第388話 悪鬼カリス
「はあっ、はあっ、はあっ…」
『見事だ…。儂の…、負けだ…』
ラインハルトががっくりと床に膝を着き、魔法剣をで上体を支えて、肩を上下させて荒く呼吸をしている。側にサラが駆け寄って心配そうに体のあちこちに負った傷に治療薬を振り掛けている。そして2人の足元には、鋼鉄の鎧を着た骸骨騎士が横たわっていた。
技量と胆力で劣り、追い詰められたラインハルトの起死回生の一撃が偶然に、頭蓋骨の眼窩を貫いたことで、アンデッドの魂ともいうべき魔石を破壊したのだ。現世から消えようとしているガリアンにユウキが語り掛ける。
「ガリアン王、最後に教えて。貴方を呼び起こした声って何なの」
『……判らぬ。突然頭に響いてきた…。儂は…、その声に…逆らえな…、かった…』
「…………」
『戦いの最中でも…、頭の中で…語り、かけてきた…。「戦え」と…。誰だと問いかけても答えぬ…。ただ「戦え」と…』
「そう、ありがとう。ガリアン王。わたしが天に送ってあげる。ゆっくり眠りなさい」
ユウキは両手を組み合わせて、心の中で祈る。やがてガリアンの全身が淡い光に包まれ、光の粒子となって天に昇って行った。
「おやすみなさい。ガリアン王…」
光の粒子が消えると、鋼鉄の鎧とロングソードだけが残されていた。ラインハルトは残された剣を手に取り、魔法剣をユウキに返す。
「ユウキ、この剣は返す。私はガリアン王の残した剣を使わせてもらう」
「うん、頑張ったね。見直したよ」
「はは、ありがとう。自分に少しだけ自信が出たよ。君のおかげだ」
「じゃあ、へっぽこは卒業だね。ラインハルト様」
「ラインハルトでいい。そう呼んでくれ」
「わかった。うふふっ」
「はは…」
ユウキはぐっと親指を立て、ラインハルトも同じように返す。それを見ていたサラが嫉妬の炎を全開にしてユウキとラインハルトの間に割って入り、上の階に向かう階段に向かって背中をぐいぐいと押し始めた。
「お、おい、押すなよサラ」
「いいから! さっさと行きますよ、ふん! 何よ、大きな胸ばっかり見ちゃってさ」
ぷんすか怒りながらラインハルトの背中を押すサラを見てくすっと笑ったユウキは、自分たちも行こうとアンジェリカに声をかけた。
「アンジェ、わたしたちも行くよー」
「待って待って、今パンツを交換しているから。ヤダ、脱がそうとして無理に引っ張るなよエド。ああ~ん、大事な部分が見えちゃうでしょ、やめてよー」
スカートの中に頭を突っ込んで、ぐいぐいとお漏らし濡れ紐パンを引っ張るエドモンズ三世と大事な部分を見られまいと、必死に抵抗するアンジェリカを見て、ユウキはため息をついた。
「何やってんのよ。もう…」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「いよいよ7階だね。ここはどんな魔物が出るのかな」
「段々楽しみになってきたな」
「そうかな…。あたしは怖いの嫌なんだけど」
『ほっほっほ。無邪気な女子トークは可愛いのう』
「今のは女子トークと言えるのか…?」
7階に到着すると、魔術的な機構が働いて壁の照明が点灯した。7階は20m四方の正方形の部屋で、天井の高さは5m以上ある。
「おわ、びっくりしたぁ~」
「今までと雰囲気が違うな」
『ユウキ、部屋の奥に何かいるぞ』
エドモンズ三世が気配感知に反応があったことを知らせてきた。ユウキたちは目を凝らして奥を見つめる。
「何かいる…」
薄暗い部屋の奥にぼんやりと人影のような物が3つ…。その影がゆらりと立ち上がると、コツ、コツと足音を立て、ゆっくりと近づいて来る。ユウキたちは武器を抜いて警戒する。やがて姿を現したのは…。
『オーッホホホホ! 命知らずの愚か者がまた来たか。恐怖に震える前に、床に額を擦り付け、わらわの美しい肉体を称えるのです。オーッホホホホ!』
『わー、パチパチパチ』
「何か変なの来た…」
ユウキたちの目の前に現れたのは魔族の女性。魔族の年齢は見た目ではわからないが、20代後半位の美女。美しく輝く金髪をアップにしている。その女がガバッと体に巻きつけていた布を剝ぎ取った! 現れたのは均整の取れた美しい肢体。胸は魔族としては大き目のB級はある。丸く形とられた美乳と形良く引き締まったお尻を金色のトライアングルビキニで包んでいる。また、キュッとしまったウェスト、丸いお尻からスラリと伸びる脚もまた美しい。ちなみに靴はハイヒールを履いている。
『おーっほほほ! わらわはラファール第3代国王妃。世界一の美女と誉れ高い、カリス・フェリアン。さあ、わらわの美しさを、エロさをその目に焼き付けよ!』
カリスと名乗ったアンデッド(多分)はキュッと胸を張り、腰に手を当ててエロポーズをとる。
『わー、パチパチパチ』
カリスお付きのメイドアンデッド(恐らく)がやる気のない顔でパチパチと拍手する。
『ふふ…、わらわの美しさに声も出ぬか…。当然よの』
「いや、何と言うか…、突然痴女が出てきたんで驚いただけ」
「痴女だ…」
「エロい」
「…………」
『そこの男は正直だのう。わらわを見て勃ちおったか』
「王子!」
股間を押さえてもじもじし、苦しそうにするラインハルトを見て、むかっ腹が立ったサラが、尻に蹴りを入れて、背中をポカポカする。そんな2人を無視してユウキはカリスに問いかける。
「カリス…と言ったわね。貴方もアンデッドなの?」
『そうじゃ。わらわは世界一の美女として呼び声高い女。世の中の男共はわらわの美を称え、体を欲して欲情した。しかし、時は残酷じゃ。歳を取り、老いさばらえたわらわにだれも見向きもしなくなり、孤独に死を迎え、ここに葬られた』
『それから、どのくらい時間がっ立ったか…。「目覚めろ」との声に意識を取り戻したわらわは、高位不死体となってよみがえったのじゃ。元の美しさのままに。それから、わらわはここを訪れる男共をこの美貌で誘惑し、喰ろうていったのじゃ!』
『ちなみに、こいつらはわらわと一緒に目覚めたメイドゾンビじゃ』
『しくよろ』
「こちらこそ…」(ユウキ)
『さて、お前ら女は殺し、その男をわらわの眷属としようか。わらわより劣る女なんて、存在する意義などないからな。アーハハハハハ、オーッホホホホ!!』
『カリス様は世界一。わーパチパチパチ。はぁ~あ…』
『なんだお前ら! もっと心を込めて拍手せぬか!』
『え~~~』
やる気のない拍手にカリスがぷんすかしている隙に、アンジェリカがサラに声をかけ、部屋の隅に土魔法で壁をつくらせた。作業を終えたサラは再びラインハルトに折檻を加えようとしてエドモンズ三世に羽交い絞めされたが、暴れるのを止めない。ラインハルトはまだ治まらない股間を抑えている。
「ユウキ、ちょっと」
「ん…?」
アンジェリカはユウキの背中を押して石壁の裏に連れて行った。2人が壁裏に入ると布擦れの音と「ちょっと…」「わぁ、止めて!」と言った声が聞こえてきた。その声にサラは暴れるのを止めてエドモンズ三世と顔を見合わせ、ラインハルトも股間を抑えながら石壁に聞き耳を立てる。やがて、声が止むとアンジェリカに連れられて、頭からマントで全身を覆われたユウキが出てきた。マントの下から「前が見えないよ」と声がする。
「おい、カリスとやら!」
メイドをぽかすか殴っていたカリスが、アンジェリカの声に振り向く。
「貴様は、自分が世界一美しいと言っていたな」
『そうよ。この美貌、均整の取れた肢体。どこから見てもパーフェクト!』
「ふっふっふ…。これを見ても、同じ事が言えるかな」
『なに!』
アンジェリカはマントをバッと剥ぎ取った。そして、マントの下から現れた人物を見て、その神々しさに全員度肝を抜かれた!
肩下までの艶やかで美しい黒髪を大きな赤いリボンで結んだハーフテイルが可愛らしく、薄く化粧をした顔は超絶美少女の呼び名に相応しく、街を歩けば誰もが振り返るほどの美貌だ。首元には黒の親愛のチョーカー結び、滅茶苦茶に露出度の高い恰好をしていたことで、バインと存在を主張する大きなお胸と先端だけを隠す可愛いマイクロブラ。細く締まったウェストにも可愛いリボンを結わえ付け、非常に形がよい丸いお尻とツルツルのアソコを包むは僅かな面積の紐パンツ。
「きゃあああ! 改めて見ると超絶恥ずかしいよぅ~。ふぇええん、アンジェ、これってもしかして、アレなの~」
「よく気が付いたな? そう、オルノスの遺跡で見つけた超絶ランジェリービキニアーマー「アブノーマル・ラブリィ・メイル(試作品)」だ!」
「どうだ、カリスとやら。わが友ユウキの美しさと悩殺攻撃力100のエッチなエロボディは。お前の胸は所詮B級。ユウキのF級エロパイに比べりゃ子供同然!」
『ぐっ…ぐぬぬ…。確かに美女度とエロさではわらわの負けかも知れん。魔族は胸が控えめ…。どうしても人や亜人には敵わぬ。だが、女の魅力はボディだけではない! 全体的なボディバランスによる美しさで決まるのだ! 現にあそこで股間を抑えている男はわらわの魅力でそうなった! 男をその気にさせる力「勃起力」ではわらわの勝ちだ!』
「果たしてそうかな」
『なに!』
『カリス様ぁ、もう止めませんかぁ』
『そうそう、早く昇天しましょうよ。私疲れました』
『黙れ。わらわが女の魅力で負けるわけにはいかぬのだ。退かぬ、媚びぬ、省みぬわ!』
「お前にエロスの天使の真の力を教えてやる。ラインハルト王子!」
「な…なんだ?」
何とか股間の疼きを抑え、平常心を取り戻したラインハルトの前に、アンジェリカがズイっとユウキの肩を押して相対させた。露出度98%の超絶美少女のドエロボディが圧倒的迫力で目の前に迫る。魔族の女子では絶対にありえないほどの巨乳がラインハルトの目の前に圧倒的迫力で迫り、その凄まじい悩殺攻撃力と破壊力に彼の脳は耐えられなかった。
「ふぉーーーーっ!!」
ラインハルトは獣のような雄叫びを上げ、体をエビ反りにしたかと思うと仰向けになって倒れた。
「ど、どうしちゃったの?」
『どれどれ…』
ユウキの不安げな声に、押さえてたサラを離してエドモンズ三世がラインハルトの側に寄り、状態を確かめ、フルフルと首を振った。
『だめじゃな…』
「し、死んだの?」
『いや…、ユウキ・エッチ・ショックでマインドダメージを受け、気絶しておる』
「うわ…、ドン引き」
「さすがユウキ。エロの堕天使の二つ名は伊達ではないな」
「酷いよアンジェ。やめてよ~」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『さて、カリスとやら勝負はあったようじゃの』
『なに、どういうことだ…』
『見よ、あの男を。あの男はお前の姿に欲情した。しかし、ただそれだけじゃった』
『それは、わらわの魅力に屈したという事ではないか!』
『そうかな? ユウキの超ド級の美しさとスーパーエロボディを見たあの男はどうなった?』
「エロボディにスーパーが付いたな」
「嬉しくない」
『弾ける美貌とプルンプルンのおっぱいに、リビドーが瞬時に全開放され、脳内にキャパシティーを超えるピンク物質が溢れ出したことで気絶に至った。これはお主の時にはなかった事象じゃ』
『つまり、美貌とエロスでは、ユウキの方がお主より遥かに上と言うことじゃ。判ったならさっさと石棺に戻って永遠の眠りにつくがよい』
『む…ぐぐぐ。その乳だけ女がわらわより上だと…。認めぬ! わらわより美しい女は全て殺す! 貴様ら全員喰らいつくしてくれるわ!』
美女比べに敗北した怒りと屈辱に震えるカリスは、欄々と眼を光らせると両手の指から鋭く尖った爪を伸ばしてユウキに襲い掛かってきた。真っ赤な唇から牙が覗き、悪鬼の形相で迫り、その表情の恐ろしさにユウキとアンジェリカは完全にビビってしまった。
「わあああああ! アンジェ、押さないでよ!」
「やだやだ怖い! ユウキやっつけてよ!」
「やだ! こんなスッポンポンみたいな恰好で戦えないよ!」
「うわあああ、キタ~!!」
『オーホホホホ! 死ねぇえええ!』
「ぎゃぁあああああ!」
抱き合って悲鳴を上げたユウキとアンジェリカの脇を、黒い影と共に一陣の風が通り抜けた。次の瞬間、大きな打撃音がしてカリスの顔が大きく歪み、『ぐげぇ!』というカエルが踏みつぶされたような声を上げて、床に叩きつけられていた。




