第41話 武器屋と増えた下宿人
野外実習が中止となり、家に帰ってくると、ダスティンが玄関で出迎えてくれた。
「お前も大概色んな事に巻き込まれるのう。まあ、今日はもう休め」と顛末を聞いてあきれるように言い、マヤは『ご無事で本当によかったです』と頭をなでてくれた。2人の変わらない様子に安心したユウキは、ホッとして涙ぐんでしまった。
それから数日が経ったある日、ユウキは2階にある自分の部屋でゴロゴロしていた。
(あの後、女の子の日も来ちゃって、体調が悪くなってしまったから、また学園休んじゃったよ。まあ、今日は休日だし、明日から学園に行こうっと。今日は久しぶりに美容魔具で自分磨きしよ)
下着姿になり、美容魔具でお肌を丁寧にコロコロし、姿見で全身をチェックしていたら、下からユウキを呼ぶ声が聞こえた。
「はーい。今行きまーす」
ユウキが急いで服を着て階段を下りていくと、店の売り場にフィーアとカロリーナが大きなカバンを持って立っており、ダスティンが困惑した顔で2人を見ている。
「あれ、どうしたの2人とも」
「「どうしたの?」じゃないわよ。しばらく学園に来ないから心配したじゃない。もしかしたら、どこかに行ってしまったかも知れないって思ったんだよ。先生に聞いても心配ないって言うだけだし…。本当に心配したんだからね!」
「それで、私たち話し合ったんです。そして、「ユウキさんと一緒にいればいいんじゃないか」という結論になりました」
「それでね、今日からユウキと一緒に住もうって決めたんだ。だから寮も引き払ってきちゃった」
「引き払ってきちゃったって…。そんな無茶な…」
「おやじさん、もし空いている部屋があったら下宿させてくれない?」
「部屋はあることにはあるが…。できれば断りたいんだが。ここは武器屋であって、下宿屋ではないぞ」
「そんなこと言わないで。お願い! 私たちユウキと一緒にいたいの!」
カロリーナが必死に頼み込むが、ダスティンは首を縦に振らない。
「ダスティン様、これを…」
フィーアは1枚の紙を取り出し、ダスティンに手渡した。
「これは? 武器防具の納入契約書?」
「ええ、オプティムス侯爵家騎士団の武器防具の一部ですが、ダスティン様に納入と修繕の契約を結びたいと思いまして。いかがですか、見た感じ、この武器屋は玄人好み。客層も限られているのではありませんか。ダスティン様の腕を振るうには、侯爵家の話、悪くないと思いますが」
「う、うむむむむ…」
(フィーア…、策士だね。オヤジさんの琴線に触れてきた)
「私達、おじさんとも一緒に住みたいな~。美少女のお願い! えへっ」
カロリーナがとどめとばかりに追撃を放つ。
「わ、わかった。2階の部屋を使うがいい。丁度2つ空いている。ユウキ案内してやれ」
(落ちた…。鋼の男ダスティンが…。恐るべしフィーア、カロリーナ)
ユウキは苦笑いしながら、ふたりを二階に案内した。
「こっちだよ。こちらの部屋を使って。ボクの部屋はここ。この部屋はマヤさん」
「マヤさん?」
『ユウキ様、お茶をお持ちしました』
ユウキは、自分の部屋に皆を招き入れると、お茶を運んできたマヤを紹介した。
「マヤさんは、ボクを育ててくれた方の使用人だった人。小さいときからずっとボクの面倒を見てくれているんだ。とっても優しい人だよ。マヤさん。彼女たちは今日からボクたちと一緒に住むお友達の…」
「フィーアです」
「カロリーナです」
「よろしくお願いします!」
『こちらこそお願いします。ふふっ、楽しくなりそうですね』
「それから、ボクの秘密を知っている2人には話しておくけど、マヤさんは高位のアンデッドなんだ。ダスティンさんも知ってる。でも、生きてる人と変わらないから普通に接してくれるとうれしいな」
「ええっ! ホ、ホントに? 私の知ってるアンデッドと全然違う…」
「わあ、ユウキさんと知り合ってから、驚くことばかりです! 楽しいです!」
『後で皆さんの好きな物を教えてくださいね。あと、お洗濯もしますので、遠慮なくお申し付けくださいね』
「はい!」
「ありがとうございます」
(2人もマヤさんを気に入ったようだし、これからが楽しみだな)
フィーアとカロリーナがダスティンの武器屋の下宿人となった翌日、ユウキ達3人は学園に登校するため、通学路を歩いていると、ララとアルが一緒に登校してきて、3人を見つけるとにこやかに挨拶して来た。
「ユウキおはよう。訓練の時大変だったね。私達、山頂の合流点で待っていたら、急に訓練中止だなんて言ってくるしさ、後で聞いたら、ユウキ達とゴブリンが戦ったって聞いてビックリしちゃって。しばらく休んでいたけど体は大丈夫なの?」
「うん、心配かけてゴメンね。もう大丈夫、今日から学園に行くよ」
「よかった。アルも心配してたんだよ。ね、アル!」
ララは笑顔でアルに話しかけた。
「カロリーナ嬢、見ましたか、ララさんの顔。あれは発情したメスの顔です…」
「ええ、しっかりと。男の方も満更でない顔をして…。腹立たしいです。フィーア様」
(2人から、どす黒いオーラが立ち昇っている!)
その後5人で学園に向かったが、桃色の空気を醸し出す2人と、暗黒のオーラを立ち昇らせている2人に挟まれて、ユウキは生きた心地がしなかった。
ユウキが教室に入ると、ユーリカとヘラクリッドが再会を喜んでくれた。午前中の授業が終わり、食堂で友人達と昼食を取りながら、フィーアとカロリーナがユウキと一緒に住み始めた事を聞いたユーリカが心底うらやましそうな声でユウキに言ってきた。
「ええー、フィーアさんとカロリーナ、ユウキさんと一緒に住み始めたんですか!? いいなー、私も住みたいなー」
「うーん。でも、もう部屋がないし……」
「何とかなりませんか。私だけ仲間外れは嫌です」
「わ、わかったよ。ユーリカも大切な友達だもんね。オヤジさんに相談してみるよ」
「わあい、やったあ! お願いしますね、絶対ですよ。ところで、あの2人はどうしたんですか?」
ユーリカは、向かい合って俯き、暗黒のオーラを立ち昇らせているフィーアとカロリーナを見る。
「ああ、あれはね」
ユウキが指さす方向には、仲良く、2人だけの世界を作ってお昼を食べているララとアルの姿があった。
「ああ…、なるほど」
「そういえば、期末試験の後に、野外訓練の埋め合わせで、2泊3日の臨海学校を行うようですよ。ユウキさんが休んでいた時に発表がありました。楽しみですねー」
「臨海学校…、海か(元の世界でも家族で海水浴に行ったなあ…)」
授業が終わって玄関から出ようとしたユウキをマクシミリアンが見つけて話しかけてきた。
「やあ、ユウキ君、体の調子はどうだい」
「あ、マクシミリアン様! は、はい! もう問題ありません!」
(ピク…)鋭くフィーアとカロリーナがユウキの声に反応する。
「それは良かった。そうそう、アルカ山について、騎士団が調査したところ、ゴブリンの営巣地が複数見つかってね。王都の冒険者組合に討伐依頼を出して、全て討伐したのだが、ほとんどがゴブリンとホブゴブリンだけの巣でね、チャンピオンやキングは見つからなかったとのことだ」
「ということは…」
「ああ、私たちが戦ったのは、最強のゴブリン部隊ということだ。それを我々が討伐した。これは誇るべきことだ。いずれ、父上からもお褒めの言葉があるだろう。君たちのおかげで私も自信がついた。ユウキ君と知り合えてよかったよ。本当にありがとう」
そう言うとマクシミリアンは学園内に戻って行った。
(マクシミリアン様はユウキさんが気になっているようですね。これは気をつけねば…。いいですねカロリーナさん)
フィーアがカロリーナに目配せすると、カロリーナはそっと「OK」の合図を送るのであった。