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第360話 ラサラス王女の危機

 軟禁部屋から抜け出したハインツとタニアは、とりあえずラサラス王女の元に行こうと王宮内部を彷徨っていた。


「大きさは帝国の宮殿ほどではないが、建物自体迷路のようでどこを移動しているか分からなくなるな。タニアさんは分かりますか」

「すみません、ハインツ様。私も宮殿は初めてで…」


 しょぼんとするタニアを元気づけ、再びそれらしき部屋を探すため、複雑な廊下を歩き始める2人。メイド服のタニアを先頭にその後ろを作業員に扮したハインツが続いている。

 すれ違う使用人や職員が2人をチラ見していくが、メイドに案内された作業員は常時王宮内を歩いているので不審に思うものはいない。


「タニアさん止まって!」

「きゃっ、どうしたんですか」

「見てください。サーグラスです。こっちに来ます」


 通路の先には親衛隊長のサーグラスが、部下と思われる2人の親衛隊員を連れて何事か話しながら歩いてくるのが見えた。ハインツは周囲を見回すと、丁度自分の隣に扉がある。サーグラスに気づかれないように扉を開けて中に入った。部屋は小さな会議室のようで白布を掛けられた大き目のテーブルと椅子だけが置かれている。


 タニアが扉に耳を当てて様子をうかがうと、サーグラスたちの足音が徐々に大きくなる。どうやら2人のいる部屋に入ろうとしているようだ。そのことに気づいたタニアはわたわたしながらハインツに伝えたところで、ハインツはタニアの手を取ってテーブルの下に隠れ、息を潜める。そのタイミングで扉が開いた。


「帝国の連絡者とやらはどうしている?」

「はあ、ご命令通り部屋に軟禁しております」


「絶対にラサラスやシェルタンのじじいに接触させるんじゃないぞ」

「はっ!」


「それとタンムーズ山脈に向かった帝国のヤツラへの妨害工作はどうだ」

「は、手筈は整え済みです。親衛隊の手練れを送り込みました」

「よし、実行に移せ。確実に仕留めろ。なに、帝国が何を言ってきても知らぬ存ぜぬで通せばよい。ヤツラは非公式に入国したんだからな。特にエヴァリーナとミュラーという男は確実に殺せ。くそ、このオレを馬鹿にしやがって、思い出しても腹が立つ…」


「了解しました。では隊長、我々はこれで…」

「ああ、行け」


 部下の隊員が退室し、1人部屋に残ったサーグラスは窓辺に立って一人ごちる。


「ラサラス。いずれ穏健派は武断派に潰される。我々親衛隊がいつまでも味方するとは思うなよ。スカした顔をしていられるのも今のうちだ。絶望に堕ちた顔をオレに拝ませろ…。殺しはしない。性奴として可愛がってやるぞ。その時が楽しみだ…。ハハハハハ!」


 サーグラスはひとしきり笑うと、剣を抜いてテーブルに近づき、思い切り突き刺した。剣は天板を貫いて床まで達する。刃が顔先をギリギリを掠めたタニアは大きな悲鳴を上げた。


「出てこい、ゴミ虫!」

「キャアアアアーッ!」


 腰を抜かしたタニアを抱えてテーブルの下から出たハインツは、部屋奥の壁際に下がり、タニアを庇いながらサーグラスと距離を取った。


「帝国とそれに味方するウジ虫が…。どうやって逃げ出したかは知らんが、聞かれたからには死んでもらう」


「裏切者の糞野郎に言われたんじゃ、ウジ虫だって迷惑だろうな」

「サーグラスさん、あなたはラサラス王女様のお味方じゃないんですか」


 タニアが困惑したような表情で問いかけると、サーグラスは不敵な笑みを浮かべ、ハインツを侮蔑した様な目で見る。


「味方…? そうだ、今は味方だ。だが何時までそうだとは誰が言える。オレは人間が嫌いなのでな。いや…、大嫌いなんだよ。だから人間に味方する獣人・亜人も全て嫌いだ」

「だからこそ、オレはハルワタート様のお考えに共感するのだ。この意味は分かるよな」


「貴様…」

「オレの秘密を知ったからには生かして置けん。ここで死んでもらう」


 サーグラスは剣を携え2人にゆっくりと近づいて来る。ハインツはタニアを庇い、ダガーを抜いて防御姿勢をとる。


「おらぁ!」

「ぐっ…」


 頭上から振り下ろされた剣をダガーで受け止めたハインツ。背中でタニアが小さく悲鳴を上げ、ぎゅっと背中にしがみ付くのを感じた。ぎりぎりと押し込んでくる剣を力を込めて押し返す。


「へえ…、ただの色ボケのガキかと思ったが、やるじゃないか」

「帝国貴族の男子たる者、剣の修業は欠かさないのでな。それに僕には守るべき人がいる!」

「そうかよ。おらぁ!」


 左右からの斬撃を何とか迎撃するが、軽量なダガーでは相手の剣を抑えるだけで精一杯で、耐久力だけが落ちていく。このままではマズイとハインツは焦りを覚える。愛する男性の背中で震えていたタニアはハインツの苦境を見てとった。


(ハインツ様が危ない。私を守りながらじゃ思い切って戦えないんだわ。どうしたらいいの。私に出来ることはないの? このままじゃ…。そうだ!)


 タニアはそっと右手をスカートに当てると内側に小さい剣の感触があった。サーグラスを見るとハインツへの攻撃で自分には全く注意を払っていない。タニアは気づかれないように太ももに帯剣していたダガーを抜いた。


「粘りやがるな…。だがこれで終わりだ」

「そうはいくか。タニアさんからの愛のパワーで僕は無敵だ!」

「ガキが! 語ってろ!」


 首筋を狙って横薙ぎしてくる剣をダガーで迎撃する。ガキィインと激しい金属音がして金属が擦れる臭いと火花が飛び散る。しかし、ハインツの持つダガーは、度重なる衝撃に耐えられなくなり、根元から折れた!


「うあっ!」

った!」


 武器を失い、バランスを崩してよろめいたハインツに勝ち誇った顔のサーグラスの剣が迫る。勝利を確信した顔と敗北を覚悟した顔が交錯するその一瞬、ハインツの背中からタニアが飛び出した。不意を突かれ対応が遅れたサーグラス。驚愕の表情をした裏切者の腕にタニアはダガーを突き刺した。痛みで剣を落とし、床に膝を着く。


「うがあっ!」

「はあ、はあ、はあ…っ」


「グ…ッ。やりやがったな、このクソアマァ」

「タニアさん!」

「ハインツ様…。ハインツさまぁ~、ふぇええん…」


「ありがとう、マイ・エンジェル。後は僕に任せてください」

「…クソが」


「サーグラス、貴様に帝国貴族の真髄を見せてやろう。帝国貴族は魔術師としての血を受け継いでいるのだ。確か獣人は魔法を使えず、亜人も魔術を使える者はほとんどいないのだったな。タニアさんに手をかけようとした礼だ、たっぷりと受け取れ」

「や…止めろ、止めてくれ」

「知るか、アース・ウォール!」


「ギャァアアア」


 魔法の恐怖に絶叫するサーグラスを囲むように土の防壁が作り出された。防壁と体の間に隙間は無く、身動きする事が出来ない。ダガーは腕に刺さったままで、傷から少しずつだが出血していて、体力を奪っていくが、サーグラスにはどうすることもできない。脱出しようと藻掻くだけだ。


「フン、閉塞空間で猛省するんだな」

「ハインツ様、ステキ…」

「タニアさん。僕は君の愛のためなら何も怖くない」

「私も…。愛してます。ハインツ様」

「タニアさん…」


 土の監獄に閉じ込めたサーグラスを放置して、たっぷりと見つめ合いキスを交わした2人。満足して息を吐くと、部屋を出て、ラサラス王女に合うため、王宮内を探し回るのであった。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「あそこか…」

「ですね。入口に警備の親衛隊員が1人。お城の方が教えてくれた通りです」

「あいつか…。タニアさんの胸元ばかりじろじろ見やがって。今度会ったら教育してやる」

「まあ、ハインツ様ったら。でもどうやって入ります?」


 ハインツはニヤッと笑って親衛隊員に近づいていった。隊員は20歳位の灰色狼族の若者で中々のイケメンだ。鎧は付けず腰にロングソードを帯剣しているだけだ。

 作業服姿のハインツが近づいてくるのに気付いた隊員が声をかけてきたが、それを無視して隊員の直前まで近づく。隊員はロングソードに手をかけたが、それよりも早く隊員のボディに強烈なパンチを叩きこんだ。


「グッ」


 くぐもった声を出してどさりと倒れる隊員を受けとめたハインツ。強引なやり方に驚いたタニアだったが、そんなハインツも素敵…とうっとりする。手招きしてタニアを呼び寄せたハインツが扉に手をかけた。


 一方、部屋の中のラサラスはエヴァリーナたちの行動予定表を確認しながら、どう動くべきか思案していた。一息ついてところで外の廊下が騒がしいのに気づいた。


「騒がしいわね、何かしら。あっ…」


 確認しようと立ち上がった拍子に、机の上に置いていたお茶の入ったカップを倒してしまった。ほとんど口を付けていなかったため、お茶が服にかかり染みを作る。


「もう、やんなちゃうわね。着替えなきゃ。誰もいないし、ここでいいか」


 お茶で汚れたロングドレスを脱ぐと、美しい白い肌とシルク製のブラとショーツに包まれた豊かな巨乳に大き目のヒップが現れる。そのタイミングで部屋の扉が開いて男女1組が入ってきた。2人はスッポンポンに近い王女の姿を見て驚いた。


「きゃ…」


 ラサラスが悲鳴を上げそうになるのを見たハインツは、親衛隊員を床に投げ捨てると素早くラサラスの腕を取って後ろに回し、口を塞いで声を出させないようにする。腕を後ろに回したことで巨乳が強調され、超絶にイヤらしく、タニアが嫉妬でムッとするが、ハインツはお構いなしに扉を閉めて鍵をかけるようお願いし、タニアはぷんすかしながら言われたとおりにする。


 扉を閉めたタイミングで、今度は床に転がされていた親衛隊員が目を覚まし、体を起こした。そして、目の前にエロ下着姿でおっぱいを突き出しているラサラスを見て仰天する。


「痛たた…。おわあ! ひっひひひ、ひ、姫様! なんて素晴らしい。いや、破廉恥な! いやいや、おっぱいバンザイ! いや違う、誰だお前! 姫様のおっぱいに触るな!」

「落ち着け」

「いだっ!」


 タニアが親衛隊員の頭に拳骨を落とした。ハインツはサッとラサラスを解放すると、跪いて礼を取る。その間にタニアがマジックバッグから自分の服を取り出してラサラスに着させ、この場の混乱を収めた。


「で、どういう事なのですか。ハインツ殿、タニアさん」


 おっぱいとお尻を見られたことで恥ずかしさと怒りで真っ赤になったラサラスが、ちょっと怒り声で2人に問いかけてきた。親衛隊員はロングソードに手をかけて、いつでも抜剣出来る姿勢を取るが目線はラサラスの胸に釘付けになっている。


「実は、ラサラス王女様にお話したいことがございます。できれば人払いを…」


 ハインツがちらと親衛隊員を見る。しかし、ラサラスはその申し入れを拒否した。


「シンは、私の護衛隊長で信頼できる者です。同席させます。それで話とは何ですか?」


「ラサラス王女。今直ぐここから逃げることを進言します」

「は? なぜ?」

「親衛隊が穏健派を裏切り、貴女の権威を失墜させようと画策しているからです」


 ハインツの言葉に動揺したラサラスとシンを見て、タニアに目くばせをする。それを見たタニアはラサラスに負けない巨乳の谷間から、紫色をした小さな菱形の宝石を取り出した。


「これは音声記録ができる魔法石。これを聞いてご判断を」


 ハインツは魔法石に魔力を通した。そこには、サーグラスが部下にアルテナを含む帝国の協力者を殺す命令と穏健派の裏切りを明言した内容が記録されていたのだった。

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