第371話 ユウキ、観光を楽しむ
果し合い騒動から数日間学園を休んだカストルとアルヘナが登校してみると、同級生がわらわらと集まってきた。
「わっ! なんだなんだ」
「きゃあ」
同級生たちは2人を囲むと果し合いの状況を聞きたがり、従魔を見たがったので仕方なく呼び出すと、集まった同級生たちが一斉にどよめいた。何せカストルの従魔は清楚な美少女のアンデッド。現れた瞬間男子がわーっと集まってくる。
「き、君名前は?」
『ア、アンゼリッテ…』
「可愛い、可愛すぎるぅ」
「カストル、羨ましいぞ貴様ぁ、殺す!」
「アンゼリッテ様、愛してます!」
『ご、ご主人様ぁ~、ひゃあああ~』
一方、アルヘナが呼び出したのは上級悪魔アークデーモンの「メイメイ」。腕組みをして翼を広げて現れた恐ろしい姿に女の子たちは一斉に悲鳴を上げる。メイメイはじろりと周囲を睥睨すると、右腕を天に向かって高々と掲げ、大声で吼えた。
『ウォオオオオー! ここはパラダイスか! 右を見ても、左を見ても女子! しかも貧乳!』
『この子も、あの子も、そっちの子も皆貧乳! スモールバスト・ガールズ! アルヘナちゃん、オレ様のハートはブロークン寸前だぜぇえええ! ビバ貧乳!』
「はい、そこまでー、メイメイちゃん」
『お…、おおお…、はあはあ。済まないアルヘナちゃん。オレ様としたことが興奮が治まらねえ』
アルヘナの同級生女子を何人も抱え上げ、胸に顔を埋めてクンカクンカして恍惚の表情を浮かべる上級悪魔をアルヘナは心底情けないと思うのであった。
「やっぱ、お兄ちゃんが一番よ。うん」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「情報を仕入れてきてくれた風の精霊さんによると、アンゼリッテも、メイメイとかいう悪魔もすっかり学園の人気者になったそうなのです。アンゼリッテにはファンクラブも出来たそうです」
「ちなみに、ライザとかいう女は、我儘で傲慢で非道な性格がすっかり消え、お目々がハートの恋する乙女に大変身したとかで、手づくり弁当を作ってはカストルのストーカーと化したそうです」
「へー、ほー、ふーん」
「目がハートか…。どこぞの精霊族と同じだな」
「この2人は…。全然聞く気がないのです。何ですか、年下の女の子に先を越されたからって。妬んでばかりいても幸せは来ないのですよ!」
「くっ…。ポポの癖に正論かましてきやがった」
「ユウキ、こうなれば私たちはポポ以上の優良物件を見つけて、幸せになってやろうじゃないか。巨乳美少女連合「幸せになる統一の会」結成だ」
「アンジェ、それネーミングがヤバいから止めよう」
「そうか? 結構いいと思ったんだがな」
「全く、この2人は本当にダメ女ですね。なまじ美人なだけに残念なのです」
ユウキたちは今、ラファール国の王都アルビレオに来ていた。アルビレオは人口約100万人の大都市で、広大な盆地の中心を流れる大河ロレーヌを挟んで市街が広がっている。市の中心には魔族国家らしく魔術的に配慮されて建築された壮麗な王宮が建ち、周囲は官庁街となっている。また、帝国のシュロス・アードラー市と同様に区画整理された市街は整然としており、美しく整備されている。
「魔族の国だから閉鎖的な感じかなと思っていたけど、人や亜人、獣人も結構多くて賑やかだね。むしろ、労働者や兵士さんは人や獣人の方が多いみたい」
「大昔の戦争後、この国も各国との交流を広げたからな。でも、まだ魔族というだけで嫌う人々も多いと聞くな。バカなことだ」
お馬さん(ラスカル♂6歳)は郊外の農家に預かって貰っていて、市内を循環する馬車に乗り込み、市内の中心部に来ていたユウキたち。山間の盆地に広がる都市だけあって、通りを吹き抜ける風が異常に冷たい。
「うう、さぶいさぶい。身も心もさぶい…」
「ユウキ、ここが冒険者ギルドみたいだぞ」
アルビレオの冒険者ギルドは帝都の「荒鷲」に匹敵する大きさで広いロビーに受付カウンターと売店があり、飲食スペースは2階に設けられていて、1階から2階は吹き抜けになっている。また、依頼が見られる掲示板はなく、受付とは別の依頼紹介カウンターで閲覧・紹介を受けるシステムになっている。
ユウキとアンジェリカは冒険者登録証の更新を済ませると、ポポと合流して2階の飲食スペースで暖かい飲み物と食事を頼んだ。
「ユウキ、これからどうする?」
「何にも考えてない。カストル君たちの騒動で疲れたよ、仕事はもうたくさん。宿を見つけてゆっくりして、観光でもして、この国を楽しもうかなって思ってる」
「串焼き屋さん巡りでもするのです?」
「そのネタ、もう止めような。でも、観光地巡りはいいな」
「決まったね。食事を済ませたら、宿探しに行こう」
3人は運ばれてきた食事を食べながら、循環馬車に配架されていた観光ガイドをぺらぺらと開き、行きたい場所の目星を付ける。
「結構見所があるね。わたし、歴史博物館に行ってみたいな」
「私は国立美術館と植物園が見たい」
「ポポはデパートと飲食店巡りをしたいです」
「一度に全部は無理だね。お金には余裕あるし、しばらく滞在して観光地巡りしよう」
「賛成賛成! 私はアレシアから出たことがほとんどないから、楽しみだよ」
「ポポもなのです。知らない土地の名物をたくさん食べてみたいです」
「ふふ、ホントだね。そうだよ、これが旅の醍醐味なんだよ。何もエロいハプニングに巻き込まれるだけが旅じゃないんだよ」
3人はガイドブックを畳むと、宿探しにギルドを後にして街の中に出た。冬の夕暮れは早く、午後4時頃というのに日はほとんど沈みかかり、風は一層冷たく吹いて、体を凍えさせるが、期待に胸膨らます少女たちの心は高揚し、寒さを全く感じないのであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌日、ホテルのレストランで朝食を摂った後、身支度を整えてホテルを出たユウキたち。観光ということで、3人とも目いっぱいお洒落していて、道行く人々は男性も女性も3人の美少女たち、特にユウキの美しさに目を奪われ、立ち止まってはため息をつく。その様子を横目にみながら、ちょっぴり優越感に浸るのであった。
最初の目的地は国立博物館。ユウキは優季だった頃から博物館で様々な歴史的遺物や文化遺産等を見るのが好きで、特別展示があるとよく姉の望にねだっては県立博物館に連れて行ってもらったこと、ユウキとなった後もロディニア王国の博物館に友人たちと一緒に行ったことを思い出した。
懐かしい気持ちになりながら展示品を眺める。ラファール国の成り立ちから現在に至るまでの歴史について、絵画や様々な遺跡からの出土品、工芸品、美術品などがテーマごとに展示されていて、時間も忘れて見入ってしまうのであった。
「ユウキがそんなに博物館好きとは思わなかったな」
「意外なのです。エロい下着しか興味がないと思ってました」
「あのね…。本当のわたしは本好きの内向的な少年だったんよ」
「少年…?」
「あ、いやいや、少女、少女。女の子。あはははは…」
「しっかりして下さいなのです」
「はは…(うっかりしちゃった。今までこんな言い間違いしたことないのに…)」
博物館を見た後は隣接されている美術館に入った。名のある画家による美しい風景画や静物画、人物画などが飾られている。中には裸婦の絵もあってユウキとアンジェリカはじっくりと観察してポポに呆られるのであった。
絵画を見終わった後、併設のコーヒーラウンジでケーキと飲み物を頂きながら、絵の感想を言い合う。
「いい絵が多くて感動したな。雪のタンムーズ山脈の油絵は素晴らしかった」
「だね。ただ、あの前衛美術っての? 余りに抽象的過ぎて何がいいのか素晴らしいのか全然わかんなかったよ」
「ポポは男性裸像の股間に目が釘付けだったのです」
「流石、彼氏のいる女は目の付け所が違うな」
「ポポの発情期!」
「酷い言われ様なのです」
美術館を出た頃にはすっかり日が暮れていた。ホテルに帰った3人は、大浴場でスッポンポンになると、美術館で見た彫刻と同じポーズをして批評し合い、大笑いするのであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
次の日はキレイな冬晴れで気温も少し上がっており、お出かけには最高の日和だった。ユウキたちはアンジェリカが行きたがってた植物園に行くことにした。
循環馬車で30分ほど移動し、市街から少し離れた場所にある植物園にやってきた。入園料(1人銅貨5枚)を支払って中に入る。ガラス張りの大きなドームは暖房の魔道具によって温められ、とても冬とは思えない。また、来園者もまばらでゆっくりと見て回ることが出来そうだった。
「私は花が好きで、家でも小さいながら専用の温室を持っていたんだ。今頃どうなったかな。誰か手入れしてくれていればいいが…」
「アンジェ…。ごめんね。わたしのせいで家を追い出される事になっちゃって」
「そうそう、ユウキの浅はかな考えのせいなのです」
「ぐっ…」
「あはは、気にするな。今はこうしてユウキやポポと旅するのが楽しいんだ」
3人で園内の小道を歩く。花壇には様々な花が植えられていて、ノースポールやエリカ、アネモネ、カトレアなど冬季に咲く花が可憐に花開いている。また、大陸の植物や薬用植物を紹介するコーナーや昆虫の展示などもあって、来場者を飽きさせない。ユウキはアルフィーネ(人型モード)を出してあげると、大喜びで植物たちと語り合った。
たくさんの花々や展示物を見た後、園内の売店に足を運び、花をあしらった可愛いアクセサリーや小物などをたくさん購入し、満足して帰途に就いたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
観光3日目、ポポの希望通りデパートと飲食店巡りをするため市内に出てきたユウキたち一行。開店と同時にデパートに飛び込んでバーゲンセール品を漁り、気に入った服や下着、化粧品を買い求める。
「ユウキは相変わらず際どい勝負下着ばかり買ってたな」
「見せる相手もいないのに。ユウキは真正のエロ女なのです」
「いいでしょ、好きなんだから…」
ラファール料理のレストランで食事をし、満足して街中を歩くユウキたち。こんなにのんびりしたのはいつの日以来だろうか。行く先々でエッチなハプニングや様々なトラブルに巻き込まれ、意外と気が休まる時がなかった。ユウキはこの穏やかな時間を大切にしたいと思う。
ふと、2人を見るとポポはガイドブックを見ながら次に行く店舗をチェックしていて、アンジェリカはウィンドウショッピングを楽しんでいる。そういえば、デパートでも可愛い系の服を買っていたっけ…。
ユウキはララやカロリーナと一緒に買い物した思い出と2人を重ね合わせ、心が暖かくなり、この時間がいつまでも続くといいなと思うのであった。




