かれていた。


「わかったわね。ぼ・う・や♡」


 ユウキは鞭でレグルスの顎をなぞる。その顔は完全に悪女そのもの。


「さあ、同志たちよ。自分だけ幸せになろうとした裏切者を連行せよ! 徹底的にこき使ってやるのだ。我々にリア充は不要!」

「ジーク・ユウキ!」


 同志アンジェリカとクリスタがカツンと踵を鳴らして姿勢を正し、斜め前に手を上げて指導者同志を称える。レグルスはそれでも食い下がってくる。


「待って、待ってください!」

「なんだ、まだ何かあるの? こんなペタン子女よりお姉さんの巨乳がいいのかしら」

「違います!」

「あっそ」

「ポポちゃんをユウキさんに協力させるのは承諾します。その代わり条件があります」


「貴様…レグルス。指導者同志に条件をつけるなど1億万年早いわ」

「まあまあ、落ち着きなさい同志アンジェリカ。条件とやらを聞きましょう」


「はい。ポポちゃんの護衛として、僕の護衛騎士2名を同行させます。あとアンナも」

「え…、騎士さんはいいけど、アンナはちょっと…」

「この条件を飲めなければ、ポポちゃんは返してもらいます」

「わ、わかった。その条件、飲みましょう」


 レグルスはポポの傍まで行くと、両手で優しくポポの頬を挟んだ。3名の監察隊員の心に嫉妬の炎が燃え上がる。


「ポポちゃん、仕方ないよ。どうも世の中大変なことになりそうだ。成すべきことを成すのも貴族の務め。協力してあげよう。ポポちゃんのために最高の護衛騎士とメイドを同行させるよ。それにボクも行く。ダンジョンには入れないけど、近くの町までは一緒に行くよ。それならいいだろ」

「はい…なのです。レグルス、出来るだけ一緒にいてくださいね…。あと、アンナはいりません」

「愛してるよ、ポポ」

「わたしも。愛してます、レグルス」


「チッ…。何が愛してますだよ。むかっ腹立つわー」(ユウキ)

「私が愛した人に言われたのは「失せろ、目障りだ」だぞ。なんだ、この差は」(アンジェ)

「愛してる…か。お父さんとお母さんだけよ。あたしに言ってくれたのは」(クリスタ)


「ユウキとアンジェはホント、ダメ女なのです。何ですか、その恰好は。どこの親衛隊員ですか。だから男が逃げるのです。ポポがしっかりと面倒を見てあげます。感謝するのです」


 いつもの生意気な口調でユウキとアンジェリカに毒舌を吐くポポに、イラっと来るユウキとアンジェリカだったが、何だかこれが懐かしく、ちょっと安堵するのであった。だが、監察部隊としての役目は全うせねばならない。


「同志、このクソ生意気なリア充をさっさと連行しなさい!」

「ヤヴォール、ヘア ユウキ!」


 廊下で繰り広げられた騒動に、授業にならないとあちこちの教室から生徒や先生が廊下に出て、がやがやと騒いでいる。ユウキは鞭をピシっと鳴らし、胸を張って見事な巨乳を強調させて廊下を歩き始めた。制服の下からでも激しく自己主張する巨乳に、先生や男子生徒が歓声を上げた。後ろに続くはこれまた巨乳のアンジェリカとクリスタ。2人に捕まっているポポは、さながらどこかの秘密警察に捕らえられた宇宙人のよう。巨乳を見せびらかす女たちにポポの顔は屈辱で真っ赤になっている。


 そこに、ドドドッと鬼の形相でひとりの女性が廊下を走って来た。その女性は背中から「ハリセン」を取り出すと、いきなりユウキとアンジェリカ、クリスタの顔にバシンバシンと叩きつけた! 3人は余りの痛さに目がちかちかして、顔を抑えて廊下を転がった。


「いったーい! 何すんのよエヴァ!」(ユウキ)

「痛たたた…。ろ、廊下は走っちゃいけないんだゾ」(アンジェ)

「目が、目がぁ!」(クリスタ)


「だまらっしゃい! 何をしてるんです貴女たちは! 何ですかその恰好は、バカですか、バカですよね、全く。ポポさんの力が必要だから連れてくるって言って出て行ったきり、戻ってこないから様子を見に来てみれば…。ごめんなさいね、ポポさん。私はエヴァリーナと申します。一応このバカ共の友人です。今日はもういいですから、明日9時までにこのメモにかいた場所に来てください。申し訳ないですけどお手伝いをお願いしますわ」


「ユウキさん、アンジェリカさんとクリスタさんにはお話があります。さあ、着いていらっしゃい。あと、壊した扉は弁償ですからね」


「へーい。すんませんでしたー」(ユウキ)

「ユウキから聞いた話と違うな。全然お淑やかじゃない」(アンジェ)

「激しく同意」(クリスタ)


「何かおっしゃいまして!」

『いいえ、何でもありません! 同志エヴァリーナ!!』


 全く反省も懲りてもいないユウキたちであった。

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