第378話 地下牢再び
「あれ?」
「あれ? じゃないのです」
今、ユウキとアンジェリカ、ポポは先程までいた監獄の地下牢に収監されている。エドモンズ三世とアース君は魔法兵団預りになって、どこかに連れて行かれ、マジックポーチも取り上げられてしまった。唯一の救いは特攻服から普通の服に着替えさせてくれた位だ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
時は少し遡り、王城正面出入口前…。
「一体、これは何の騒ぎだ!」
ユウキより頭一つ大きく、肩幅が広いがっしりとした体格で短髪、口髭の偉丈夫が辺りを鋭い目付きで見回して聞いてきた。親衛隊の隊長が慌てて偉丈夫の前で敬礼し、時折ユウキたちをチラ見しながら状況を報告した。それを聞いた偉丈夫がギロリとユウキたちを睨み、ずかずかと大股で近づいてきた。
「貴様たちがこの状況を招いた張本人か。貴様、名は何という」
「ひ、人に名を問う時は、まず自分から名乗るべきだと思いますが…」
「なにぃ~っ!」
「ひっ…」
偉丈夫の迫力にアンジェリカとポポはユウキの背中に隠れ、当のユウキもビビって涙目になり、親衛隊員たちもビシッと背筋を伸ばす。
「ランベルト、そう脅かすものではない」
偉丈夫の背後から姿を見せたのは寝巻姿で髪をオールバックにし、八の字髭を生やした細身の男性と美しい金髪を肩まで伸ばした美しい女性。2人とも若く見えるが魔族の寿命は人間の倍ほどもあるので、実際の年齢はわからない。
「陛下。しかしですな…」
「まあ、そのような強面で迫られては言いたいことも言えぬではないか」
「さて、私はラファールの王、オスカーと申す。こちらは妻の…」
「フレデリカです。よろしく、黒髪のお嬢さん」
「さて、君たちの名を教えてもらおうか。私の城をこのようにした理由も」
国王自ら現れたことでユウキは驚いたが、自分のたちの不当な扱いを直訴出来るチャンスと考え、説明するために1歩前に出ようとしたが、その前に立ち塞がったいつものアイツ。
『ウワーハハハハハハ! 貴様がラファール国王か、髭なぞ生やして生意気な。儂は死霊の王の中の王、ワイトキング「エドモンズ三世」じゃ。遥か300年前イザヴェルの基礎を築いた賢王、思春期美少女と巨乳おっぱいをこよなく愛するナイスガイ「アベル・イシューカ・エドモンズ三世」とは儂の事じゃ! 頭が高い、控えおろう!』
『フハハハハハ! フレデリカと申したな、貴様の秘密全て暴いてやるぞ…。まずはバストサイズと好きな体位からじゃ!』
「やめんか」
『ぐふっ…』
エドモンズ三世の頸椎にユウキの水平チョップが炸裂し、ボキッと言う音とともに「逆くの字」に折れ曲がった。最悪の魔物の一つであるワイトキングを仲間にしているだけでなく、無造作に暴力を叩きつける人間がいることにも驚いたが、首の骨が折れたことで顔が上を向いたままプラプラしてしまい、とっても悲しそうな表情で視線を向けてくる姿に微妙な気持ちになる。
「もう、ユウキはエドに厳しいんだから。もう少し優しくたらどうだ」
『あがが…、あがあが…、くぁwせdrftgyふじこlp(そうじゃそうじゃ、アンジジェリカの言う通りじゃ。ユウキの乳お化け)』
「もう、何言ってるのかわかんないよ。きっとわたしの悪口でしょうけど!」
「待って…、もうちょっとで直るから…。よし、直った!」
『……………』
「アンジェ、前後逆なのです。顔が背中向いてるのです」
「あ…、ご、ごめんなさい~。直ぐ直すから」
エドモンズ三世をアンジェリカに任せて、ユウキは国王夫妻に向き合った。一気に場が緊張する。オスカー国王はゴホンと咳払いすると、話を元に戻した。
「中々楽しめた漫才だったな。では、この騒ぎの理由を聞かせてもらえるかね」
「はい、実は…」
ユウキは一昨日の魔物の群れの迎撃作戦に傭兵の一員としてラインハルト率いる防衛隊に参加したこと、ポポが王都に迫る伏兵に気づき、部隊の混乱を避けるため自分とアンジェリカ、エドモンズ三世だけで迎撃し、掃討した後に第1軍団を突破してきた魔物の群れも魔法で壊滅させたこと、ラインハルトが自分たちの宿泊している宿に現れ、自分たちの働きに対して褒賞の授与をするから登城するよう招待を受けたことなどを話した。
「ほう、褒賞を…。初耳だな。ガリウス、お前は聞いていたか?」
「いえ、私も初耳です父上」
国王の鋭い眼光に射すくめられ、ラインハルトとサラはビクッとして直立不動の姿勢を取った。冬だというのに顔からは冷や汗がだらだらと流れている。
「それでお城に来てみたら、大勢の兵隊さんに囲まれて、魔封じの首輪を着けさせられ、今は使われていないっていう牢獄の地下に閉じ込められたんです。何でこんなことするのって聞いたら…」
「何と言ったのだ」
「人間風情が魔法で魔物を殲滅するとはありえない、普通の人間じゃないと。従魔としてアンデッドを従えているのも異様だ。お前たちは危険な存在だと決めつけてきたんです。どこから見ても普通の超絶巨乳美少女なのに酷いと思いませんか。それに…」
「わたしとアンジェのおっぱいが大きくて生意気だと…。後でひん剝いて、じっくりと揉みしだいて、ちゅぱちゅぱ吸っちゃうぞ。エッチな玩具にしちゃうぞって脅かしてきたんです。それまで牢獄の地下牢で大人しくしてろって…」
「何だと! ラインハルト貴様…。自分だけ楽しもうとしたのか! 許さん!」
「あ、兄上! 何を言っておられるのです。私はそんなこと言っておりません。この女の妄言です。信じてください。母上そんな目で見ないで下さい!」
「だから、貞操の危険を感じたわたしたちは、何とか地下牢を抜け出したのですけど、ただ逃げるのも腹が立ったので、ラインハルト王子にお礼参りをしようという事になりまして、わたしの眷属であるこのスケベ骸骨と後ろのアース君の協力をもらって少々暴れさせてもらい、今に至る…。という訳です」
ユウキの話を聞き終えると、オスカー国王はゆっくりと周りを見回した。門から王城前までの前庭や通路は穴だらけ、王妃が大切に育てていた花壇は耕され、植栽ほとんど折れて見る影もなく、建物の一部は崩れている。また、使用人とメイドたちは泥だらけのボロボロで、中にはほとんど素っ裸状態のメイドもいて、男たちは横目で見るのに必死だ。さらに、王城を守るべき親衛隊の不甲斐なさ…。思わずため息がついて出る。
一方の混乱当事者たるユウキは直立不動で敬礼をし、アンジェリカとポポはエドモンズ三世の頭を何とか正しい位置に嵌めようと四苦八苦している。ラインハルトは王妃から、向けられる軽蔑の眼差しで、泣きそうな顔で立ち尽くしている。
「ランベルト元帥、親衛隊を兵舎に連れていけ。そして再教育訓練をするのだ」
親衛隊から悲鳴が上がるが、元帥は有無を言わさず全員を連れて行った。使用人やメイドたちも執事長やメイド長に怒鳴られ、項垂れて連れていかれる。残ったユウキたちにオスカー国王は…、
「私の息子が君らを騙すようなことをして申し訳なかった。聞けば王都に迫る魔物を君らがほとんど倒したというではないか。感謝するぞ。その功績を称え、私が君らに褒賞を与えよう。冒険者ユウキにラファール金貨100枚を授与する事にする」
「金貨100枚!」
「やったなユウキ!」
「わーい、レグルスにお土産が買えるのです」
『儂、春画が欲しいぞ』
「いつの間に復活したの?」(ユウキ&アンジェ&ポポ)
「まあ、待て。話は終わっておらん」
嬉しさでぴょんぴょん飛び跳ねる3人+アンデッドをオスカー国王は手で制止させ、真面目な表情を向けてきた。
「お前たち後ろをよく見てみろ」
ユウキとアンジェリカ、ポポが振り向くと、そこは無残に破壊された城の壁、庭園、植栽、通路etc…。3人の顔に冷たい汗が流れる。
「私はお前たちに損害賠償を求める権利がある」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
刻は戻って、監獄の地下牢…。
「そういう訳で褒賞金は損害額と相殺。それでも足りなくて、罰を受ける羽目になり、お沙汰があるまで、地下牢に閉じ込められたんだった…」
「最悪の展開だな。都市を救った英雄が地下牢行きなんて。普通ありえないんじゃない?」
「ユウキとアンジェには反省という言葉は無いのですか」
「全くよ。なんで私まで…」
ユウキたちのほかに、サラも押し込まれていて牢内の片隅で膝を抱えてぶつぶつ文句を言っている。
「サラは、なんで私たちと一緒にいるの?」
「意地悪…。分かってて聞いてるでしょ、アンタらが暴れた原因の責任を取らされるのよ。アンタたちと一緒でお沙汰待ちなの!」
「まあ、ある意味…」
「自業自得なのです」
「うう…グスッ…。ふぇええん…」
アンジェリカとポポの情け容赦ない一言で、サラはおいおい泣き出してしまった。ユウキはため息をつくと、通路を挟んで向かい側の地下牢を見る。そこにはユウキたちを騙した当事者が鉄棒を掴んで喚いていた。
「出せー! 私はこの国の王子だぞ! 何故、こんな所に入れられねばならぬのだ! うわーん、暗いよ狭いよ怖いよーっ!」
「アンタのせいでしょーが…。だから、第2王子って嫌いなのよ」
ユウキはぼそりと呟いた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ユウキたちは疲れから寝入ってしまっていた。どのくらい時間が立ったろうか、地下牢の冷たい壁に寄りかかって眠っていたユウキの耳にコツコツと足音が聞こえ、目を覚ました。
「みんな起きて。足音が聞こえるよ」
「う、ううん。何、またレイスでも現れたのか?」
「違うよ、生きた人の足音だよ。聞こえない? ほら」
「誰かが近づいてくるみたいなのです。足音から3人ほどと思われるのです」
「いよいよ、処罰されるのか…。打ち首獄門かな、逆さ磔かな。それとも娼館送りになって弁償金を稼がせるとか…。私は初めては好きな男に捧げたいのだが」
「わたしだって同じだよ。娼館送りだけは避けたいな」
「ポポは一体どうなるのでしょう…。レグルスともう会えないのはイヤなのです」
「私たちは別に構わんが」
「ねー、アンジェ♡」
「このダメ女たち…なのです」
全く緊張感のない3人。いつもこれで失敗する癖に全然懲りてない。コツコツと足音が大きくなるにつれ、トーチの光で通路が明るくなり、視界が広くなる。向かい側の牢を見るとラインハルトは大の字になってぐうぐう寝ている。閉じ込められてからの言動は小物っぽかったが、意外と大物なのかもしれないとユウキは思った。
やがてトーチの光とともに現れたのはポポの言った通り3人の男女だった。サラが震えた声で人物の名を呼んだ。
「ガリウス王子…」
ユウキたちの前に現れたのはラファール国第1王子、王位継承第1位のガリウスだった。




