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第350話 ユウキvsヘルマプロディートス

 アンゼリッテはラスカルの世話をしながら、ユウキたちが帰って来るのを待っていた。


『遅いわね…。あ、帰ってきた。んん、何か様子が変ね』


「はあ、はあ、はあ。ア、アンゼリッテ…、ひい、ふう…。直ぐに出発の準備して。急いでここから出るわよ」


『撤収準備? わかったけど、どうしたの? 何かあったの?』

「理由は後で話す。急いで!」


 ユウキたちの勢いに圧倒されたアンゼリッテはあせあせと片づけを始め、荷物を馬車に詰め込む。アンジェリカやポポも手伝い、必要性の低いものはそのままに、大切なものだけ運び込む。ユウキもマジックポーチに簡易浴槽と湯沸かし器を収容すると、全員を荷台に押し込み、アース君に声をかけた。


(アース君、ここから脱出する。空間移動魔法を…)


 そこまで言ったユウキの視界の先の空間が揺らめき、金と銀のオッドアイをした両性具有の魔法生物が現れた。


「ヘルマプロディートス…。どうして…」

(アース君、みんなを早く移動させて!)


『主、主も早く馬車に乗れ』

「わたしはいい。アンジェ、ポポ、これを受け取って!」

「エロモン! アース君! みんなを頼むよ。行って!」


 ユウキは黒真珠のイヤリングと真理のペンデレートを2人に投げ渡した。


『ユウキ! 儂は残る。アース君、転移は待つのじゃ!』

「ユウキ、ダメ! ユウキも来て!」

『ディメンション・タイド!』

「ユウキー! ダメェー! ポポも一緒にぃー。うわあああん!」


 ゆらりと馬車周辺の空間が歪み、仲間の叫びを残して一瞬の後に消えた。残されたのはユウキとヘルマプロディートスの2人(?)。両性具有の魔法生物は、ターゲットはお前1人だと言わんばかりに何の感情も持たない目でユウキを見つめる。


(こいつは危険だ…。わたしにはわかる。ここで倒さないとこの世界に禍根を残すかも知れない。絶対に倒す。この世界のわたしを大切にしてくれる人たちを守るために…)


 ユウキはマジックポーチから魔法剣を取り出し構え、ヘルマプロディートスと対峙する。少年とも少女ともとれる中性的な顔。感情のない表情がかえって不気味さを醸し出す。ユウキはぐっと下腹に力を入れ、覚悟を決めると魔法剣を振り上げて飛び掛かった。


「いやあああっ!」


 魔法剣がヘルマプロディートスを切り裂いたと思った瞬間、何らかの不可視の壁が剣の攻撃を防ぎ、衝撃波が空間を波打たせた。ヘルマプロディートスの金と銀の瞳がユウキを捉え、ゆっくりと手を差し出すと、凄まじい衝撃がユウキを襲い、10m以上も吹き飛ばされて、ドームの壁に体をしたたかに打ち付け、どさりと床に倒れ伏す。


「げほっ、がはっ…。な、何が起こった…の。げほっげほっ…。ち、治癒魔法を…」


 両性具有の怪物がゆっくりと近づいて来る。治癒魔法によってダメージから回復したユウキが立ち上がると、今度は体が上空に5m程持ち上げられ、床に叩きつけられた。体が瓦礫にぶち当たり、ボキボキというイヤな音が体の中から響く。


「がは…っ。あばらが持ってかれた。げほっ…。何なのよ…あいつは。魔力を全く感じなかった…。まさか念動力サイコキネシスでも使うっていうの!?」


「くっ…。治癒魔法で回復できた。これで何とか動ける、うわぁ!!」


 再びダメージを回復させたユウキが寝転がった状態で仰向けになると、自分をのぞき込んでいるヘルマプロディートスと目が合った。にや~っと不気味な笑みを浮かべるとユウキの顔めがけて掌底を当ててきたが、何とか魔法剣でガードし、直撃を防いだが…、


「な、凄い力…。このままじゃ押し潰される。こうなりゃこうだ!」


 押し潰される寸前、足を瓦礫に引っ掛けて下半身の力で上半身を足元に向かって引く。急に力が抜けたヘルマプロディートスは床に向かって頭から突っ込んだ。素早く起き上がったユウキは四つん這いになって無様に尻を向けているヘルマプロディートスの尻穴目掛けて魔法剣を突き出した。しかし、直前で不可視の防御壁が剣の突入の邪魔をし、剣が弾かれる。


「くそ、千載一遇のチャンスだったのに」


 ガラガラと瓦礫の破片をまき散らしながらヘルマプロディートスが立ち上がる。心なしか表情が怒っているように感じる。ユウキは「ふう…」と一息つくと魔法剣を鞘に収めた。今度はヘルマプロディートスが両手を上に伸ばしてユウキめがけて振り下ろした。不可視の攻撃と読んだユウキは素早く瓦礫に足をかけて高く飛び上がった。その直後ユウキのいた場所が粉々になって吹き飛ぶ。ジャンプで攻撃を躱したユウキが必殺の武器の名を呼ぶ。


「ゲイボルグ! わたしに力を貸して!!」


 空間を切り裂いて漆黒の刀身を持つ巨大な槍が飛んでくる。ゲイボルグを空中で掴むと体を一回転させヘルマプロディートスの背後を取ったユウキは、そのままゲイボルグを薙ぎ払った!


 突然、虚空から出現した槍に驚き、動作を止めたヘルマプロディートス。その体に魔槍の刃が迫る。しかし彼(彼女?)は自分の周囲に展開しているサイコバリアに絶対の自信を持っていた。漆黒の刃に向け手を向けてバリアを強化するが…、


「!!」

「うわああああああ!」


 ゲイボルグは一瞬サイコバリアで止められたものの、ユウキの叫びに呼応し、魔力を増大させるとミシ…ミシッとバリアを押し返し始め、ついにはそれを打ち破った! バリアの抵抗から解放されたゲイボルグは反動力の勢いそのままにヘルマプロディートスの華奢な胴体を紙のように切り裂いた。


 ずる…と音を立てて両断されたヘルマプロディートスの上半身が地面に落ちる。続いて下半身もがくりと膝をついて倒れた。


「はあ、はあ。や…った、勝ったの…」

「お、恐ろしい相手だった…。わ、わたしもみんなの所にもど…」


 外に出るため転移魔法を発動しようと、ヘルマプロディートスに背を向けたその時、ずる…ぐちゃ…ずる…と崩れた肉を引きずる音が聞こえてきた。不審に思ったユウキが振り向くとそこには…、


「両断したはずのヘルマプロディートスが一つになって、ぐちゅぐちゅと丸まっている。なに? 何が起こっているの?」


 斬られたハズの肉が集まり、球形になった肉の塊があった。唖然として見ていると、肉の塊がゴムのように伸び縮みを始め、やがて地面に着いている部分から太い木の根のような足(?)が何本も突き出てきた。また、太い胴体の上に乗る上半身は豊かな胸を持った女性の体で、美しい顔は銀色の瞳をしている。


「女の体…? いや違う!」


 女性体を見ていたユウキが違和感を持ち、視線をずらすと女性体と背中合わせにくっついたもう一つの体が見えた。それは筋肉質の逞しい肉体を持った男性体で、中性的な美少年の顔を持ち金色の瞳が悠然とユウキを見つめている。両腕は右が男、左は女、長い髪の毛も男側が金、女側が銀に分かれている。そして、人間体のヘルマプロディートスは身長150cm程度であったが、ユウキの目の前にいる怪物は身長3mを超え、5mはありそうだった。


「は、はは、ははは…。何よコレ…、大昔の文明は何ていうものを作り出したのよ。こんなのアニメや映画で出てくるようなバケモノじゃないの。ははは…」


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「うげぇ…。誰が考えたかわからないけど、趣味が悪すぎるわ」

「エリス様、ユウキさんは大丈夫でしょうか」

「わかりません…。でも私たちができるのは見守る事だけ。アクア、フレイヤ、ユウキの勝利を信じて祈りましょう」


「はい…」

「だね…」 


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 ユウキや神たちが見守る中、進化した怪物「真・ヘルマプロディートス」の男女両方の顔が破壊的な声を出して吠えた。音の衝撃波が周囲を襲い、その激しさにユウキは耳を塞いでしゃがみ込む。また、衝撃波は遺跡のドーム内で反射して共鳴反応を起こし、建物を破壊し始めた。

 ドームの天井が崩れ始め、ガラガラと音がして破片が雨のように降り注ぐ。それでも怪物は叫ぶのを止めない。見ると体の周囲にサイコバリアを張り、瓦礫の直撃を防いでいる。ユウキも暗黒防壁を展開して降り注ぐ瓦礫から身を守っていたが、それも限界に近付いてきた。


「このままじゃ瓦礫に埋もれてしまう。転移魔法!」


 転移魔法を展開したユウキ。遺跡の外までジャンプした。入るときは吹雪だったが今は晴れて青空が見えている。太陽も出て気温も上がっていて寒さは感じない。


 脱出した直後、小山状の遺跡は轟音を立てて内側から崩れ、後には直径数十mのすり鉢状のクレーターが出来た。


「奴も、遺跡も埋もれたか…。これで終わりだね」


 しかし、そう思うのは早かった。『ウォオオオオン!』という叫びとともに、瓦礫が上空に飛ばされた。そして、崩壊した遺跡の中から現れたのは無傷の「真・ヘルマプロディートス」だった。



 瓦礫の中から現れた真・ヘルマプロディートス。驚愕の表情で自分を見上げている人間を発見すると、ズズズと木の根のような足を動かして男性側を向けてきた。ユウキが身構えると周囲の空気が強い流れになって真・ヘルマプロディートスに集まっていく。その空気の流れを男女の手の間に集め、グググと圧縮し始めた。圧縮された空気は超高圧の球になり青白く輝く。ユウキが「マズイ!」と思った瞬間、真・ヘルマプロディートスは超高圧の球を撃ち放った!


 高速で放たれた超高圧の玉はユウキの立っていた付近に着弾すると、一気に圧力が解放され、数百気圧にも及ぶ衝撃波が発生し、大爆発が起こって中心点から半径1kmの範囲を完全破壊したのだった。真・ヘルマプロディートスはサイコバリアにより傷一つなく、その場に佇んでいる。そして、その体には急激な空気の膨張によって氷結した水蒸気が氷の粒となって降り注ぐのであった。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「なんだ、あの爆発音は…」

「凄い音だったのです。空気の振動がここまで伝わってきました」


 アース君の空間移動によって遺跡から数km程離れた場所に退避したポポとアンジェリカたち。残してきたユウキのことが心配でたまらない。


『アース君よ、向こうの様子は探れんか?』

『先生、さすがに無理だ。距離が離れ過ぎている』

『そうか、無理か…』


「助けに行きましょう! 得体のしれない怪物にユウキ1人じゃ危険なのです。助けてあげなきゃなのです! でないと、でないと、またあんなことになったら、助けてやれないのです。グスッ…」


 泣きそうな顔で、皆に向かって助けに行こうと訴えるポポ。その必死な顔を見てエドモンズ三世は自分の役目を改めて思い出す。


(儂は何をしているのじゃ。儂の役目はなんじゃ。思春期少女の下着を追っかけるのが役目か!? 違うじゃろう、儂はユウキの幸せを願い、そのために儂のすべての力を彼女のために使い、助けるのではなかったか)


『ポポたん。お主の言う通りじゃ! 儂らでユウキを助けようぞ。アース君!』

『ああ、先生の言う通りだ。全員我の背中に乗れ!』


 パアッと顔を輝かせたポポの背中をアンジェリカがポンと叩く。振り向いたポポに「行くぞ」と笑顔で声をかけ、手を取ってアース君に向かって走り出した。


『あの…、私は…』

『アンゼリッテはここで待機じゃ。馬車の守りを頼むぞ。さあ、アース君、ユウキを助けに行くぞ!』

『了解だ!』


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 破壊された遺跡でユウキの姿を探す、真・ヘルマプロディートス。圧縮空気弾の爆発で粉々になったのか姿は見えない。その結果に満足すると男の顔と女の顔が同時ににや~っと笑みを浮かべる。だが、突然上空から何十本もの魔法による暗黒の槍が降り注ぎ、女性体の正面を直撃してドンドンドンと小爆発を起こす。


『ぐぉおおおお!!』


 ダメージを受け、唸り声を上げる女性体と入れ替わり、男性体が攻撃が来た方向を見る。そこには、魔槍ゲイボルグを携え、体のほとんどを露出し、胸と腰回り、膝の下から足先までを黒く禍々しい鎧で覆い、黒い髪を靡かせながら、真っ赤な瞳で真・ヘルマプロディートスを見下ろすユウキがいた。

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