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第385話 王家の墓

「ここが王家の墓…」

「見るからに、不気味な感じだな」


 自分たちが破壊した王城修繕のため、多大な借金を背負ったユウキとアンジェリカ。借金をチャラにするため、無理な任務を受ける羽目になった。その最初の任務がここ、ラファール歴代王族が眠る「王家の墓」に巣食うアンデッドを排除もしくは浄化することだった。


「建物自体は結構大きいね」

「壁全体にツタの茎が這ってるな。夏だったら葉っぱに覆われて、また違った雰囲気だったろうな」


 ガリウス王子に貰った資料によると、王家の墓は灰白色の軽石凝灰岩で造られた巨大な門と王墓本体からなっていて、王墓は高さ約56m、全8層の階段状ピラミッド型をしており、1階に当たる部分は100m四方の大きさがある。


「ところで…」


 ユウキがくるっと背後に立っている人物を振り返る。そこにはユウキとアンジェリカが暴れる原因を作った男女1組が、腑抜けた顔で門を見上げていた。


「何でアンタらがここにいるのよ。ボケナス王子とひっつき虫」

「…何故、私とサラがここにいるか、それは…」


「それは?」

「お前らのせいだからだー!!」

「えー!?」


 ラインハルトが語るところによると、ユウキたちが暴れた原因はラインハルトにもあると国王から叱責され、ユウキたちに協力して彼女たちの任務を成功させるようにと…。失敗したら王位継承権剥奪の上、サラ共々辺境の開拓地送りにすると言われたとのことだった。


「ふぇええ~ん。何であたしまでこんな目にぃ~。私、お化けが苦手なのに~、怖いよ~」

「まあ、そういう訳だ。お前たちが任務を全うできなければ私も破滅だ。よって、お前たちに協力させてもらう。全く迷惑なことだ」


「迷惑って…、アンタらの自業自得でしょうが」

「邪魔だけはするなよ。サラは替えのパンツはちゃんと持ってきたか」

「うん、いっぱい持ってきた…」

「ならばよし。ユウキ、そろそろ行くか」


「うん、ここで突っ立っててもしょうがないしね。サポート役としてエロモンも出すか…」


 ユウキは右耳の黒真珠のイヤリングにそっと手を触れて魔力を通す。すると、ユウキの前に黒い霧が渦を巻き、漆黒の球体が作り出され、その中から王冠を頭に載せ、王者の紫で染め上げられたチュニックを着て緋色のマントを羽織り、宝杖を持った死霊の王ワイトキング「エドモンズ三世」が現れた。その恐ろし気な姿に恐怖した…というよりは、先日の秘密を暴かれた件を思い出したサラがビクッとして、ランハルトの後ろに隠れる。


『ワーハハハハハ、またまた厄介事を抱え込んだようじゃのう。まあ、儂が手伝うからには大船に乗ったつもりで安心せい』

「何が大船に乗ったつもりよ。エロモンじゃ泥船でしょう。それに厄介事の一部はエロモンにも責任があるんだからね。魔道兵団では随分とお楽しみだったみたいじゃない」


『フフフ…、ただ一言、最高じゃった』


『思春期の生娘から経験豊富な熟女まで、ざっと1千人の秘密を暴いてやったわ。思春期少女が顔を真っ赤にしてわなわなと涙目で震える姿は至高じゃった。つんつん美少女の乳首の色をメラメラニンニン黒乳首って指摘したらワーッと泣き出してしもうたし、婚活女子の人生相談には参った。自分に合う人とどうすれば出会えるのか、どのような探し方をすれば良いのかわからなくなるって言われても、儂もわからんわ。まあ、励ましておいたがな。あと、熟女の男遍歴をばらした時は何故か阿鼻叫喚の地獄になったな。アレは不味かったわ。ワーハハハハ!』


「この、ド変態は…。お陰で魔道兵団長から呼び出されて散々大目玉もらったんだからね! 少しは自重しろ、バカ!!」

『ハイハイ。すみませんでしたー』


「このエロ骸骨は…、全然反省していない…」

「あははは。やっぱりエドはどんな時でもエドだな。でも、女の子はデリケートなんだ。その点も考慮してくれよ」


「あの…、そろそろ中に入らないか?」

「わかってます!」


「まあまあ、落ち着けユウキ。中に入る前に2人の能力を聞いておきたいんだが。私の名は知ってるな。魔術師で水系の攻撃・防御系魔法が使えるぞ」


「私は風と水系の魔法が使える。剣もそれなりに使えるぞ」

「あたしも魔術が得意で炎と土系が使えるわ。お化けは怖い」


「へー、サラは炎系が使えるんだ。迷宮探索とアンデッド退治には心強いね。じゃあ、行きましょうか。悪いけど、わたしがリーダーを務めるね」


 全員が了承したのを確認すると、死者の門を潜り抜け、墳墓の扉に手を掛け力いっぱい引く。ギ、ギギィ~と錆びた鉄が軋むイヤな音がして扉がゆっくりと開いた。いよいよアンデッドの巣窟に足を踏み入れる。自分が蒔いた種とはいえ、気乗りのしない任務だが、これで迷惑を被っている人々がいる。そう思うと自然にやる気が…、湧いてこないのであった。


「実害って、単にお墓が使えないだけだよね。封印して別な所に作ればいいんじゃない? 何もわざわざ危険な思いをしなくても…」

「身も蓋も無いな」


 あっという間に事の真理に辿り着いたユウキだったが、借金返済という大きな目的がある。アンジェリカとサラを見ると替えのパンツの枚数を数えていた。事の根源のラインハルトはユウキの真後ろに隠れてる。大きくため息をついたユウキは、とにかく任務を果たそうとそれだけを考えることにした。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 墳墓の中は明かりもなく、真っ暗な闇が広がっている。サラがトーチの魔法を唱えて周囲を明るくした。


「ふむ…、メイン通路は一本で、十字路が何か所かあって、左右に行く通路もあるね。あと、通路に沿って小部屋がある。この小部屋が怪しいな。一つ一つ見て行くしかないか」

『気配探知にも、かなり強い反応があるぞ。複数の魔物がいるのは間違いない』


「早くも帰りたい気分なのだが…」

「あ、あたしも…」

「私は、大丈夫だぞ。うん」


「足が震えてるよ」

「む、武者震いってヤツだ。ほ、ホントだ」

「はいはい(役に立ちそうもないなあ…。これだから第2王子ってのはダメなんだ)」


 ユウキはひらひらと手を振って、一番手前の扉に手をかけ、後ろの3人に合図すると扉を引いた。ギギ~と軋み音を立てて開いた先に見えたのは…。


『げっげっげ…。ショーキショキショキ、小豆洗おか、人取って喰おか…。ショーキショキショキ…』


 部屋の中央に何故かある井戸の傍で、ユウキたちに背を向けて小汚い老人がショキショキと小豆を洗っている。ユウキの背後から「ひっ…お化け」という声が聞こえる。老人が振り向き、にたぁ~っと不気味に笑った。


『げっげっげ…、小豆洗おか、人取って食お…ふんぎゃ!!』


 小豆を洗う老人に向かってずかずかと進み、問答無用で背中を蹴り飛ばしたユウキ。蹴とばされ、ザルの小豆をばらまきながら真っ逆さまに井戸に落下する不気味老人。


『あずき洗おか~、人取って喰おか~…。酷いがなぁあああ、このブスーっ……』

「誰がブスじゃ、井戸の底で小豆洗っとけバカ」


 やがてドポーンと水の跳ねる音がした。ユウキはサラを呼び寄せると土魔法で井戸に蓋をするようお願いする。サラの作業を見ていたユウキの傍にエドモンズ三世が来た。


『流石は情け無用の女戦士アマゾネスじゃな。男を諦めた覚悟の所業、見事じゃ』

「わたしは素敵な男性との出会いを諦めてません! それよりも、今のは「小豆洗い」よね。あれってアンデッドなの? そうは感じなかったけど…」


『アンデッドではなかったな。死の波動が感じられなかった。間違いなく魔物じゃな』

「アンデッドだけじゃないって事か…。厄介だね」


「ユウキ、それはどういう事だ」

「うん、アンデッド対策だけじゃなくて、魔物の対処も必要になるって事。今のようにどんな得体の知れない魔物がいるか判らない。慎重さが求められるって事だよ」


「なるほどな…」

『確かにアンデッドだけじゃなく魔物の波動も感じるのう。気を引き締めていかねばならぬぞ。それと、アンジェの濡れたパンツは儂が責任をもって持とう。遠慮せず渡すがよい』


「え~、恥ずかしいからイヤだ」

『遠慮するな、ホラホラ』

「ぎゃーっ! パンツ脱がさないでよエド! まだ漏らしてないから。このエロスケベ!」


「何やってんのよ。ユウキ、終わったわよ」

「ありがとう、サラ。じゃあ次行こうか。ほら行くわよ。第2王子もアンジェのスカートの中覗かない!」


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「次はこの部屋か…」

『ユウキよ、この中からは死者の波動が感じられるぞ』

「アンデッドって訳ね。さて、どんなヤツかしら」


 ユウキの背後で「ごくり」とつばを飲み込む音が聞こえた。「開けるよ」と声をかけて扉に手をかけようとしたが、何か自分だけ働いているような気がしたので、震えている役立たずを働かせることにした。


「ほら、ラインハルト王子。ここ開けてくんない。男でしょ」

「え…、私か? うう、持病の癪が…」

「そんな見え見えのウソついてもバレるだけだよ、早くして。女の子だけに働かせるつもりなの!?」

「う、うむ…。男としてやるべき事はやらんとな。よし、私が開けようではないか。開けるぞ、いいか皆の衆。開けちゃうからね。ホントに開けるからな…」


「ごたごた言っとらんで、早く開けなさい!」

「ふぎゃっ! だって怖いんだモーン」


 ユウキにケツを蹴飛ばされ、情けない悲鳴を上げるライハルトに冷たい視線が突き刺さる。その視線に耐えかねてラインハルトは取っ手を思いっきり引っ張った。


「ああ王子、おいたわしや」(サラ)

「情けない男だな。とても生涯の伴侶にはなりえんな」(アンジェ)


 涙目で扉を開けたラインハルトやユウキたちの目に入ってきたのは、これまた部屋の中央の井戸の側に蹲って皿を並べて数えているメイド服姿の若い女。よく見ると体は半透明で向こう側が透けて見える。


『いちま~い、にま~い、さんま~い…』


 皿を数える女の横顔は絶望感と悲壮感に溢れ、見る者に恐怖を植え付ける。


『一枚足りな~い!!』

「ふぎゃああーーっ!」


 急にこちら側を振り向いて脅かしてきた幽霊にビビったアンジェリカとサラが抱き合って悲鳴を上げ、ラインハルトが気を失って無言で倒れる。


(な、なに、番町皿屋敷? お菊さん!? お皿は本物みたい…)


『いちま~い、にま~い、さんま~い…』

「ああ、もう!」


 女の幽霊は悲壮感たっぷりに皿を数え始めた。ユウキはイラっときて、ずかずかと幽霊のもとに行くと、いきなり皿を蹴とばした。カシャンカシャンと音がして全ての皿が壁にぶち当たり、割れ砕ける。


『ごま~い…。うわあ、何すんのよ。酷いじゃない!』

「じゃかましい! そんな恨みがましい顔して、ほら、皿も無くなったし、さっさと成仏しなさい!」


『いやよ成仏なんて。私はね、お皿を並べて数えるのが生き甲斐なの! 酷いわ。絶対に許さない。呪ってやる、恨んでやる、祟ってやるぅ~』

「幽霊の癖に生き甲斐って、ふざけるな! ターン・アンデッド!」


『いきなりキター。あーん、消えちゃうよー。こうなりゃ、喰らえ、おっぱいが正反対の大きさになる呪い!!』


 消滅する間際に幽霊が放った呪いのエネルギーをユウキとアンジェリカはサッと躱し、気がついて体を起こしたラインハルトに命中した。バイン!と膨らむラインハルトの胸。満足した女幽霊は笑顔で光の粒子になって消えていった。


「うわあ! なんじゃこりゃあああ!!」

「いやあああ! ラインハルト様が巨乳にー!!」


「エド…。はいこれ…」

『何じゃアンジェリカ。早くもお漏らしか。おうおう、いい感じで湿っておる。儂が大切に預かろう』

「は、恥ずかしい…」


 まだ1階の2つの部屋を見ただけだと言うのに、この有様はなんだろう。ユウキはこの先どうなるか非常に不安になるのだった。


(出てくるの王家の死者アンデッドって聞いてたんだけどな。なんなのここ?)

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