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第361話 タンムーズ山脈の山小屋にて

「外は大分吹雪いてきたな」

「ですわね。レオンハルトさんは大丈夫かしら」

「アイツはプロだ。危険だと思ったら無理はせず、どこかにビバークなりするはずだぜ」

「ならいいんですけど…」


 天空歩道を抜けたエヴァリーナたちは険しい尾根道を歩き続け、目的の鉱山跡まであと少しという場所まで来ていたが、天候悪化に伴う降雪に見舞われ、偶然たどり着いた山小屋に避難していた。山小屋は古い建物であったが痛みは少なく風雪を防ぐには十分な強度も持っていた。内部には建物の直ぐ脇の崖から湧き出る清水を引いていて、水は十分に得られ、薪の備蓄も大量にあった。炊事場となっている土間と囲炉裏のある板間、休憩できる板間も2室あり、また、小さいながらも風呂もあり、トイレもあった。


 今は食事を終えて各自休憩を取っていた。エヴァリーナとミュラー、リューリィは囲炉裏を囲んで携帯缶に入れてきた酒を分け合って飲んでいる。アルテナはミュラーに抱っこされて居眠りしており、貧乳シスターズを始めとする他の女の子たちは交代で風呂に入っていた。


 エヴァリーナが窓の外を見ると強い風に混じって雪が横殴りに降っていた。気温も相当下がっている。一行に先行して偵察に向かったレオンハルトは大丈夫だろうか。エヴァリーナは心配になるのであった。


「これからの行動を決めませんと…。どうしますか、エヴァリーナ様」


 リューリィが囲炉裏に薪をくべながら聞いてきた。パチパチと薪が爆ぜる音が響く。エヴァリーナは囲炉裏で勢い良く燃える薪を見ながら思案する。アルテナの話だとこのあたり一帯は冷涼な乾燥地帯で、気温は低く風が強いが、滅多に雪が降ることはないとのことだった。つまり、今は稀に起きる気象状況だということで長くは続かないということ。ならば…。


「アルテナ姫の話ではこの気象状況は滅多に起きることではないとのこと。外は吹雪いてはいますが積雪もそれほどではないです。なので、天候の回復状況を見て、目的地に向かいます。ただ、詳細な行動計画はレオンハルトさんの偵察の結果を聞いてから皆さんと立てたいと思います」


「賛成だ。ここに冬期間、閉じ籠っても何も解決しやしねぇからな」

「僕もです。ここでは何もすることがないので、皆さんがいつの間にかミュラーさんの子を宿してる…、なんてことになりかねませんからね」


「えっ、ヤダ…。ミュラー、アナタまさか…」

「お、おいリューリィ! 変な事言うんじゃねえ、するわけねぇだろ、オレはユウキちゃん一筋だっての!」


「あははは、冗談ですよぉ」

「お前、酔ってるな…」

「全く…、冗談じゃありませんよ。ホントになりそうで怖いです」

「エヴァもひでぇな。オレはそんな下衆な男じゃねえっての」

「ミュラーさん、ユウキさんは諦めて、お嫁さんはアルテナ姫にしたらどうです。可愛いし、すっかり懐かれてますよ」

「まあ! それは良いですわ。帝国とウルとの繋がりもできますし」


「お前らいい加減に…、それより静かにしろよ。アルテナが起きるだろ」

「やっぱり…」


 その後も2人でミュラーをからかっていると、頭から湯気を立ち昇らせたフランとティラが風呂が空いた事を知らせ、そのまま寝室に向かった。


「では、私が先にお風呂を頂きますわね」


 エヴァリーナが立ち上がると2人がひらひらと手を振った。それを見てクスっと笑い、風呂場に向かう。見送ったミュラーとリューリィは酒を飲み始め、他愛もない話をしながらまったりとした時間を過ごす。


「風が強くなりましたね」

「だな、レオンハルトのヤツ、大丈夫かな」


 その時、ガタン!と音がして玄関の戸が開き、風が室内に入ってきた。


「おわ! 何だ。寒いぞ」

「わっ、雪男だ!」


 2人が玄関の方を見ると戸が開いて、全身雪塗れの何者かが侵入してきていた。ミュラーは慌てて剣を取ろうとしたが、アルテナがいるため動けない。リューリィが魔術師の杖を持って立ち上がったところで、雪男は入口の戸を閉めて頭の巻物を取った。


「オレだ。レオンハルトだ…」


 寒さでガタガタ震えるレオンハルトにリューリィが走り寄り、雪を払って表面が凍り付いた防寒服を脱がせる。


「ハルワタートたちの宿営地を見つけた…」

「報告は明日でいい。ほら、これを飲んで体を温めろ」


 ミュラーは酒の入った携帯缶を投げて寄越したが、レオンハルトは手がかじかんでいて、上手く受け取れず落としてしまった。リューリィが缶を拾って蓋を開けて渡してくれる。


「悪いな、リューリィ君。くぅ~、効くなぁ…。腹の底からあったまるぜ…」

「レオンハルトさん、すっかり体が冷えてます。お風呂に入った方がいいですよ」

「ああ、そうさせてもらうわ」


 風呂に向かったレオンハルトを見て、濡れた防寒着を土間の物干しに掛けようとしたリューリィはハッと気づいた。


(お風呂、エヴァリーナ様が入っているんだった。ああ、もう行っちゃった。あちゃ~)


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「ふう、いいお風呂…。こんな山小屋に温泉が湧き出ているなんて、僥倖でしたわ」


 1人お風呂に浸かり、すっかりリラックスしたエヴァリーナ。小屋の外から引いた配管からチョポチョポと心地よい音を立てて透明なお湯が湯船の中に落ちていく。

 熱量十分な温泉のお湯で心も体も温まったことから、そろそろ上がろうかと湯船から出た。タオルで軽く体を拭いて浴室から出るため、引き戸に手をかけようとしたところでガラっと戸が勢いよく開いた。


「えっ!…」

「…………」


 全裸のエヴァリーナの前に立っていたのはこれまた全裸のレオンハルト。お互い何が起こったか理解できずに立ち尽くす。


 レオンハルトの目前に全裸の金髪紫眼の美少女がいた。白い肌は温まってうっすらとピンクに輝き、控えめな胸に桜色の可愛い乳頭、細い腰に形の良い大き目なお尻。そしてツルツルのアソコ…。胸の大きさ以外はユウキにも負けないと思われる美しさだ。

 一方のエヴァリーナの前には筋肉質の逞しい体をした男性が股間も隠さず立っていた。大きく厚い胸板、きれいに割れた腹筋、抱きしめられられたくなるような太い腕。そして、女の子の裸を前にして充血し、天に向かってそそり立つビッグな肉棒…。


「きゃああああああああああーーーーーっ!」

「うわぁあああああああああーーーーーっ!」


「な、なんだぁ!」(ミュラー)

「やっぱりぃー!」(リューリィ)


「敵襲! 敵襲ぅーー!」

「敵は、敵はどこー!」

「うわー、せっかく巨乳になった夢見てたのにぃー」

「びっくりした。びっくりして…、おしっこ漏らしたぁあああ!」

「私もー! パンツびしゃびしゃだー」

「そりゃ大変だ!」


 山小屋全体に響き渡った絶叫に全員が飛び上がるほど驚き、混乱したままバタバタと声のした風呂場に向った。集まった者たちがそこで見たものは…。ミロのビーナスのように腕で胸を隠し、長い髪の毛でお股を隠してえぐえぐ泣いているエヴァリーナと、スッポンポンで土下座をして謝ってるレオンハルトだった。しかも、レオンハルトは入り口側にケツを向けていたため、黄門様と玉袋が丸見えで、ぶらぶらするモノを見た女の子たちは一斉に「キャアアー♡」と嬉しい悲鳴を上げるのであった。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


翌朝…、

 囲炉裏端で火にあたりながらどんよりと項垂れる1組の男女。仲間たちは少し離れた場所で朝食を食べながらニヤニヤと生温かく見守っている。


「うう、恥ずかしい…。男の人に全部見られてしまいました…」

「本当に済まなかった、エヴァリーナさん。謝罪しても許されるモノではないが、謝らせてくれ」


「もういいです。忘れて下さい、というかレオンハルトさん相当も恥ずかしい思いしたわけですし」

「ああ、女連中にケツの穴から玉袋、チン棒までバッチリ見られてしまったよ。おまけに土下座姿が情けない。こんな情けない男とは一緒にられない。失望した、恋心も無くなった。と言ってエマとレイラがパーティの解消を申し出てきたのには参った…」


「まあ…。ツルペタリーナと呼ばれる私の方がまだマシですわね…」

「ツルペタリーナ…、ゲロ穴ホールデンっていうあだ名が付いた俺よりよっぽど可愛いぜ」

「酷いあだ名ですわね…。ごめんなさい。もう忘れましょう」

「ああ…(あの美乳とツルツルのアソコは絶対に忘れん!)」


 頭の上に雨雲を乗っけて項垂れている2人のもとに、昨夜の騒動を知らないアルテナがトコトコとやってきて声をかけてきた。


「エヴァのお股、毛が無くてツルツルだそうだな? わらわと同じだな!」

「うにゅ…」

「得体のしれない男、お前、ケツ穴の周辺に毛が生えているそうだぞ、キレイにしたらどうだ。わらわがソリソリしてやろうか、ん?」

「いや、気持ちだけで十分だ。自分でやるからいいよ…」


 見ると、ミュラーを始め貧乳シスターズ、ルゥルゥ、エマたちもお腹を抱えて笑っている。唯一リューリィだけが止めるように言うが、誰も言うことを聞かない。


「うう…グス…。グスグス…」

「ど、どうしたのだ。アルテナ、変な事いったか?」


 エヴァリーナが泣きそうになり、アルテナがよしよしするのを見て、流石に頭に来たレオンハルトは立ち上がり、ミュラーたちの側に行くと、大きな声で注意した。


「お前ら、いい加減にしろよ! 俺のことはいくらでも悪く言ってもいいが、エヴァリーナさんは悪くないだろ。被害者だぞ彼女は! そしてこのパーティのリーダーなんだろ。ハルワタートたちはこの先の谷に大規模な宿営地を作っている。そこを調査ベースにして冬営するつもりなのだろう。ヤツラは人数規模が大きすぎて直ぐに動けない。先行するチャンスなんだ。そんな大切な時に仲間同士の信頼関係を壊してどうする。リーダーを信頼しなくてどうする。昨夜の事故をいつまでも引っ張って馬鹿にしやがって…。下らねぇぞ、お前ら。昨夜のことは終りにしてこれからを考えるべきだろうが!」


 怒りに顔を真っ赤にしたレオンハルトが一気呵成に言葉をぶつけたが、ミュラーやリューリィ、フランははともかく他の者はシラーっとして顔を見合わせると、朝食の残りを食べ始めた。


「こ、こいつら…」

「グス…。レオンハルトさん、もういいです…」

「すまん、エヴァリーナさん。俺が確認もせず風呂場に行ったばかりに…」


「いいえ、レオンハルトさんは元々のメンバーではないのに、進んで極寒の中偵察に行ってくださったのですわ。とても感謝しています。体が冷え切って早く温まりたいと思うのは当然のことです。私も入口に「入浴中」の札をかけ忘れたのですし、私も悪かったのですわ。それより、先ほどの武断派の状況についてのお話、詳しくお伺いしてもよろしくて」


「ああ」


 レオンハルトはエヴァリーナをひとつしかないテーブル席に案内すると、紙と鉛筆を出して地図を描き始めた。2人で位置を確認しながら行動計画について話し合う。それを見たミュラーやリューリィ、フランが机の周りに集まってきた。さらに、他のメンバーもエヴァリーナに謝罪しながら書き込まれた地図を覗き込む。


「エヴァリーナ様、済みませんでした」

「皆さん…。いえ、いいのです。では、今後の行動計画について決めていきましょう。あと、レオンハルトさんにも謝ってくださいね」

「はーい。気が向いたら謝りまーす」


「お前ら…。くそ、すっかり舐められちまった」

「得体のしれない男よ。元気出すのだ」

「アルテナ姫、お前もいい加減俺の名前を覚えろよ」


「あはは…、では早速レオンハルトさんから偵察の結果を報告していただきましょう」


  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「俺たちがいる山小屋は、この尾根のこの位置だ。小屋から続く尾根道はタンムーズ山脈のこの山付近で別の峠道と合流している。ここまで距離は約15km。険しくアップダウンが連続するが道幅は3人横に並んで歩くくらいはある」


「この峠道は?」

「そこはゼノビアからタンムーズ山脈の鉱山地帯に続く国道なのだ。遠回りだが道が広くて、部隊を移動させやすいのだ。ちなみに、得体の知れない男が示した山はバラナーゴ山といって、この山を越えて大陸の東海岸に抜けることができるのだ」


「よくご存じなのですね」

「ラサラス姉様が、これを読めと持たせてくれたのだ」


「(カンペか…)続けていいか? 俺が偵察した時はこの合流点から下、2km位の場所にある大きな谷で先遣隊と思われる部隊が到着していて、冬営の準備をしていた。恐らく主隊を受け入れる準備も兼ねているんだろう」


「と、いうことは…」

 ミュラーが拳を顎に持っていき、考えをまとめる。


「オレたちはハルワタートに先行できるな。奴らは大部隊が故に小回りが利かねえ。春になってから本格的に動くつもりかも知れねえな」

「それなら、春になってから準備を整えて動いても良さそうなのでは?」


 リューリィが最もな疑問を呈すとミュラーはニヤリと笑い、


「あいつらは一刻も早く邪龍の手掛かりを得たいのさ。だから、無理してでもここに来た。恐らく冬営しながら部隊を整えると同時に少人数の部隊を編成して鉱山に突っ込ませるつもりだと思うだぜ」


 と言った。エヴァリーナは確かにミュラーの話は一理あると考える。なら、取る手段はただ一つ。


「先行しましょう。彼らより早く邪龍の手がかりを得るのです。そして、武断派の手に渡らないようにしなくては」


 エヴァリーナの意見に全員が頷き、準備のため動き出そうとしたが、レオンハルトは手でそれを制した。


「レオンハルトさん?」

「エヴァリーナさん。直ぐに動くのは早急だぜ。俺たちは邪龍も鉱山洞窟も何も知らないんだ。まず、情報収集が先だと思うぜ」


「と、いいますと?」

「この合流点の近く、街道からは陰になって見えない場所に、炭焼き小屋みたいなのがあった。それを情報収集のベースにしてヤツラの冬営地に忍び込み、鉱山洞窟の情報を得るんだ。あと、この山小屋もキープしておいた方がいい」


「…ミュラー、貴方の意見は?」

「そうだな…。レオンハルトの意見にも一理ある。情報は多いに越したことはない」

「では、決まりですわね。情報収集のために潜入するメンバーはどうします?」


「2人。潜入は少ない方がいい。そうだな、潜入は俺とフランちゃんにお願いしたい」


 フランは黙って頷いた。行動計画が決まった事でメンバーは早速出かける準備をする。山小屋にはルゥルゥとエマ、レイラが残ることになった。緊急の場合のゼノビアへの連絡係も兼ねている。


 晴れ渡った冬空の下、諜報活動を行うため、メンバーは山小屋を後にした。いよいよ任務の核心に近づいた。そう思うエヴァリーナの心は昨日の恥ずかしさも忘れ、高揚するのであった。

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