第377話 ラインハルトの悪夢
まず1人目、エドモンズ三世の背後に現れたは大きなお胸に白のサラシを巻き、真っ赤な特攻服を着たユウキ。
「超絶美少女ユウキ参上! ラインハルトはどこ! 喧嘩上等、夜・露・死・苦ぅ!!」
バッと背中を見せると「巨乳最強 愛羅武美少女」と漢字で書いてある。しかし、この世界の文字ではないため、誰も読めず意味は分からない。だが、カッコいい。ユウキは大満足だ。
ユウキに続いて現れたは、大きめの美乳に黒のサラシを巻き、紫の特攻服に身を包んだアンジェリカ。
「暗慈獲離迦だ。愛した男はNTR! 恋人のいる奴は前に出ろ! 私が貴様らをこの世から消し去ってやるわ!」
こちらの背中にはでかでかと「愛死天流」と書かれている。意味を教えてもらったアンジェリカのお気に入りの言葉だ。腕輪と杖で強化された魔力でバンバンアイスランスを打ち込み、地面に着弾する度に飛び散る氷の礫に悲鳴が上がる。
最後に現れたのは、胸元が大きく開いた超絶ミニスカートの魔法少女ドレスに可愛いショートブーツとヒラヒラマント姿のポポ。マントに殴り書きで「リア充」と書かれてる。
「なんでポポだけこんな格好を…。スカートが短くて、パンツが見えそうなのです。それに何ですかリア充って…。字体に怒りがこもってて怖いのです」
仕方無げに光の精霊にお願いして周りを明るくする。精霊の動きに合わせてくるくる動く姿は前2人と違って可愛らしい。
「アース君! 雑魚共を蹴散らせ! そして、正門目がけて突っ込めー!」
『いいのかなあ…』
「親衛隊集結! 正門を守れ、魔道兵は攻撃魔法を放ち、その後防壁を展開するのだ。絶対に正門に近づけるな!」
騒ぎに気付き、慌てて出てきた国王親衛隊の隊長が血相を変えて指示を飛ばす。見れば親衛隊員も正規の装備をしている者だけでなく、普段着に武器を持った者や寝入りばなを起こされたのか、寝間着姿で駆け付けた者もいる。中には下着姿の女性隊員もいて、男性隊員は怪物よりそっちをガン見してたりする。
その混乱の中、高笑いするアンデッドと女の子を背に乗せた巨大な怪物が土煙を立てて迫って来る。隊長の命令で鎧、普段着、下着姿の魔道兵が一斉に魔法を放った。しかし、アース君のマグネティック・フィールドの前に全て跳ね返され、魔法兵からがっかり声と悲鳴が上がる。
『ワ―ハハハハ! 無駄無駄無駄無駄ぁ!』
混乱が一層拍車をかける中、エドモンズ三世は高笑いを繰り返し、ユウキとアンジェリカはバンバン魔法を放ち、ポポは羞恥心で真面に顔が上げられずにアース君の背中にしゃがみ込む。
「ラインハルトー! ラインハルトはどこだぁー! 可憐な乙女に非道の仕打ち、天が許してもわたしが許さん! 出てこい成敗してやる!!」
叫びながら逃げ惑う兵士や職員、使用人に向け、爆発魔法を投げまくるユウキ。爆発の度に人々が宙に舞い、「ひゃああー」という悲鳴が響き渡る。
「ぬうっ、リア充見つけたり! 天誅!!」
目ざとく手を繋ぎながら逃げようとする使用人とメイドを見つけたアンジェリカ。刃のように薄くしたアイスランスを2人に放って服を切り刻む。服も下着も粉々にされ、腕で胸とお股を隠し、「いや~ん、まいっちんぐ~」といって恥ずかしそうに身を捩るメイドさんと、まいっちんぐなメイドさんを見て起立した股間を両手で隠し、苦しそうに前かがみになる使用人。アンジェリカは次々にリア充を見つけると羞恥刑に処していくのであった。
何とか隊長の下で混乱をまとめ、正門の前に整列した親衛隊員たち。しかし、慌てた状態そのままに、服装はプレートアーマーに鍋の蓋とお玉を持った戦士や下着姿でツヴァイヘンダーを装備した女兵士までバラバラだ。その親衛隊の前にドザザーッ!と地響きを鳴り立てて停止したアース君。固唾を飲んで見守る使用人やメイドたち。
ステッキのようにくるくると宝杖を回してアース君の最前部で足を広げて体をやや斜めにし、手を大きく広げて顔(髑髏)の前に持ってくる、独創的なポーズをしたエドモンズ三世が立つ。ワイトキングの出現に親衛隊員の中に緊張が走る。
『クフフ…、ワーハハハハ! 皆さん、こんばんわ。儂は死霊の王の中の王、最強のアンデッド、ワイトキング「エドモンズ三世」じゃ!』
『貴様らごとき、儂の前では塩を盛られたナメクジ同然。抵抗するだけ無駄じゃ。さーって、儂の恐ろしさ、とくと見よ!』
エドモンズ三世は腕を頭の後ろで左腕を手前にしてクロスさせ、腰を左に入れながら、顔は左斜め下を向いたポーズをとると、視線を親衛隊の女性隊員に向け、得意のスキル技を放つ! 親衛隊員は怪物の上で珍妙なポーズをし、1人で騒ぐアンデッドを唖然として見つめる。
『ワイト・サーチ!!』
『見える…、見えるぞ、女子の赤裸々な姿が! まずは、そこの下着姿の魔族の女!』
「ひえっ!」
突然指さされた女性隊員が小さく悲鳴を上げた。なんとなくヤスデの怪物が申し訳なさそうにしているように見える。
『アリエナ、22歳女独身彼氏なし。B78W57H82。典型的なスレンダー体形じゃな。起伏に乏しく色気がイマイチ。乳輪乳首の色は…茶系の濃い目。うぬ、お主、右の乳首に太い毛が2本生えとるぞ。オマケにお股の毛もボーボーじゃないか。儂は剛毛もイケるが、女子たるもの手入れを欠かすでない、愚か者が! 次、そこのお前!』
「な、なによ…」
気の強そうな顔をした女性隊員が身構える。
『ミーナ、21歳女、3か月前に彼と別れて現在独り身。B80W59H83。魔族は貧乳ぞろいじゃのう、つまらんわ。彼氏と別れた原因は…うわ、お主の強烈な独占欲と束縛と暴力に男が耐えられなくなって逃げられたのじゃな。バカめ、女はな、ツンとデレが微妙なバランスを持ってこそ可愛いのじゃ! 自戒して反省せよ。なあ、そう思うじゃろ、ミーナの後ろで怯えとる男よ。じゃあ次、そこの寝間着姿の美少女!!』
「わ、わたし!」
可愛い花柄の寝間着姿に魔術師の杖を持った美少女が素っ頓狂な声を上げる。
『うおぅ! 見習い隊員ティナ、16歳。儂の大好きな思春期真っ盛り少女ではないか。ふむふむ…B77W56H81じゃと! 正に青い果実。お子ちゃまパンツも似合ってて可愛いぞ。ぬほう、乳首乳輪は綺麗な桃色、アソコの毛も少なめ…。ふぉっ! お主、好きな男がおるな。思春期度数が120とめっちゃ高いぞ! 思春期バンザイ! さあーて次々いくぞ!』
『お主、趣味はBL。隊長と副隊長のBL関係を疑っておるな。一つ教えて進ぜよう。隊長が受けで副隊長が攻めじゃ!』
『お前は男性経験3ケタかい。親衛隊員に穴兄弟多数!』
『貴様、胸の先より腹のほうが出てるではないか。お菓子の食いすぎじゃバカモノ!』
『おおっ! お主のおっぱいはいい形をしているのう。処女という点もポイント高し!』
『貴様、お見合い38回連敗記録更新中か…。婚活は焦ってするもんじゃないぞ。きっといい出会いは巡って来るからの…』
エドモンズ三世によって、女の子の秘密が次々暴露され、親衛隊の男性隊員から「おおう!」と歓声が上がり、女性隊員からは悲鳴と罵声が交錯する。正門前の混乱に拍車をかけ、隊長が何とか立て直そうとしても無理な状況に陥ってしまっている。一方、ユウキとアンジェリカは特攻服をはためかせ、腕組みをしてアース君の背中に毅然として立ち、恐怖に怯えた目で見上げる城の人々を悠然と見下ろしていた。ポポはそんな2人を見て思う。このバカどもは一体何をしようとしているのかと。
「一体何事だこれは!」
「皆さん、落ち着いて! 落ち着けってんだよ、このクソ虫ども!!」
騒ぎの中、ラインハルトとサラが正門前に現れ、混乱する親衛隊を宥めにかかる。その姿を見たユウキ、アンジェリカはアース君から飛び降りて、親衛隊員を搔き分け、蹴り飛ばしながらラインハルトの傍まで駆け寄った。
「ラインハルトォー! 貴様ぁー!!」
「ぐぉっ…」
「きゃあっ、王子!」
ユウキはラインハルトの襟首をつかんでグイっと持ち上げる。王子を助けようとサラが飛び掛かろうとしたが、アンジェリカに後ろから羽交い絞めにされ、動きを封じられてしまった。息が詰まりそうになりながら抵抗を試みるラインハルトだったが、ユウキの馬鹿力で逃げることが出来ない。
「ぐ…、お前…。どうやって牢から抜け出た…」
「うっさい! よくも乙女を騙して地下牢なんかに閉じ込めたな。エリス様が許しても私は許さん。ボッコボコにしてやるんだから!」
「や、やめろ…」
「王子! いや~ん、王子の顔は殴らないでぇ~」
「いいぞユウキ、殺ってしまえ! 地下牢でお漏らしした私の恥ずかしさ、思い知らせてくれ!」
「おっけー! そもそもお前が第2王子ってのも気に入らないのよ。わたしは世界で一番芋虫毛虫と第2王子が嫌いなの! くそ、わたしのような美少女を捨てやがってあの野郎、あー思い出したら頭きた。覚悟しなさい」
ユウキはラインハルトを地面に押し倒し、腹の上に乗かって騎乗位態勢を取ると、右拳を振り上げた。王子のピンチに、動きを封じられ、助けに行けないサラは親衛隊員を見るが、エドモンズ三世による女子の秘密暴露劇場に男性隊員は歓声を送っていてこっちを見ていない。今まさにユウキの怒りの拳が王子のイケメンに叩きつけられようとした時、雷のような怒声が場に響き渡った。
「貴様ら、一体何をやっておるかーっ!!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
偉丈夫の一喝で王城正面広場の喧騒がやっと収まり、静けさが戻った。出入り口前中央にユウキたち3人娘と足を広げて体をやや斜めにし、顔の前で手を大きく広げたエドモンズ三世。背後に全長50m全幅5m全高3mの巨体ながら、何故か縮こまって小さく見えるアース君が集まった。
ユウキたちの右側に青ざめた顔のラインハルトとグスグス泣いてるサラ。左側にはくその役にも立たなかった親衛隊員と衣服をボロボロにされ、素っ裸同然の使用人とメイドたち。冬空の中とても寒そうに見えるが、ユウキの爆発魔法の炎があちこちに残っていて、意外と広場は暖かい。そして、それらの者たちの正面に立つものは…。
「げ、元帥…。それに、お父上、母上…。兄上…」
ラインハルトが小さな声で呟いた。




