第36話 蠢動
一方、第1グループでは第3王子マルムトを中心に、指導生徒と貴族の子弟で構成するSクラス、成績優秀者が集まるAクラスの参加者が休憩を取っていた。Bクラス以下の参加者はテントや食事の準備をしている。
「おい!早く食事を持ってこい!」
「は~~い、只今(くっそ!特権意識むき出しにしやがってぇ)」
少女は食事の準備をしながら心の中で悪態をつく。
(あ~あ、お父様がマルムト様の動きを探れなんて言うから…。なんでこんな奴らに)
少女は配膳を終えると、火の番をするふりをしてさりげなく、様子を伺うことにした。
マルムトは少女の方をチラリと見た後、近くにいる参加者たちに話し始めた。
「みんな、今の世の中についてどう思う?」
(きた!)少女は緊張した。
「今の世の中は平和だ。最後の戦争が終わってから数十年。国境で小さな小競り合いはあっても、経済安定という名目で他国との交易が盛んになり、この国も他国も生活基盤が安定すると、戦争はデメリットの方が多い」
「しかし、安定は人々の野心、競争心を奪い去ってしまう。貴族は家名を守り領地経営の安定だけを望む。今の世では、学力優秀な者や戦闘能力が優れた強者であってもコネがなければ出世は望めない」
(よく聞こえないな。気づかれない程度の風の魔法を使うか)
「民衆も平和に慣れて怠惰な豚と成り下がっている。豚にこれ以上の発展を望むのは無理だ。どうだお前たち、もっと自分の力を生かせる世の中だったらと思ったことはないか。豚どもを支配したいと考えたことはないか…」
マルムト以外は黙っている。
「俺は、いつもそのことを考えている。俺は、どうあがいても王家の後継者になりえないからな」
「昔は力のある者が世を支配し、この世の栄華を誇った。俺は昔のように力のある者が、この世界の人々を従える世を夢見ている。俺には野心はあるが、一緒に夢を見てくれる仲間…、同士がいない」
「俺は無理強いするつもりはない。ただ、仲間になってくれるなら、おれは歓迎する。よく考えてくれ。ただ、仲間にならなくても今の話は他言無用に願う。誰かに喋ったら命の保証はない」
「マルムト様」
指導生徒のマグナが発言した。
「おお、マグナか。何だ」
「私は、父が1代限りの騎士爵を得てます。しかし、父は高齢で死ねば平民になるだけ。平民になれば、生活が苦しくなるのが目に見えている。私の家は大家族なんです。しかし、今の世では騎士団に入っても武勲を立てて爵位を得ることは難しい。だが、あなたが望む世になれば、騎士爵、いやそれ以上の地位を得るチャンスが巡ってくるということになりますか」
「そう思ってもらってよい」
「そうですか。それなら私はあなたの野望に協力いたしましょう。家族を守るために」
「感謝する。マグナ。お前の剣の技術は学園随一。心強い仲間が出来て嬉しく思う。これからは同士だ。よろしく頼む」
マグナの発言をきっかけに、マルムトの周りにいる者たちは次々に賛同するのであった。
「ただ、今すぐ事を起こすことはできない。時間をかけて慎重に進めたい」
(た、大変だ…。王家転覆の話だ。さ、賛同者を確認しておかなきゃ…)
マルムトたちの話を聞いていた少女は努めて平静を装って、仲間になった者たちを確認していった。
夜明けとともに、訓練参加者は朝食後、テントを片付け出発の準備を整えた。
「よし、これから訓練を開始する。山頂に至るルートは5つ。始めに第1から第5が各ルートごとに出発。その1時間後に第6から第10グループが出発する。山頂で一泊し、明日の朝下山する予定だ。山頂には先発した先生方が待機しているからな。準備はいいか」
「はい!」
「では第1~第5グループ出発!」
学年主任の合図で、先発隊が出発した。
「ユウキぃ、まだ怒ってんの?」
「当たり前でしょ! カロリーナもフィーアもひどいんだから。とっても恥ずかしかったんだからね、もお!」
「でも、マクシミリアン様も役得だったのではないですか。ユウキさんの大きなおっぱいに包まれて」
フィーアのひと言で、周りの男共がビクリと反応する。
「な、なんてこと言うのよ! ご、誤解を招く発言しないで!」
「ほら、お前たち騒いでないで出発だぞ」