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第395話 再会

 可愛い弟分ができて、すっかり機嫌が良くなったユウキは、アンジェリカやサラ、アルフレドを通じて仲良くなった側室の王子王女たちと楽しい時間を過ごした。また、ユウキとアンジェリカに対してオスカー国王とガリウス、ラインハルトが改めて、任務の遂行とアルフレドの命を救ってくれた事、魔物の群れからアルビレオを守ってくれた事に対し、お礼を述べてくれた。2人も恐縮しながら感謝の意を伝え、お城や親衛隊を始め、大勢の人に迷惑をかけたと詫びるのであった。


 やがて、パーティもお開きとなり、招待客や王族の人々も帰り始めた。ユウキとアンジェリカも普段着に着替え、お城の馬車で宿まで送ってもらうことになった。時間は夜9時を過ぎたこともあって風が冷たく非常に寒い。馬車に乗り込む寸前、ユウキはふっとお城の出入り口を見る。そして、いつも側にいた少女がいないことに落胆した。寂しげな表情を浮かべるユウキの肩にアンジェリカがポンと手をのせた。


「行こう」

「うん…」


 ユウキとアンジェリカが馬車に乗り込んだのを確認した御者は、暗く静まり返った街に向かって馬車を走らせるのだった。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 パーティから数日たったある日、ユウキは女の子の日に当たって体調を崩し、宿のベッドに潜り込んで休んでいた。アンジェリカは窓辺に椅子を置いて本を読んでいる。


「ふう…、久しぶりに重いなあ。女の子って大変だよ」

「まあ、終わるまで我慢するしかないな」


(病気や怪我じゃないから、治癒魔法もあんまり効果ないんだよね。もう…)


 ベッドの中でうんうん唸っているユウキを見て、アンジェリカはくすっと笑い、穏やかな時間が流れているなーと思った。そして、アレシアでの孤独な日々を思い出し、今の自分の生活が信じられないくらい充実していると感じ、自分に手を差しべてくれた不思議な少女の顔を見た。その少女はいつの間にか眠ってしまったらしく、小さく可愛らしい寝息を立てている。


「眠っちゃったか…。ふふ、ありがとうユウキ。私はずっと一緒にいるから…」


 本にしおりを挟み、ぱたんと閉じて窓の外を見ると、北風が強く吹いていて路を歩く人々は寒そうだ。遠くの山々に目を移すと、頂きに白い雲が掛かっているのが見える。


「山は雪だな…」


 街の景色を見ていると、トントンと部屋の戸をノックする音が聞こえた。


「ん? 誰だろう。(もしかして…)」


 椅子から立ち上がって部屋の戸を開けるとラインハルト王子とサラが立っていた。アンジェリカは期待と違った結果に少し落胆するが、務めて表情に出さないようにした。2人は中に入るとベッドで眠っているユウキを見てどうしたのか聞いてきたので、少々疲れたので休んでいるだけだと答える。


「ところで何か用でも?」

「ああ、国王ちちうえが2人に話があるそうだ。なので、城に来てほしいのだが」

「国王様が…。私はいいのだが、ユウキはちょっと無理だな」


「まあ急な話だからな、代案は明後日の午後なのだが」

「う~ん、明後日なら大丈夫か…」

「決まりだな。明後日の昼過ぎに迎えの馬車を寄越す。よろしく頼むぞ」


 そう言うとさっさと部屋を出て行った。サラも続いて部屋を出ようとしたが、思い出したようにくるっと振り向いてアンジェリカに、こそっと小声で聞いてきた。


「ねえ、ユウキって、アレ?」

「そうなんだ。今回はちょっと重たいみたい」

「あ~、お大事にって伝えてくれる?」

「ああ、言っとく」


 サラはひらひらと手を振ると、駆け足でラインハルトを追いかけて出て行った。アンジェリカはパタンと戸を閉めるとユウキが寝ているベッドに腰かけて、頭を優しく撫でて軽くため息をついた。


(ノックの音が聞こえた時、一瞬ポポが来たのかと思ってしまった。ポポ、今頃何をしてるの。ユウキ寂しがってるよ…)


 そんな事を思っていると、コツン…と音がして、机の上に置いてあるユウキのイヤリングが少しだけ動いた。


「エドも同じ気持ちなんだね。私もだよ…」


 アンジェリカはベッドから立ち上がると、窓辺に立って雪雲に覆われ始めた山々をずっと見続けるのであった。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 ラインハルトが訪れた翌々日、ユウキとアンジェリカは王宮の特別応接室に通されていた。対面にはオスカー国王とガリウスが座っている。


「まず、アルフレドの命を助けてくれた事、改めて感謝する」

「勿体ないお言葉です」

「本来なら褒賞金を渡したいところだが、君らが壊した城の修繕費が思ったよりかかってな。悪いが相殺させてくれ」


「ぐっ…。お、お気持ちだけで十分、です…」

「その代わりといっては何だが、これを受け取ってくれ」


 ガリウスがユウキの目の前に1通の封書を置いた。


「これは?」

「アルフレドからだ。「お姉ちゃん」への感謝のお手紙だそうだ。ははは、アルフレドはすっかりユウキの事が気に入ったようだ」

「へえ、よかったな。ユウキ、お婿さん候補ができて」

「年下過ぎるよ。あのね、アル君はわたしの可愛い弟なの」


 ユウキは封書を手に取り、しっかりと胸に抱いた後、宝物でも扱うようにマジックポーチに入れた。その様子をオスカーとガリウスは笑みを浮かべた顔で見るが、直ぐに真面目な顔に戻ると本題に入った。


「それで話は変わるが、ユウキに迎えが来ている」

「迎え、ですか?」

「ああ、どうやらウルで何かキナ臭い動きがあるようだな。ラインハルトから王家の墓の出来事もその一環のようだとの報告も受けている。ユウキを迎えに来た人物からウルで起こっている事柄の話を聞き、私は信じることにした。その上で帝国とも共同で事に当たろうと考えている」


「えっと、話が良く見えないのですが…」

 ユウキとアンジェリカはよくわからないと首をかしげる。


「うむ、詳しい話は、この者から聞くがいい。ガリウス」

「はっ!」


 ガリウスは立ち上がり、応接室に隣接した部屋の戸を開けると、中に入るように声を掛けた。そして、中に入ってきた人物を見てユウキは驚いて立ち上がった。


「フォルティ!」

「やっほー、ユウキちゃん、お久しぶり~」


 フォルトゥーナはニコニコしながらユウキの側まで来るとしっかりと抱き締めた。


「う~ん、なつかしのふかふかボディ。いいわね~」

「どうして、ここに…」


「フォルトゥーナはラファールの有力貴族の出でな。私のいとこにあたるのだ。帝国宰相殿に嫁入りしてからというもの、時折手紙のやりとりをしていたのだが、宰相殿がユウキに早く帝国に戻るよう指示を出したらしくてな、こうして迎えに来たという訳だ」

「そういうこと。ほんと、数か月会わないだけなのに、懐かしくて涙が出ちゃうわ」


「ユウキ、この方は…?」

 アンジェリカが恐る恐るといった感じで聞いてきた。


「うん、この方はね。フォルトゥーナ様。カルディア帝国宰相ヴィルヘルム様の第2夫人なの。わたし、帝国では宰相様のお家にご厄介になっているんだ」

「フォルティ、この子はアンジェリカ。スバルーバルのアレシア公国で知り合って、ずっと一緒に旅しているの」

「そうなんだ。帝国での…。アンジェリカです。よろしく…」


「んん、どうしたんのアンジェ。元気なくなったね」

「ユウキは…、その、帝国に戻るんだろ?」


「うん。元々そのつもりだったし」

「そう…。じゃあ、ここでお別れだな」

「えっ、どうしてそんな事言うの!?」


 驚いたユウキはアンジェリカの肩を揺すって何故、どうしてと問い掛けるが、アンジェリカは俯いたまま黙り込んでいる。やがて、ぽつりと口を開いた。


「ユウキは、その…帝国宰相様の所に戻るのだろう。家を放逐された私なんかが一緒に行ける訳ないよ。だから…」

「バカッ!!」

「痛っ!」


 ユウキはアンジェリカの頭に思いっきり拳骨を落とした。頭蓋骨が割れたと思えるほどの痛さにアンジェリカは頭を押さえて蹲った。痛みで涙目になったアンジェリカの顔にユウキも顔を近づけて優しく声をかける。


「アンジェはわたしの親友で大切な人で、一緒に幸せを探す仲間でしょ。だから、アンジェも一緒に帝国に来てもらいたい。これまで通りわたしの冒険を助けてよ。何よりわたしと一緒に将来の伴侶探し、するんでしょ」

「い、いいのか…。一緒に行っても」

「勿論だよ。いいでしょ、フォルティ!」


「うふふ~、ユウキちゃん、旅の間にしっかりと絆を深めた友ができたのね~。モチロンいいわよぉ~。私もアンジェって呼ばせてもらうわね。賑やかになりそうね~」


「嬉しい…。グスッ…」

「アンジェ…」


 しっかりと抱き合って友情を確かめ合う2人を見て、黙って成り行きを見ていたオスカーもガリウスも温かい気持ちになるのであった。2人が落ち着いたころを見計らって、ガリウスがユウキに声をかけた。


「ユウキ、フォルティ叔母さんから聞いたが、これからは厳しい場面も出てくるだろう。だから、同伴者をつけようと思う」

「同伴者、ですか?」

「ああ、入ってきたまえ」


 ガリウスがフォルトゥーナが出てきた部屋に声をかけると、4人の男女が出てきた。それを見てユウキとアンジェリカは驚いた。


「カストル君とアルヘナちゃんじゃない!」

「それにルツミとクリスタ!」


「えへへ、おひさです」

「どうして…」


「うむ、この4人の持つ従魔は特別で、非常に強力な魔物であると内務省から報告を受けている。だから、君の手伝いをさせようと思ってな。もちろん、4人は学生だから帝国に留学もさせるつもりだ。その手配は済んでいる」


「うーん、確かにメイメイやリザード、ポチは戦闘に役立ちそうだけど…」

「アンゼリッテはどうなのか、と思うがな。どう考えてもエッチなハプニング要員としか思えんが…でもまあ」

「楽しそうでいいよね!」


 ユウキとアンジェリカは4人としっかり握手をする。カストルはライザのストーキングから逃げられると本当に嬉しそうだ。


「ライザったら、お兄ちゃんにふり向いてもらいたくて凄いの。つきまといやのぞき見だけじゃ飽き足らず、この間なんかいつのまに侵入したのか、お兄ちゃんのお部屋でパンツ被ってスーハースーハーしてたんだよ!」

「え、それって…」

「アルヘナちゃんと同じ行為では?」


「ち、ちがうもん!」


 真っ赤になって否定するアルヘナを見て部屋の全員が大笑いする。ふとユウキは気になった事を聞いてみた。


「あの…ポポは?」


 途端にガリウスが渋い顔になる。


「うむ…。それがだな、ポポ君にユウキたちと一緒に帝国に戻るか聞いてみたのだが、アマルテア家のレグルスが会いに来てて、そっちに夢中になってしまってるのだ。君たちに同行させようと話をしたんだが、よい返事を貰えなくてなぁ。申し訳ない」


「そうですか…。仕方ないです。人の縁は様々ですから」

「うん、また会える機会もあるさ。ユウキには私がいるだろ」

「私たちもね!」


 アンジェリカだけでなくアルヘナも二カッと笑ってユウキの背中を叩く、ユウキも笑顔を返し、元気を出して拳を高らかに振り上げた。


「うん! みんな、ありがとう! よーし、帝国へ行くぞー!」

『おおー!!』


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 それから数日後、帝国への出発の当日、日は昇ったものの布団の中でぐーすか寝てるユウキとアンジェリカ。ヨダレを垂らしてだらしない顔で寝ている2人の頭をぺしぺし叩く人物がいた。


「もう、早く起きるです。いつまで寝てるのですか」


「ん…んん…」

「全くだらしのない顔なのです。男にモテないのも分かるのです」


「ん…この声…」

「なんだなんだ、うるさいぞ、ユウキ…って、え…」


 起き上がった2人が部屋の中にいる人物を見て、大きな声でその名を呼んだ。


『ポポ!』


「そうなのです。ポポなのです。今日は帝国に帰る日なのでしょう? 早く起きなさい! なのです」


「ど…どうして…?」

「どうしてって、ポポも帝国に行くからですよ」


「ほ、本当に…? ホントのホントに、わたしたちと一緒に行くの!?」

「良かったなユウキ、ポポが戻ってきてくれたぞ。また、一緒に旅が出来るんだ!」


『わーい、わーい!!』

『バンザーイ。うっれしいーなーっ!!』


 エッチな寝間着姿のまま全身で喜びを表すユウキとアンジェリカだったが、ポポはフルフルと首を振った。


「違うのです。ポポはユウキたちと一緒に帝国に行きますが、旅の同行ではないのです」

「え…?」


 ユウキとアンジェリカの動きがぴたりと止まり、フッと笑みを浮かべるポポを見る。と同時に部屋の戸が開いてレグルスが入ってきた。


「ポポとレグルス様は離れ離れがこんなに辛いと思わなかったのです。なので、アルテルフ侯爵様にお話をしたら、さもありなんと理解してくださって、2人一緒に帝国の学校に留学できるよう手配してくれたのです」

「帝都にボクの家の別荘があるんだ。そこに一緒に住んで帝国第一学園に通うことになったんだ。ねっ、ポポちゃん」

「はい、レグルス様…。ポッ」


 頬をピンク色に染めて恥ずかし気に俯くポポの手を取って、優しく肩を抱いて部屋から出て行った2人の恋人たち。入れ替わりに嫉妬の炎を瞳に宿したアルテルフ家のメイドのアンナと護衛騎士のレドモンドとエドワードが入ってきた。


「くそ、あの乳なしっ娘め…。レグルス様の、レグルス様の体臭は私のモノ…。いつか奪い返してやる…」

「まあ、そういうことなんで、道中よろしくな」

「後で帝都の美味い酒が飲める店を教えてくれな。じゃあ、また」


 と、2人に挨拶するなりポポとレグルスを追いかけて行った。ユウキとアンジェリカは顔を見合わせ、しばらく見つめ合うと不敵な笑みを浮かべた。


「ポポめ~。調子に乗りおってからに…。わたしたちを裏切ったこと、絶対に忘れないからね…」


 ラファールで様々な困難(?)を乗り越え、帝国に戻る事にしたユウキ。しかし、ユウキの背中にウルの野望は着実に忍び寄る。帝国ではどんな出来事が待っているのであろうか。新たな仲間を得た彼女に再び試練が待ち受けるのであった。

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