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第402話 古代文明の残滓

 螺旋階段をひたすら進むエヴァリーナたち。地底の奥深くに、このような施設があること自体信じられない。いつも煩いミュラーとリューリィも一言も発せず、黙り込んでいる。


「一体、ここは何なんだ…?」


 レオンハルトがぼそっと呟くが、誰も答えられない。アルテナも不安そうにきょろきょろ周りを見回し、エヴァリーナの手を握る力が強くなる。階段を降り始めてどの位進んだろうか、何の変化もない状況に疲労と不安が重なり、足取りが重くなってきた。


「くそ、一体、いつまで歩けばいいんだ!」

「ミュラー、落ち着け」


「しかしよ、こう何の変化もねえとイライラするぜ」

「ミュラーさん、終りのない道なんてありません。もう少し我慢して進みましょう」

「そうですよ、リューリィさんのいう通りですわ」


「はあ…、わかったよ」

「ミュラー、がんばろ」

「アルテナ…、お前、雰囲気変わったな」


 アルテナは顔を赤らめてエヴァリーナの後ろに隠れた。あれほどしつこく絡んできたアルテナの急な変化にミュラーは戸惑うが、エヴァリーナとリューリィはニヤニヤと生暖かく2人を見てきて益々「?」となってしまう。とりあえず進むしかないというのは事実だし、レオンハルトに次ぐ年長者の自分が弱音を吐いてどうすると思い直したミュラーはエヴァリーナたちに「悪かった」と一言謝ると、改めて先頭に立って通路を進むのであった。


 階段を降り始めて初めて変化が現れた。3m四方の小さな踊り場が見えてきたのだ。あそこなら休憩を取ることが出来るかもしれない。疲労が極限にまで高まっていたエヴァリーナとアルテナの足は自然に速くなり、先頭のレオンハルトを追い抜き、踊り場に着くと大きく深呼吸をして、まだ階段にいるレオンハルトたちに手を振った。


「はぁ~あ…、疲れましたわ。少し休憩しませんか?」


 その時、何かを踏む感触とともにカチッと音がした。


「え…?」

「危ない!!」

「きゃああああっ!」


 レオンハルトがダダダッと階段を駆け下り、ダイブしてエヴァリーナとアルテナを抱き捕まえ、そのままの勢いで踊り場を飛び越えた。その直ぐ後に向かいの壁から鋭い鉄の矢が何本も飛び出し、今までエヴァリーナたちがいた場所に突き刺さった。

 鉄の矢を躱し、下り階段に転げ落ちた3人は階段の縁に体を打ち付け、痛みにうめき声を上げる。そこにミュラーとレオンハルトが駆け寄ってきた。


「こんな所に侵入者排除の罠があったなんてな。驚きだぜ」

「レオンハルトさん、よく気が付きましたね」

「痛てて…。冒険者のカンってヤツだよ。エヴァリーナさん、アルテナ姫大丈夫か」


「だ、大丈夫…です。いたた…お尻打っちゃった」

「わらわも大丈夫なのだ。エヴァのお肉がクッションになったので、どこも痛くないのだ」

「そ、そうですか。何よりですわ…」


「ぶふっ! デブリーナってか」

「やかましい!」


「しかし、この先何があるか分からんな。オレが先行して進む。皆は少し離れて着いてきてくれ。リューリイ君は明かりの魔法を切らさないように頼む」

「危険です! それではレオンハルトさんだけを危機に晒すことになります。ダメです!」

「全滅するよりいい。オレ1人の命で済むなら安いもんだ。エヴァリーナさん、ミュラー皇子、アルテナ姫…。誰1人死んでいい人じゃねえ。生きて帰らなければならねえよ」


「レオンハルトさん…。いいえ、ダメダメ、絶対ダメです」

「いや、レオンハルトさんの言うことも一理あります」

「リューリィさん、あなたまでそんな事を言うのですか!」


「はい、だからレオンハルトさんとボクが一緒に先行しますね。ボクは王族でも貴族でも何でもないんで」

「リューリィ、お前…」

「ミュラーさん、ボクが側にいる理由は何ですか? あなたを守ることです。それが皇家の執事長の子息として生まれたボクの使命なんです」


 リューリィはニコッと笑うとレオンハルトと並んで下に降り始めた。2人の後姿を見て佇むエヴァリーナとミュラー。アルテナは2人の手を取って「行こう」と声を掛けた。エヴァリーナとミュラーは先行する2人に心の中で感謝をすると、3人手を繋いで歩き出した。


「手をつないで歩くと、お父上とお母上と一緒にお散歩してるみたい」

「うふふ…、アルテナ様ったら」

「あ~あ、エヴァじゃなくてユウキちゃんだったらなあ。今頃何してるかなあ。早くあのおっぱいを拝みたいぜ」


『ミュラーのドスケベ!!』

 暗い螺旋階段にエヴァリーナとアルテナのハモった声が響き渡った。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 さらに長い時間、螺旋階段を降り続ける。途中、侵入者排除の罠がいくつかあったが、レオンハルトとリューリィは共同して察知・解除し、何とか被害なく進むことが出来ている。永遠に続くかと思われた階段は唐突に終りを告げた。


「やっと終わった…」

「一体、どのくらい降りたんでしょうね」

「わからん。あの鍾乳洞から数百mは下だと思うが…」


「レオンハルトさん、リューリィさん」

「エヴァリーナさん、どうやらこの先に何かありそうだぜ」


 レオンハルトが親指でグイっと指し示した先には古びた金属造りの大きな扉があった。あの向こうに一体何があるのか…。それを確かめるためには行くしかない。そして脱出の方法を見つけるのだ。エヴァリーナは扉に向かって進もうとしたが、レオンハルトに止められた。


「どうしたんですの?」

「進むのはちょっと待った方がいい。扉の前に何かある、危険なものか試してみよう」


 レオンハルトは腰のベルトからナイフを抜くと、ポイと前に放り投げた。そして目の前で起こった事に全員驚き、色を失った。ナイフは数m飛んだ所で扉の近くに設置されている黒い箱から発射された赤い光に迎撃され、当たった瞬間、刃が真っ赤に熱せられてどろりと溶け、ぼとりと床に落ちたからだ。


「驚いたな…。一体なんなんだ、あの光は? 迂闊に進むのは危険だな」

「どうしたら…」

「わからん。何かで防げればいいのだが」


「ちょっといいか」

 ミュラーが全員に声をかけた。


「確かにあの光は危険だが、ある程度近づかないと攻撃はしてこないようだ。つまり、安全地帯から魔法でアレを破壊したらいいんじゃねえか」

「なるほど!」

「そうですね、何でそんな単純な事に気づかなかったんでしょう」

「さすがミュラーはカッコいいのだ。ポッ…」


 早速ミュラーの案を試してみることにして、エヴァリーナとリューリィが前に出て並んで立ち、それぞれの持つ魔法の杖を構えた。


「ライトニング・ボルト!」

「ファイアランス!」


 強力な電撃と炎の槍が黒い箱に向かって飛んだ。電気と炎という物理的な攻撃では無いため、反応できない箱からは迎撃がなく、2人の魔法は真面に命中し、バシッ!という鋭い音とともに、ブスブスと煙を吐いて床に落ちてバラバラになるのだった。


「よし、行こうぜ」


 障害物を排除した一行は扉の前に立ったが、今度は開け方が分からない。取っ手らしいものも、周囲に開けるための仕掛けも何も見当たらない。


「困りましたわね。どれどれ…、うんにゃあ~~~っ!!」


 エヴァリーナは扉の縁に手を掛け、壁に片足を押し付けて思いっきり引っ張った。渾身の力を込め、顔を真っ赤にしながら引っ張るが、扉はビクともしない。


「ぜぇぜぇ…、だ、だめですわ…」

「わはは、とても帝国貴族のお嬢様とは思えねぇな。しかし、どうやったら開くんだ」


 全員で周囲を調べ、扉を押したり引いたりしたが開く気配が全くない。頭に来たエヴァリーナは扉に思いっきり蹴りを入れた。


「もう、頭に来ますわね。忌々しい、えい!」

「あん、いったぁ~~い」

「バカかお前は…」


 足を抑えて蹲るエヴァリーナにミュラーが冷たい一声を掛けたその時、ガコン!と音がして扉が少しずれ、外側に向けて開きだした。


「と、扉が…」

「開いた…」


 ガコンガコンと音を立て扉が開く。中から眩しい光が洪水のように溢れ出してきた。暗い中を長い時間彷徨った一行は、あまりの眩しさに目を瞑ったり、腕で隠したりして光を防いだ。やがて、光に慣れてきた頃、ゆっくりと目を開けて中を見る。そこには誰も見たこともないような、想像を絶するものがエヴァリーナたちを「待って」いたのであった。

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