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第391話 アルフレド

 王家の墓の魔物とアンデッドを排除し、その原因を突き止めたユウキたちは、疲労困憊の体を引きずって、ラファールの首都アルビレオに戻ってきた。


「疲れた…。わたしたち一旦宿に戻るね。明日、改めてお城に登城するから」

「わかった。兄上には私から経過も含めて伝えておこう。明日の午後、迎えを寄越す」

「へーい。しくよろー」


 ユウキとアンジェリカは宿に到着すると、食堂で空腹を満たし、大浴場で汚れた体をきれいにすると部屋に戻ってベッドに入り込むと、直ぐに眠りについた。


 翌日、昼過ぎまで寝ていたユウキとアンジェリカは目を覚ますと、もそもそとベッドから這い出た。


「ふぁ~あ…。眠い…疲れが全然取れないよ…」

「全くだ。お肌に悪いよ」


「もう少ししたらお迎えが来るね。着替えて準備しよっか」

「だな。さて、風呂にでも入ってさっぱりしてくるか」

「待って、わたしも行く」


 大浴場で体と髪を洗い、湯船に浸かって少しだけ疲れを癒した後、脱衣場で風の魔法石を使った乾燥具で髪の毛を乾かし、洗面所で歯を磨いた2人は部屋に戻って、服を着るとお互い手伝ってもらいながら髪の毛を整え、軽くお化粧をして準備を整えた。と言っても今日は話をするだけだから普段着だ。


 ユウキは白の厚手のブラウスにショート丈のニットカーディガン、黒のベルト付きプリーツスカート。腰にはいつも通りマジックポーチ。アンジェリカは茶系のハイネックニットトップスにひざ丈のフレアースカートにタイツ。髪型はユウキは肩下まで伸びた髪をポニーテールにして大きなリボンで結び、アンジェリカはアップにした髪に銀の髪飾り。2人はお互いをチェックし合い、満足すると部屋に鍵をかけて外に出た。


 フロントに部屋の鍵を預け、玄関前で待っていると間もなく、迎えの馬車が来た。中からサラが首を出して乗るように言って来たので、2人は馬車に乗り込んだ。馬車はしばらくお城方面に進んでいたが、途中で道を変えた。それに気づいたユウキがサラに尋ねる。


「ん、お城に行かないの?」

「えっとですね、ユウキさんとアンジェリカさんをガリウス様のお屋敷に案内するように言われてまして。どうやら次の依頼に関係あるようなのですが…」


「ぽんこつド変態王子も呼ばれているの?」

「いいえ、お二人だけです」


「何だろうな」

「うん…。でも行かない選択肢は、わたしたちに無いからね」


「あまり面倒な事でなければよいがな」

「だね」


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 宿を出て1時間ほどで郊外の高級住宅街に出た。その中でも特に厳重に警備されている区画に入り、さらに30分ほど進むと何人もの警備兵が守備している門に到着した。サラが降りて行って警備兵に何事か話すと戻ってきて2人に降りるように言ってきた。


「えっと、あたしの案内はここまでです。ここからは2人でお願いします」


 と言って馬車で戻っていってしまった。残されたユウキとアンジェリカに警備兵の1人が近づいて、身分証になるものはあるかと聞いてきたので、冒険者登録証を見せた。


「ユウキ・タカシナとアンジェリカ・フェル・メイヤー。うん、間違いないようだな。ガリウス様がお待ちだ。案内するから着いてくるように」

「はい、お願いします」


 2人は門の中に誘導され、警備兵の後に続いた。広い前庭の歩道をトコトコと歩く。歩道の両脇は見事な庭園となっていて、いくつもの花壇が設えている。季節が良い頃なら見事な花が咲いているだろうとユウキは思った。


 10分ほど歩くと白亜の大きなお屋敷に到着した。玄関のベルを鳴らすと直ぐに扉が開いて可愛い亜人のメイドさんが現れた。


「ミウ、ガリウス様のお客さんをお連れした。案内を頼む」

「は、はいっ! ど、どうぞこちらに」


 あわあわとした様子でユウキとアンジェリカを案内する猫耳のメイドさんに、思わず笑みが零れてしまう。2人が案内されたのは2階の応接室だった。ソファに腰かけて待っていると先ほどのメイドさんが暖かい紅茶を出してくれた。


「ありがとう」

「いえいえ」

「美味しいな、この紅茶」

「いえいえ」


 といったやり取りをしていると、ガリウス王子が入ってきた。猫耳のメイドさんは慌ててぺこりとお辞儀をするとパタパタと部屋から出て行った。

 ガリウスは2人の対面に座ると早速昨夜のことを切り出した。


「大体のことはラインハルトとサラから報告を受けている。だが、2人の口からも聞いておきたい」

「ではでは…」


 ユウキとアンジェリカは王家の墓に巣食う魔物と各階にボス的に存在したアンデッド(先代の王や王妃)を退治したことを順を追って説明した。そして…、


「最上階にいたのはウルの死霊使いでした。何でもウルはいずれこの大陸を、世界を手にする。そのためには兵がいる。そのために死人をアンデッド化して兵士として自在に操るという実験をしていたと…」

「だが、そのためにヤツが持っていた「反魂珠」は、蘇った初代王オルソンが持ち去ってしまいました。その時オルソンは、王妃アメリアを蘇らせ、この大陸に千年王国を築くと、そのためには邪龍ガルガの血が必要だと語っていました」


「うむ…。ウル…か。ウルの内部で武闘派と穏健派が暗闘しているという噂がある。武闘派が何かを企み、わが国で事を起こしているということか。それは当方で調べよう。いや、ご苦労だった。これで任務のひとつは完了だな」


「よかった。あとひとつですね。何をすれば良いのでしょう」

「うむ。次に君らにやってもらいたいのは、薬の材料探しだ」

「薬の材料?」


「ああ、説明するより見てもらった方が早い。悪いが一緒に来てくれないか」


 ガリウスは立ち上がるとユウキとアンジェリカに着いてくるように言い、部屋を出た。ユウキとアンジェリカも後に続く。2階から3階、4階と階段を上がり、最上階の5階に到着した。


「どこに行くんですか」

「間もなくわかる」


 5階の奥でガリウスは立ち止まり、ある部屋の前でノックして中に入る。ユウキたちも部屋に入って様子を見回す。部屋はかなり大きな部屋で、中央に豪華で大きなベッドがあり、誰かが寝かされている。ベッド脇には椅子が置かれ美しい女性が座って心配そうにベッドで寝ている人物を見ていて、側にメイドさんが1人付き添っている。


「あの…、ここは…?」

「入りたまえ」


 ガリウスはベッド側までユウキたちを連れてくる。ユウキはベッドに寝かされている人物を見た。その人物は6~7歳くらいの男の子で、青白い顔をして少々荒い呼吸をしていて苦しそうだ。男の子はガリウスに気付くと、にこっと笑った。


「パパ…」

「アルフレド。具合はどうだ」

「うん…。いつも通りだよ」

「そうか…。きっとパパが病気を直す薬を見つけるからな。それまでママの言うことを聞いて、良い子にしているんだぞ」

「うん。ボク、早くお外で遊べるようになりたいな…うっ、ゲホッ…、はあはあ…」


 男の子が苦しそうに咽る。ベッド脇の女性が男の子を横にして背中をさすってあげると、落ち着いたのか、呼吸が少し楽になって眠ってしまった。


「あの…?」

「……向こうで話そう」


 ガリウスは女性を伴って部屋の一角に設えてある丸テーブルにユウキたちを案内し、メイドにお茶を淹れるよう申しつけた。


「妻のアストレアだ」


 アストレアはやや癖のある金髪を腰の辺りまで伸ばした美しい女性だった。しかし、看病の心労であろうか、表情が暗く顔色もあまりよくない。


「ユウキ・タカシナです」

「アンジェリカ・フェル・メイヤーと申します」


 2人がぺこりと頭を下げると、アストレアも礼をしてガリウスと一緒に席に腰かけた。それを見てユウキとアンジェリカも椅子に座る。メイドの1人が紅茶を運んできて全員の前に置いた。テーブルの上に紅茶の香ばしい匂いが漂う。ガリウスはメイドに下がるように言うと、メイドは軽く礼をして部屋から出て行った。


「アルフレドは私たち夫婦の1人息子でな、10年待ってやっと生まれた宝物なんだ。だが、見ての通り生まれた時から病弱で、重い病気にかかっている」


「何の病気なんですか?」

「医師に言わせると心臓の病気らしい。ただ、それ以上のことは分からないそうだ。そして、命の期間もそれほど長くないとも言われた」


「ううっ…」

 アストレアが小さく嗚咽を漏らす。


「今まで様々な薬を試したのです。でも一向に効果が無く、日に日に病状が悪化するばかり…。やっと授かった私たちの子が、一度もベッドから出られず、子供らしいこともできず、死んで行くなんて…。そんなの耐えられない…。うっ…ふぐっ…。うう…」


 ハンカチを握り締め涙をボロボロ零すアストレアの肩を優しく抱くガリウスを見てユウキもアンジェリカも切なくなる。


「だが、私は諦めていない。国中の博士に何か治療法はないか調べさせた。その結果、ある魔物から得られる素材で作るエリクサーという万能治療薬なら治せる可能性があると言うことが分かった」


(エリクサー。まさか…)

 ユウキはそっと胸のペンデレートに触れるとアルフィーネの怯えの波動が感じられた。


「エリクサーはアルラウネの花から得られるという。そこで、君たちの最後の依頼だが、幻の魔物といわれるアルラウネを探し出し、その花を手に入れること。それも、可及的速やかにだ」


(やっぱり…)


「ユウキ、この依頼…」


 アンジェリカが不安そうにユウキにどうするか問いかける。アルフィーネの事を考えているに違いないとユウキは思った。断ることも出来るが、その場合アルフレドは助けられないし借金も残る。しかし、アルラウネの花を得るということは、アルラウネを殺すことに繋がる。さて、どうするか…。ユウキが思案していると、胸のペンデレートが眩しく輝き、光の中から1体の魔物が現れた。


「ア、アルフィーネ…」

『ご主人様』

「お、おい、隠れていなきゃダメじゃないか」


 現れたのはアルラウネのアルフィーネだった。突然のアルラウネの出現にガリウスとアストレアは驚く。アルフィーネは2人に小さく礼をすると、ベッド脇まで移動し、苦しそうな息をしながら眠るアルフレドを見つめる。


『…………。(魔物のわたしでも分かります。この子の命は尽きかけている。生まれてからずっと苦しんで、幸せを得ることなく死を迎えるのですね…)』


 アルフィーネはグッと顔を上げると、ガリウスとアストレアに向かって、


『わたしはアルラウネのアルフィーネ。ユウキ様の眷属です。どうか、わたしの花を使ってこの子を助けてください』


 と申し出たのだった。

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