第363話 カストルとアルヘナ
ユウキとアンジェリカはお屋敷2階の部屋に案内され、テーブルを挟んで依頼主と対面している。目の前には双子の兄妹がちょこんと座っている。男女なので二卵性双生児だ。兄はカストルという名で金髪紫眼の美少年。妹がアルヘナという名で長い金髪をハーフテイルにし、大きな赤いリボンで結んだ美少女。ただし、胸は起伏に乏しい貧乳系だ。2人ともアウストラリス魔導学園の1年生とのこと。
「えと、わたしはユウキ・タカシナ。歳は18歳で見ての通り巨乳自慢の美人女子。こう見えてもAクラス冒険者。タイプは誠実で優しくわたしを受け入れてくれる男性…、ではなくて、武器戦闘も魔法も両方こなす魔法戦士です」
ユウキは胸元からネックレスに吊り下げた金色の冒険者証を見せる。
「私はアンジェリカ・フェル・メイヤー。ユウキほどではないがDカップの美乳が自慢だ。ただ、お尻が大きめなのが少し悩みかな。水系の攻撃・防御両方の魔術が得意で絶賛彼氏募集中の17歳です」
グッと左腕を上げて魔法力増幅の腕輪を見せる。
2人の少々ふざけた自己紹介を聞いて、不安になる依頼者兄妹。アルヘナがこそこそとカストルに耳打ちする。
「大丈夫なの? この人たち。全然冒険者に見えないんですけど。それにさり気無く私のおっぱいをディスってるし…。悔しい」
「ボクも少し不安だけど、やっと来てくれた冒険者だし、話をしてみようよ」
「うん、お兄ちゃんがそういうなら…」
「あの、ボクたちの依頼の前に確認したいのですが、お2人は従魔を所持していますか?」
「私は持っていないが、ユウキはとんでもないのを持っているぞ」
「…なら、見せてくれない?」
アルヘナが少しきつめの口調でお願いしてきた。
「どうして? 従魔は簡単に人前に出していいものではないよ。特にわたしのは…。出したらアルヘナちゃんは絶対に後悔すると思う」
「後悔ってなに? でも見てみたいの。お願い」
「ボクからもお願いします」
『ククク…。ユウキよ、こ奴らにワイトキングの凄さ、素晴らしさを見せてやろうではないか。儂を出すがよい』
(絶対にドン引きされるだけだよ。アルフィーネは…ペンダントの外は寒いから出たくない? アース君じゃ大きすぎるし、仕方ないなあ)
ユウキは不承不承といった感じで右耳のイヤリングに手を触れて魔力を通した。部屋の片隅に黒い霧が湧き上がり、やがて漆黒の闇となる。強烈なプレッシャーにカストルとアルヘナはごくりとつばを飲み込んだ。そして…、
『ウワーッハハハハハ! ワーッハハハハハ! 呼ばれて飛び出て只今参上! 青き果実の思春期美少女と熟れたボディの巨乳美少女をこよなく愛する愛の伝道師! 史上最強の死霊王「ワイトキング」アベル・イシューカ・エドモンズ三世とは儂の事じゃああああ!!』
闇の中から高笑いしながらズイっと現れ出たのは蝶ネクタイを締めた白シャツを黒づくめの紳士服で包み、黒のマントとシルクハットを着込んで、宝杖を持ち、怪しげな目の部分だけ細く開いた白い仮面を着け、体を斜めに傾けた怪しげなポーズを取った、場末のサーカスの怪人みたいなエドモンズ三世が現れた。その姿にアンジェリカは早くも腹筋が崩壊し大笑いしている。
「きゃははははは! やってくれたな、エド! 可笑しくてお腹が…。あはははは!」
『アンジェは笑いすぎじゃぞ』
とか言いながらも、笑い転げるアンジェリカの姿に満足したエドモンズ三世は、宝杖をステッキのようにくるくる回し、軽快なステップで双子の目前まで近づく。カストルとアルヘナは目の前で高笑いし続ける得体の知れない怪物(?)に、完全にビビってしまう。怯えた顔の目前で、エドモンズ三世はいきなり仮面を取った!
『ばぁーーーっ!』
「きゃあああああああっ!」
「うわあああああああっ!」
『ウワーッハハハハハ!! あべしっ!』
「いい加減になさい!」
「もう、毎度毎度飽きもせず、馬鹿笑いして出てきて女の子を脅かして。ばっかじゃないの!? 見なさい、アルヘナちゃん、驚いて泣いちゃってるよ」
ユウキはエドモンズ三世の後頭部をぺシーンとひっぱたいたが、当の本人は全く意に介さない。アルヘナの泣き顔に感動してプルプル震えている。
「お、おお…。思春期美少女の泣き顔。久しぶりじゃ、グレースの所のシェリー以来じゃないか。おお…尊い。儂、大感激ぃ~」
「この腐れ骸骨は…。救いようがないわね」
「あははは、許してやれユウキ。エドも場を和ませようと腐心してるんだ」
「絶対に違うよ。もう、アンジェはエロモンに甘いんだから…」
エドモンズ三世はアルヘナにズイッと髑髏を近づける。「ひいっ」と小さく悲鳴を上げ、ぐすぐすと泣きながら床にペタンコ座りになるアルヘナと、青ざめ引き攣った顔をしながらも妹を庇うように立つカストル。エドモンズ三世はぐいっとカストルを除けると、アルヘナに向かってワイト・サーチを発動させた。
『ワイト・サーチ!』
「あ~あ、やっちゃった…」
「お約束だな」
『ふむ…。ククク…、フフ、フハハハハハ! よい、よいぞこの娘! 思春期、正に思春期を体現している娘じゃ! そう、儂はこのような娘を求めていたのじゃああああ!』
『ユウキやアンジェはのう、体は素晴らしいものを持ってるが、根性がひねくれているからのう。思春期少女とは言えんのじゃ』
「根性がひねくれてて悪かったね…」
「私は思春期真っ盛りだと自分では思っていのだが…」
『アルヘナ・アルデンヌ15歳、B80、W60、H84。典型的なささやかバストじゃな。ユウキは15歳の時には89cmもあったぞ。圧倒的な差じゃな、プークスクス。だが、乳頭は桜色で美しい。合格じゃ! おおう、お股もツルツルじゃないか。きちんとお手入れしているようじゃのう。偉いぞお主』
「いやぁ~~~! 止めてぇえええ」
「ごめん、もう止まんないよ。このド変態は」
「本当に女の子の秘密も何もあったもんじゃないな…」
『さぁて、アルヘナよ。儂、言っちゃうからね』
「ぐす…、な、なにを言うっていうのよ…」
『カストルの小僧、よく聞け。アルヘナは「お兄ちゃん大好きっ! でも素直になれないツンデレっ娘」なのじゃ! それも究極の。毎晩、大好きなお兄ちゃんの肖像画を枕の下に入れ、恋人になることを夢想し、お主の部屋に忍び込んではベッドの匂いをクンカクンカしておる。しまいにゃお主のパンツを履いたり被ったりして深呼吸』
「うわぁ…」
「最低だな」
「きゃあああああ! 私の秘密ぅ~!!」
『それだけじゃないぞ。夜な夜なお主のことを想っては、手が自然とアソコに…』
「はい、すとーっぷ!」
『ぐっはあ!』
ユウキはエドモンズ三世の背中を蹴り飛ばした。べしゃっと音を立てて倒れ伏すワイトキングの頭蓋骨をガッシと足で踏みつける。アンデッドの頂点に存在し、畏怖と恐怖の象徴であるワイトキングを従魔にしているのも驚きだが、それを足蹴にしている人間がいることにカストルは混乱してしまう。
「だから言ったでしょ。後悔するって」
「やっぱりエドは揺ぎ無きド変態だな」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「うう…、ぐすぐす…。私の秘密、全部知られた。死にたい…」
グスグスと泣く妹の頭を優しく撫でて、カストルは優しく語りかけた。
「アルヘナ。ボクもアルヘナの事、大好きだよ。ただ、僕たちは兄妹だ。ボクは妹としてアルヘナのことを大切に想っている。この世にたった2人の兄妹じゃないか。2人を結ぶこれ以上の絆はないよ。だから、もう泣き止んで。ずっとボクと一緒にいてくれるかい」
「おにい、ちゃん…。うん、ありがとう。やっぱり大好き!」
『いい話じゃのう』
「お前が言うか…」(ユウキ)
邪魔なエドモンズ三世を蹴り飛ばしたユウキは、2人に依頼の真意を確認することとした。部屋の壁に激突し、あちこち変な方向に曲がったエドモンズ三世の体をアンジェリカが「あ~あ」と言いながら修繕し始める。その様子を唖然として見ているカストルとアルヘナの兄妹。しかし、この騒動で少し落ち着いたようだ。
「落ち着いた? じゃあ、依頼の内容を聞かせてくれるかな」
カストルとアルヘナは息ぴったりで頷くと、交互に理由を話し始めた。2人が通う魔導学園は魔術師育成を主眼に置いた国立の学校で、貴族や平民の分け隔てなく、魔術の適性がある者が集う世界有数の学校で、他の国からの留学生も多いのだという。一方で学科を始め実践訓練も厳しいので有名で、単位が足りず進級できなくて脱落していく生徒も多い。
「へー、凄いんだね」
「そういえばアレシア公国からも留学生がいたな」
「実は、魔導学園の生徒は1年生のうちに従魔を従えるのが単位の一つになっているのですが、ボクもアルヘナも従魔術に適性が乏しいらしく、今だ従魔を得ていないんです。なので、その…、従魔に詳しい人のアドバイスが欲しくて…」
「でも、それなら学校の先生とか高位の魔術師に聞くとかしたら良いのでは? 何故に冒険者に依頼を出したの」
「君らの家は貴族だろう。その手の伝手はあるのではないか?」
「それは…」
カストルとアルヘナは黙り込んでしまった。しばらく沈黙の時間が流れる。そして意を決したようにアルヘナが口を開いた。その顔からは怒りの感情が読み取れ、ユウキとアンジェリカは少し驚き、エドモンズ三世は興奮を隠せない。
「私たちの学年に伯爵家の令嬢でライザっていうクソいけ好かない女がいるの。そいつ、いつも私たちを目の敵にしていて、嫌がらせばかりしてくるの。おまけに物凄い魔物を従魔にしたものだから、学年のヒエラルキーの頂点に立っちゃって…。同じように強くて能力のある魔物を従魔にした仲間とグループを組んで、気に入らない子たちをイジメるようになって…」
「ボクたちも標的になってしまって。今だ従魔も従える事が出来ないクズと言われて、悔しくて…。だから、ボクとアルヘナで強い従魔を手に入れて、アイツらを見返そうとおもったんだ。だけど、先生や魔術師に聞いても理論ばっかり言うから、よく理解できなくて、今だダンゴ虫一匹従魔に出来ないんだ。もう、どうしようもなくて、藁にもすがる思いで冒険者に助けてもらおうかと考えて依頼を出したんだ」
「でも、中々来てくれなくて、諦めていたの」
「権力と力のある貴族は、自分より力のない者を下に見る傾向がある。そうして力を誇示するんだ。かくゆう私もそうだったからな。市井に出てみるとよくわかるよ」
「アンジェ…。う~ん、協力してもいいけど、依頼料はどうするの」
カストルとアルヘナは席を離れてそれぞれの貯金箱を持ってきて、中からお金を取り出した。
「お小遣いを貯めたお金です。銀貨20枚あります」
「お願い! これで引き受けて! 私たちどうしても従魔を手に入れたいの。協力して!」
必死に懇願する2人の兄妹を見ていると、望と自分の事を思い出してしまい、助けたいという気持ちが強くなる。ふと、横を見るとアンジェリカは優しい笑みを浮かべて全て任せるといった顔をしており、エドモンズ三世はじいっとアルヘナを見つめている。ユウキは2人の願いを叶えることを決めた。
「わかった。カストル、アルヘナ。わたしたちは2人の依頼を受けるよ。従魔の契約が出来るようサポートするよ」
「ありがとう! えーと…、ユンケルさん!!」
「違う! わたしゃ栄養ドリンクか!? ユウキだよユ・ウ・キ。もう…」
『ウワハハハハ! 正しい名前を呼んで貰えない儂の気持ちが分かったか』
「く、悔しい…」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「でも従魔契約か…、どうしたらいいのかな? アンジェ、わかる?」
「いいや、全然。ユウキはエドをどうやって仲間にしたんだ?」
「ボコボコにして言う事を聞かせた」
「参考にならないな…」
『クックック…、儂の出番じゃな。儂にいい考えがあるぞ。アルヘナちゃんへのお詫びも兼ねて、全力で協力しようではないか』
「エロモンが…? 不安しかないよ」
ユウキの呟きにカストルとアルヘナも不安になるのであった。
「この人たちに頼んでよかったのかな」




