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第4話 二人の決意そしてゴブリンとの邂逅

「ひっ、何これ…」

「お姉ちゃん、これ骸骨だよ。本物? 怖いよ…」


 望も優季も顔を真っ青にして骸骨を見つめる。

 大木の根元に横たわっている銀色の鎧を着た骸骨。それほど時間がたっていないのか、それほど古びた感じはしない。ただ、鎧の下に肉が残っているためか、強い腐敗臭が漂い、2人は顔を顰める。


 望が勇気を出して死体を調べると、鎧の胴回りには大きな亀裂があり、血の流れた跡があった。恐らく何者かと戦ったが、胴に致命傷を受け倒れ、そのまま亡くなったのではないかと思われた。


「…………」

「お姉ちゃん。どうしたの?」


 考え込んだ望を見て優季が不安そうに尋ねる。


「優季、もしかしたらここは日本ではないかもしれない。いや、地球ですらないかも…」

「どういうこと?」

「私たちのいた時代にはこんな鎧を着て戦う人はいない。あるとすれば映画の中だけ。でも、この死体は本物だわ」

「しかも、鉄砲で撃たれた跡みたいなのは無いし、この胴の傷は鋭い何かで切り裂かれたように見える」


「どういうこと?」


「ここは、私たちが住んでいた世界ではないかもしれないということよ」


「えー、何で!?」


「わからないよ! 私が教えてもらいたいよ!」

「でも、今思い出すと津波に飲み込まれる寸前、私たちの回りが光ったような気がした。もしかしたら、その影響でここに来たのかも…」

「じゃあ、もう戻れないの? お父さん、お母さんに会えないの?」


 優季が大粒の涙を流して泣き出した。望も泣き出したかったがグッとこらえて優しく優季に話しかける。


「優季、私たちはあの津波で死ぬところだった。でも、どういう理由かわからないけど、今生きている。日本に戻れるかどうかはわからないけど、ここで生きていかなければならないなら頑張るしかない。私が優季を守る。絶対守る。だから泣かないで」


「わかった…。お姉ちゃん、ボク泣かないよ。ボクもお姉ちゃんを助ける」


 優季はしばらくグズグズしていたが、顔を上げて望に向かってもう泣かないと言い、しっかりと抱きつくのであった。


「さて、そうとなれば…」

「どうするの?」

「この騎士さんから使えるものをいただきましょう」


 望は鎧の周囲を見回すと、刃渡り80㎝ほどの両刃の大剣と、鞘に入った30㎝ほどの小剣を見つけた。大剣の方は血が付いたと思われるところは錆びていたが、小剣の方は鞘に納められていたこともあり、きれいなままで刃こぼれもなかった。


「大きい剣はダメね。錆びているし、何より重くて私には持てないわ。小さい剣だけいただきましょう。私が持つね」

「お姉ちゃん、こんなの見つけたよ」


 優季が見つけたのは皮でできた小袋に入った硬貨だった。


「銀貨と金貨ね」

 入っていたのは銀貨が数十枚と金貨が数枚。


「金貨とか銀貨とか初めて見た。ありがたくいただきましょう。人のいるところに行ったらお金は必要だわ」

「さあ、ここから離れましょう」

「でも、どっちに行くの?」


 その場でよく耳を凝らしてみると、かすかに水の流れる音が聞こえる事に望が気付いた。


「優季、水の流れる音がする。川があるかもしれない、音のする方向に行ってみましょう」

「わかった」


 2人は手を繋いで歩き出す。音のする方向に向かってしばらく行くと、あまり大きくないが川が流れているのを見つけた。


「やった、川だよ! 川の流れる方向に行けば人が住んでいる場所に行けるかも知れない。優季、もう少し頑張ろうね」

「お姉ちゃん。でもボク、お腹すいたよ…」


 そういえば、目覚めてから大分経つが何も食べていないことに気づいた。望は服のポケットをまさぐるが、ポケットティッシュとハンカチ以外何もない。周りを見回しても低木に実る変な色の実や怪しげな色のキノコが生えてはいるが、毒があったら困るので手を出せない。


「ごめん、何とか人のいるところまで行こう。それまでは我慢して」

「うう…」


(ごめんね優季)


 望は心の中で優季に謝る。早く人里に行って食べ物を分けてもらおう。望はかわいい弟のため、萎えかける心を奮い立たせて進むのであった。


 さらに進むと、比較的河原の広い場所に出た。しかし、日も傾いてきて薄暗くなってきた。これ以上進むのは危険かもしれない。食べ物はなく、火を起こすこともできない。そして、夜は何が起こるかわからず、獣に襲われるかもしれない。危険を冒して進むのはどうかと考えた結果、望はここで休むことにした。


 日が大分傾いてきた。間もなく日が暮れるだろう。気温が下がって来たのか少し寒い。優季と体を寄せ合って休んでいると、望たちの背後でガサガサと草むらをかき分ける音がした。

 2人がびっくりして立ち上がって音がした方向を見ると、草むらから現れ出たのは、緑色の肌をして腰布だけを付けた醜悪な生き物だった。

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