第383話 激闘!レアシル山道②
ミュラーたちが激闘を繰り広げている中、エヴァリーナとアルテナを守るリューリィたちの前にも刺客が迫ってきた。リューリィは素早く人数を確認し、どう対処すべきか考えを巡らせる。
(人数は…5,6,7人か。魔法攻撃を避けるため散開しつつ接近してくる。相当訓練された戦士だな。戦えないアルテナ姫を守りながらじゃ分が悪いけど、円陣の中に入れておく方が安全か…。どうするリューリィ。考えろ、ボクがしっかりしないと!)
「リューリィさん…」
エヴァリーナが不安げに声をかける。アルテナを抱いてダガーを構えるルゥルゥも心なしか震えている。その他のメンバーも同様だ。何しろ実力が遥かに上のミュラー、レオンハルト、フランが苦戦しているのを見ている。不安になるのは当たり前だ。ここにいる男は自分だけ。リューリィは覚悟を決めた。
「みんな、覚悟を決めて! 全員で戦って全員が生き残るんだ。ボクの指示に従って!」
『は…、はい!』
リューリィは全員の返事に頷くと、キッと迫る刺客たちを見る。そして力強く魔術師の杖を振った。
「ファイアボール!」
接近する刺客の1人に炎球の魔法を飛ばした。敵は素早く身を翻して魔法攻撃を避けた。リューリィはエマとエヴァリーナに声をかける。
「ボクが魔法を撃ったらワンテンポ遅らせてエマさんは左、エヴァリーナ様は右に魔法を撃ってください。これなら敵がどっちに逃げても命中させることができる。目標、ボクの正面の敵! ファイアボール!!」
「ファイアボール!」
「ライトニングボルト!」
リューリィが狙った敵は炎球の軌道を見てサッと左に避けた。次の瞬間、エヴァリーナの電撃魔法が直撃して悲鳴を上げて倒れる。仲間が倒れたのを見て動きの止まった敵に、今度はエマの炎球が直撃し、燃えながら悲鳴を上げて倒れた。
「よし、後5人…。くっ、変則的に動いて、魔法を封じてきたな」
「どうします!」
「円陣を崩さないで。自分の前に来た敵だけを各個撃破するんだ!」
刺客たちは魔法の狙いをつけさせないよう、左右に変則的な動きをしながら接近してきた。大きく振りかぶって振り下ろしてきたロングソードの重い一撃をレイラが剣で受け止める。ハンドアックスを持った敵はティラがスピアで抑え、ソフィは剣で敵と斬り結ぶ。金属が激突する甲高い音と火花が飛ぶ激しさで、円陣の中にいるアルテナはガタガタ震え、ルゥルゥの足にしがみ付いている。その顔は恐怖に引き攣り、眼には涙が浮かぶ。
「こ、この…っ」
リューリィは刺客の一人の攻撃を魔術師の杖で受け、押し合いの力比べをしていた。細身の超絶美少女の意外な力に相手は戸惑いを隠せない。
「く、貴様…、ホントに女か」
「ははっ、残念、ボクは男だ」
「なにっ!」
驚いた刺客の力が抜ける。そのすきを逃さずリューリィは相手の胴を蹴飛ばして少し離すと、魔術師の杖を相手の腹に押し当てた。
「ファイアランスッ!」
「ぐぼおっ…」
杖先の宝珠から炎の槍が飛び出し、刺客の腹をぶち破って飛翔した。腹を焼かれ、風穴を開けられた刺客はどう!と地面に倒れる。しかし、その脇でエマが刺客の打撃を受け、転ばされていた。小さく悲鳴を上げて尻もちをつくエマの脇を刺客が抜ける。
「きゃあっ」
「エマさん。あ、しまった!」
リューリィが振り向いた時にはもう遅く、刺客の剣がアルテナ目がけて振り下ろされるところであった。驚愕の表情で刺客を見るアルテナ。
「きゃわわわわーっ!」
「危ない!」
キィン!と音がした。アルテナが恐る恐る目を開けると自分の目の前で膝まづいてダガーで剣を押さえているルゥルゥがいた。
「ルゥルゥ!」
「ぐ…、この…」
何とか必殺の一撃からアルテナを守ったルゥルゥだったが、剣圧に押されて腕が痺れ、顔が苦痛で歪んでくる。そこに刺客の回し蹴りが真面に横腹に入った。
「わぁああああっ!」
激しい衝撃に地面に倒れるルゥルゥ。息が詰まり呼吸が苦しく起き上がることができない。アルテナに逃げるよう言うがヒューヒューと言葉にならず、そのまま気を失ってしまった。助けを失ったアルテナに鋭いロングソードの剣先が向けられる。
斬られる! 涙で溢れる大きな目を瞑ったアルテナ。その耳に「バゴン!」と大きな打撃音が聞こえた。恐る恐る目を開けてみると、アルテナを襲おうとしていた敵は白目を剥いて地面に倒れ伏すところだった。敵を倒した人物が手を差し伸べてくる。
「エ、エヴァ…」
「ご無事ですか!」
「エヴァがやったのか? ありがとう。本当にありがとうなのだー!」
「ええ! この大地の杖でバッコーンとやっちゃいました。さあ、ルゥルゥさんを助け起こしましょう」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「はあ、はあ、はあ、こ、この…っ」
レイラと刺客の一騎打ちが続いている。レイラとて数多の冒険で魔物と戦った経験があるが訓練された兵士とでは分が悪い。ショートソードによる斬り、突きといった攻撃はことごとく跳ね返され、カウンターによる返し斬りで傷を負う場所が増えてきた。
「きゃあっ」
痛みで目が霞み、隙を作ってしまったレイラに上段からの一撃が叩きつけられた。それを何とかショートソードで受け止めるが、パワーの差にギリギリと押し込まれ、片膝をついてしまった。剣の圧は徐々に増し、押し込まれた自分の剣で額が切れて血が流れる。
「もう…だめ…」
「諦めるな!」
「えっ、ひゃああっ!」
突然レイラの体に何者かがものすごい勢いでタックルしてきた。飛び込んできた相手とごろごろと数m以上転がって目が回る。一方、急に力が抜けた刺客はそのまま地面に向けて剣を突き刺してしまい、動きを止めてしまった。そこに、大きな炎の球が迫る。目を見開いて驚愕の表情をした刺客が剣を離して逃げようとしたが、間に合わず炎が直撃して燃え上がる。やがて体が焼かれる苦痛の声も聞こえなくなり、黒焦げとなった刺客はドサリと倒れた。
「ふう、間に合ったな」
「レイラ、大丈夫っ!」
「ミ、ミュラー様…。エマ…」
レイラにタックルしてきたのはミュラーだった。全力で駆け付けた勢いそのままにピンチのレイラをタックルして助け出し、そのタイミングでエマがファイアボールの魔法を放って敵を倒したのであった。
「あ、ありがとう、ございます。ミュラー様」
「無事で良かったぜ。しかし、全然色気のねぇ体つきだな、お前」
「やかましい!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「冥府魔道を行く女の恐ろしさ、思い知れ! 帝国槍技、旋風十字槍(仮)」
ティラが頭上でショートスピアをぐるぐる回し、回転力の勢いそのままに襲い来る敵にに向かって連続突きを浴びせる。しかし、敵も手練れの戦士。槍の動きに剣を合わせて捌きながら接近戦に持ち込もうとする。
(うぐぐ…、腕が疲れてきた。でも、もう少しコイツの注意を引き付けなきゃ。よ~し)
「オラオラオラァ! 突き突き突きィイイ!! 貴様も漢なら突いて来んかぁい! 股にぶら下がってるのは飾りかよ、この短小野郎、チビチンコ!」
「…! 貴様、何故オレの秘密を知っているんだ。まさか千里眼で見抜いたのか。超能力者なのか!? うおおおおお! 小さいのがなぜ悪い。女は皆そうだ、パンツを脱いだ俺の股間を見て必ず笑う。そして言うんだ「なに? その可愛いソーセージ」とか「ヤダぁ~、ここだけボクちゃんじゃん」だの「なに、本当に入ってるの? 全然感じないんだけど」ってな! どんなに体を鍛えてもここだけは鍛えられん。父よ母よ、小さいチンコに生んだ事、恨みまずぞぉおおお! うわあああああ!」
突然地面に突っ伏して号泣し始めた刺客の1人。ティラの余計な一言で心が粉砕されてしまい戦闘不能になってしまった。そこに、ソフィと斬り結んでいた刺客が戦闘を放棄し、駆け寄ってきて、号泣する漢を抱きかかえ、猛涙しながら励ます。
「泣くな友よ。小さくたっていいじゃないか。もう我慢できん。オレは言うぞ。オレは…、オレはお前が好きだ。お前の小さなのチンコが大好きなんだ。だから、お前をバカにした女はオレが陰で殴り飛ばしておいた。仇はとっておいたんだ。友よ、安心して俺の愛を受け入れてくれ。オレにその小さなチンコを弄ば差せてくれ!」
「友よ…。こんな小さなチンコのオレでいいのか」
「ああ! お前のチンコじゃなきゃダメなんだ!」
「友よ、ああ、お前みたいなヤツを1億年と2千年前から待っていた!」
「愛に性別は関係ない。8千年後まで愛すと誓おう!」
がっしと涙を流しながら熱く抱擁を交わす2人の刺客。既に自分たちの任務を完全に忘れている。ティラと刺客を追いかけてきたソフィは、思わぬホモだち劇場に心底「おえっ」となる。2人の世界に入り、熱く抱擁する2人の漢の頭を武器の柄でガツンと叩いて気絶させたティラとソフィはボソッと呟いた。
「キモイ、寝てなさい」
「BLは美少年に限る。お前らむさ苦しい」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「みんな無事か?」
刺客を全員倒し、全員を集めたミュラーが声をかけてメンバーの状態を見回した。激しい戦闘で全員何かしらの怪我を負っている。重傷はフランとルゥルゥの2人。どちらも打撲によるダメージが大きく、ルゥルゥはシートの上に毛布を引いて寝かされ、フランはレオンハルトにお姫様抱っこされ眠っている。
(うう、ちょっとフランさんが羨ましいです…)
エヴァリーナは横目でレオンハルトを見ながら、フランに軽い嫉妬を覚えるのだった。
「全員生き残ったな…」
「ええ…。ところでミュラー、この者たちは一体何者なのですか?」
「こいつらはウルの親衛隊だ」
「何ですって!」
ミュラーの答えにレオンハルトを除く全員が驚いた。ミュラーはエヴァリーナが気絶させた親衛隊員の胸ぐらをつかみ、パンパンと頬を張って目を覚まさせる。
「目が覚めたか? テメェらがウルの親衛隊だということは分かっている。何故オレたちを襲った」
「…………」
「だんまりか…。答えたくなけりゃいい。お前を殺して別のヤツに聞く」
そう言うと腰に帯剣していたダガーを抜いて、親衛隊員の首筋に当てた。首の皮が切れて血が滲む。痛みを感じた親衛隊員の顔に恐怖が浮かぶ。
「ま、待て。言う、言うから殺さないでくれ」
「よし、俺たちを襲うよう命令したのは誰だ」
「サーグラス隊長だ…」
捕虜の口から語られたのは、サーグラスによる帝国宰相エヴァリーナ一行の暗殺とアルテナ王女の確保。叶わない場合は殺害する事だった。




