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第37話 治癒魔法

「では、第10グループ出発する。ヘラクリッド、君が先頭だ。中段にアンジェリカ先輩、最後尾に私、マクシミリアンが付く」

「おお、先頭を任じられるとは光栄の極み。では、各々方出発いたしまずぞ」


 ヘラクリッドを先頭に、ユウキ達は出発した。コースは第1グループと同じである。

 アルカ山は標高はそれほど高くないが、深い森に覆われている。ユウキ達が中腹に差し掛かった頃、急にもやが立ち込め、あたりを包み、見通しが悪くなってきた。


「アンジェリカ殿、これ以上進むのは難しそうですぞ。晴れるのを待った方が良いのではありませぬか」


 先頭のヘラクリッドが靄で霞む森の中を見て進む事が困難だと意見具申した。


「そうだね、一旦休憩しようか。でも全員休める場所がないな」

「先輩、道に沿って休ませましょう。縦長になるが仕方ありません」

「そうするしかないか。では、マクシミリアン様、皆に指示をお願いします」


「ふう、やっと休める~」

「カロリーナ、フィーア、靄で土や葉が湿ってきている。座らない方がいいよ、立って休もう。それから、はぐれないよう手を繋ごう。フレッドくんも近くに来て」

「うん、わかったよ」


 少し離れた所にいたフレッドもユウキたちの近くにやって来た。


「どの位で晴れるかな…」

「そうですね、上にお日様の輝きが見えるので、あまり時間はかからないと思います。ただ、あんなに晴れていたのに急に靄なんて、山の天気は変わりやすいって本当ですね」

 

 ユウキが、先頭の方を見るとかすかにアンジェリカとマクシミリアンが話をしているのが見える。きっと今後の対応を相談しているのだろうと思ったその時、大きな悲鳴とともに、カロリーナが斜面を転がり落ちていくのが見えた。


「きゃあああああ!」

「カロリーナ!」


 ユウキが叫んで斜面に近付くと、フィーアが慌てて、落ちた理由を話してきた。


「カロリーナさん、水を飲もうを水筒を出した時、手を滑らせて水筒を落としてしまって、拾おうとして足を踏み外したんです!」


 カロリーナの悲鳴を聞いて、アンジェリカ、マクシミリアン、ヘラクリッドが集まってくる。


「下が見えない…。助けを呼ぼうにもこの靄が晴れないことには…」

「ボク、助けに行きます。もし、大けがしていたら大変です。救助を待っている時間がないかもしれない」

「ダメだユウキ君、危険だ。君も遭難する恐れがある。ここは助けを呼んだ方がいい!」


 マクシミリアンがユウキを止めるが、その話が終わらないうちに、ユウキはカロリーナが滑り落ちた斜面を下に向かって駆け出した。


「私も行く!」

「拙者も行きますぞ。クラスメイトを救うのが委員の役目!」

「僕も行く!」


 フィーア、ヘラクリッド、フレッドが次々に斜面を降りて行く。


「仕方ない、私も彼らに続きます。アンジェリカ先輩、他のみんなを纏めて、靄が晴れたら山頂を目指してください。そして救助要請を」

「わかったわ、気を付けてね」


 後をアンジェリカに任せ、マクシミリアンも斜面を下って行った。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「カロリーナぁ、おーいカロリーナぁどこぉ。返事してー、あっ、いた!」

 

 ユウキが斜面の下でカロリーナを探していると、落下した場所からそれほど離れていない所にカロリーナが倒れているのを見つけた。


「カロリーナ! 大丈夫カロリーナ!」

「うう、ユウキ…。来てくれたの…。い、痛い。あ、足が…」


 返事をしてくれた事に安堵したユウキが、カロリーナの足を見て驚いた。ズボンが大きく裂けていて、むき出しとなった太ももに酷い裂傷が出来ており、骨まで見えている上に、大量に出血している。


(これはマズイ! すぐに治療をしないとカロリーナが死んじゃう。でも、この大きな傷じゃ治療薬では無理だ。魔法を使うしか治す方法がない。けど、魔法は…。ううん、迷っている暇はない。幸いここにはボクたちしかいない。今こそボクの暗黒魔法、再生の力を使うときだ。バレたらその時考えればいい。カロリーナは大切な友達だ、絶対に助けるんだ!)


「カロリーナ! 今助けてあげる。絶対に死なせやしない!」

「ユ、ユウキ…。助けて…。痛い、とっても痛いよう。うう…」


 ユウキはカロリーナを励ますと、ズボンを脱がせて、マジックポーチから出した水筒の水をじゃぶじゃぶと掛け流し、傷口のごみを洗い流す。


「い、痛い! 痛いよ!」

「我慢して(よし、これで傷口はキレイになった)」


 ユウキは清潔なタオルで血や水を拭きとると、傷口に優しく手を触れて精神を集中し始めた。


(魔力を手のひらに集めて、丁寧に傷を塞いでいくイメージをするんだ…)


 ユウキの手のひらから淡く緑色の光が溢れ出した。治癒魔法が発動してカロリーナの足の傷を塞いでいく。10分ほどで足の傷は完全に塞がり、傷跡もなくきれいになった。


「よし! これで命の危険はなくなった。体は皮の防具のお陰で大丈夫の様だね。作ってくれたオヤジさんに感謝だよ。ああ、顔の傷とかも結構酷い…、キレイに治してあげなくちゃ。女の子だもん、顔は命だよ」


 足以外の傷も治し終えたユウキが暫く様子を見ていると、痛みで気を失っていたカロリーナの意識が戻ってきた。


「ユ、ユウキ? あ、あれ、痛くない、あんなに痛かった足が痛くない。ど、どうして…」

「よかったあ、カロリーナ。ほかにどこか痛むところはない?」

「う、うん、大丈夫。でも…、何が起こったの?」

「わあ、私パンツ一枚!」


 カロリーナが自分の下半身を見て、もじもじする。


「あっと、ズボンは大きく破けていたから脱がせて捨てちゃった。このままじゃマズイよね…、えっと、そうだ! ボクの予備を貸してあげるよ」

 ユウキはマジックポーチから、予備のズボンを出してカロリーナに渡した。


「サイズが合わない、お尻がゆるゆるだよ」

「し、失礼な! ボクそんなにお尻大きくない、…と思う。と、とにかく、我慢して」


「う、うん…」


 カロリーナが紐を使ってズボンがずり落ちない様に悪戦苦闘していると、フィーアたちもユウキの元に集まってきた。


「大丈夫ですか、カロリーナさん」

「うん、みんな心配かけてゴメンね。大丈夫みたい。来てくれてありがとう」

「よかったです。てっきり大けがしたものだと思ってました」

「うん、確かにケガをしたと思ったんだけど、気のせいだったのかな…」


「ああ、みんないいかい。ここは靄がかかってない。今のうちに、グループに合流しよう」

「マクシミリアン様も来てくれたんですか。すみません」


 カロリーナが申し訳なさそうに謝ったが、マクシミリアンは「いいんだよ」と言って、直ぐに移動を始めるよう促した。


 ふと、フィーアが少し離れた所に、乾いてない大量の血が付いた草を見つけた。(あれは?まさかカロリーナさんの…? でも、カロリーナさんは傷を負った様子がないですわ。なら、何で血が?)


 遠くからフィーアを呼ぶ声がして、我に返ったフィーアは、疑問を感じながら、急いでみんなの元へ向かった。

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