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第364話 従魔契約

 カストルとアルヘナ兄妹に協力するとは言ったものの、何をどうしたらよいか分からない。しかし、この人物(?)だけは自信満々だ。


「で…、どうするの? くだらない話だったらゲイボルグでぶっ刺すからね」

『ククク…、相変わらず我が娘は狂暴じゃのう。少しお淑やかにならねば男にはモテぬぞ』

「余計なお世話よ。フン!」


『さて、まずはお詫びじゃ』


 エドモンズ三世はそう言うと、宝杖をサッと振った。すると暗黒の霧が展開し、その中から1人の美しい少女が現れた。兄妹と同じ年頃でサラサラの銀髪と神秘的なオッドアイ。胸は控えめだがスラリとして均整の取れた体躯をしている。


『儂の眷属、不死体ゾンビのアンゼリッテだ。ホレ、挨拶せんか』

『よろしく…』


 不承不承と言った感じでアンゼリッテが挨拶する。


『こやつは元スバルーバル連合諸王国の聖都に君臨した聖女じゃ。魔術師としての力量はそこそこある。それに、儂の力で高位不死体エルダーゾンビにしておる。感情もあるし、見た目は人と変わらん』


「せ、聖女だって!?」

「どうして、そんな人があなたの眷属になってるの!?」


 カストルとアルヘナはビックリだ。見ると、ユウキは渋い顔をし、アンジェリカは笑っている。2人は益々「?」となる。


『なに、この娘は儂に惚れていてな。どうしても儂と一緒にいたいと言うから仕方なく、ゾンビにして側に置いているのじゃよ』

『ウソつくな! 無理やり私を手籠めにしたくせに…。ふぇええん、人間に戻りたぁい…』


「エロモン、アンゼリッテをどうするの」

『こやつをカストルの小僧の従魔にする』


「ええ~っ!」アンゼリッテを含むその場の全員が驚くが、当のエドモンズ三世は全く意に介さず、いつものごとく飄々として、アンゼリッテとカストルの手を合わせると、契約の手続きをする。


『汝、カストルは我の眷属アンゼリッテを新たな従魔として従属させることを願うか』

「え…えっと…。いいのかな…。は、はい」

『アンゼリッテ、今後は儂の支配から離れ、カストルの小僧が新たな主人となる。主人の命令をよく聞き、永遠に従属を誓うのだ』

『…………』


『言うことを聞かないと、全裸にしてお尻ぺんぺんするぞ』

『わ、わかりました。カストル様に誠心誠意尽くします。まあ、ワイトキングより、カストル様の方がご主人として100万倍もいいものね。ユウキたちはゾンビ使いが荒いし』


『ワッハッハ! 相変わらず儂らは嫌われているのう。カストルよ、アンゼリッテを大切にするのじゃぞ。そしてアンゼリッテ、お主はどういう訳か感情を持って不死体ゾンビになった。儂と居ても雑用として使役されるしかない。それでは不死となったお主にはつまらないじゃろう。だからの、カストルの従魔となり、様々な体験をして不死を謳歌するがよい。カストルもアルヘナもお主と同年代。話も合うじゃろう』


『ご主人様…。気を使ってくれるの?』

『儂はユウキとアンジェリカ、ポポたんの世話で手一杯なのじゃ。お主の面倒が見切れなくなっただけじゃ』


「なに、ツンデレ? キモ…」(ユウキ)

「いや、普通にいい話じゃないか?」(アンジェ)


『まあ、そういう訳で、カストルの小僧、アンゼリッテはお前のモノじゃ』


「はい! ありがとうございます。凄い…、ボクにこんな素敵な従魔ができるなんて…。アンゼリッテ、よろしくね」

『はい。よろしくお願いします』


「む~~~。こら! お兄ちゃんにあまりくっつくな!」


 ヤキモチを焼いたアルヘナが、ドンとアンゼリッテを突き飛ばしてカストルに抱きつく。その様子を見て「思春期だのう」とほっこりするエドモンズ三世だが、ユウキとアンジェリカはアンゼリッテとお別れすると思うと少し寂しく感じるのであった。


 その後、アンゼリッテがどうしてゾンビとしてエドモンズ三世の眷属となったか、経過を聞いたカストルは大いに驚くとともに、少々同情してしまう。アンゼリッテは事実を受け入れたと諦め気味に言い、改めてカストルに忠誠を誓うのだった。アルヘナはまたまたヤキモチを焼き、アンゼリッテとカストルの間に入ってアカンベーをする。


 ユウキとアンジェリカは、この2人は何とかなりそうだと思うと同時に、思ったより簡単に依頼の一つを片づけられホッとするが、アルヘナの従魔をどうするかが残っている。


「ねえ、エロモン。アルヘナちゃんの従魔はどうするの?」

『そうじゃな…。正式に魔術式によって呼び出すとするか』


 エドモンズ三世はユウキのマジックポーチをごそごそすると1冊の本を取り出した。


「それは?」

『オルノスの遺跡からこっそり持ち出した本の一つじゃ。召喚術について記載されておる…と思われる…ような気がする』


「召喚術? 従魔に出来る魔物を呼び出すことができるの!」


 アルヘナが目を輝かせて聞いてくるが、ユウキとアンジェリカは出所がモノだけに不安になる。


「ユウキ、あれは大丈夫なモノなのか?」

「全く大丈夫じゃない。絶対にヤバいヤツだよ、あれ…」

「だよなー。碌でもない結果にならなきゃいいがな」


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 翌日、ユウキたちは召喚術を試してみるため、アウストラリス市郊外の林の中に来ていた。天気は快晴で風も穏やかで、気温も昨日よりは高めで過ごしやすい。


 街道から大分外れた人気のない場所にエドモンズ三世を中心としてユウキ、アンジェリカ、カストルと従魔のアンゼリッテ、そしてアルヘナが輪になっていた。エドモンズ三世は本を見ながら、宝杖で魔法陣を地面に描いている。見たこともない古代文字で書かれた大きな魔法陣にユウキは不安でいっぱいになる。見るとアルヘナも不安そうな顔をしている。


『完成じゃ』

「エロモン、何の魔法陣なの? コレ…」


『分からぬ。この本に書いてある文字はほとんどが読めないのでな。適当にページを開いて、目に付いた魔法陣を書いてみたのじゃ。ヌワッハハハー!』

「えーーーーっ!」


 その場の全員が驚き、その適当さにドン引きする。しかし、当の本人は全く意に介さず、アルヘナを手招きすると魔法陣の中心に立たせる。アルヘナは従魔が欲しいという自分の願いなのに、不安に押しつぶされそうで泣きそうな顔をしている。


『アルヘナちゃん。魔法陣の中心に自身の魔力を通すのじゃ』

「う…、うん」


 アルヘナは言われた通り魔法陣の中心に立つと、両手を胸の前で握りしめ、魔力を魔法陣に接している足元に集中させる。

 アルヘナの体が紫色の光に包まれるのを見てカストルは不安になり、不測の事態に備え、ユウキは魔法剣をアンジェリカは魔法杖マインを手に取る。


『おお、魔力と魔法陣が反応しておる。何となく上手くいきそうな気がするぞ。アルヘナちゃんよ、自分がどんな従魔が欲しいかイメージするのじゃ』

「大丈夫なの? 発言が頼りないなぁ」

「あはは、いつも通りのエドで逆に安心するな」


(えーと、私がイメージする従魔って…。同年代位の可愛い女の子の精霊か妖精で、胸は私と同じ程度の貧乳系で、おしゃべりして楽しい子かな…)


 意外とハードルが高いイメージをしつつ、魔力を高めていくと、足元の魔法陣が強く輝きだし、アルヘナを中心に光の柱がそそり立つ!


「アルヘナ!」


 カストルが妹の名を呼び、ユウキとアンジェリカは余りの眩しさに腕で目を覆う。時間にして数秒程度であったが、その場の全員にはとても長く感じた。光の柱が治まりアルヘナは魔法陣の外に出た。その瞬間、陣の中心から何かが飛び出てきた。全員ごくりと唾を飲み込み、出てきたモノの正体を見つめる。


「やったー! 来てくれたわ。私の従魔、可愛い精霊さん!」


 アルヘナは従魔召喚が成功したと、大喜びで声を上げた…が、現れたのは…。


『ハァーッハッハハハァ! 誰だぁ、魔界の闇からオレ様を呼び出したのは! 我が力を欲する強欲な愚か者がぁ』


 現れたのは、身長約2m、浅黒い肌をして筋骨隆々の体躯をし、ユウキの胴より太い腕も足も筋肉ではち切れんばかり。また、何より特徴的なのは頭には水牛のような2本の角、背中には蝙蝠のような大きな翼があり、精悍な顔つきに背中の中ほどまで伸びた白い髪をして獣の皮でできた腰巻を巻いただけの魔物…、いや悪魔だった。そして、ユウキはこの悪魔を見たことがある。


「ア、アークデーモン…。アークデーモンじゃないの! 何てモノ呼び出したのよ!!」

「か、可愛い精霊さんではなかったな…」


「やだぁ~、私の精霊さん、全然可愛くなぁ~い」

「精霊じゃないよ、悪魔だよコレ。しかも最悪の上級悪魔!」


『ふむ…、これは悪魔を呼び出す魔法陣だったみたいじゃな。ひとつ勉強になったわい』

「何を今頃…」


 アークデーモンは周囲を見回す。自分が呼び出された魔法陣の周囲に人間の女と魔族の少年、それにアンデッドが2体。そのうち1体からは物凄い力を感じる。そして、正面で自分に対峙しているのは魔族の少女。どうやら、この少女が自分を呼び出したらしいと感じた。その少女を見た途端、アークデーモンの全身に電流が走り抜けた。


『貴様! 貴様がオレ様を呼び出したのか!』

「ひぃっ…。怖い…この精霊さん」

「だから、悪魔だってば…」(ユウキ)


 アルヘナはビクッと震え、身を竦ませる。アークデーモンは畳みかけるように問いかけてきた。


『どうなんだ! 貴様がオレ様を呼んだのか! ええ!』

「う、うん…。そう、です…」

『……………』


 アークデーモンが、恐ろしい表情のままアルヘナをじいっと見つめる。ユウキたちやカストルも緊張した面持ちで言葉も発せず、成り行きを見守っている。ただ、ユウキはアルヘナが危険になった場合に備えて、魔法剣はいつでも抜けるよう身構えている。


『ウォオオオオオオ!』

「ひぃっ!」


 突然の咆哮にアルヘナがビクッとする。


『可愛い! 可愛すぎるぞこの娘! オレ様のハートがどっきゅん、どっきゅんしちゃってるぞ! どうしてくれるんだ』

『小さな顔に切れ長の目、神秘的な紫の瞳、可愛らしい鼻に小さく桜色をした唇。そしてハーフテイルにしたサラサラの長い金髪…。何より胸が、胸がオレ様好みの貧乳系ではないか! 最高だ、最高過ぎるぞ! 貴様、名は何という!?」


「ア、アルヘナ…」

『な、なんと…名前まで可愛いとは…。貴様、いやアルヘナ、オレ様を萌え殺す気か』


『しかし、アルヘナ。お前の最高に素晴らしいところはその胸だ。完全なペタンコではなく、掌で包むとちょっと物足りなさを感じる程度のささやかな膨らみ。小さく張りがある貧乳は乳首も小さく纏まり美しい。最高だ…、貧乳は最高過ぎる。貧乳バンザイ! 小さなおっぱい最高! 貧乳少女こそ至高!! オレ様は貧乳を愛し、貧乳を追い求めるちっぱいの旅人なのだぁああ!』


「うう…、貧乳貧乳って連呼しないで…。全然嬉しくない…」(アルヘナ)

「なに、コイツ。エロモンクラスのド変態じゃないのさ。ビフレストで相対したアークデーモンは正に悪魔って奴だったけど、コイツはただのスケベなド変態だよ」


『それに比べ、そこにいる女どもは醜い! 無駄に胸を主張させおって…。巨乳だと? あんな脂肪の塊のどこがいいんだ。ぶよぶよして美の欠片も感じられぬ。乳輪も伸びきって大きく気持ち悪いし、歳とともにだるんと垂れ下がり、「ハの字」になって体型も崩れるではないか。所詮巨乳なぞ漢の幻影にすぎぬ。乳に浮き出た血管と伸びきった黒乳輪&乳首を見て、現実に絶望するだけだ!』


「なんだとクソ野郎! 見た事ないくせにわたしの美巨乳をディスりやがって。生かして帰さんぞ。生まれてきた事を後悔させてやる!」

「偏見の塊みたいなヤツだな。許さん…、ユウキ、私も手を貸すぞ!」


『まあまあ落ち着け2人とも。おい、悪魔よ』

『む…、何者だ』


『儂は死霊の王にして、思春期少女と巨乳美少女をこよなく愛する者。ワイトキング、エドモンズ三世じゃ。そして、そこの巨乳ちゃんの眷属でもある』

『フン、巨乳派か…。そのエドモンズが何の用だ』


『なに、アルヘナちゃんは従魔を欲して儀式に臨んだのじゃ。儂が手助けしてな。お主、アルヘナちゃんを気に入ったようだし、従魔になってあげてはくれぬか』

『ふ…、愚問だな。オレ様は既にアルヘナちゃんの守護者を自負している』


「あの、なんか話が勝手に進んでいるのだけど…」

「アルヘナ、諦めたほうがいいよ。もうどうにもならない」

「まあ、ド変態だけど悪魔としては最上位だからね。わたしは絶対に許さないけど」


 結局、アルヘナはアークデーモンを従魔として受け入れた。エドモンズ三世によって契約の儀式を済ませた後、改めてカストルと従魔のアンゼリッテと紹介し合った。そこではたと気づく。


「あれ、悪魔さんの名前は?」

『無いぞ。アルヘナちゃん、付けてくれ』


「え~、私が~。何て付けよう、ん~、あ、じゃあさ「メイメイ」ってどう?」

「それ、もろに女の子の名前じゃん。全然似合わないよ」

「え~、そうかなぁ」


『いいぞ、オレ様にとって名前なんぞ何でも構わん。アルヘナちゃんが気に入ったのならそれでいい』


「ホント! やったぁ。今から君は「メイメイ」ね!」

『応! ああ、貧乳アルヘナちゃんの喜び顔…尊い』


「いいのかなあ」

「アルヘナちゃんの行く末がとても不安だな…」


 念願の従魔を得て喜ぶ2人の兄妹。しかし、その従魔は高位不死体にアークデーモンと明らかに真面まともではない。嬉しそうな2人を見て、ユウキとアンジェリカの心は不安でいっぱいになる。


「これから一体どうなるんだろう…」

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