表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
379/620

第368話 従魔大戦④

 カストルとライザが対峙する。メイメイが「貧乳玉」で穿ったクレーターは既にメイメイ自身の土魔法で埋めてある。


 ユウキたちは少し離れた場所に改めてシートを敷いて観戦することとした、ユウキは横たわるシルバーウルフに寄りかかりモフモフに包まれ幸せ気分。仲良くなったアンジェリカとクリスタはお互い男運がないことを知り、リア充撲滅委員会を結成して気勢を上げ、ルツミは非モテ女子の恐ろしさに恐怖する。激しい戦いを終えたメイメイはアルヘナを抱っこして幸せそうに顔を綻ばせ、リザードは正座してカストルとライザの戦いを見据えている。どいつもこいつも全く纏まりがない。


 しかし、カストルもライザも外野の事は全く気にしていない。目の前の戦いに集中している。


「反抗的な顔をしていられるのも今のうちだけよ。吠え面かかせてやるから覚悟することね。来なさい、私の従魔、炎の魔人イフリート!」


 ライザが魔道具を掲げて自身の従魔を呼ぶ。眩しく輝く青い光が周囲に散って現れ出たのは、炎の魔人イフリート。身長は2.5m位、野獣のような面様に、火炎のような髪に、筋骨隆々とした威圧的な巨躯。地獄の鬼のような風貌をした男性の姿で、髪の毛が激しく燃え盛る炎で出来ている。


 カストルはライザの従魔がこれほどのものとは想像しておらず、イフリートの出現に驚いた。そんな相手を見てライザはオーホホホと高笑いする。


「ふふ、驚いた? 家の古い書庫で見つけた古文書が召喚魔法を記した魔術書だったのよ。私はその書物を研究して一つの魔法陣を解読したの。その魔法陣から呼び出したのがこの炎の魔人よ。イフリートはパワー、魔術とも優れた力を持っている。どう、降参するなら今のうちよ」


「お兄ちゃん頑張れー!」

『お兄ちゃんファイトォー!』


 アルヘナとメイメイがカストルに声援を送る。可愛い妹の声援は嬉しいが悪魔の裏声は不気味だった。しかし、今の声援で負の感情に陥っていた気持ちが奮い立つ。ユウキとエドモンズ三世から譲られたアンデッドプリンセスのアンゼリッテ。一目見た時からその美しさに惹かれ、成り立ちに同情した。自分は彼女を喜んで迎え、彼女もまた応えてくれた。カストルはアンゼリッテを信じると決めたことを思い出し、彼女と一緒に戦うと心を強くする。


「ライザ、お前との悪縁もここで終わりにするよ。来て、アンゼリッテ!」


 カストルも封印の魔道具を高く掲げ、従魔となった魔物の名を呼んだ。白く輝いた魔道具の中から現れたのは1人の美しい少女。レースの飾りをふんだんにあしらった真っ白で清楚なロングドレスに赤、蒼、橙等の魔法石を連ねた首飾り、白い花の髪飾りが美しい金髪に映えて美しさを一層際立たせている。手には先端に大きな碧玉が飾られた魔術師の杖を持っている。


『アンゼリッテ、参上いたしました。ご主人様』


 アンゼリッテは優雅な所作でカストルに礼をした。姿形だけでなく、所作も美しくユウキたち観戦組も「ほう…」とため息をつく。ただ、メイメイだけは胸の起伏が小さいことを見抜き、満足したように頷くのであった。


「な…、な…なに、この女。カストル、アンタ何を従魔にしたのよ…」

 ライザが震えた声でアンゼリッテを見ながら問いかけてきた。自分より遥かに美人な従魔に嫉妬の炎が激しく燃え上がる。


 カストルはアンゼリッテの隣に並び大きな声でライザの問いに答えた。


「彼女はボクの従魔になってくれた、高位アンデッドのアンゼリッテ。アンデッド・プリンセスのアンゼリッテだ!!」


(ねえ、エロモン。アンゼリッテって、いつの間にアンデッド・プリンセスって称号が付いたの)

『さあのう? 儂には覚えがないぞ。カストルの小僧の願望が爆発したんじゃないのか』


(カストル君って、意外とオタク系かも知れないね)


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「アンゼリッテの魔法系統は何?」

『はい、炎系と派生の光です。以前は退魔系が使えましたが、アンデッドとなった今は使えません』


「イフリートとは相性が悪いね。直接戦闘は?」

『まるっきしダメです。お淑やかなもので…。はい』


「じゃあ、僕がイフリートと戦うよ。ボクは水系が魔法が使えるからね。アンゼリッテはライザをお願い」

『…いいえ、私がイフリートと戦います。ご主人様はサポートをお願いします』

「でも!」


『ご主人様…カストル様は、あそこにいるデカ乳女たちの雑用係としてこき使われていたアンデッドの私を受け入れて下さりました。アンデッドはこの世に存在してはならない忌むべき存在。そんな私を笑顔で迎えてくださったカストル様の願いを叶えたいのです』


「わかった、君に任せるよ。2人で戦おう!」

『はい、ご主人様!』


「何が、何が「2人で戦おう」よ。馬鹿じゃないの、本当にムカつくわね…。イフリート、やっておしまい!」


『フォオオオオオ!』


 イフリートが胸を張って雄叫びを上げ、ピストン運動のように両手を交互に動かし、火球を連続で放ってくる。カストルはアンゼリッテを押し退け、防御魔法を展開した。


「アイスシールド!」

『フンフンフンフンフンフンッ♪』


 フンフン言いながら次々繰り出される火球が氷の防御壁に次々に当たって、爆発音とともに激しい水蒸気が噴き上がり、霧となって周囲の視界を奪う。イフリートは一旦火球攻撃を止め、霧が晴れるのを待つ…が、何かを察知したライザが攻撃を続けるよう叫んだ。


「イフリート、攻撃を止めるな!」

『遅いっ! ライトアロー』

 

 霧の外からアンゼリッテが飛び出て光の矢を連続で放った。イフリートは腕をピストン運動させて、掌で受け止める。


『フンフンフンフンフンフンッ!?』

『気づくのが遅いわ。ファイアボール』


「え?」


 素っ頓狂な声を上げたライザにアンゼリッテが放った火球が迫る。ライザは完全に不意を突かれ、勝負あったと思われたが、横合いから飛んできた火球がライザの直前で方向を変え背後で爆発した。見るとイフリートが火球を放ったポーズでライザを向いている。間一髪で直撃を避けられたライザは「ほーっ」と安堵の息を吐いた。


「驚かせてくれるじゃない…。イフリート、アイツらを叩きのめせ」

『フン!!』


「アンゼリッテ、行くよ」

『はい!』


 イフリートは胸の前で拳を合わせ、フォオオオオオと気を込めると、先ほどの火球とは比べ物にならない大きさの轟炎の大きな球が形成された。


『フンフーン♪』


 轟炎球が人の背丈の半分ほどまで大きくなったタイミングで、イフリートが大きく振りかぶって球を投げつけて来た。地面を削りながら猛スピードで迫ってくる轟炎球。直撃したら消し炭になってしまうだろう。


「アンゼリッテ、下がって。アイスフィールド!」

「お兄ちゃーん、危なーい!!」


 カストルはアンゼリッテの前に出ると、魔力を振り絞って防壁を何重にも展開する。アルヘナの悲鳴が聞こえるが、答える余裕がない。間一髪間に合った防壁に超高温の火球がぶち当たり、急激に冷やされて水分が膨張・蒸発して水蒸気爆発が巻き起こる。「ドガァアアアーーン!!」巨大な爆発音とともに指向性を持った爆圧がカストルとアンゼリッテを襲った。カストルは魔力を高めて防壁を強化するが、爆圧の威力は凄まじく、多重展開した氷の防壁にビシッ、ビシッとひびが入る。


「ま、マズイ。抑えきれない…」


 カストルがそう呟いた直後、バキイン!と防壁が砕ける音がした。


『ご主人様!』

「アンゼリッテ、なにを!」


 アンゼリッテは咄嗟にカストルを庇って抱き着いた。ひんやりとした肌が触れるがカストルはアンゼリッテの行動に驚いた。この子は本当にアンデッドなのか…。しかし、その思考も直ぐに中断させられた。強烈な爆圧が2人を包み込んだのだ。


「ヤバい!」

「きゃあああああ! お兄ちゃーん!」


 ユウキとアンジェリカ、アルヘナとメイメイが同時に立ち上がった。カストルたちがいた場所は濛々と水蒸気が立ち昇り、視界が遮られる。


「貴様、やりすぎだぞ!」

 アンジェリカがライザに向かって叫ぶが、当の本人はニヤリと笑みを浮かべて言い返してきた。


「これは私とカストルの真剣勝負よ。勝負にやりすぎなんてない。強者は弱者と戦うのにも手を抜かない。そして、結局は弱い者が負けるのよ。ふふふ、あははははは!」


「このゲスが…」

「ふん、何とでも言いなさい。所詮敗者の戯言よね」


 勝ち誇るライザが顔を醜く歪ませて笑い声をあげる。メイメイがギリっと歯を噛みしめ、拳を掌に当ててライザの下に向かおうとしたところでユウキが声を上げ、爆発の中心地を指差した。


「待って、あれを見て」


 周囲を覆っていた水蒸気が晴れてきた。その中に2人の人影が見える。その姿を見てユウキたちは息を飲み、ライザは大笑いする。そこにはカストルと彼を庇って黒焦げになったアンゼリッテがいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ