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第405話 新たな戦いへ

 魔族の国ラファールで様々な事件とドラマ、人間模様に翻弄されたユウキとアンジェリカ。今、世界の平和を揺るがす大きな事件が起ころうとしている。フォルトゥーナから事の内容を聞いたユウキは驚くとともに、エヴァリーナの任務が、そんな危険なものだったとは知らず、直ぐには信じられなかった。ヴィルヘルムが言うにはエヴァリーナが帰還したことで、少人数で隠密裏に事を運ぶことが難しくなり、どうしてもユウキの手を借りたい。ついては至急帝都に戻るよう、フォルトゥーナに命じたとの事だった。


 その話を聞いた時、ユウキはロディニアの魔物戦争の悲劇と自分の行いを思い出し、もう絶対にそのような事に関わりたくないと固辞し、そういう話なら帝国には行かないと答えた。また、エドモンズ三世もアンジェリカもユウキの考えを尊重してくれた。しかし、もし、ウルが邪龍を復活させたら全世界を巻き込んだ大戦争に発展する可能性があり、多くの人々が巻き込まれ、どれほどの被害が出るか想像もつかない。文明自体崩壊するかも知れないと説得され、邪龍復活を阻止するため、力を貸してほしいと懇願された。


「何故、それほどまでわたしに手を貸せと…。実力ある優秀な人材なら帝国に、いやヴェルト三国やスバルーバル、ラファールにだって、いくらでもいると思いますけど」

「…一つは、この任務は引き続きエヴァが担うから。ユウキちゃんにはエヴァを助けてほしい。もう一つは…」


「もう一つは…?」

「ユウキちゃんの…、暗黒の魔女の力が必要だから…」

「!! 今なんて…」

「暗黒の魔女の力を貸してほしいの…」


 エドモンズ三世から、自分の正体は既に知られてた事は聞いていたが、改めて言われるとショックが大きい。俯いて黙り込んだユウキの肩をエドモンズ三世とアンジェリカがそっと支える。フォルトゥーナはボロボロ涙を流すとユウキに縋りついた。


「ゴメン、ゴメンね。ユウキちゃん。でも、邪龍復活を止めるためにはユウキちゃんに縋るしかないの。ユウキちゃんがロディニアで言葉には言い表せないほどの辛く悲しい思いをした事は、レオンハルト君やエドモンズさんから聞いているわ。それは、私たちの心の奥にしまって、ユウキちゃんにはこの世界を自由に生きて、恋をして幸せになってもらいたい。ヴィルヘルムもエヴァリーナもイレーネも私も、皇帝陛下もマーガレットも皆そう思ってた。うう…うぐっ…」


「でも…、でもね。事態はそうは許してくれなかったの。ゴメンねユウキちゃん。ユウキちゃんを傷つけるようなことを言って。事が終われば私を殺してくれてもいい。だから、お願い、私たちに力を貸して。ここだから言うけど、ウルも世界征服のため、暗黒の魔女を探してる。邪龍と魔女で世界を掌握しようとしているの…。う…、ぐす…っ」


「…………」


「ウルはまだ魔女の正体をつかんでない。私たちは絶対につかませないよう手を打ってる。ユウキちゃんはウルに手を貸すような子じゃないと知っている。お願いユウキちゃん。世界を守るため、人々の幸せを守るため、力を…、力を貸してちょうだい。お願い…、お願いよ…。お願いします…」


『随分、勝手な言い草じゃの』


『ユウキの気持ちを一片も考えておらん。儂はこのようなことをさせるためにユウキの秘密を話したのではないぞ。ユウキを見守ってほしいと願ったからじゃ』


「…分かってます。ぐすっ…。これは私たちのワガママ。ユウキちゃんなら分かってくれるって、勝手に思ったワガママだってことくらい…」


『儂は…、儂はユウキを戦場に送り出すようなことはさせたくない。そのような事に関わりを持たせたくもない。もし…、もしユウキを悲しませるような事をしてみろ、邪龍なぞにさせるまでもない、儂がこの世界を滅ぼしてやる…』


「エド、落ち着いて…。冷静になろう…、ね」


 アンジェリカは暗黒のオーラを滾らせ、フォルトゥーナを睨むエドモンズ三世に落ち着くよう、優しく語りかける。フォルトゥーナはユウキから離れると、涙でぐしょぐしょになった目を手で拭い、立ち上がった。


「…ぐす。わかりました…。ゴメンねユウキちゃん。イヤな事を言って…許して下さい。もう何も言わないわ。今の話は忘れてくれると嬉しい…」


 部屋の出口で立ち止まったフォルトゥーナは、ユウキたちに背中を向けたまま、小さな声で、


「よい…旅を続けてね…」


 と言って出て行こうとした。その悲し気な背中を見たユウキは、しっかりと顔を上げて立ち上がり、大きな声でフォルトゥーナを呼び止めた。


「待って!」

「待って、フォルティ! わたし、力を貸すよ」


「え、ホントに…?」


『ユウキ!』

「ユウキ…。バカだな…ホントに」


「うん。信じられないかもだけど、わたし、エリス様と邂逅したことがあるんだ。その時、エリス様は言ったの。世界の変革を導くものとして、わたしは存在すると。異世界日本からこの世界イシュトアールに来たのは偶然だけど、わたしが来た意味はきっとあると」


「確かにロディニアではわたしは幸せの意味を見つけられなかった。裏切られ、迫害され、大切な親友を殺された挙句、暗黒の力を開放し、魔女となって何万という多くの人を殺し、人々の生活の場である街を破壊した。そして王国の敵となった」


「結局、親同然、家族同然の人たちはわたしを守るため、王国軍との戦いの中で死に、親友たちもわたしと敵対して剣を向けてきた。ただ1人、わたしについてくれた友人もわたしを守るため、傷ついてしまった…」


「何とか生き延びたわたしは、この大陸に来て生きる意味を見つけられた。美しい自然、優しく楽しい人たち、新たな友と出会って、一緒に旅してバカをして、怖い目にもエロい目にも遭ったけど、とても充実してると思ってる。ほんと、今がとても幸せ…」


 ユウキはちらとアンジェリカを見、今は帝国にいるというエヴァリーナを想う。


「ユウキ…」

 アンジェリカが感動したようにユウキを見る。


「わたしは、夜空の星々になった人々に誓った…。自分の幸せを支えてくれる大切な人、自分を大切にしてくれる人を守る。自分の命に賭けて必ず守ると…。そうだよね、ゴメンねフォルティ。さっきは自分の気持ちに反したことを言ってしまった。わたし、協力させてもらうよ。わたしの大好きなこの大陸の国や人々を守るため。とっても大好きな親友と、ヴィルヘルム家の人々の幸せのため。そして、家族同然のエロモンやアース君、アルフィーネとずっと一緒に旅するために…」


「モチロン、自分のためでもあるからね。カッコいい男性見つけて、結婚するっていう目標もあるんだから」

「ユウキちゃん…、あり、ありがとう~。ありがとうね~」


 フォルトゥーナは感極まって、ユウキに縋りつくと大声で泣き出した。優しくフォルトゥーナを抱き締めてよしよしするユウキを見て、エドモンズ三世は「やれやれ」ポーズをとり、アンジェリカはその背中をポンと叩いて笑顔を見せた。


『こうなりゃ儂も最後まで付き合うとするかの』

「うふふ~、最初からそのつもりだったくせに~。ところでユウキ、異世界日本って何だ? 初めて聞くが…」

「おおっと、口が滑っちゃいましたかぁ。実はね…」


 異世界転移という想像外の話を聞いてアンジェリカとフォルトゥーナは、ただただ驚くのであった。


(男の子だったことは秘密だよ)

(分かっておるわ)


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「以上がカストル君とアルヘナちゃんたちを紹介された後のお話でした」

「ユウキは誰に言ってるんだ」


 ユウキは帝国に向かうため、ラファール国が用意してくれた馬車が来るのを、アルビレオ市郊外の街道沿いで待っていた。迎えに来たフォルトゥーナを始め、帯同するのはカストルとアルヘナの兄妹、ルツミとクリスタの留学組、ポポとレグルスのラブラブカップル。また、事前顔合わせも兼ねてエドモンズ三世とアルフィーネも出し、挨拶させた(アース君は大きすぎて待機)。4人は従魔持ちと言うこともあり、打ち解けるにはさほど時間を要さず、ユウキを安心させた。


「ところで、アンタらは何でここにいるのよ?」


 ユウキの見つめる先にいたのはラインハルト王子とサラのぽんこつペア。


「なに、聞けば世界の危機と言うではないか。なれば私の力をユウキに貸そうと思ってな、国王ちちうえに話してお許しをいただいたのだ。渋い顔をされていたのが気になったが、きっと、最愛の息子の事が心配なのだろうな」


(迷惑かけなきゃいいがと思われたのよ。このボケナス王子!)


「サラは王子の副官ですから。どこまでもお供します」

「そうっすか。まあ、サラの戦闘力には期待するよ…。よろしくね」


「あと、そこのお前! なんなのよ、どうしてここにいるのよ。なに、さりげなく現れて違和感なく混ざって談笑しちゃってるのよ!」


 ユウキはエドモンズ三世やアルフィーネと楽しそうに談笑していた奴を怒鳴りつけた。その様子にフォルトゥーナはワクワク顔で見つめ、アンジェリカは「あれっ?」という顔をし、カストルとアルヘナたちは遠巻きに見ながらびくびくしている。ユウキたちの前に現れた者とは…。


『ん、吾輩を呼んだか』

「呼んだか? じゃねーよ、変態ヴォルフ!」(ユウキ)

「あれ? ヴォルフだ。自然に会話してたから、全く気づかなかった」(アンジェリカ)


『常勝無敗のラファールの獅子と呼ばれたナイスガイに向かって変態とは。エドモンズ殿、貴殿のお仲間は口が悪いな。やはりただの巨乳はその程度よ。やはり「ロリ」成分が含まれんとな』

『ワーハハハハ! 許せ許せ。ユウキはお淑やかとは無縁の女なのでな。しかし、お主の揺ぎ無き信念。儂は嫌いではないぞ。だが儂は思春期&巨乳美少女こそ最高と思うとる』


 エドモンズ三世やアルフィーネと一緒にいたのは、首なし馬に跨ったアンデッド、「デュラハン」のヴォルフだった。こっそりとユウキたちの目の前に現れ、いつの間にかちゃっかり仲間の一員として振舞っている。


「アンタ、わたしの浄化魔法で成仏したんじゃ無かったの!?」


『フフフ…、あの程度の浄化魔法なぞ我には効かぬ』

「その割には「イヤァアアアア」って悲鳴を上げてたようだったけど」


『ウッ…、ゴホン。まあ何だ、ユウキたちはこれから戦いに赴こうと言うのだろう。だから吾輩の力を貸そうと思ってな。こうして復活してやったのだ。有難く思え』

「有難迷惑って知ってる?」


『それに、吾輩にはカワイイ嫁を貰うという目標がある。ロリ巨乳のミルキーちゃんをわが手にするまでは死ねぬ!!』

「アンタもう死んでるじゃない」


「ロリ巨乳だって…、聞いたお兄ちゃん。あのお化けサイテー」(アルヘナ)

「ユウキさんの知り合いって、マトモじゃないのばっかりだね」(カストル)

「最悪な性癖だわ。でも、アルヘナちゃんはロリ貧乳だから大丈夫だね」(クリスタ)

「同志だ…」(ルツミ)


『と、言うわけでシクヨロ』


「はああ~。もう、何が何だか…」

「あははは、楽しくなりそうだな」

「アンジェは能天気でいいね…」


「ユウキちゃんはホント、お友達をつくるのが上手よね~。人外の」

「全然褒めてないよフォルティ…」


 大きなため息をついたユウキは空を見上げた。冬晴れの空はどこまでも青く透き通っていた。ユウキは「パン!」と両手で自分の頬を叩き、気合を入れた。これからどんな出来事が自分を待っているのだろうか。フォルトゥーナの話を聞いた今、自分に何ができるだろうかと不安になる。そんな事を考えているとポンと肩を叩かれた。振り向くとアンジェリカやフォルトゥーナが優しく笑いかけている。ユウキは2人の笑顔を見ると元気が湧いてきて、頑張れそうと思うのであった。



『ワーッハハハハ! 良いかエドモンズ殿、ロリ巨乳とは、見た目儚げな幼さなのだが胸も尻もむっちりと発育している美少女を指すのだ。「幼い美少女が巨乳である」というアンバランスさが魅力なのだ。あどけない少女なのに巨乳&爆乳。この相反する属性の邂逅が魅力なのだ!』


『その揺らぎ無き信念。同時期に生きた者同士が感じるシンパシー。最高じゃ。だがヴォルフ王、儂は10代後半の思春期真っ盛りな超絶巨乳美少女こそ至高と思うとる。貧乳もそれはそれで良いが、ワガママボディの巨乳ちゃんには敵わん!』


『アルフィーネはこの2人を軽蔑します。最低ですよ、このエロアンデッドーズは』


「せっかく、いい雰囲気で纏めたのに…。このエロスケども…」

 ユウキはこめかみを指で押さえながら、ため息をついて、もう一度空を見上げて呟いた。


「曇ってるよ…」

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