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第394話 お姉ちゃん

 修理が進められている王城の門を通り、ユウキとアンジェリカが破壊した跡も生々しい庭園を抜けて正面入り口に到着した。馬車から入り口に護衛兵がずらりと並び、その間をガリウスを先頭にして中に入る。修理中の建物や庭園を目を丸くして見ていたアルフレドがユウキにこそっと聞いてきた。


「これ、全部お姉ちゃんたちがやったの?」

「う、うん…。そう」

「もう大人なんだから、おいたしちゃダメなんだよ」

「たはは…、スミマセン…」


 6歳の子供から叱られたユウキとアンジェリカの耳に、護衛兵のくすくす笑う声が聞こえ、恥ずかしさでいっぱいになる。


 ガリウスに続いて広い王城内を歩いていると、大きな両開き扉のある部屋の前に到着した。2人の警備兵が礼をして扉を開けると、まばゆい光が溢れ出てきて、ユウキとアンジェリカは眩しさで一瞬目がくらむ。眩しさに慣れて目を開けると、そこはとても広い大ホールで、部屋を照らす豪華なシャンデリアにたくさんの料理が乗せられたテーブルと、大勢の招待客が主賓の登場を待っていた。


「ガリウス王太子、只今お着き~」

「さあ、参ろうか」


 アストレアとアルフレドにユウキ、アンジェリカの2人を引き連れてガリウスが中に入り、壁に飾られたラファール国旗と王家の旗に礼をしてホールの方を向いた。ユウキも同じように旗に礼をしてアンジェリカと一緒にホールに向く。美しい王太子妃と2人の超絶美女にホール内の男共が騒めく。


「国王陛下の御成り~」


 ユウキたちが入って間もなく、オスカー国王が王妃フレデリカを伴ってホールに入ってきた。国王に続くのは歳の頃14~15歳の見たこともないような美少女と、第2王子ラインハルト、親衛師団長ランベルト元帥。ガリウスやユウキたちと少し離れていた場所に並んでいた、煌びやかな衣装を着た女性と数人の少年少女が国王に向かって礼をし、オスカーは鷹揚に手を上げて答える。アストレアがユウキとアンジェリカに側室たちとその王子王女だと教えてくれた。


 オスカーとフレデリカがアルフレドの前で止まり、元気そうな顔を見て相好を崩した。アルフレドは、はにかんだ笑顔を向けてペコリとお辞儀する。ラインハルトはポンとアルフレドの頭に手を置くと、そのままアルフレドとユウキの間に並んだ。


「ユウキ、甥っ子を元気にしてくれたそうだな。感謝する」

「いえいえ。しかし、へっぽこ王子もこういう場所で見ると立派に見えるから不思議だね」

「ぬかせ」


 オスカー国王がホールを見まわし、サッと手を上げ会場を静かにさせると、パーティの開会を宣言した。


「本日は我が孫、アルフレドの快気祝いに集まっていただき、感謝申し上げる。皆の者も存じていた通り、アルフレドは生まれた時から重い病にかかっておった。その原因は王家の墓に巣食っていた魔物による王家へ呪詛が原因であったと判明した。このため、王家の墓の魔物討伐に多くの戦士を送ったものの、そのほとんどは帰って来ず、アルフレドの病状は重くなるばかり。しかし、今般、我が息子ラインハルトと、ここにいる冒険者のユウキ・タカシナ及びアンジェリカ・フェル・メイヤーが見事王家の墓の魔物を倒して浄化に成功し、アルフレドの呪いも解かれ、このように元気になった」


「見事困難な任務を果たしてくれた我が息子ラインハルト、冒険者ユウキ並びにアンジェリカに感謝を、そして、我が孫アルフレドの元気な姿に祝いを捧げたいと思い、ささやかながら祝宴を設けさせてもらった。皆の者、大いに楽しんでくれ」


 続いて、ガリウスが一歩前に進み出て、アルフレドが元気になった事の感謝の気持ちを述べると、ワインの入ったグラスを手にして、高らかに「乾杯!」と声を上げた。同時に、楽団が音楽を奏で始め、大勢の客がグラスや料理皿を手に歓談を始めた。


「あの…、ガリウス様、今の王様の話…」

「ああ、ユウキの力やアルフィーネの存在は公に知られる訳にいかんだろう。だから父上と相談して、ああいう形で王家の墓問題と併せて決着を付けたんだ。君との約束だからな。少々稚拙で行き当たりばったり的だったが、まあいいだろう」


「そうなんですか。ありがとうございます」

「いや、礼を言うのはこちらの方だ。さあ、君たちも十分楽しんでくれ」

「はい!」


 ちらとアルフレドを見ると、同年代の貴族の子弟が集まってきて、楽しそうに話ている。そのうち、みんなで料理のテーブルに向かったので、ユウキも何か食べようとアンジェリカを誘って行こうとしたが、当のアンジェリカはキョロキョロして何やら探しているようだった。


「アンジェ、わたしらも何か食べようよ。どうしたの? もういい男探ししてるの。早い、早いよアンジェさん!!」

「違うよ! ポポ! ポポを探してるの!」

「ポポ!? おっとすっかり忘れてた。そう言えば…。あれ? いないね」

「だろ、確か王妃様が預かったと聞いていたが…。連れてこなかったのかな」


 2人はきょろきょろとホール内を見まわした後、フレデリカ王妃を見た。そしてハッとした。王妃の隣にちょこんと立つ美少女。先ほど入ってきた時には気づかなかったが、あの癖のある金髪とペッタンコな胸は…。2人は顔を見合わせるとバタバタと美少女の前に駆け寄り、まじまじと顔を見た。


「ポ…ポポ!?」


 美少女は真珠色のフレアドレスの裾を抓んで、可愛らしく、それでいて優雅に礼をする。


「ユウキ様、アンジェリカ様、ごきげんよう。この度の御活躍、わたくしも嬉しく存じます」


『誰?』ユウキとアンジェリカの声がきれいにハモる。


「うふふ、嫌ですわ。ポポですわ」


「ポ。ポポ!? 嘘だ! ポポはこんなじゃない! 可愛いけど毒舌で陰険で、クソ生意気な女のはず! こんな上品でエレガントな子じゃないよ!」

「そ、そうだそうだ!」


「まあ、お2人とも、御冗談は顔だけにして下さいまし。紛れもなく、わたくしはポポなのですわ。そんなだから、いつまで経っても殿方におモテにならないのですよ」


『ポポだ…。この毒舌の片鱗は間違いなくポポだ…』

 再びユウキとアンジェリカの声がきれいにハモった。そこにウフフと笑顔でフレデリカが語りかける。


「うふふ、ポポさんは将来ラファール国の貴族に名を連ねるお方。だからね、私が貴族としての作法と所作を教授しておりますの。ポポさんは本当にいい子ですね。とっても素直で、呑み込みも早いですし、本当に可愛らしい。私も国王もとっても大好きになりました」


『そ、そうっすか…』


 ポポは再び2人に向かって優雅に礼をすると、シャランと小さくドレスをはためかせてフレデリカと一緒に側室と王子王女が集まっている場所に歩いて行った。残されたユウキとアンジェリカはその後姿を茫然と見送るしかできなかった。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「くっそ~何よ何よ! 何が「ごきげんよう」だよ。あんなのポポじゃない!」

「見事に変わったな。いや、変わったというより化けたと言った方がいいか…」


「ポポのバカ! うんこたれ!」

(ユウキは私よりポポとの付き合いが長い分、ポポの変節が許せないのだろうな。かくゆう私もだが。このままポポとお別れするのはイヤだな)


 超絶美少女が皿に料理をてんこ盛りにしてバクバク食べる姿に、声をかけようと狙っていた男子たちは引いてしまい、遠巻きに見ているだけだ。アンジェリカは「はぁ~」とため息をつくと、料理を取って食べ始める。


「凄い食欲ね。せっかくのパーティなんだから、男子たちと話でもしたらどう」

「ん…おお、女拳闘士のサラ。来てたのか」

「あのね…。ラインハルト王子の護衛で来たのよ。でも、王子は貴族たちのお相手で忙しいし、貴女方を見かけたから来てみたの」

「王子はほっといていいのか? どうやら女性に囲まれているようだが」

「権力目当ての性悪女たちよ。後でボディにキツイの入れとくからいいの」

「怖い事言うな…。ん、楽団の音楽が変わったか?」

「ダンスタイムね、せっかくだし男子を誘って踊らない?」

「いいな。ユウキはどうする」


「わたしはいい。ダンス全く踊れないし、ここで食べてる」


 機嫌悪そうに言うユウキを見て苦笑いしたアンジェリカは、サラに誘われるまま、同年代の男子が集まっているテーブルに行き、声をかけてダンスを踊り始めた。冷たいアイスを食べながら、イケメンの男子と楽しそうに踊るアンジェリカを眺め、何とも言えない鬱屈した気分になる。


「どうせ、わたしなんか…」


 ユウキは飲み物を手に取ると、部屋の隅に並べられた椅子に座って休むことにした。ホールはゆっくりテンポのピアノ曲が流れ、多くの男女が手に手を取って楽しそうにダンスを踊っている。ユウキはその中に同年代位の貴族の少年とダンスを踊るポポを見つけた。


(ポポも踊れるんだ…。それにすっかり女の子らしい顔になってる。もう、オーガの村で出会った頃のポポじゃないんだな…。女の子って恋をすると変わっちゃうってホントなんだ。ステラもアンリ様を気にし出したら、わたしよりアンリ様を追いかけるようになったし、ポポもレグルス君で頭が一杯。寂しいな…)


 部屋の隅で考え事をしながら、飲み物をちびりちびりと口にしていると、不意に声がかけられた。


「ここ、いいですか」

「どうぞ…って、アルフレド様」


「どうしたんですか、お姉ちゃん。寂しそう」

「えっ、そんな事、ないよ」


 アルフレドがじいっとユウキの顔を見つめてくる。ユウキは何だか背中がむず痒くなってフイと目を逸らした。そんなユウキにアルフレドがパフっと抱きついてきた。思わぬ行動にユウキはビックリしてしまった。


「ア、アルフレド様!?」

「お姉ちゃんの体、温かいね…」


「…………」

「あのね、お姉ちゃん」

「なに?」

「お姉ちゃんに助けてもらっている間、お姉ちゃんの中にもう1人お姉ちゃんじゃない女の人がいて、「頑張れ!」って言ってくれたんだよ」


「もう1人の女の人…?」

「うん。そのお姉ちゃんがにこっと笑ってボクに言ったんだ」


「何て言ったの?」

「生きて。生きて幸せになるのよ。そして自分の生きる意味を見つけなさい。頑張れって」


 アルフレドの言葉にユウキはとても驚いた。それはこの世界に転移して間もない頃、自分を守るために命を落とした大切な人が最後に残してくれた言葉とそっくりだったからだ。


「そ…そのもう1人のお姉ちゃんの姿、見た?」

「うーん、良く覚えてないけど、お姉ちゃんと同じ黒い髪をしてたかなぁ」


(お姉ちゃんだ。望お姉ちゃんだ、間違いない。望お姉ちゃんがわたしの中に…。ううっ…。ちゃんと見守ってくれてる…。助けてくれてるんだ…。グス…、お姉ちゃん…、アルフレド君だけじゃない、わたしにも伝えてくれたんだ、幸せになれって…)


 急にポロポロと涙をこぼし始めたユウキにアルフレドはぎょっとして、慌ててハンカチで涙を拭ってくれた。ユウキはぎゅうっとアルフレドを抱きしめる。


「ありがとう、ありがとうねアルフレド様。ありがとう…」

「お、お姉ちゃん」


 しばらくしてダンスタイムの音楽が終り、再びジャズのような陽気な曲に切り替わった。同時に先程まで沈んでいたユウキの心も明るく晴れてきた。ユウキが笑顔に戻ってアルフレドもホッとする。そしてもじもじしながら、少し頬を赤らめてお願いをしてきた。


「あの、あのね。ボク、一人っ子でしょ。だから、ずっとお姉ちゃんかお兄ちゃんが欲しかったんだ。そしたら、色々お話しできて、ベッドで寝てても寂しくないのになーって思ってたの」


「アルフレド様…」

「だからね…、んとね…、ボクを助けてくれたユウキさんが、ボクのお姉ちゃんだったらなーって思って。よかったら、これからもずっと「お姉ちゃん」って呼んでいい? ダメ?」


 上目づかいで話してくるアルフレドを見て、ユウキは胸が「キューン♡」となってしまった。


(か、可愛い…。ナニコレ、この可愛い生き物は。わかる。今ならわかる。望お姉ちゃんがわたしにしつこいくらい構って来たのが。弟ってこんな可愛いんだ…)


「モチロンですとも。寧ろこっちからお願いしたいくらいです! よーし、わたし、お姉ちゃんだから、アルフレド様じゃなくって「アル君」って呼ぼうかな」

「うん! やったー、ボクのお姉ちゃんだー!」


「アル君、何か食べに行こうよ!」

「うん、お姉ちゃん!」


 ユウキとアルフレドは手をつなぐと、デザートがたくさん並べられたテーブルに向かった。そこにはアンジェリカもいて、手を振ってユウキたちを待っている。ユウキは思った。これは自分が落ち込んでいたのを見たアルフレドなりの励ましなんだろうと。でも、ユウキはその優しさが嬉しくて、素直にアルフレドの気持ちを受け入れたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] アルフレド君の登場で久々にほっこりしました。ユウキにもはやく幸せが訪れますように。
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