第374話 ユウキとアンジェ恥をかく
『ワーハハハハ! ウハハハハハハ! 儂は死霊の王。ワイトキング「エドモンズ三世」なるぞ。そこに列なす愚か者ども、恐怖せよ、畏怖せよ、儂の前にひれ伏すのじゃ!」
「ワ…、ワイトキング、だと…」
「な、何故そんな強力な魔物がここに…」
「マズイッ! ヤツ1体で我々を全滅させられるぞ。ラインハルト様、お逃げください!」
エドモンズ三世の出現に大混乱が巻き起こされる。国軍兵士はラインハルトを守るため集結し、円陣を作り出す。レオニスは冒険者に迎撃戦の指揮を出し、エドモンズ三世の前に冒険者を集結させる。
『クックック…。よいぞよいぞ、その恐怖に歪んだ顔。特にそこの女子の泣きそうな顔は最高のご馳走じゃ。ウワハハハ! ハーッハ…ウッ、ゲフンゲフン…。む、咽ちゃった』
「何やってんのよ、アンタは」
『ぐっはぁ!』
エドモンズ三世は後ろから現れたユウキに背中を蹴り飛ばされ、冒険者たちの前でべしゃんと音を立ててコケた。
「あ~あ、ダメじゃないかユウキ、いきなり蹴り飛ばしては。服が汚れたじゃない。ほら、立ってエド」
『す、すまんなアンジェリカ。お主だけじゃよ、儂に優しいのは』
続いて現れたアンジェリカが倒れたエドモンズ三世を助け起こし、タオルでパンパンと泥を払い落として服の汚れを取ってあげる。その様子はおじいちゃんと孫のふれ合いのようで微笑ましい(?)。
「アンジェ、その骸骨に優しくしては益々付け上がるから止めた方がいいのです」
『おやぁ~。ポポたんったら、アンジェリカが儂に優しくするもんだから、ヤキモチ焼いちゃってるのかなぁ~』
「そんな訳ないのです。自惚れるな、クソ骸骨。なのです」
『ホッホッホ…。ヤキモチを焼くポポたんも可愛ええのう』
「そうか? 本心で嫌ってると思うが」
「もう、全然話が進まないよ」
「一体、何なんだ。この者たちは…」
突然アンデッドのワイトキングが現れた事に驚いたラインハルトたちだったが、続けて現れた女の子たちとのコントに毒気を抜かれてしまうのであった。そこに伝令兵が飛び込んで来た。
「報告…、うわぁアンデッドォ!」
「大丈夫だ。報告をしろ」
「は…、はい…。ホントに大丈夫なんですよね」
ラインハルトの副官が伝令兵に報告を促すと、びくびくしながら報告を始めた。その報告とは、首都防衛師団と魔導兵団が魔物の群れを全滅させ、第1軍団の支援に回った結果、こちらも優位に戦いを進め、既に残敵掃討の段階に入っているという内容だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
死んだ魔物たちの処分を兵士と冒険者に任せ、ラインハルトは副官の女性兵士(サラという名だった)とレオニスを連れて冒険者ギルドに戻り、応接室のソファに腰かけている。対面にはユウキ、エドモンズ三世、アンジェリカとポポの4人が狭そうに座っている。エドモンズ三世を除く全員の前に暖かいコーヒーと軽食のサンドイッチが置かれ、お腹が空いていたユウキたちは、遠慮なくパクついていた。
「それでは、伏兵の存在をポポさんが察知したので、ユウキさんとアンジェリカさんが迎え撃ったと。そして、伏兵を全滅させた後は迫る魔物の群れを攻撃した…」
「そうです。わたしとアンジェ、エロモンズの魔法でほとんど片が付きました」
『エロモンズではないわ! エドモンズじゃ、エドモンズ! ったく、この乳お化けは』
「信じられない…。最強最悪のアンデッド、死霊の王と呼ばれるワイトキングを眷属にしているだけでなく、人間があれほどの魔術を使うなんて…」
「結局私たち、全く出番がありませんでしたね。はぁ…(カッコよく活躍する所を王子に見せたかったのに)」
副官のサラが残念そうにため息をついた。エドモンズ三世の眼窩の奥がキラリと光る。
「まあ、私の場合はこのマジックアイテムと魔法杖の力もあって、ですが」
「わたしはエロモンの力を借りました。でなきゃ、あんな大威力の魔法なんて無理です(ウソ)」
「ポポは光の精霊さんにお願いして、魔物の位置を特定したのです。ポポは精霊族ですから、精霊さんとお話が出来るのです」
「だが、君らの活躍のお陰でアルビレオ市が守られたのは事実。後日感謝の気持ちとして報酬を渡そうと思う。それまではこのアルビレオにいてくれ。それと、街中を歩くときはワイトキングは出さないように。パニックになる」
『残念じゃのう。魔族の思春期美少女を堪能しようと思ったのじゃが。仕方ない、そこのサラとかいう女の秘密でも暴露して帰るとするか』
「秘密…? 私の??」
「い、いつの間に…」(ユウキ)
「久々だな」(アンジェリカ)
「女の敵、真正のカス野郎なのです」(ポポ)
「え、え、なに?」(サラ)
『サラ・ヒューストン。魔族18歳女。B78W60H84 ふむ、Aカップのスレンダー体型じゃな。ほう、乳輪はキレイなピンク色じゃな平均より大きめでぷっくりしておる。いわゆるパフィーニップルってヤツじゃな』
「きゃあああ! 何でそれをぉ~。私の秘密ぅ~」
「もう無理、止められないよ。ご愁傷様…」
『アンダーヘアは…ほほう、お手入れをサボっとるな。若い女子がダメじゃぞ。男が見たら幻滅するぞ。ちなみにユウキとアンジェリカはツルツルじゃ。儂はツルツルも剛毛もどっちもイケるぞ』
「アンタの好みなんか誰も聞きたくないわ」(ユウキ)
「だって…、最近忙しくて、ゆっくりお手入れする時間がなかったんだもん。ぴえええん」
「あーあ、泣かせちゃった」(アンジェリカ)
『18はギリギリ思春期じゃな。思春期度数は…120! おおう、過去最高値じゃないか。この娘、意外と心は少女なのか。そうか恋をしておるな。相手は…ほおお、これはこれは…』
「ぎゃあああ! 止めて止めて、言わないでぇ~、乙女の秘密なのぉ~!!」
『ゲヘヘ…、言うなと言われりゃ言いたくなるのが人の常』
「お前は骸骨で人じゃないのです」(ポポ)
『その相手を思うと夜な夜なベッドの上で煩悶横転して、自然と自分の乳首とアソコに手が…。エッッロ! エロいぞこの娘! その想い浮かべるお相手は…』
「はい、すとーっぷ。そこまでー」
『ぐわし!!』
ユウキの手刀がエドモンズ三世の頭頂部を打ち砕く。衝撃で下顎骨が外れしゃべることが出来なくなり、アウアウとしか言えなくなった。既の所で恋の秘密は守られたサラだったが、身体的特徴と夜の行いをバラされ、えぐえぐと泣いている。ユウキたちはいたたまれなくなり、顎が外れたエドモンズ三世を黒真珠のイヤリングに戻すと、そそくさとソファから立ち上がった。
「行くのか?」
「はい。わたしたちの宿はギルドが存じてます。連絡はそこにお願いします。ではわたしたちはこれで。あと、サラさん、本当にごめんなさい。あのエロワイトは後でぎっちり〆ておきますので…」
礼をして応接室から退室したユウキたち一行。部屋の扉が閉まった後、ラインハルトはレオニスに話しかけた。
「どう思う」
「あのユウキとかいう女、得体が知れない感じがします。伏兵が居たと言われる場所を調べたヴォルフという名の冒険者が言ってましたが、倒された魔物の中に武器で斬られた者も多数あったと。1人で出来るシロモノではないと言っておりました」
「彼女が使ったという爆発魔法も、我々の使う四元魔法とは異なる魔力の流れを感じた。彼女は一体何者なのだ…?」
「調べる必要がありそうですな」
「頼む」
「では、私たちも帰るぞ。サラ、いつまでめそめそしているんだ。食事を奢るから元気出せ」
「うぐ…ひっく…? ひ、ひゃい! 喜んで!!」
機嫌を直したサラを連れて出て行ったラインハルトと入れ違いにヴォルフが入ってきた。
「オヤジ、死んだ魔物の処理は終わったぜ」
「そうか、ありがとう。ところでヴォルフ、お前にやってもらいたいことがある」
「俺に?」
「ああ、調べてもらいたい事が出来た」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
魔物騒ぎから3日。ユウキたちは投宿しているホテルで疲れを癒していた。暖かい部屋で下着姿のままベッドに寝転び、窓から空を眺めるユウキとアンジェリカ。空は曇り雪がちらちら降ってきて不思議な光景を見せている。
「退屈だなあ~」
「連絡を待つだけってのもな」
「ユウキとアンジェ、全く若い娘がだらしないのです。破廉恥姿でゴロゴロして。もう」
「破廉恥かな」
「ユウキの下着は破廉恥というよりドスケベって感じだな」
「そういうアンジェもギリギリを攻めてるじゃない」
「ユウキの下着を着けてから癖になってしまったのだよ。もう紐パンオンリー」
「ヤダー、アンジェのエッチ!」
「うふふー、ユウキのエロっ娘」
ユウキとアンジェリカは起き上がってエロいポーズをとっては批評し合い、おっぱいやお腹をつんつんしてあははと笑いあう。ポポは「はああ~」と呆れたため息をつくのであった。
調子に乗った2人がお互いのおっぱいをモミモミしていると、トントンとノックの音がして部屋の戸が開いた。
「えっ」
入ってきたのはラインハルトとお付きのサラ、事務官らしい男性1人。3人はベッドの上のエロ娘たちを見て固まった。
『ふんぎゃあ~~~!!!』
ユウキとアンジェリカは、可愛くない悲鳴を上げると全身真っ赤になって毛布の中に潜り込んだ。
「だから言わんこっちゃないのです。ところで何用ですか」
「お、おお…。お楽しみ中申し訳なかった。急で申し訳ないのだが、明日、城で魔物討伐の褒賞を授与することになった。詳しくはここに書いてある。着衣は普段通りでよい。では待っているぞ」
事務官が封書を差し出し、ポポが受け取ったのを確認するとラインハルトたちは部屋を出て行った。扉の向こうから「いや~、でかかったな~」「流石、人の巨乳は素晴らしいですな」と言った感嘆の声と「全然羨ましくないんだからねっ!」とサラの悔しまぎれの声が聞こえてきた。
そっと毛布から顔を出したユウキとアンジェリカ。
「あうう…。また恥をかいてしまった」
「お約束だったな…。私なんか胸の先まで見られてしまった…。王子様責任取ってくれないかな」
「串焼きを用意しておくべきだったのです」
「ポポは意外としつこいな」
しかし、事態は思ったより複雑だった。能天気な3人娘はその事に気づかず、褒賞は何だろうと想像しては笑い合う。再び彼女たちに災難が降りかかる。




