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第381話 目標!レアシル廃鉱山

 エヴァリーナは拠点とした炭焼用の作業小屋の中で囲炉裏の火に当たりながら、まんじりともせずレオンハルトとフランの帰りを待っていた。他の仲間は寝袋や毛布にくるまって眠っている。懐中時計を取り出して時刻を見ると午前4時。日の出まではまだ時間がある。


「遅いですわ…。何かあったのかしら」

「エヴァリーナ様」


「リューリィさん」


 寝袋の中からリューリィがもそもそと起き出してきた。「ふわわ~」と可愛い欠伸をすると囲炉裏の傍まで来て座った。


「もしかして、ずっと起きていたんですか? ダメですよ、休めるときに休まないと」

「そうなのですけど、眠れなくて…」


 エヴァリーナはポットからコーヒーをカップに入れてリューリィに手渡した。板の間では他のメンバーがすやすやと寝息を立てている。時折、夢でも見ているのか寝言なども聞こえてくる。


「山よ、山だわ。おじいさーん!!」

「明日のためにその1…。左パンチをえぐり込むように打つべし…」

「うへへ…、リューリィ君のソーセージ、おっきいね。食べちゃおうかな…」


「何の夢を見ているのかしら…」


「ユウキちゃん、俺と結婚してくれー! おっぱいを、おっぱいを我が手に!!」


「ミュラーは相変わらずね。でも、私も早くユウキさんに会いたいな」

「ですね…。お互いゆっくり旅の話をしたいです」 


 エヴァリーナとリューリィがユウキの思い出話をしていると、空が薄っすらと明るくなってきた。


「もう夜が明けましたわ。遅いですわね…あの2人。何かあったのかしら」

「エヴァリーナ様、あの2人を信じましょう。ボク、みんなを起こしますね」


 リューリィはコーヒーカップを床に置き、メンバーを起こしにかかった。エヴァリーナは朝食の準備のため、鍋に水を満たして囲炉裏に掛ける。全員が起きて囲炉裏の周りに集まってきた。


「おはようございます」

「おはようございます、皆さん。朝食の準備を手伝ってくださいな」


「エヴァ、レオンハルトとフランのヤツはまだ帰ってこないのか?」

「ええ、そうですの…」


「もう少し待とう。それで戻ってこなかったら俺が様子を見てくる」

「お願いしますわ」

「エヴァ、元気出すのだ。あの得体のしれない男なら大丈夫なのだ。信じて待つのだ」

「ありがとうございます、アルテナ姫。でも得体のしれない男は酷いですよ」


 朝食として雑穀と保存野菜、乾燥肉で作った塩味の雑炊を全員で食べていると、作業小屋の戸がギイッと小さな音を立てて大小の2つの人影が入ってきた。


「戻ったぞ…」


「レオンハルトさん、フランさん!」


 エヴァリーナを始め、全員が2人の下に駆け寄り、無事の帰還を喜ぶ。レオンハルトとフランは黒装束の装備を脱いで板間に上がると、囲炉裏の傍に座って冷え切った体を温め始めた。エヴァリーナは熱々の雑炊を渡すと、2人は一心不乱に口の中にかき込んだ。


「あちあちっ! うお…美味い。体の中から温まるぜ」

「はふはふはふ…。塩味が効いて美味しい。おかわり、ある?」

「ありますとも。たくさん食べてください。ソフィ、ティラ。2人に暖かいお茶を差し上げてくださいますか」


「サー・イエッサーであります!」


 暖かい食べ物と飲み物を貰って人心地付いたレオンハルトとフランは、早速ハルワタートの宿営地で得た情報を説明し始めた。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「まず、これを見てくれ」


 レオンハルトは車座になったメンバーを見回して、懐から1枚の紙を出し、床の板間に開いて見せた。


「これは?」

「ハルワタートの宿舎から入手した地図だ。奴らの現在地と廃鉱山までの距離と道が記入されている。それと、これだ」

「こっちの地図は廃鉱山の内部らしい。ただ、途中までしか記述されてないようだな」


「どれが目的の鉱山坑道なのかわからんな」

「でも見てください。坑道ごとに書き込みがあります。読んでみましょう」


 リューリイが身を乗り出して書き込みを一つ一つ調べ始めた。超弩級美少女と言っても過言ではない美少年が、ミニスカートとタイツ姿で四つん這いになった。形の良いお尻と美脚を向けられたソフィたち貧乳シスターズはドキドキが止まらなくなってしまう。一方、リューリィの正面側にいるエヴァリーナとアルテナは、美しい金髪をかき上げる仕草の度にドキッとしてしまう。


「あっ、ここだあ!」

『ひゃいっ!』(女の子たち)

「ん、どうしました?」


「わはは! 女連中全員リューリィのエロポーズに欲情したってさ! どいつもこいつもドスケベだな。で、どうなんだ?」

「え、えーとですね。図面の書き込みによるとこの地域の廃坑道は5つ。その中で邪龍に関する遺物が発見されたのは最上部のここ、レアシル鉱山です。ただ…」


「ただ、何ですの?」

「遺物が発見された場所より奥は未探索のようですね。こっちの図面にも途中しか記されていません。しかも、遺物の奥は古代魔法文明が造ったと思われる人工洞窟ダンジョンとなっていると記されています」

「他の鉱山坑道の奥にも人工洞窟ダンジョンが発見されとあります。ただ、未知の魔物も確認されたため、未調査となっていますね」


「リューリィ君、レアシル鉱山の遺物は何なのか書いてあるか?」

「えっとですね…、古い石碑が見つかったとあります」


「石碑…」

「レオン、それって…」


 フランとレオンハルトが顔を見合わせた。鍵のかかった引き出しに入っていた写図の事を思い出したのだ。


「どうされました?」


 怪訝な表情で訊ねたエヴァリーナにレオンハルトは1枚のメモを見せた。メモには石碑の形になぞらえた線と文字が記されてある。鍵付きの引き出しに大切にしまわれていた図面を写して来たことを説明したが、自分には読めない文字であり、解読はしていない事も話して聞かせた。


「確かに意味ありげですが、見たこともない文字ですね」

「うん? この文字…。古いウルの文字だぞ」

「知ってるのか!?」

「もちろんなのだ。ウルは長い歴史を誇る国だからな、王族は歴史と併せて古文と古代文字を学ぶのが必須なのだ。えっへん!」


「えらいぞアルテナ、さっそく読んでみてくれ」

「読めん!」


「……早く読んでくれ」

「読めんと言ったのだ!」


 静まり返る作業小屋の中。自信満々にいばりんぼポーズで立つアルテナ。困惑顔のミュラーとエヴァリーナ。下を向いて笑いをこらえるレオンハルト。リューリィに見惚れたままの貧乳シスターズ。


「古文と古代語を勉強しているんだろ? 何で読めねぇんだよ」

「アルテナは勉強が苦手なのだ。その中でも古文は大っ嫌いなのだ。わかった?」

「わかんねーよ。ただ、お前がバカだって事はわかったよ!」

「ミュラーは酷いのだ!」


「ま、まあ仕方ないですわ。これは後日ラサラス王女に見てもらいましょう。それまで私が預かってもよろしくて?」

「ああ、いいぜ」


 その後、レアシル鉱山への道程を図面で確認し、準備物の手配をすると、各員は出発の準備に向けて動き出した。エヴァリーナも準備のため立ち上がったところでレオンハルトとフランに呼び止められた。


「あら、どうなさったの?」

「すまねぇな、忙しいところ。実はなもうひとつ話しておきたい件があってな…」


 レオンハルトとフランはハルワタートの宿舎で出会った亜人の女について話すのだった。


「まあ、そんな人が…」

「そいつがこれを渡してきた」


 フランがバックから数枚の紙束を取り出してエヴァリーナに渡した。パラパラと目を通してフウッとため息をつく。


「文字と数字が意味もなく並べられてますわね。きっと暗号文だと思います」

「やっぱり…」

「解読書がないと無理ですね。これは帝国に持ち帰って、お父様に調べてもらいましょう。私がお預かりしても?」

「ああ、いいぜ」


(その女性、何か思惑がありそうです。機会があれば接触してみたいですわね…)


 エヴァリーナが考え込んだのを見て、レオンハルトとフランは次の準備のため皆の下に行こうとしたところで呼び止められた。


「あの、レオンハルトさん」

「ん、何か用か」


「い、いえ…。この任務が終わるまでお手伝い…、してくださいますか」

「ああ、乗り掛かった舟だしな。用はそれだけか」

「え、あの…、はい…」

「??」


 振り向いて待っていたフランと合流し、準備に向かったレオンハルトの背中をエヴァリーナはいつまでも見つめるのであった。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 ウル軍が冬営を行っている宿営地では、ハルワタートの相手をしていたアーシャがそっとベッドから抜け出した。ハルワタートが熟睡しているの見届けると、衣服を整えて会議室に向かった。周囲に人がいない事を確認し、音を立てずに中に入る。


(昨夜の影は匂いからして間違いなく人だった。ハルワタートの陰謀を阻止しようと帝国が動いたという噂は本当だったのね。彼らなら私の願いをきっと…)


 アーシャは引き出しの鍵を掛け直し、机の上の書類をきちんと重ね置いて侵入者の痕跡を消してから、会議室を出た。そのまま宿舎を出ると何やら騒がしい。慌てている兵士の1人を捕まえると何事があったのか聞いてみた。


「何かあったの?」

「あっ、アーシャ様。実は向こうの建物の陰で3人殺されているのが見つかったんです」


「殺されていた?」

「はい、私も現場に向かう途中でして…。失礼します!」


(…今頃騒いでも無駄なだけ)


 アーシャは急いだ様子で現場に向かう兵士を見送ると、背を向けて歩き出した。ふと上を見上げると、ウルの将来を暗示させるような重苦しい曇天の空がどこまでも広がっていた。

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