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第404話 地上へ

「ほ、ほんとか! ウソだったら容赦しねえぞ、このポンコツ野郎!」

『まっ! この史上最高のスーパーコンピューターに向かってポンコツとは言ってくれますね。このロリコンのドスケベさんはっ』


「お、俺はロリコンじゃねぇ! たぶん…、いや、きっと」


『いやいや、あなたの心拍数、血圧はその狐耳ちゃんを見て触れた時が最高値を叩きだしてます。これは彼女に気があるということ。よって、私の計算では100%ロリコンであると結論付けられました。どや!』


「どや! じゃねえよ!」

「ミュラーもアルテナのこと好きなんだ…。よかった…えへ」

「お、おい…アルテナ、変に頬染めるなよ」


「ミュラー、アルテナ姫を大事にしてくださいね。ユウキさんには私からちゃんと言っておきます」

「エヴァ! てめぇ…絶対に止めろよな!」


「おい、話が進まねぇぞ。お前ら黙ってろ。ったく…。ルナ、地上に行く方法を教えてくれ。オレたちは何が何でも戻らなきゃならねえんだ。頼む」


 レオンハルトがルナに懇願する。ルナはじいっとレオンハルトやエヴァリーナを見つめている。壁の向こうの本体の駆動音が高くなった。きっと、どう判断すべきか計算しているのかも知れない。やがて駆動音が落ち着き、ルナがニコッと笑顔を見せ、壁の一部を指さした。全員が示された壁を見ると、カチッと音を立てて、一部がせり出してきた。


『あの中に「転移の指輪」が入ってる。それをあなた方に差し上げるわ』

「転移の…指輪?」


『ええ。装備者は任意の場所に転移することができる。ただし、込められている魔力量の関係上、5回だけという制限はあるけどね』

『これなら地上に出られるわよ』


「転移の指輪…」


 エヴァリーナは金色に光る指輪を取り出して、しげしげと眺めてみる。内側に細かい文字が刻み込まれているが、何の変哲もないような指輪に見える。試しに右の人差し指に着けてみた。指輪は大きくぶかぶかだったが、パッと一瞬光ると指にピッタリと嵌った。


「わあ、ビックリしました。不思議な指輪ですわね。本当に頂いてもよろしいのですか?」

『いいわよ。どうせ私には使えないし、元々非常時脱出用に用意された物だもの』


「ありがとう、ルナさん。これで地上に戻れます」

『よかったわね』


 エヴァリーナは全員を自分の周りに集め、手を握り合って輪になった。転移先を思い浮かべる。思念が指輪に通じ、魔力の高まりが感じられる。


(うん、行けそうです。まず転移する先はあそこ…。でも…)


 転移を発動する直前、ふっと目線を動かした。そこには笑顔を浮かべ、ポツンと佇むルナ。本体は大きな機械であり、見えているのは擬人化した映像と分かっていても、寂しげな感じがして、放ってはおく事ができない。エヴァリーナには何もできないと分かってはいても…。エヴァリーナは一旦輪から離れた。


「お、おいエヴァ、どうしたんだよ」

「すみません、皆さん。少しだけ時間を下さい」

「エヴァリーナさん」


 エヴァリーナはルナの映像に近寄り、真っ直ぐ顔を見て話しかけた。


「ルナさん。私たちは地上に戻ります。もう二度ここに来ることはないでしょう」

『そうでしょうね…』


「私たちが去ったら、あなたはどうするのです?」

『…可笑しな事を聞くのね。私はここで記憶を守り続ける。それが使命だから』

「誰も、もう利用しないのに?」

『…それでも私は……』


「ルナ、私と一緒に来ませんか?」

『…………』


『無理ね。私には移動する術がない。見たでしょ、私の本体。総重量数百トンにもなる機械の塊だよ。それにね、この姿もホログラム装置によって映し出された、ただの映像なの。気持ちは有難いけど、気を使わなくていいわ』


「そう、ですか…」

『うふふ、優しいんだね。エヴァリーナって』

『さあ、みんな待ってるよ。行って』


 ルナは優しく笑いかけた。エヴァリーナは心がキュッと痛くなったが、ルナを連れ出す手段がないのも事実。諦める、諦めたくないと、2つの気持ちがせめぎ合い、いつの間にか涙が零れ落ちる。


『ありがとう、私を気にしてくれて。私は17997年ぶりに人と話せて嬉しかった。エヴァリーナ、あなたの任務、成功するよう祈ってるよ。ふふ、機械が祈るって、変だね』

「ルナ…」


『さあ、行って』

「はい…。ありがとうルナ。色々と教えて下さって。この御恩は一生忘れませんわ」

『…うん、私もだよ』


 エヴァリーナはみんなの許に戻ると、再び手を繋いで輪になった。チラとルナを見ると手を振って別れを告げている。エヴァリーナは目でサヨナラを返すと、転移先を思い浮かべて思念を指輪に通した。指輪から膨大な魔力が溢れる感じと共に、足元に魔法陣が展開され、眩しい光とともにエヴァリーナたちは一瞬で消えた。


『行っちゃった…か…』


 ルナの呟きが部屋の中に寂しく響く。間もなく、ブロック構造になっている本体から「バチン…」と音がして、一つまた一つと電源が落ちていく。併せて部屋の中を照らしていた照明も消え始めた。


『原子力電池の寿命が来たようね。発電期間15000年の設計に対して、よく18000年も持ったものだわ。でも、彼女たちが来たことで僅かに残った電力、全部使い果たしちゃったね…』


『最後に人に会えて良かった…。エヴァリーナ…か、お友達になりたかったな…。ふふ、機械じゃ無理か。さようなら、文明の後継者たち。さようなら、私の最初で最後のお客様…』


 やがて、全電源が喪失し、本体と同時にホログラム装置も停止した。ルナが置かれた施設は暗闇と静寂に包まれた。ホログラム装置が停止する寸前、擬人化ルナの顔に涙のようなものが流れた。それは消える寸前の映像のブレだったかもしれない。しかし、ルナ本体は最後の一瞬「悲しい」という機械ではありえない感情にも似た思考演算をしたのだった。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

「ルゥルゥおっ母さん、お粥が出来たわよ」

「いつも済まないねぇ…。オラがこんな体になったばっかりに…」

「またそんな事言って…。ほら、今日は特別に大根の葉を入れたわよ」

「ほんにお前は孝行娘だのう…。有難や、有難や…」


「またやってるよ、ルゥルゥとティラの貧乏親子ごっこ」(レイラ)

「でもルゥルゥさん、すっかり良くなってよかったわ」(エマ)

「うん、フランも回復完了。もう問題なく動ける。これもみんなで看病してくれたお陰。ありがとう」

「いえいえ、私たち仲間ですから。それに、フランさんが前衛で頑張ってくれたからこそ、私たち生き残れたんですもの。当然です」

「それはそうと、エヴァリーナさんたち、戻ってこないね…」


 親衛隊の襲撃で重傷を負ったフランとルゥルゥを連れて、天空歩道近くの温泉小屋で待機していたティラたち。エヴァリーナたちと別れてから既に2週間近く経過している。


「ただいま~」

「お帰りソフィ。どうだった?」


「うん、廃坑道やウル軍の宿営地周辺を隈なく見てきたけど、エヴァリーナ様たち戻って来た様子はないわね。ただ…」

「何かあった?」

「宿営地のウル軍が一斉に廃坑道に移動を始めた。何かあったわね、あれは」


 偵察から戻ったソフィの報告を受けて、全員考え込んでしまう。エヴァリーナからは2週間たっても戻らない場合は、ゼノビアに戻り、帝国と連絡を取って指示を受ける様に言われている。その期限となった今、どう行動するか決断しなければならなくなった。


「よし、決めた! 探しに行こう。貧乳姫エヴァリーナを!」

「…だね。ここで燻っていてもしょうがないし」

「決まったね。じゃあ準備しよう」


 留守番組はエヴァリーナたちを捜索するため立ち上がって気勢を上げた。そこに天井付近の空間に魔法陣が展開し、中からエヴァリーナたちが現れ、ソフィたちの真上に落ちてきた。


「ひゃぁあああーーっ!」

「うわぁーっ!!」

「ぐぇ…っ」

「ひでぶ!」


 エヴァリーナやミュラーのケツ圧に押され、ソフィ、ティラがカエルが潰されたような呻き声をあげて押し潰された。


「あたたた…。こ、ここは…。や、やった! 成功です!!」


 ぶつけたお尻をさすりながら周囲を見回したエヴァリーナは、天空歩道の山小屋であることを確認し、転移が成功したことを喜んだ。


「(あと4回!)全員いますわね。ミュラー、レオンハルトさん、皆さんを集めて!」

「おお!」


 ミュラーとレオンハルトが何が何だかわからないと言った表情で呆然として座り込んでいる留守番組の女の子たちを、次々と抱えて運び、エヴァリーナの側に集めた。


「リューリィさん!」

「了解です!」


 リューリィは集めた女子たちを荒縄でぐるぐる巻きにする。男たちの完璧な作業振りに満足したエヴァリーナは片手で荒縄の一端を握り、続いて輪になって手を繋いだミュラーたちと手を繋いで転移の指輪を発動させた。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 ゼノビアのボルアレス商会の一室では、ハインツとタニア、それに2人の手引きで宮殿から脱出したラサラス王女と護衛のシン、シェルタン国務大臣が窓辺から街の様子を伺っている。


「今のところ、大きな騒ぎにはなっていないようですね」

「は…、どうも親衛隊は何かあったようで(エヴァリーナたちの暗殺任務のこと。もちろん、ラサラスたちは知らない)我々の捜索には手が回らないようです」


「しかし、姫。このままここにいるというのもどうかと…」

「シェルタン大臣…。そうですわね。でも城に戻るわけにはいかないし…」


「ラサラス様。ここは帝国に亡命しましょう。帝国の庇護を受け、ハルワタートに対抗するのです」

「ハインツ殿…。しかし、帝国は私を受け入れてくれるでしょうか…」


「姫、ここは賭けに出るべきかと…。ミュラー殿とエヴァリーナ嬢に力を借りましょう」

「姫様、シンはどこまでもお供します!」


「それはホントですか!」

「えっ、誰? どこから?」


 突然の言葉にビックリしてきょろきょろするラサラスたち。突然部屋の空間に魔法陣が形成されたと思ったら、荒縄に縛られ顔を真っ赤にして悶える女子と一緒にエヴァリーナやミュラーたちが落ちてきた。


「え…、えっ…」

「エヴァ姉ちゃん! 無事だったか。実は…」


「詳しい話は結構です。大体の事情は把握しています。ハインツ、よくやってくれました。タニアさんもありがとう」

「詳しい説明は後です。リューリィさん!」

「いえっさー!!」


 リューリィは素早い動きで男3人を荒縄でぐるぐる巻きにすると、ラサラスとタニアを亀甲縛りで縛り上げた。縛りによって巨乳がこれでもかと強調され、股の間に通された縄がアソコを激しく刺激し、2人は悩まし気な声を上げ、男たちは前屈みになり、貧乳シスターズは殺意のこもった目で睨む。


 エヴァリーナはミュラーの手と荒縄の端を握り、転移の指輪を発動させた。


「目標座標、カルディア帝国シュロス・アードラー市、帝国宰相府! いっけ~っ!!」

 長かった第4章はここで終了です。新年からは第5章が始まります。クライマックスに向けてまっしぐら。ユウキの幸せを探す旅は迷走中。どうぞお楽しみに。

 1年間読んでくださってありがとうございました。皆さまよいお年を!

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― 新着の感想 ―
[一言] 面白かったです!新章も楽しみにしてます。 しかし、あのミュラーがユウキから外れるとは意外でした。嬉しいような嬉しくないような…
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