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第354話 脱出!

 ポポと少年が連れてこられたのは村はずれの納屋。藁が敷き詰められてはいるが、壁板が所々壊れていて隙間風が入って寒い。2人は縛られて転がされている。


「巻き添えにしてしまったな…。済まない」

「えーと、何が何だか分からないのです。説明を求めます。わたしはポポというです」


「ポポ…。可愛い名前だな。君にぴったりだ。僕はレグルス。見ての通り魔族さ」

「レグルスは何故追われていたのですか?」


「僕の家はラファールの貴族なんだ。スバルーバル連合諸王国の聖都に留学しててね。冬休みになったんで一時帰郷するため、お供の者たちと国に向かう途中だったのだが…」

「アイツらに襲撃されて、お供が僕を逃がしてくれたんだが、結局捕まってしまった。お供とも連絡が取れないし、どうしよう…ってとこ」


「あのケダモノみたいな奴らは何なのです?}

「うーん…、どうもこの辺りを根城にしている盗賊団みたいだね。ところで、君は?」


「ポポは、仲間と一緒に旅をしてるのです。この村にはラファールに行く途中で休息のために立ち寄ったのです。仲間は宿にいますが、ポポは雪が珍しかったので外で遊んでいたところ、巻き込まれました」


「本当に申し訳ないな…」

「レグルスが悪いわけではないのです」


 ポポとレグルスが話をしていると、外からザクザクと雪を踏みしめる足音が複数聞こえてきた。足音の人物たちは納屋の戸を開けて中に入ると、ぐふふと笑う。


「運がよかったぜ、まさか魔族国の貴族のお坊ちゃんが僅かな供回りだけで街道を通っていたとはな。久しぶりに大金が手に入るかもしれねえ」

「くそ…。お前らは何者だ! 僕に手を出すとラファールが黙っちゃいないぞ!」


「くくく…。そりゃどうかな。魔族は出生率が低いからな。子供をとっても大事にすると聞くぜ。お前も命が惜しかったら大人しくしてるんだな」


「く…、ポポちゃんは開放しろ! 彼女は関係ないだろ」

「この女は人族じゃねえな。人族や獣系の亜人じゃない若い女は嗜虐趣味の貴族に高く売れるんだよ。いい拾い物をしたぜ。はーっはははは! 大人しくしてろよ。騒いだら殺すぞ」


 男たちは笑いながら納屋から出て行った。出ていく前にポポに近づくと「売る前に、男の味を教えてやるからな、楽しみにしておけ」と言い、ポポを恐怖させるのであった。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「アンジェ、ポポ帰ってきた?」

「いや、まだだ。もう日が暮れて大分経つ。心配だな」

「わたし、探しに行って来る。アンジェは宿で待機してて。すれ違いになると困るから」


 夕飯の時間になっても帰ってこないポポを心配して、ユウキが探しに行くために準備をしていると、宿の入口がバーンと開いて大柄な騎士2名とメイド服の女性1人が慌てた様子で入ってきた。


「ここにもいない!」

「あの…、誰か魔族の少年を見ませんでしたか。15歳位で髪の毛は濃い藍色なんですけど。見てない…。ああ、レグルス坊ちゃん」


 肩を落とすメイドの女性。歳は17~18歳位でユウキたちと同じくらい。明るいブラウンの髪をした人間の女性で、中々の美人だが、胸はつつましやかだ。そこにユウキとアンジェリカが近づいて話しかけた。


「あの…、そちらも誰か居なくなったんですか? 実は、わたしたちの連れの女の子も帰って来ないんです。だから探しに行こうかと思ってたんです」


 ユウキに騎士とメイドの女性が不安げな顔を向け、騎士の1人が問いかけて来た。


「君たちは?」

「わたしはユウキといいます。冒険者です」

「私はアンジェリカだ」


「我々はラファールの貴族、アマルテア侯爵家に仕える者だが、オフィーリアに留学していたレグルス様が長期休暇となったので、帰省のため国に行く途中だったのだが…」

「と、突然盗賊が襲ってきて…、騎士さんたちが戦っている間に、私と坊ちゃんを逃がしてくれたんですけど、追われているうちに離れ離れになってしまって…。ううっ…」


「……きっと捕まったんだ。おそらくポポも巻き込まれたのかも」

「どうする、ユウキ」

「どうするって…、探すしかないでしょう。絶対に助けなきゃ」


「あの、もしよかったら一緒に探しませんか?」

「君たちとか?」

「はい。その方が効率がいいと思うんです」


 ユウキの提案に騎士たちは二言三言相談し、了解してくれた。宿にはメイドさんを残し、ユウキ、アンジェリカが騎士とペアになって二手に分かれて捜索する事にした。急いでアンジェリカも防寒装備をし、魔力を高める腕輪と魔法杖「マイン」を持って準備を整えた。


「では、行きましょう!」


 アマルテア家の騎士とユウキたちは風雪吹きすさぶ暗闇の中に飛び出していった。


(ポポ、今しばらくの辛抱よ。きっと見つけてあげるからね)


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 壁板の隙間から粉雪が舞い込んでいる。納屋の中の気温がどんどん下がって、毛皮のマントを羽織っていても寒い。ポポとレグルスの2人は少しでも寒さを凌ごうと、藁の中に体を入れ、ぴったりと寄り添っていた。


「ポポちゃん、大丈夫か」

「う、うん…。何とか我慢できるのです」

「くそ、何とかして逃げなくては…」


 少し離れた場所から男たちの騒ぐ声が聞こえてくる。納屋とは別の小屋で酒盛りでもしているのだろう。ポポは寒さで震えながらどうしようかと考えていると、出がけにユウキが耳に付けてくれたイヤリングの事を思い出した。イヤリングは雪遊びで無くすといけないと思い、ブラウスのポケットに入れてある。


「レグルス、お願いがあるです。ポポのブラウスの胸ポケットにイヤリングが入っているのです。それを取って欲しいのです。縛られているので、ポポには取れません」

「えっ! それじゃあポポちゃんに触れることになるけど、い、いいのかい」

「はい。今は緊急事態です。早くお願いします」


 ポポは藁束の上にペタンコ座りをして、上半身を真っ直ぐに立てると、レグルスに早くとるようせかす。レグルスはごくりと唾を飲み込むと覚悟を決めた。腕は後ろ手に縛られているため、ポポに背中を向けて覆いかぶさるように近づく。


「い、いくよ…」

「ハイなのです」


 もそもそ身を捩りながら毛皮のマントの中に手を入れ、ブラウスのポケットを探す。動かす指がポポの体をまさぐり、くすぐったさに思わず「ひゃん」と可愛い声を出す。


「ポポちゃん、声出さないで…」

「ご、ごめんなさいなのです」


(ポケットはどこだ…。うう、ポポちゃんの体柔らかい…。女の子の体ってこんなに柔らかいんだ。それにいい匂いがする…。ハッ! 僕は何を考えているんだ。集中集中…)


「ま、まだですか。ひゃうん」

「ご、ごめん。ポケットが見つからなくて…」

「ポッケはもう少し上なのです。そうです、その高さで左…、ひゃうん、違うです。反対側なのですぅ」

「こ、ここか…」


「そうなのです。その中にイヤリングがあるので、取ってください」


 レグルスは体をもぞもぞさせて、胸のポケットに手を入れる。背中越しにポポの息遣いが荒くなってきているのが分かる。ポケットの中を弄っていると布越しに小さい玉のようなものに触れた。


(これかな?)


 玉を思いっきりつまんでみると、背後でポポの体がビクンと激しく反応し、次いでブルブルと震え出した。声を出さないように我慢しているようにも思える。レグルスは玉を強くつまんで取ろうとするが中々取れず、焦って引っ張ったりつねったりする。その度にポポがビクンビクンと痙攣し、声にならない声と熱い吐息が漏れ出る。


「ポポちゃん、中々取れないんだ。引っかかってるのかな」

「レ、レグルス、それはイヤリングじゃないのです。ポ、ポポの乳首なの…です」


「わわわ! ご、ごめんなさい!」

「はう…。どうにかなってしまうかと思いました。イヤリングは今のポッケにあるのです。取ってください。でも、今度は間違えないで下さいなのです…」


(はうう…、なんでしょう。お股が熱くなってます。ヤダ…ぬ、ぬるぬるしてるような…)


「と、取れた」

「あ、ありがとうなのです。ポポの手に渡してくれますか」


 レグルスはくるんと後ろ向きになったポポの手に何とかイヤリングを渡すと、緊張が抜け、ふら~とポポの横にぱたんと倒れた。


「大丈夫なのです?」


 覗き込んできたポポの顔が近い。雪明かりに照らされたポポの顔。改めて見ると、肌が白くて神秘的な緑色の瞳を持つ整った顔つきの美少女だ。レグルスはドキッとして思わず顔が赤くなる。そこにバンと戸を開けて盗賊団の男たちが3人ほどどやどやと入ってきた。


「テメェら、何を騒いでいやがんだ。何だ並んで寝そべりやがって」

「ぎゃはははは! 色気づいて乳繰りあってたのかよォ」

「そんなガキより、オレらが大人の味を教えてやるぜ。こっち来い!」


「イヤなのです! 離して!」

「止めろ! ポポちゃんから手を放せ!」


 男の1人がポポの手を取って立ち上がらせようとする。嫌がるポポを見てレグルスは男に頭突きかまそうとしたが、あっさり躱され、別な男に床に押さえつけられ、うめき声を上げる。


「止めて、乱暴はしないで!」

「なら、お前は大人しくこっち来い」

「イヤだって言ってるのです」

「ポポちゃん…。ポポちゃんに手を出すな…ぐっ!」

「レグルス!」


 ニヤニヤと下品な笑みを浮かべ、ポポを連れて行こうとする男たち。今から穢れを知らぬ少女を蹂躙するという期待感で高揚し、ポポの腕を掴む手に力が入る。その男たちの肩をチョンチョンと突く者がいた。


「なんだ…、おめぇらも混ざりてぇのか」

 男たちは振り向きもせず応えるが、再び肩をチョンチョンと突いて来る。仲間が来たのかとめんどくさそうに振り向くが、そこにいたのは…。


『ばぁ~~っ』

「ぎゃああああああっ! ア、アンデッドォーー!」


「エドモンズ!」

『待たせたな、ポポたん。ククク…、その嬉しそうな顔を見ただけでお腹一杯じゃて』


「キモイです。さっさとコイツらやっつけるのです」

『わっはっは。無理じゃな』


「何故なのです!? ポポだから? ユウキじゃないからですか」

『落ち着け、全員気を失って倒れとる。もぅ、慌てるポポたんも可愛いのう』


 エドモンズ三世の言葉に、落ち着いて周囲を見ると、盗賊団の荒くれ者どもはアンデッドの恐ろしい姿を見て全員気を失っていた。よく見ると股間がびっしょり濡れている。


『ホレ、今のうちじゃ。レグルスとかいう小僧と逃げるがよい』


 エドモンズ三世は倒れている男からナイフを取ると、ポポとレグルスの縄を切り落とし、再び黒真珠のイヤリングに戻った。ポポはイヤリングをブラウスの胸ポケットにしまうとレグルスの頬をぺしぺしと叩いて起こした。


「レグルス、起きてください。ここから逃げるのです」

「うう…ん。ポポちゃん。骸骨が、アンデッドが今…。あ、あれ? いない…」

「そんなモノいないのです。見てください、盗賊が失禁失神しているです。今が逃げるチャンスです。早くって!」

「わかった。でもポポちゃん、勃ってって…」


 ポポとレグルスは納屋の戸から外の様子を伺う。離れの小屋では、まだ酒盛りをしているのか男たちの怒号や笑い声が聞こえてくる。2人は頷きあうと、そっとの暗闇の中に出て行った。積もった雪が足音を消し、足跡も降り続く雪が埋めていく。2人は手に手を取って仲間の待つ場所を目指し、駆け出すのであった。

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[良い点] ポポの読者サービスに惑わされて、拐かされてた流れの緊張が切れました。 レグルス君、頑張れ!
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