第393話 最高のご主人様
「ん…んん…」
「あ、お目覚めになりました?」
「ここは…?」
目を覚ましたユウキはふかふか布団が敷かれたベッドに寝かされているのに気づいた。体を起こそうとしたが、疲労の残る体に力が全く入らない。
「ああ、無理しちゃダメですよう!」
「うう…、あ、頭が痛い…」
「お姉さんは魔力の使い過ぎで倒れたんです。休んでなきゃダメですよぅ」
咄嗟に体を支えてくれたのは、お屋敷に来た際に案内してくれた猫耳亜人の可愛いメイドさんだった。
「あなたは…」
「ミウといいますの。このお屋敷で働かせていただいてますの」
そう言うと、ニコッと笑ってパタパタと部屋を出て行った。ふう…と息をついて改めて部屋を見ると、ユウキの足元で人型モードになったアルフィーネが椅子に座ったまま眠ってる。よく見ると何かいい夢でも見ているのか、ヨダレを垂らして、にへら~と笑ってる。また、隣にもベッドがあって、そこではアンジェリカが眠っていた。
「そうか…、わたし、みんなから魔力をもらって…。アンジェ、アルフィーネ、ありがとうね…」
ふと気づくとイヤリングとペンダントがない。慌てて周囲を見回すと、部屋の一角に置かれた机の上にあった。ホッとしたユウキはベッドから出て立ち上がり、机に向かおうとしたが、足に力が入らずペタンと床に座り込んでしまった。
「うう…足に力が入らないよ…」
そのまま、しばらく立ち上がろうと藻掻いていると、部屋の戸がバタンと開いてミウとガリウスが入ってきた。
「あっ! ベッドから出てはダメですよぅ」
「あ、足に力が…」
パタパタと走り寄ったミウがユウキを立たせようとするが、ミウより一回り大きいユウキはびくともしない。そこに、ガリウスが来て、ひょいとユウキを抱きかかえた。
「わ、あわわ…」
「無理するな。君は魔力を使い果たして、自由に動けない状態だ」
お姫様抱っこでベッドに運ばれたユウキはそっと寝かされ、ミウが布団を掛けてくれた。
「おやぁ、お姉さん、お顔が真っ赤っかですよぅ」
「ちがうもん!」
「わはは。ユウキ・タカシナ、さあ、見てくれ」
「入ってきなさい」
ガリウスが声をかけると、部屋の中にアストレアに肩を押されて1人の男の子が入ってきた。ユウキはミウに手伝ってもらい、上半身を起こして母親似の美少年を見る。
「アルフレド王子…」
アルフレドは、はにかんだように笑顔を向けるとユウキのベッド脇まで歩いて来てユウキの手を握る。
「お姉ちゃん…。お姉ちゃんがボクを助けてくれたんでしょ。ありがとう」
「見て、ボク、もうこんなに元気だよ。もう全然苦しくないんだ」
アルフレドの手を握り返したユウキは、その温かさと溢れる笑顔に思わず涙が零れ、アルフレドをぎゅうっと抱き締めた。
「よかった…。本当によかった…。もう大丈夫だね…」
「わっぷ、く、苦しいよ…。お姉ちゃん」
「えっ…、まだ苦しいの!? どっか、痛い? 直ぐ治してあげる」
「ちがうよ、お姉ちゃんのお胸で息ができなかったんだ」
「…もう。驚かせないで」
ユウキはもう一度、今度は優しくアルフレドを抱き締めた。その2人を見てガリウスとアストレアの目にも涙が浮かぶ。いつの間に起きたのか、アンジェリカとアルフィーネも涙ぐんでいる。
「本当に感謝しても感謝しきれない。息子のこんな笑顔が見れるとは、今でも信じられないくらいだ。ユウキ・タカシナ、いやユウキと呼ばせてもらおう。本当にありがとう」
「私からもお礼を言わせてもらいます。貴女のお陰でアルフレドは命を取り留めました。新たな人生を…、未来の幸せを掴むことができるんです。ユウキさん、貴女は私たち親子を救ってくれた恩人です」
「ありがとうございます。でも、結局わたし1人では無理でした。ここにいるアンジェやアルフィーネ、表には出てこなかったけど、エロモンとアース君がわたしに力を貸してくれたから、そして…」
ユウキはアルフレドを優しい視線で見る。
「アルフレド様の心が…、生きたいと強く願う心がわたしの中に流れ込んで、力を増してくれたんです」
「ボク、本当は死にそうだったの。でも、お姉ちゃんの声が聞こえたんだ。「生きて、そして幸せをつかむのよ」って。その声を聞いて、ボクも生きたい。生きてパパとママと遊びたいって思ったら、ほら、このとおり元気になったんだよ」
「ああ、アルフレド…」
アストレアが息子をしっかりと抱き締める。
「ユウキのおかげで息子だけじゃない、アルフィーネも救われたのだ」
『はい! やっぱりユウキ様は最高のご主人様です!!』
「そうだな。でも私はアルフィーネ、君にも感謝しているんだ」
『わたしもですか?』
「ああ、息子の苦しむ様子を見て、君は自分の命を差し出そうとしてくれた。魔物の君にそんな義理も何もないのにだ。君は何て優しい魔物なんだろうと思った。と同時に君の命を奪いたくないとも思ったのだ。アルフィーネ、改めて感謝を伝えたい。ありがとう」
『えへへ…照れますね』
「それでだ、王家の墓の浄化は完遂。アルラウネの花を得るという任務は果たされなかったものの、結果的に息子の命を助けるという目的は達成された。よって、この2つの任務の完了をここで宣言する。国に与えた損害金もこれで相殺だ。おめでとう」
「え…、え…、ホントですか、やったぁーーー!」
「やったなユウキ! これでキレイな体になったんだ」
「うん、アンジェ。よかったー」
「よかったね、お姉ちゃん」
アルフレドがユウキの胸にぼーんと飛び込んできた。そのアルフレドをユウキとアンジェリカ、アルフィーネの3人でだっこして喜ぶ。6つの大きなおっぱいに挟まれて幸せそうな笑顔をする息子を見てガリウスは羨ましそうな視線を送り、怒ったアストレアに思いっきり尻をつねられて、「イテッ」と声を上げるのだった。
「う…、ゴホン。それでだ、息子の回復を国王と王妃に知らせたらもう大喜びでな。回復祝いの大パーティを催すと言うんだ。是非ともユウキとアンジェリカにも出席してもらいたい。できればアルフィーネも一緒にと思うのだが」
「わたしとアンジェは喜んで。でも、アルフィーネは勘弁してくれませんか」
『ごめんなさい、ガリウス様。その代わり、パーティが終わったらお坊ちゃんと遊ばせてください』
「そうか、わかった。無理を言って済まなかった。パーティは3日後だ。それまではここでゆっくりしていてくれ。宿には使いを出しておこう。それと、用があればミウに言いつけてくれ」
ガリウスとアストレアがアルフレドを伴って部屋を出て行った。その際、アルフレドが小さく手を振ったので、ユウキとアンジェリカも手を振り返す。3人が出て行った後、ぱたんとベッドに倒れ込んだ。
「アンジェ、アルフィーネ、ホントにありがとね」
「何言ってるんだ、私とユウキは親友じゃないか。友のピンチに手を差し伸べるのは当たり前だ。ユウキだって、アレシアで孤独で打ちひしがれていた私に手を差し伸べてくれたじゃないか。同じことだよ」
『アルフィーネも同じです。アルラウネの危機を助けてくれたユウキ様には返しきれない恩がありますもん』
「ふふ、友情の絆、いいですねぇ~。ミウもそんな友だち欲しいな~」
ミウは笑いながらユウキとアンジェリカに布団を掛け、ゆっくり休むように言って部屋を出た。ユウキは頭を動かして机の上に置かれているイヤリングとペンデレートを見る。そして心の中で「ありがとう」というと、静かに眠りに就くのであった。
ユウキとアンジェリカが眠ったのを見て、アルフィーネは机の側に行き、イヤリングとペンデレートを手に取って胸の前でギュッと握りしめる。
『エドモンズさん、アース君、アルフィーネを救ってくれてありがとうです。みんなと一緒にいられることが嬉しい…』
アルフィーネの目から涙がひとつ零れ落ち、手の中の宝石にぽとりと落ちた。その瞬間、宝石がキラッと優しく光った様な気がした。
それから3日間、ユウキとアンジェリカはガリウスの屋敷に滞在し、ゆっくりと休ませてもらい、疲労を完全回復させた。そして、今日はアルフレドの快気祝いのパーティの日。ミウは朝からユウキとアンジェリカの準備のため、ばたばたと忙しそうに動き回っている。
「2人とも、お風呂は済ませましたね。では今からお化粧して衣装替えしますの。案内しますので、こちらにきてくださーい」
「は、はいな」
ミウに急かされて、化粧室に連れてこられた2人。既にアストレアがメイド数人に囲まれてお化粧をしていた。
「あら、ユウキさんにアンジェリカさん」
「おじゃましますアストレア様。わあ…、とってもキレイ…」
「ホントだな。白い肌にお化粧が映えて美しいです」
「うふふ、お世辞を言っても何も出ませんよ。今日は息子と貴女方が主役ですから、バッチリと決めてくださいね」
「ありがとうございます。お世話になります」
ミウが指定した椅子にそれぞれ座ると担当のメイドさんが集まってきて、手際よく髪を整え、お化粧をし、ババっと服を脱がせて着替えさせようとしたところで、メイドさんたちからため息が漏れる。
「お、大きい…」
「大きいだけじゃなくて張りもあって形もいいわ」
「くぅうううっ、妬ましい! 頭来た、揉みしだいてやる! モミモミモミ…」
「うわあ! や、やめてぇ~」
「ひゃあ、私は胸が弱いんだ。ダメ、先っぽはダメぇ~。あふん(⋈◍>◡<◍)✧♡」
「あなた方、いい加減にしなさい!」
アストレアに叱られ、シュンとなったメイドさんの妬みの視線を浴びながら、ユウキとアンジェリカは衣装合わせをさせられるのであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
屋敷の玄関前では3頭引きの大型馬車と十数名の護衛兵が待機している。兵が見守る中、玄関の戸が開けられ、館の主ラファール国王太子ガリウスが嫡男アルフレドを伴って出てきた。兵が一斉に剣を捧げ、臣下の礼を取る。続いて現れたのは王太子妃アストレア。美しい金髪を金と宝石で装飾された豪華な髪飾りで留め、清楚な白のドレス姿はとても美しい。アストレアは護衛兵に笑顔で礼をすると、ガリウスとアルフレドと共に馬車に乗り込んだ。
続いてメイドの先導のもと現れたのは人の女性。1人目は金髪をアップにし、白いレースのリボンで結んだ美女アンジェリカ。黒レース地のひらひらのロングフィッシュテールドレスはDカップの美乳を際立たせ、小さく覗く谷間が美しく、引き締まったボディスタイルの良さも相まってとても美しい。
アンジェリカは元貴族の子女とあって所作も美しく、護衛兵に軽く礼をすると、メイドとともに馬車に乗り込んだ。
最後に現れたのはメイドのミウに手を引かれた女性。艶やかな黒髪を銀の刺繍で縁取りされた赤いリボンで結び、軽く化粧をされた顔は見る者全ての目を奪ってしまうほど美しい。肩から胸にかけて大きく開いた桜色のワンピースドレスはこれでもかと美巨乳を主張し、締まった腰から流れるヒップのラインを際立たせる。また、首に巻いた親愛のチョーカーがアクセントとなって可愛らしさを一層増している。
「さあ、ユウキさん行きますよぅ」
「う、うん…(護衛兵の皆さんの目が集中して、恥ずかしいよぅ)」
気恥ずかしさでほっぺを赤くした顔がまた可愛らしく、護衛兵は口には出さないものの、王太子一家よりこの子を守りたいと思ってしまうのであった。




