第376話 ユウキ、カチコミをかける!
ユウキたちの前に現れたのは、不定形の白い肉の塊に張り付いた多数の老若男女の顔。そのどれもが苦痛に歪んだ表情をしており、不気味さを一層増している。床に接している部分に小さな腕があり、それを動かして前進してきており、足は無い。背中の先から平べったい尾が出ていて、全体的な印象は不気味なオタマジャクシのようだ。
「やっぱり出たよ~。気持ち悪いよ、このお化け~」
「キモイキモイ! やだやだ、怖い~やだ~!」
「恐怖でアンジェが乙女になったのです」
『ユウキよ。こ奴、実体があるように見えるが、霊的なモノじゃぞ』
「エロモン。それって、もしかして…」
『そうじゃ。儂が幽閉されていた監獄塔のスケルトンと同じじゃ。ここに幽閉され、非業の死を遂げた者どもの思念の残渣が怨念化したものじゃ』
「でかいレイスみたいなもんだね。じゃあ天に帰すのが一番か…」
ユウキはアンジェリカとポポを下がらせ、エドモンズ三世に守りを任せると、バケモノと向かい合った。バケモノを構成する多数の顔が苦痛の表情を強くする。ユウキは胸の間で手を合わせ、女神エリスに願いを込めて呪文を唱え始めた。
「女神エリスの名の下にユウキ・タカシナが願う。この救いを求める者たち…えっ!」
呪文を唱えている途中でバケモノが一つ一つの顔ごとに分裂を始めた。そして、分裂したレイス共はユウキめがけて襲い掛かってきた!
「きゃああああっ!」
『逃げよ、ユウキ!』
ユウキが悲鳴を上げ、エドモンズ三世が逃げるように叫ぶが、時既に遅くユウキは多数のレイスの攻撃を受ける。
「ユウキ!」
「くそ! 何とかできないのか」
アンジェリカとポポも親友を危機から救い出そうとするが、2人は霊的な怪物を倒す術がない。ユウキの身を案じるだけだ。そのユウキの周りをレイスが高速でぐるぐると回る。仲間たちが歯噛みして見ていると、レイスたちが一斉にユウキから離れ、もとの不気味なバケモノに合体する。そして、ユウキは…。
「ひゃああああ! 何てことしてくれるのよ~」
レイスたちに衣服を切り裂かれ、ドエロイ勝負パンツ一丁にされ、両腕でおっぱいを隠し、真っ赤な顔でもじもじしていたのだった。当の合体レイスの顔たちは苦悶の表情から一気に笑顔になってゲタゲタ笑っている。
「くっそ~、ドスケベ悪霊ども~、天に送って成仏させようと思ったけど止めた! 冥府に落としたる!」
「それよりもほら、これ着て」
アンジェリカが床に落ちた服の切れ端の中からマジックポーチを拾い、中から毛皮のコートを取り出してユウキに着せる。
「ありがとアンジェ。うう、あったかい…」
毛皮のコートを着たユウキとしっかり防寒服を着こんだアンジェリカを見てレイスは怒りの表情を見せると、再び体を震わせ、分裂し始めた。2人の頭の中にレイスの思念が入り込んでくる。
『女…、女の裸が見たい…。おっぱい、はち切れんばかりの、たわわに実ったおっぱいが見たい…。背中のラインから続くお尻の割れ目…。入り込みたい…』
「誰が見せるか、このドスケベ悪霊ども! 欲望丸出しの思念だけが残ったの!? 絶対に許さない!」
ユウキとアンジェリカの怒りの声がハモり、今度はユウキが先手を打つ!
「乙女の柔肌を晒した罪、冥府の鬼の前で懺悔なさい! ダークホール!!」
ユウキの前に冥府に続く漆黒の穴が形成される。分裂したレイスは驚愕の表情をすると次々に吸い込まれていき、絶望の表情を浮かべた最後の1体が吸い込まれると、穴は閉じて空間から消えた。
「全く…、どんな恐ろしい魔物かと思ったら。ただのドスケベなエロモンの同類だったじゃない。怖がって損した」
『ひどい言われようじゃの。儂は同意のもとじゃないと女子の服は脱がせんぞ。よいか、服というのは、1枚1枚脱がしていくのに醍醐味があるのじゃ。少なくなっていく着衣、少しずつ露わになる白い肌、恥ずかしくて真っ赤になる美少女の顔。姿を現す2つの双丘に秘部を包む小さなパンツ。この娘の乳輪の色は、大きさはどんなだろう、あそこの毛はもじゃもじゃかな…。想像を膨らませ、下着に手をかけるとぴくっと震える少女。期待感でギンギンになるペ…』
「やめんか、ド変態!」
『ぐっはぁ!!』
背中に強烈な蹴りを入れられ吹っ飛んだエドモンズ三世。階段の踊り場まで転げ落ち、衝撃であちこち変な方向に曲がっている。
「ふん、いい気味なのです」
「あ~あ…、ユウキもポポも容赦ないな。もう、大丈夫? エド」
アンジェリカがエドモンズ三世に駆け寄り、変に曲がった所や外れた関節部分を直しながら立たせ、ぱんぱんと服についた埃を払い、手足を動かして問題ないか確認する。
『ありがとう。儂をこうやって気遣ってくれるのはアンジェリカだけじゃ、どうじゃ、儂と結婚するか?』
「いや、私は生きた人と結婚したいので」
『ほっほっほ、照れるアンジェリカも可愛いのう』
「心底嫌がっているのに気づかないのですか。どこまでポジティブなんですか、このエロスケは…」
『お、今度はポポたんがヤキモチを焼き始めたか。モテる男は辛いのう。ワッハッハー』
「もうヤダ、なのです」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「やっと抜け出たな」
「いつの間にか夜になってたね。真っ暗だ…」
「光の精霊さんを呼びますか?」
「ううん、目立っちゃうから呼ばなくていいよ」
振動波コアブレードで1階の窓を鉄格子ごと切り裂いて、建物から抜けだしたユウキたち。ドスケベの思念が合体したお化けとの遭遇があったものの、案外容易く抜け出られたことに拍子抜けしてしまう程だった。
「で、これからどうする」
「そうだね…。人畜無害な美少女を監獄に閉じ込めてくれたお礼がしたいな」
「と、言うことは…」
「カチコミをかける!」
『チンピラみたいじゃの』
「そうは言うけど、わたし、猛烈に頭に来てるもん。褒賞で釣っていきなり牢獄でしょ。いくら何でも酷いよ。もしアンジェやポポに何かあったら、わたし…」
『そうじゃったの。ユウキはそういう娘じゃった。なら、儂も手伝うぞ、アース君も出すがよい』
「ユウキ、私もポポもやるぞ。私たちは一蓮托生、どこまでも一緒だ」
「アンジェ…。よーし、ラインハルトとやらをぶっ飛ばしに行くか! 大暴れするよ、アース君来て!」
『我を巻き込まないで欲しいのだが…』
真理のペンデレートに魔力を通すと巨大なアース君が現れた。ちょっと迷惑そうなアース君の背中に全員飛び乗ろうとしたが、ユウキはパンツに毛皮のコートを纏っただけの姿であることを思い出し、2人を呼び止めた。
「待って2人とも。わたし、まだこの格好。着替えるから。2人も一緒に着替えよう」
「私たちもか?」
「うん! むかーし、わたしの世話をしてくれた人とおふざけで作った衣装があるの。カチコミにはピッタリな衣装が!」
「絶対に禄でもないモノに違いないのです」
『ふむ、なら儂も衣装替えするかの』
『これで我も面白軍団の仲間入りか…』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ユウキたちが王城内で暴れる算段をしていたともつゆ知らず、ラインハルトはサラが持ってきた報告書を読んでいた。
「これは本当なのか? あのユウキという女はイザヴェルのグレイス女王の命の恩人で、ビフレストではアークデーモンを1人で討伐し、帝国では皇帝と懇意にし、その庇護を受けているというのは」
「帝国宰相家に下宿!? フォルトゥーナ叔母様が嫁いでるあそこにか…」
「信じられないでしょうが、本当です」
「それになんだ、大陸最強戦士決定戦で2連覇のチャンピオンを退け初優勝…。リングネームが「エロボディバーサーカー」って。酷いネーミングだな。確かに、魔族の女性にはない見事なおっぱいをしてた。あれは中々の逸品だった…」
「ムッ…。ちっぱいで悪うございましたね。でも、彼女が帝国の庇護を受けているだけでなく、相当の実力…といいますか、戦闘力を有しているのは事実です。なので、直ぐにでも解放した方がよいと思います」
(確かにマズイ。彼女がそんな重要人物だったとは…。帝国やイザヴェルに知れたら外交問題に発展するかも知れん。それ以上にフォルトゥーナ叔母様にバレたらヤバい。お父上に知られる前に、早急に解放しなければ…)
「王子、ラインハルト王子、どうかなされましたか、ボーっとして」
「えっ、あ…、いや何でもない」
「あの…、何か外が騒がしくありませんか?」
ユウキを捕らえたのは浅はかだったか、と考え事をしていたラインハルトにサラが声をかける。確かに夜だというのに外が騒がしい。何やら悲鳴や地響きが聞こえ、兵士を呼ぶ声が聞こえる。
「ん、そうだな。なんだろう」
窓を開けて外を見ると、兵士や使用人が城の裏庭方面から悲鳴を上げながら、わらわらと逃げてくるのが見えた。その後方から地響きも聞こえてくる。音の方向を見ていると、いくつもの光の球が周囲を照らしながら現れ、続いてドッガーン!という大きな音と共に、城の壁や別棟の一部を破壊しながら、濛々と土煙を上げ、銀色に輝く超巨大なヤスデの怪物が現れた。そのあまりの威容にラインハルトは度肝を抜かれてしまった。
「なっ! なんだアレはーっ!!」
「王子! アレを見てください!」
サラが驚愕の表情でヤスデの怪物の上を指差した。ラインハルトは指の先を見て心臓が止まりそうな程驚いた。怪物の上にいたのは…、
『ヒャッハー! ワハハハハハ! ウワーハハハハハ!! 畏怖せよ、恐怖せよ下郎ども! 我こそは巨乳美少女と思春期少女の守護者ワイトキング「エドモンズ三世」なるぞ! ワーッハハハハハ! 男どもは我が前に平伏せい! 汚物は消毒じゃーい!』
黒のシルクハットを被り、白のワイシャツに黒の蝶ネクタイ。黒のタキシードと革靴を履いて両腕を大きく開いて高笑いするアンデッド「ワイトキング」だった。さらに、その後ろから、光の精霊にスポットライトのように照らされた3人の女子が現れた。




