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第369話 アンゼリッテとカストル

「ア、アンゼリッテ…。どうして…」

『ご、主人様…。ご無事で、よかった…』


「アンゼリッテ、しっかりして! アンゼリッテー!」

『ふふ…、ご主人様、ただの従魔の…、しかもアンデッドの私のために…心配して、泣いてくださるのですね…。優しいのですね…』


「当たり前だよ。君は僕にとって初めての、大切な従魔…ううん「大切な人」なんだ。だからしっかりして」

『人、ですか…。あ、ありがとうございます…。う、嬉しい…。アンデッドの私がこんな気持ちになるなんて…。短い間でしたけど、アンゼリッテはカストル様の従魔になれて、幸せでした…』


「アンゼリッテ、僕たちこれからだよ。アンゼリッテ、しっかりして。目を、目を開けて」

『……………』


 黒焦げになったアンゼリッテはカストルの手の中でボロボロと崩れていく。だが、その顔はとても幸せそうに笑っていた…。


「アンゼリッテーーー!!」


 森の広場にカストルの叫びが響く。


「お兄ちゃん…」


「ククク…、アハハハハ! ザマアないわね。所詮アンデッド程度じゃ私のイフリートに勝てやしないわ。ふふふ、私の勝ちね」

『フンフンフーン♪』


「アンゼリッテ…。ごめんね、僕が悪かったんだ、君に無理させて…。本当にごめんね」


 カストルの両目からポタ、ポタと涙が零れ落ちる。涙の粒が一粒、二粒とアンゼリッテの焼け焦げた灰に落ちた。そして奇跡が起こる。

 灰が熱を持たない青白い炎を発したと思ったら、たちまち人の形になり、元の美しいアンゼリッテになったのだ。アンゼリッテがゆっくりと目を開く。目の前に涙でぐしゃぐしゃになったカストルの顔があった。


『ご…、カストル…様。わ、私…、復活したの? 夢…、じゃないですよね』

「アンゼリッテー」

『カストル様!』


 灰になったはずのアンゼリッテが復活した。その姿を見てライザは信じられなかった。先程まで消し炭になっていたアンデッドの女が復活するなんて。普通炎に焼かれたアンデッドは消滅するはず。なのに、何故あの女アンデッドは復活したのか。


 ライザと同じ思いを持ったのは他の者たちも同じだった。アルヘナやアンジェリカのほか、クリスタもルツミもメイメイを始めとする従魔たちも、驚きの眼差しで抱き合うカストルとアンゼリッテを見つめている。ただ、ユウキだけが復活した理由に気づいた。


(エロモン、アンゼリッテの復活はエロモンと同じ理由なの?)


『そうじゃ。小僧の従魔にする時、奴の幽体アストラルボディと実体を分け、幽体をアストラル界に置いたのじゃ。よって、幽体と実体が同時にやられない限り、何度でも復活する。まさに不死のアンデッドなのじゃ』


(はあ~、神々の武器でも無いと無理って訳か)

『じゃな、儂らを倒せるのはユウキのゲイボルグ位じゃろうて』


(それはあのイフリートにも言えるね。ライザにはお仕置きが必要だし、少し手助けしますか)


 ユウキはそっと皆の所から離れ、森の中に移動するのであった。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

「アンゼリッテ、その…、自分の格好見た?」

『え、私の格好が何か…って、きゃあああああ!』


 抱き着いていたカストルから離れ、自分の体を見たアンゼリッテはスッポンポンであることに気づき、悲鳴を上げた。控えめながら形の良い小山に小さく可愛らしい乳頭、細い腰から流れるような曲線を描く形のよいお尻…。カストルは美しいアンゼリッテの裸体から目が離せない。ちなみにメイメイもアンゼリッテの貧乳を見て満足げに頷いている。

 そこに、テテテとアルヘナが走りこんできて、カストルの後頭部をぺしーんと引っ叩き、アンゼリッテに念のため持ってきていた白いシーツを渡した。


「お兄ちゃんのエッチ! アンゼリッテはこれを羽織って。早く!」


 アンゼリッテはあせあせとシーツを体に巻いた。その姿は絵画で見る女神のように美しく、カストル暫し見とれてしまうのであった。


「く、くそ…。ただのアンデッドでは無いっていうの。なら、復活できなくなるまで焼き尽くすのみ。イフリート、アイツらを塵になるまで焼き尽くせ!」

「ライザ! お兄ちゃんを殺そうっていうの!?」

「煩い! 私に楯突く奴は誰であろうが許さない。アルヘナ、カストルの次はお前だ!」


『フンフンフフーン♪』


 ライザの命令を受け、イフリートは炎の壁を作り出した。超高温で燃え盛る壁を両手で押すような姿勢を取ると、炎の壁がカストルとアンゼリッテに向けて動き始めた。じりじりと迫る炎の壁。巻き込まれたらただでは済まない。


「炎の壁は僕が防ぐ。アンゼリッテはその間にイフリートを倒して」

『は、はい。でも私の魔法じゃどうにもならないです。どうしたら…』


「アンゼリッテ、これを使って!」


 ユウキの声と共に、ドスッと音がしてアンゼリッテの目の前に漆黒の刀身を持つ大きな槍が突き刺さった。


『こ、これは…』

「その槍は「魔槍ゲイボルグ」。イフリートに勝てる唯一の武器だよ。さあ、手に取って戦うんだ!」


『ユウキ様。でも私、武器を使った戦いなんて、無理…』

「アンゼリッテ、貴女はカストル君を守りたくないの! 貴女のカストル君に対する気持ちはその程度なの! 大丈夫、ゲイボルグは貴女の想いに答えてくれる。力を貸してくれるよ。戦えアンゼリッテ! 勇気を出すんだ!」


(…カストル様は、アンデッドの私に涙を流してくださった。私はカストル様が好き。カストル様を不幸にしたくない。絶対に勝って欲しい。カストル様は私を信じてくださっている。私はその期待に答えたい!)


 目の前では氷の壁を展開し、必死の表情で炎の壁を防ぐカストルの姿があった。無限の魔力を持つ精霊と違って魔力に優れる魔族といえど限界はある。アンゼリッテは持てる勇気を振り絞り、全身に力を込めると手を伸ばして目の前の槍を握んで、地面から抜き去った。


『か、軽い…。それに凄い力を感じる…』


 手に取った槍はその大きさ(アンゼリッテの1.5倍はある)にも関わらず、重量をほとんど感じず、羽のように軽い。さらに、槍は愛する者を守るために力の限り戦えと心に語りかけてくる。見るとカストルは炎の壁の圧力に徐々に押され気味になり苦しそうだ。アンゼリッテはぐっと下腹に力を入れ、下段の構えを取って地面を蹴った!


『フンフンフーン♪』

「もう少しよイフリート、目障りな従魔共々焼き尽くせ! …えっ」


 ライザがイフリートを鼓舞し、炎の壁が一層高く激しく燃え上がる。その高熱で周囲の木々も乾燥し、ぶすぶすと燻り始めた。今度こそ勝利を確信したライザがほくそ笑んだその時、炎と水の壁を迂回して何かが走りこんでくるのが見えた。それは、美しい金髪をツインテールにしたオッドアイの美しい少女。体に巻いたシーツの端が風に舞い、手にした漆黒の槍の刃先が鈍く光っている。


「な、なに…。アンゼリッテなの」

『カストル様に仇名す者、絶対に許さない!』


 アンゼリッテは生まれてこの方、武器戦闘を訓練したことは無く、実戦を経験した事もない。だが今は愛する主人を守るため、人生初めて武器を取った。だが、心配はしていない。ユウキが渡してくれた魔槍ゲイボルグ。この槍を手にした時、自分がどう動けばよいか自然に頭に浮かび、その通りに体が動くのだ。


 アンゼリッテの接近に気付いたイフリートは片手を向け、火球を連続で放ってきた。アンゼリッテはゲイボルグを振って火球を斬って消滅させて行く。


「おいユウキ、あの槍凄いな…」

「むっふっふー。ゲイボルグはね、相手の魔法攻撃を文字通り「斬る」事ができるの。それにね、相手が実体だろうが霊体だろうが、異次元生命体だろうが確実にダメージを入れることができるし、少しでも触れれば体の内部からズタズタに切り刻む、正に「魔槍」なのよん」

「なんだそのぶっ壊れ性能は…。ユウキはどうやって手に入れたんだ」

「乙女のヒ・ミ・ツ♡」


 火球による攻撃が無効化され、驚愕の表情のまま、アンゼリッテの接近を許してしまったイフリート。慌てて炎の壁でバリケードを作ろうとしたが間に合わなかった。


『イフリート覚悟! はぁあああああっ!』

『フン!? フフフーン!』


 下段から上段に構え直したアンゼリッテが地面を蹴って飛び上がる。放物線の頂点に達した時、力の限りゲイボルグを振り下ろした。漆黒の刃はイフリートの頭頂から股下までを一直線に切り裂いた!


『フ…、フ…ン、フ~ン…』


 縦に両断されたイフリートは左右2つに分かれ、激しく燃え上がった後に消滅した。残されたライザは放心状態でイフリートが消えた場所を見つめている。その目の前に漆黒の刀身がヌッと突き出された。ライザが恐る恐る振り向くと、アンゼリッテが厳しい目つきでライザを睨んでいる。


『勝負はつきました。私たちの勝ちです』

「く…っ」


 俯くライザを一瞥し、主人のカストルを見ると、魔力を使い果たしてがっくりと地面に膝まづいていて、ユウキたちが周りに集まり、アルへナが心配そうに肩を抱いている。アンゼリッテは急いで駆け戻ると、ゲイボルグをユウキに投げ渡し、アルヘナを突き飛ばしてカストルの胸に飛び込んだ。


『カストルさまぁ~!』

「わっ…と。アンゼリッテ、君こそ無事でよかった。そして、ありがとう」


 しっかりと抱き合い、絆を深めたカストルとアンゼリッテ。突き飛ばされて呻くアルヘナをメイメイが抱え上げ、肩に乗せてよしよしする。


「痛たた…。ありがとうメイメイ」

『なんの。アルヘナちゃんの美貧乳に傷でもついたら大変だからな』

「打ったのお尻なんだけど…」

『尻より貧乳!!』

「あのね…」


 カストルとアンゼリッテを中心にアルヘナとメイメイ、ユウキとアンジェリカが並び、その背後に何故かクリスタとルツミもいる。


「勝負はついた。アルヘナと僕の勝利だ」

「く…、くそっ」


「ライザ、君は言ったね。「強い者が勝つ」と。それは間違いだ。強い者が勝つんじゃぁない。勝った者が強いんだ。経過はどうあれ、最後に立っていた者が勝利者なんだ。君とイフリートの実力は凄かった。けど、勝ったのは僕とアンゼリッテだ」


「約束だ。僕の言う事を聞いてもらうよ」


「まだだ…。まだ…、まだ勝負はついてない…」

「ライザ、もう終わったんだ」

「…………」


 ライザは制服のポケットから何かを取り出し、蓋を開けて中の液体をグッと飲み干した。途端に苦しみ出し地面に両手と膝をいて震え出した。カストルとアルヘナは何が起こったのかと苦しむライザを見る。


「ちょっと、何を飲んだの!?」


 ユウキがライザに駆け寄って口を開け指を突っ込んで吐き出させようとするが…、


「うがあああああ!」

「きゃあああっ」

「ユウキ!」


 突然立ち上がったライザが獣のように吠えて、女の子とは思えないパワーでユウキを振り飛ばした。地面に倒れたユウキにアンジェリカが駆け寄って抱き起こす。全員が唖然とした中、ライザが再び吠え、元の姿から想像もできない巨大な魔物に変化したのだった。

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