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第389話 明日のサラ

『顔が…、わらわの美しい顔がぁあああっ! きさまぁ…許さんぞ、貴様から殺すっ!!』

「死ぬのはお前だ…カリス」


「さ、サラ…さん」


 醜く顔を歪ませ、立ち上がったカリスを殴り倒したのはサラだった。しかし、その表情はいつものノホホンとした女の子のモノではなく、恋する男を骨抜き&道化にした目の前の怪物に怒りを燃やす闘士の顔だった。その豹変ぶりにユウキは驚く。


 サラは上着を脱ぎ棄て肌着1枚になると、自分の両手にぐるぐると布を巻き付けてファイティングポーズを取った。前髪をはらりと垂らし、狼のような眼をして前傾姿勢で軽く肘を引いた姿にユウキはある人物を思い出した。


「ジョー…。ジョー・ヤブキ…だ」

「誰それ。知ってる? エド」

『知らん』


 悪鬼カリスがサラに飛び掛かった。鋭い爪を光らせ、切裂こうと手を伸ばす。しかし、サラは軌道を見極め、皮一枚で躱すと右ストレートをカリスの顔にヒットさせる。「ビシッ」と鋭い音がしてカリスの顔が歪み、口の端から血が滲む。


『がはっ!』


 たたらを踏んで後退するカリスに隙ができる。サラはキラリと眼を輝かせるとダッシュで懐に切れ込んだ。


『なにっ!』

「王子を…、よくも王子をあんな目に…。ぶちのめしてやる!」


「サラってあんな子だったっけ…」

「怖いんだが。ちびってしまいそうなんだが」

『アンジェよ、替えのパンツはもう無いぞ』


 懐に入ったサラにカリスが恐怖する。しかし、その思考は一瞬で刈り取られた。「ズドン!」と爆発音がしてボディに深々とパンチが食い込む。


『が…は…っ』

「ウソ、あの至近距離でボディーブローを打つの!?」


 ボディへの強烈な一撃で前傾姿勢になったカリスの顔がサラの肩の高さまで落ちる。驚愕の表情でサラの顔を見たカリス。そこに左右の高速フックがめり込んだ。カリスの脳が左右に振られ意識が混濁し、床に倒れかかる。しかし、サラはそれを許さず、軽いアッパーで顔を上げると、体全体を左右に振って左右のフックを連続で打ち込んだ。

 棒立ちになるカリスに高速フックが連続で打ち込まれる。打撃の間隔が僅かなため、棒立ちの状態で固定され、倒れることも許されない。右に左に体をウェービングしながらパンチを繰り出すサラ。いつしかサラの体は∞の軌道を描き、速度を増した強烈なフックが暴風のように打撃を与え、カリスの顔から血飛沫ちしぶきが飛ぶ。


「サラの動きが無限の軌道を描いてる…。まさかアレは…。で、デンプシー・ロール!!」

「で、でんぷん…? エド知ってる?」

『知らん。だが、そろそろ儂も準備せねば』


 ユウキの驚愕を他所に、サラの驚異のデンプシー・ロールは唐突に終りを告げた。悪鬼カリスは顔をどす黒くパンパンに腫らしたまま意識を失った。


「デンプシー・ロールで意識を刈り取ったら、次はきっと…」


 ユウキの予想通り、サラは腰を低く落とし、右腕を体の脇に引いた姿勢を取った。そのサラに向かって、ゆらりと悪鬼カリスが倒れかかる。サラは身体をやや左側に捻りつつダッキングして、そこから伸び上がって相手の懐に飛び込むのと同時に強烈なアッパーをカリスの無防備な下顎に叩きつけた!


「やっぱり出たーーー! ガゼルパンチッ!!」

「ガゼルパンツ?」


 ガゼルパンチの打撃音とともに、悪鬼カリスの首が上に向かって強引に引っこ抜かれる。カリスは天井を向いたまま数秒間停止した後、がくりと両膝を床に着き、ばたりとうつ伏せに倒れた。すかさず白いシャツに蝶ネクタイを着け、スラックスと革靴を履いたエドモンズ三世がカウントを取る。


『ワン、ツー、スリー…』

「あのエロ骸骨、いつの間に…」


『ナイン、テン!! 勝者、胸はないけどお股は剛毛の女戦士サラ! ぐっはあ!』


 エドモンズ三世がサラのガゼルパンチを喰らって吹っ飛ぶ。倒れたカリスをメイドゾンビの1人が肩を抱いて助け起こし、もう1人がユウキを手招きする。呼ばれるままに近づくと手招きしたメイドゾンビがお願いをしてきた。


『エッチなお姉さんは死者送還の魔法が使えると見ました。このアホ女は再起不能です。なので、わたしたちを送還して下さい』

『お願いします。わたしたち今まで迷惑していたんです。ゆっくり眠りたい』


「わかったよ、そのために来たんだしね。では…、女神エリスの名の下にユウキ・タカシナが願う。この救いを求める者たちに魂の救済と安寧を賜り給え。至高の女神エリス、我の願いを聞き届けよ。ターンアンデッド!」


 悪鬼カリスとメイドゾンビが眩しい光に包まれる。光の輝きの中でカリスとメイドゾンビは光の粒子となって消えて行った。メイドゾンビは最後にユウキに微笑み、『ありがとう』と言ったような気がした。


「ふう…。何とかこの階も浄化で来たね。頑張ったね、サラ」


 ユウキがサラの肩をポンと叩いて敢闘を労った…が、サラは振り向き様にスマッシュ(スリークォーターから放たれるフックとアッパーの中間のパンチ)を放ってきた!


「危なっ!!」

「凄いパンチだ。当たったら死ぬぞ。気をつけろユウキ!」


 間一髪避けたユウキに、両手をだらりと下げ、ノーガードで近寄るサラ。顔の前に長く垂らした髪の奥に光る目は完全にイッていて、薄ら笑いを浮かべたその姿は、「優季」の知る真っ白に燃え尽きたアイツそっくりだった。そのアイツ姿のサラが左のジャブを打つ。ユウキが躱すと右のジャブに切り替える。ジャブを避けようとユウキが体を動かすたびに見事な巨乳もプルプル動き、サラの怒りを一層増していく。


「巨乳…、ラインハルト様を骨抜きにした巨乳。魔族には絶対持ち得ない幻のパイオツ。許さない…。巨乳死すべし!」

「なんでやねん!!」


「うらぁあああ!」

「こなくそっ!」


 業を煮やしたサラが再びスマッシュを放った。命中する瞬間、屈んでパンチの下に潜り込むが、髪の毛をパンチが掠り、髪の毛が何本か切れて飛ぶ。ユウキは屈んだまま床に両手を当てて、低い姿勢からサラの足元を狙って回し蹴りを見舞う。「バシン!」命中音とともにサラが足を持っていかれ、仰向けに倒れた。すかさずサラの腹の上に乗っかって両手を抑える。


「サラ、もう戦いは終わったの。正気に戻って」

「一体どうしたんだ?」


 アンジェリカも暴れるサラの足を押さえて、何故サラが戻らないのか不思議に思う。そこにサラに殴り飛ばされていたエドモンズ三世がズレた頭蓋骨を直しながら戻ってきた。


『どうやらこの娘は何かにとり憑かれているようじゃの』

「霊に憑依されてるってこと?」(ユウキ)

『そうじゃ』

「ヤダ怖い」(アンジェ)


「一体どうしたら…、ええい、ままよ! ターンアンデッド!」

「がぁあああっ!」


 神の奇跡が光の粒子となってサラの体を包み込む。やがて憑依していた霊魂がサラの体から抜け出てきた。それは前髪を長く伸ばし、狼のような鋭い目を持った男の姿をしていた。憑依霊は浄化の力によって徐々に消滅していく。最後に霊は一言呟いた。


『燃え尽きたぜ…真っ白によ…。教えてくれ、明日は…どっちだ…』


 呟きとともに霊魂が消えたのを見届けたユウキは、スッと立ち上がると天井を見上げ、


「さよなら、ジョー。何でアンタがここにいたのか分んないけど」


 と言って小さく手を振った。傍から見ればいいシーンなのだが、いかんせん、ユウキの姿はおっぱいの先とお股を隠しただけのスッポンポンに近い痴女姿。ふっと我に返ったユウキは自分の姿に猛烈に恥ずかしくなって「ひゃあああ~」と悲鳴を上げて、サラが作った土壁に駆け込んでバタバタと着替えるのであった。


「う…ううん」

「お、気が付いたか」


「あ、あれ…? あたし…どうしちゃったの?」

「何だ、覚えてないのか。実は…」


 ユウキが着替えている間、気が付いたサラを抱え起こしたアンジェリカは、サラに何者かの霊がとり憑き、女の色香に目が眩んだ不甲斐ないラインハルトとユウキのばいんばいんの巨乳への怒りを増幅させ、圧倒的な力をもって、諸悪の元凶であるカリスを叩きのめし、その後、ユウキに襲い掛かったものの、反撃にあって霊を浄化され、気を失った事を教えてくれた。


「そう…、迷惑をかけたわね。………はっ! 王子、ラインハルト王子はどこ!」

『ここにおるぞ』


 エドモンズ三世に連れられて来たのは、妙にスッキリした表情のラインハルトだった。パタパタとサラが王子のもとに駆け寄って無事を確かめる。


「王子…。ご無事で…グスッ」

「心配かけたな。私は無事だ、パンツ以外は」

「よかった…。ん、王子、何かスッキリしてません?」

「ん、まあ、ちょっとな(気絶の際に溜まってたのが一気に射精たからな。こんなこと絶対にサラには言えん。殺されてしまう)」


「ふう、大変な目に遭った。あら、サラもぽんこつも気が付いたんだね」

「ユウキ、着替えてきたのか」

「うん。でも変なんだよね」

「何が?」

「持ってきていたパンツが足りないの。アンジェに貸した分引いても1枚少ないんだよね」


『ユウキのパンツなら儂が借りた』

「エロモン。もしかしてエロモンが穿いてるの!?」

『まさか。儂はパンツなぞ必要ない。パンツを汚した王子に貸したのじゃ』


「あれはユウキのパンツなのか。紐と小さなデルタゾーンしかなくて、玉袋を包むと「もっこり」が目立つのだが。竿もぴったりと腹に上向きで押し付けられて、先も少しはみ出るし。だがこれしかないんじゃ仕方ない。しばらく借りるぞ」


「バ…、バ…、バカァーーーーッ!!!」

『ワハハハ、真っ赤になって可愛いのう』


「心底嫌がっているとしか思えんのだが」

「王子が…、ラインハルト様がユウキのパンツを…。もっこりってアレよね。見たい…」


「このこのこのぉ~、バカワイト! 死んじゃえ!」

『こ、こら。首をもごうとするな、止めんか!』

「うぇぇ~ん。恥ずかしい~よ~」


「あ~あ、泣かせちゃった。エドったらもう。ほらユウキ。泣くな泣くな。後で私が可愛いパンツ買ってあげるから」

「ふぇええええん。アンジェ~」


「ふむ…。このようなパンツは初めてだが、こう…何か癖になりそうだな。フィット感がいい」

「王子、後でそのパンツ、あたしに下さい。あ、洗濯はしなくていいです」


 数々の聖職者や戦士、冒険者を飲み込んできたアンデッドと魔物の巣窟「王家の墓」。知恵と暴力で全8階層のうち7階まで突破し、魔物を蹴散らしアンデッドを浄化した一行。残るは最上部の8階のみ。そこに恐らく王家の者たちをアンデッド化した元凶があるに違いない。いやがおうにも緊張感が高まる…はず。しかし、ギャン泣きするユウキと宥めるのに苦労するアンジェリカ。ユウキにもがれた頭を這いつくばって探すエドモンズ三世。ユウキの極小ビキニパンツを穿いて痺れるフィット感に変態的な性癖が目覚めたラインハルト。その変態王子をうっとり見つめるボクサー・サラ。そこには緊張という言葉に無縁の者たちしかいなかった…。

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