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第400話 地底の宮殿

 温泉地で疲れを癒した一行は元気を取り戻し、谷の奥に向かって進んでいた。しかし、雰囲気は最悪だった。


「まだ怒ってるぜ…」(ミュラー)

「仕方ないだろ。俺たちが悪いんだしな」(レオンハルト)

「はぁ~あ…」(リューリィ)


 全裸だけでなく、豪快な蹴りを入れた際に大事な部分まで御開帳してしまったエヴァリーナは、全然怒りが治まらない。頬を膨らませて、ぷんぷんぷんすかしながら先頭を歩いている。一方、アルテナは逆になんだか大人しく、時折ミュラーの方を振り向いては、頬を染めて恥ずかし気に俯くのであった。


「俺たちだって、金玉からケツ穴まで見られたんだぜ。お互い様じゃねえのか」

「何か言いまして!」

「いや、何でもありません…」


 ビシッとエヴァリーナに返され、思わず謝るミュラー。


「お前、ホントに帝国の皇子か? 威厳も何もないな」

「うるせぇ」

「ボクまで怒られた…。何もしてないのに…クスン」


「しかし…」

「どうしたら許してくれるのか…」

『全く分かんねえ』


 激おこプンプン女と化したエヴァリーナの少し離れた後方をとぼとぼ歩く3人の男たち。土下座してもおべっかを使っても怒りは全く解けず、大魔神のような顔で睨みつけられるだけだった。


 その状態のまましばらく進むと徐々に通路部分が広くなってきたような気がする。リューリィがトーチの魔法を追加で唱えると、大分先が見通せるようになった。3人の男たちはエヴァリーナに「失礼します…」と声をかけてサササッと前に出た。背後からの強烈に冷たい視線に泣きそうになりながら、光と闇の境界付近を注意して確認ながら進む。


「おい、何かいるぞ」


 レオンハルトが何かに気づいて武器を構えた。ミュラーとリューリィも各々武器を構えて警戒する。すると通路の奥に何かモゾモゾ動くものが見えた。それらはミュラーたちに気づくと一斉に向かってきた。


「何だあれは!?」

「でかいフナ虫みたいですね」


 向かってきたのは全長1m程のフナムシに似た生き物。洞窟を生息域にしているということは当然肉食だろう。3人は迎撃戦闘の体勢をとった。


「ウィンド・ボルテッカー!」


 突然、電撃を纏った竜巻が3人を掠めて前方のフナムシ目がけて飛び出し、フナムシを風の渦でばらばらに砕き、高熱の電流で焼き尽くした。僅か一撃で怪物の群れを殲滅した威力に、ミュラーたちはごくりと唾を飲み込む。もし、あれが自分に直撃してたら…。


「おいエヴァ、危ねぇだろ!」


 ミュラーが振り向きながら大きな声を上げた。エヴァリーナは何も言わずギロリと睨みつける。


「いえ、あの…ですね、次からは一声かけて頂けると有難いです…はい」


 帝国第1皇子のあまりの情けなさに、リューリィとレオンハルトは「はああ…」とため息をつく。


「仕方ねえだろ…。おっかねえよ、今のアイツは。お前たちは意見できるのか?」

「いや…無理だ。スマン…」

「ボクも無理…です」


 ミュラーはチラと後方を覗き見ると、アルテナと目が合った。アルテナは途端に真っ赤になるとツイと視線を逸らした。そしてチラっとミュラーを見ては、ウルウルとした熱い視線を送ってくる。少し前まで煩いくらいにつきまとって来たのに、今は全然話しかけても来ない。アルテナの急な変化にも戸惑いを覚えるミュラーだった。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 それからも一行は無言のまま闇の中を進む。温泉地からどのくらい歩いたろうか、距離感も時間の感覚も無くなり、疲労だけが蓄積され、僅かな気力も失われていく。さらに…


「うん…?」

「おい、これは…」


「どうなさったの」

「ハッ! エヴァ様、行き止まりのようです」


 谷は突然終わりを告げ、一行の面前には巨大な絶壁が立ち塞がっていた。ミュラーとレオンハルトが恭しく道を譲り、エヴァリーナを岸壁の前に誘導する。


「エヴァ様って…。止めてくださいな。もう怒ってませんから、普通に接してください」

「ハハッ。御心のままに…」(ミュラー)

「有難き幸せ」(レオンハルト)


 ミュラーとレオンハルトの態度にエヴァリーナは困った顔をしたが、プッと噴き出して笑い出した。釣られてミュラーたちも笑い出す。一行は再び心を一つにした…が、1人アルテナだけはずっと頬を染めてミュラーを見つめていた。

 ひとしきり笑ったエヴァリーナたちは改めて目の前の絶壁を見上げる。


「これはちょっと登れそうもねぇな」

「困りましたわね…」

「閉じ込められたって事か、不味いな」


「皆さん、こっちです。来てください」

「リューリィさん?」


 少し離れた場所を見回っていたリューリィが絶壁の隅で手招きしていた。エヴァリーナたちは移動するとリューリィが指さした場所を見る。そこには人1人は入れるくらいの亀裂が開いていた。しかも、奥から風が吹いて来る。


「トーチで中を覘いてみましたが、かなり奥まで続いているようです。どうします?」


 リューリィがどうするか聞いてきた。エヴァリーナは一瞬考えたが直ぐに結論を出す。


「進みましょう。私たちにはもう選択肢がないのです。行くしかないのですわ」

「おう! 行こうぜ。どうせここにいても野垂れ死ぬだけだしな」

「風が吹いているということは、外に繋がっているかも知れねえ。希望はある」

「行きましょう!」


 一時は絶望感が支配したが、希望が見えた事で全員が気勢を上げ、僅かに開いた希望の道に足を踏み入れた。


 亀裂の入り口からしばらくは非常に狭く、体を横にしたり、屈めたりして進むのがやっとだった。しかも、途中から石質が変化し、花崗岩の壁から石灰質の白い壁となって一行を驚かせた。さらに狭くなった亀裂を進む。終わりなどないのではないかと思わせるほど長い長い距離を歩いた先で、突然目の前の空間が開けた。


「こ、ここは…」

「凄え…」


 その場所は巨大な鍾乳洞のホールで、天井は高く大きな鍾乳石が何本も垂れ下がり、地面からは人の背丈よりも高い石筍が何本も立ち上がっている。水に濡れた壁はトーチの光に反射してキラキラと光り、幻想的な美しさで、さながら地底に広がる宮殿のよう。奥には川が流れているらしく、激しく水が流れる音が聞こえる。一行は突然現れた神秘の空間に目を奪われるのであった。


 レオンハルトが岩場の出っ張りをうまく使ってホール内に降り、流れの音のする方に歩いて行った。やがてエヴァリーナたち向かって手を振って声をかけた。


「ここで休憩できそうだ。来てくれ」


 その場所は川の流れで石灰石が削られ、平坦な地形となっていて休憩するのに適した場所だった。早速ミュラーとリューリィでシートを敷き、魔道コンロを出して湯を沸かし始める。また、荷物袋からなけなしの食料を出して食べることにした。


「これが最後の食料です。大事に食べましょう」


 リューリィは全員の前に残りの食料を渡し始めた。ミュラーは自分の分を半分にして隣に座るアルテナに渡す。


「ほら、アルテナ。お前は育ちざかりなんだから多めに渡すぞ」

「う、うん…。ありがとう、ミュラー…」

「どうしたんだ? お前ずっと変だぞ」

「な、なんでもない…」


 アルテナは俯いて赤くなる。その態度にエヴァリーナはピンときた。アルテナは温泉地の件でミュラーに裸を見られて以降、男としてミュラーを意識し始めたのだと。鈍感ミュラーはそれに気づいていないのだと…。


 エヴァリーナが生暖かく2人の様子を見ていると、食事を終えたレオンハルトとリューリィが立ち上がって周囲を探索してくると言ってきたのでお願いした。探索に向かった2人を見送った後、エヴァリーナは温かい飲み物をフーフーしながら、ふと気になることを口に出した。


「フランさんたち、大丈夫かしら…」

「さあな。フランとルゥルゥの怪我は思ったより重症だった。暫くは動くことが出きねえと思う。天空歩道の小屋で待機するしかねえだろうな」

「そう、ですわね…(しばらく帝都とも連絡を取ってない。お兄様、心配してるだろうな…)」


「エヴァリーナさん、ミュラー」

「あ、レオンハルトさんお帰りなさい。何かありまして?」


「それが…」

「リューリィさん?」


「来てみればわかる」


 レオンハルトとリューリィの不審な態度に「?」となりながら、一行は片付けを済ますと2人の案内で鍾乳洞の奥に進んだ。レオンハルトは石灰岩の壁となった一部を指さしたので、エヴァリーナは訝し気にその場所を見て驚いた。


「こ、これは…」


 一行の目の前に鍾乳洞の石灰岩とは異なる構造物、分厚いレンガでできた壁が目の前に現れたのだった。

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